エンジニアが見るイベントレポート
【A-03】J-POWERのDX・AI ―“考えるAI”から“動かすAI” 共創のもとで形づくるAI-DCという基盤の現在地 〜J-HERO(AI-DC)× J-AWSIC(広域APN/WLS)〜
2026/07/14
図1
2026年5月20日に開催されたHitachi Physical AI DayのBreakout Session にて、電源開発株式会社(コミュニケーションネーム:J-POWER)の執行役員である小泉 真吾氏が登壇。「J-POWERのDX・AI ―“考えるAI”から“動かすAI” 共創のもとで形づくるAI-DCという基盤の現在地─ 〜J-HERO(AI-DC)× J-AWSIC(広域APN/WLS)〜」と題した講演を行いました。
本セッションは、エネルギーインフラを支えるJ-POWERが、労働人口減少やカーボンニュートラルといった急激な環境変化にどのように立ち向かっているのか、その具体的なAI・DX戦略と日立との共創イニシアチブを共有することを目的として行われました。現場の知見(OT)と最先端のフィジカルAIを融合させ、机上業務にとどまらない「現場を動かすAI」の実装へ突き進む同社の挑戦は、多くのインフラ事業者にとって注目を集めています。
創立70年を超えるJ-POWERが挑む「エネルギー安定供給とカーボンニュートラル」の潮流
J-POWERは1952年の創立以来、70年にわたり「エネルギー」と「環境」を中心に幅広く事業を展開してきました。日本全国に多様な発電設備を構え、特に水力発電および風力発電の国内設備容量シェアにおいては第2位を誇る、日本の再生可能エネルギー開発のトップランナーです。
現在、同社は2050年のカーボンニュートラル移行という世界的な潮流の真っ只中に置かれています。エネルギーの安定供給を不断に維持しながらサステナブルな発展を実現するため、同社は「J-POWER BLUE MISSION 2025」を掲げ、事業ポートフォリオおよびビジネスモデルのトランジション(移行)を急速に加速させています。この変革を支えるエンジンとして位置づけられているのが、同社のデジタル技術・AI活用を定めた「DX推進中期計画」です。
山間部に点在する電力インフラと「就労人口減少」という深刻なボトルネック
J-POWERの国内インフラ基盤は北海道から沖縄まで全国に及んでいますが、その多くは山間部や都市部から離れた環境に展開しています。広大なエリアに分散する重要社会インフラを、限られた人員でいかに無事故で安定的に維持・運用していくかという課題は、従来のやり方の延長線上では到底解決できません。
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そこでJ-POWERは、効率性・即応性を高める「Smartness」、安全・安心を徹底する「Safety」、稼ぐ力を向上させる「Strength」の3つを、人とAIの協働によって進化させる「DX3S×AI」の実現を、重点目標として設定しました。
次世代ERP「JEWEL」から送電線点検ドローン・不安全検知AIまで広がる「3S×AI」の実装
J-POWERがこの課題を打破するための基本方針が「AIファースト」です。AIを単なる効率化のツールではなく、人間と役割分担を行う「社員の相棒(バディ)」として再定義し、全社的な業務プロセスのアップデートを展開中です。
具体的なプロジェクトとして、同社は会計データ連携と多様な働き方をサポートする次世代ERP構築(「JEWEL(プロジェクト名:ジュエル)」)を推進。さらに、個別管理に陥りがちだったドローンやロボットなどのマルチベンダー機器を一体的に制御する「電力設備点検ロボット管理プラットフォーム」の開発を進めています。
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インフラ現場の最前線における具体的な「行動」として、独自のフィジカルAI・エッジAIソリューションを順次、現場へ実装しています。
- 送電線点検ドローン(自律撮影):撮影開始位置までの自動移動から、送電線の架空地線をカテナリーに沿って一定の離隔を保ち、追従飛行しながらの連続撮影、終了後の自動着陸までを一貫して行う自律型システムです。国産にこだわり国内ドローンメーカーと密に連携し、自社専用設計を行っています。
- 異常画像検知AI「みえスギくん®」:ドローンで撮影した画像データから、風車ブレードや送電線の異常個所をディープラーニングによって自動検出・可視化する独自の画像解析基盤です。
