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  • 日立が「Lumada」でめざすDXとサステナビリティの融合とは

    サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」 2023年1月掲載

    日立製作所(以下、日立)は、AIやIoTなどさまざまなデジタル技術でデータから価値を創出することで、企業や社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させるビジネスを「Lumada(ルマーダ)」と総称し、2016年から展開している。

    課題が多様化・複雑化し先行きが不透明な現在、サステナビリティ経営が求めれられている。そのカギを握るのが、DXであり、多様なステークホルダーとのつながりだ。

    そうした背景から、日立は、ステークホルダーをつなぎ、DXの道筋をともに議論し実現していくための拠点として「Lumada Innovation Hub Tokyo」を2021年に開設した。

    日立がめざすDXとサステナビリティの融合とは。Lumada Innovation Hubのシニアプリンシパル 加治 慶光、デザインの観点でプロジェクトをリードする松本 和己と、オルタナ編集長の森 摂氏が語り合った。

    アウトサイド・インの概念図
    右から加治 慶光(かじ・よしみつ)日立製作所 Lumada Innovation Hub シニアプリンシパル、
    森 摂(もり・せつ)オルタナ編集長、
    松本 和己(まつもと・かずみ)日立製作所 Lumada CoE DesignStudio リードデザインストラテジスト

    気候危機をはじめ、社会課題に対する危機感が高まっています。サステナビリティ(持続可能性)と経営の統合を重視する企業も増えている中、日立は早くから取り組みを進めてきました。

    加治: 日立は10年以上前の2009年頃から「ソーシャルイノベーション」というコンセプトを打ち出すなど、早くから社会課題の解決を自社ビジネスに結びつけてきました。

    2022年4月に発表した2024中期経営計画では、プラネタリーバウンダリー(地球の限界を超えないこと)と、ウェルビーイング(心身ともに健やかな暮らしに基づく一人ひとりの幸せ)の両立をうたっています。

    私が日立に来たのは2021年ですが、それ以前から「社会の公器」という企業文化を色濃く持っているという印象でした。


    松本: デザインという視点からお話しすると、日立は家電製品のような目に見えるものだけでなく、社会のインフラやシステムといった目に見えにくいものもデザインしています。「気が付いたら生活が良くなっていた」という価値を社会に提供するのが、日立の真髄だと思っています。

    森: 10年以上前のその頃と言えば、リーマンショックの影響が色濃かった時期ですね。これは金融危機という文脈で語られることが多いのですが、その裏で2つの大きな変化がありました。

    一つは企業のパーパス(存在意義)が語られ始めたこと。もう一つはアメリカで金融規制改革法(ドッド・フランク法:2010年)ができ、紛争鉱物(アフリカの武装勢力の資金源となる希少金属)の規制が盛り込まれたことです。リーマンショックは、企業がサステナブル経営に舵を切る転機でもあったといえます。

    加治: 2015年には国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。SDGsの特徴の一つがバックキャスト型であること。まずは2030年のありたい姿を描き、そこに向けてやるべきことを決めるアプローチ方法です。

    しかし、既存の技術や方法の延長線上では2030年に間に合わず、根本的にやり方を変えなければならない局面も出てきます。そのギャップを埋めるには、DXによってイノベーションを加速させるしかありません。

    イノベーションを生み出すには、1社だけでは限界があります。幅広いステークホルダーが協力しあうことが重要になりますね。

    加治: SDGsがうたうような社会の実現には、ハードルの高い課題をいくつもクリアしなければなりません。そのために必要なのが、これまで交わることのなかった「知」と「知」を結合させるオープンイノベーションです。

    わかりやすい例が自動車と住宅です。脱炭素のためにEV(電気自動車)化を進めると、家で充電するニーズが生まれます。そうなると、これまでにないエネルギーマネジメントの技術や知識が求められます。

    これまでは自動車業界の中、住宅業界の中だけで知と知が結合していれば良かったのが、デジタルテクノロジーの発達とともに産業の垣根が取り払われました。新たな社会課題に応えるためにも、距離が離れたステークホルダーの結合、日立で言うところの“協創”が求められるのです。

    森: 協創の前提として、まずは社会が何を求めているかを知らなければなりません。そこで重要なのが「アウトサイド・イン」です。これは従来のマーケット・インやプロダクト・アウトでなく、社会のニーズ(社会課題の解決)を起点にビジネスを創出するアプローチ方法です。

    これを同業他社に先駆けて実践すれば未来の顧客を創造でき、サステナブルな経営につながるという図式です。「アウトサイド・イン」は、SDGsのビジネス指南書である「SDGsコンパス」にも記載されています。

    松本: 未来のニーズを起点に自分たちのシーズを考えることは重要ですね。日立は幅広い顧客と多岐にわたるプロジェクトを進め、多くの知見を蓄積してきました。それらをつなげて新たな価値を創出する空間として開設したのが「Lumada Innovation Hub Tokyo」です。

    「Hub」と名付けた通り、業界、空間、時間を超えて、さまざまなステークホルダーの知恵やアイデアをつなぐ「拠点」となることをめざします。


    「Lumada Innovation Hub Tokyo」では、具体的にどのような取り組みを行なっていますか。

    松本: 一つが、未来洞察ワークショップです。これはバックキャスト型の協創アプローチの最初に行うもので、テーマを取り巻く外部要因の変化をPEST(政治、経済、社会、技術)の視点で集めて、それをもとに人の価値観の変化、業界や社会への影響について洞察し、そこから遡ってやるべきことを議論します。

    例えば、不動産ディベロッパーの場合は、街の環境変化やそこで働く人々の価値観の変化から、めざすべき不動産事業のアイデアを導き出しました。

    アイデアをビジネスに落とし込むにはどんなステークホルダーとの協創が必要なのかを可視化する必要があります。そこでは「ビジネスオリガミ」という日立オリジナルのツールを活用します。人や組織、モノ、金、情報などの要素を「ビジネスオリガミ」に書き込んで、それらを並べたり交換したりすることでアイデアを具体化していきます。


    ビジネスオリガミを活用したワークショップの様子

    加治: 社会課題の解決を起点にビジネスを創出するには、全く違う人々が出会わなければなりません。そのことを「Lumada Innovation Hub Tokyo」で体感できるでしょう。

    未来のあるべき姿を描けたら、少しでも現実を理想に近づけることが大切です。そのためには根本的にやり方を変える覚悟も必要で、日立の取り組みがその一助となれば幸いです。

    森: 2023年はSDGsが採択された2015年9月から7年半の折り返し地点になります。国連では2030年までの達成が難しいという予測も出る中、協創を加速させることがますます重要になりますね。

    セミナー詳細、アーカイブ映像は下記からご覧いただけます。

    【イベントレポート】DXと協創で立ち向かうサステナビリティ

    サステナビリティの有識者とDXのエキスパートが、サステナビリティ経営のポイントから、現場での課題や求められるアクションについて語り、ともに考え、持続的な成長につなげていくためのヒントをお届けします。

    DXと協創で立ち向かうサステナビリティ

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    本記事はサステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」に掲載されたものを転載したものです。
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    所属・役職等はすべて取材日時点のものです。
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