- 不安全検知AI:現場カメラの映像から、高所や開口部への侵入・接近、梯子や脚立の不安全な利用といった作業員のヒヤリハット動作を画像認識によってリアルタイムに自動検知し、現場の労働災害ゼロ化を支援します。
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「みえスギくん」は電源開発株式会社(J-POWER)の登録商標です。
【対談】現場のリアルな課題から見えた「ミドルウェア」の重要性と若手が変える企業風土
セッションの後半では、日立製作所(以下、日立)の滝川 絵里とJ-POWERの小泉 真吾氏による対談が行われ、現場のリアルな課題認識とこれからの展望について熱い議論が交わされました。
滝川が「物理的なアセットとAIをいかにつなげて実装に持っていくか、その間にあるミドルウェアの層が非常に重要になる」と指摘したのに対し、小泉氏も強く同意。インフラ設備の老朽化が進む中で、これらを長く安全に使い続けるためにも、現場を動かすフィジカルAIやロボティクスの柔軟な制御を司るミドルウェア(NVIDIAが提唱する5レイヤー第3層(インフラ)に相当する機能(電力供給、冷却、ネットワーク等))の高度化も急務であると語りました。
また、この変革を支えているのが「若手社員のマインドセットの変化」であることも明かされました。J-POWERの社内では、この2年間で「新しい技術をどんどん試してみよう」という前向きな風土が定着。デジタルネイティブな若手社員たちが、MathWorks(マスワークス)の基盤などを積極的に活用し、ドローンの制御や画像認識の仕組みを自分たちの手で構築・アップデートしていく風土が生まれていると言います。
ワットとビットの連携を加速するエコシステム「J-AWSIC」の設置とエッジでの完全自動化への展望
さらに議論は、日立とJ-POWERが共同検討を進める「AIデータセンター(AI-DC)」の真意へと及びました。
周囲から「なぜ電力会社がデータセンターまで自社で作るのか?」と聞かれることもあると明かした小泉氏。しかし、「経済安全保障や膨大な現場データのハンドリング・安全性を真剣に突き詰めていくと、自社でコントロールできるデータセンター基盤は不可欠になる」と、その緊迫感と必要性を強調しました。
今後のネクストステップとして、J-POWERはさらなる高度化を見据えています。
- エッジ側での完全自動化:現在はドローンによる「撮影」と、その後の画像解析「ディープラーニング」が別々のプロセスで行われています。今後は、ドローン自体にNVIDIA Jetson(ジェットソン)などの高性能エッジデバイスを搭載し、現場のその場で解析・判断までを完結させる「一連のプロセスの完全自動化」のフェーズに挑みます。
- 「J-AWSIC」による他業種連携の加速:地方分散型データセンターの運用モデルを確立し、電力システムの安定化・効率化に貢献するため、日立、シスコシステムズ合同会社、株式会社ビットメディアに加えて、広域で長距離の自営光ファイバー網を持つ事業者(東日本旅客鉄道株式会社、JR西日本光ネットワーク株式会社、名古屋鉄道株式会社)と「J-AWSIC(広域APN・ワークロードシフトイノベーション推進協議会)」を設立し、協同検討を開始しています。
- 日立への期待と外販構想:小泉氏は「日立は機器を自ら製造しているメーカーだからこそ、インフラ設備の機器全体から部品にいたるまでのノウハウ(制御方式、故障統計、予兆検知、早期復旧など)、データの取得方法(センサー等の最適配置)、処理に関する知見を持っている。その高度な制御技術・予測技術を、具体的なユースケースにさらに結びつけていきたい」と強い期待を寄せました。
レポーター 呉和仁
日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット AIサービス推進部
- 建設機械メーカー、シンクタンク、外資クラウドベンダーを経て現職、生成AIやフィジカルAIのプロジェクトに多数従事
- ブルドーザーやホイールローダーなどが運転可能で、フィジカルAI以前にフィジカル人材を自称
- プログラマの三大美徳である「怠惰」を極めており、自分が楽をするためにAIを活用することをこよなく愛す
- 外資クラウドベンダー時代には3,000アカウント以上で使われる生成AIアプリのPdMを務めた他、メキシコでも怪しい商人の経験があると自称しており技術の広報活動にも強み
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