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Hitachi IoT Platform Magazine

およそ全てのビジネスをITが支え、IoT、X-Techといったデジタルビジネスも活発化している現在、システム開発・運用の在り方が収益・ブランドに直結する時代となっている。こうした中で、「ビジネスに寄与しない、システムのお守りしかできない情報システム部門(以下、情シス)はもういらない」といった「情シス不要論」が一部で囁かれ続けている。煽情的に語られることが多いこの言葉だが、具体的には何を意味するのか?自由化を背景としたシビアな電力市場で自社ビジネスを支える傍ら、自ら「情シス必要論」を提唱している中央電力 情報システム部 課長 山下光洋氏に話を聞いた。

デジタルビジネス時代、情シスはもう不要?

モバイルやクラウド、AI、IoTといった技術が急速に身近になるにつれ、ビジネスにおけるITの役割も大きく様変わりした。かつては「コスト削減のための手段」「ITはあくまでもビジネスの道具」といった論調が強かったが、今やITは競合他社と差別化を図るための最大の武器と目されるようになった。

「デジタルトランスフォーメーション」と呼ばれるこうした潮流は、今やあらゆる業界を席巻しつつある。だが、本来はその動きの中心にいるべき「企業の情シス」が、実は蚊帳の外に置かれているケースは少なくない。それどころか、企業においてITの価値が高まれば高まるほど、逆に情シスの地位が相対的に低下していくケースすら見受けられる。

こうした「情シス不要論」とでもいうべき風潮に危機感を抱き、“情報システム部として本来あるべき役割”を実践し、情報発信を続けている人物がいる。中央電力 情報システム部 課長 山下光洋氏だ。

中央電力は、マンション一棟が一括で高圧電力の契約を結ぶことで一戸当たりの電気料金を下げる「一括受電」と呼ぶビジネスモデルを武器に急成長を続けている企業だ。2014年10月には関西電力と資本業務提携を締結し、高圧・低圧の電力小売事業でも着実に競争力を強化。また近年に情報システム部門を創設し、それまで完全にアウトソーシングしていたシステム開発・運用の一部を内製化した。

山下氏は、そうした流れの中で入社。課題だったビジネスニーズへの対応の遅さ、高コスト体質の改善へ向かい、スピーディなビジネス展開を支えるべく日々奮闘している。また、「情シス不要論」をもじった「情シス必要論」というキーワードを掲げ、今日の情シスが抱える問題点と、進むべき道筋について、社外イベントや勉強会などの場で積極的に提言を行っていることでも知られる。

では、山下氏が考える「情シス必要論」の中身とは、具体的にどのようなものなのだろうか?――メインフレーム時代から、多くの情シスと二人三脚で歩み続け、“情シスの実態と現実”を知る日立製作所のJP1エバンジェリスト 加藤恵理氏との対談を通じて、デジタルビジネス時代における「情シスの存在意義とあるべき姿」を探った。

「丸投げ」から「内製」へのシフトが始まる

編集部  およそ全てのビジネスをITが支え、収益・ブランドを左右するほどの重要な顧客接点ともなっている近年、IT活用の在り方、情シスの在り方が問い直されている状況だと思います。山下さんは貴社の経営環境をどのように見ていらっしゃいますか?

中央電力 山下光洋氏 情報システム部 課長
中央電力 山下光洋氏
情報システム部 課長

山下氏  2016年4月からスタートした電力小売の完全自由化を契機に、電力市場には多くのプレイヤーが参画し、競争がますます激しくなっています。そうした中、各社とも新たな顧客の獲得を狙い、さまざまな施策を展開しています。弊社でもキャンペーンを打ったり、コーポレートサイトを刷新したりしていますが、競争が激しい中では、やはりニーズの変化を察知して応えるスピードが重要なカギになっていると思います。
これを受けて、スピーディなビジネス展開を支えられるよう、弊社では開発・運用をSIerやベンダーにアウトソースするスタイルから、部分的に自社でまかなうスタイルに遷移していっております。

弊社に限らず、こうした傾向はますます強くなっていくように思います。ITシステムを「自社のサービスを実現する手段」と捉えた場合、自社のサービスやビジネスモデルについて一番よく知っているのは自社の人間です。外部に依頼するより、自分たちで開発・運用した方が“成果”に直結するシステムを実現しやすいですし、デジタルビジネスに取り組む上でもこうしたスタンスが不可欠だと思います。


日立製作所 加藤恵理 JP1エバンジェリスト
日立製作所 加藤恵理 
JP1エバンジェリスト

加藤氏  私たちも日ごろ顧客企業と接している中で、開発・運用の内製化で「ITでビジネスに寄与しよう」とするトレンドの高まりをひしひしと感じています。ただ現実には、多くの企業において、情シスは既存システムの運用業務で手一杯のことがほとんどです。また、経営層が「ITはコスト削減の手段」「情シスは既存システムのお守り役」という認識から脱し切れていないケースも多くあります。

つまり、多忙なゆえに「ビジネスに寄与する」新たな取り組みを検討しようとしても時間が取れない上、そうした役割を期待している経営層ばかりでもない。もちろん、既存システムの運用管理も情シスの大切な仕事です。しかしツールやサービスをうまく活用して既存業務を効率化・自動化し、“人にしかできない、ビジネスの成果に直結する業務”にシフトしていくことは非常に重要だと考えます。

編集部  そうした中で、システムのお守りしかしない、できないことを揶揄した「情シス不要論」という言葉が一部で取り沙汰されていますね。

山下氏  サービスやビジネスについて一番知っているのは、情シスではなく業務部門ですから、ある意味、業務部門が自らSIerやベンダーと組んでシステムを構築することが、ビジネスの成果に直結するシステムを実現する上では一番の近道なのかもしれません。SIerはこうした動きを敏感に察知して、企業の業務部門と直接、関係構築するためのノウハウを蓄積してきていますし、業務部門自身もITリテラシーをどんどん高めつつあります。

こうした状況下で、もし情シスが事業部門とベンダー、SIerとの“単なる仲介役”でしかないのなら、不要だと言わざるを得ません。ましてやガバナンス/コンプライアンスなどの面でリスクが生じることを避けるために、「業務部門からの要望をいかに黙らせるか、現状を維持するか」というスタンスでしか仕事ができないのであれば、単なるボトルネックでしかありません。


「必要とされる情シス」を目指すには?

編集部  では社内の抵抗勢力にならず、“頼られる情シス”になるために必要なことは何だとお考えですか?

山下氏  情シスの目的は「自分たちの立場を守ること」ではなく、「ビジネスを支えること」です。システムを開発する際も、「業務部門から言われた仕様をそのままSIer、ベンダーに伝える」のではなく、彼らが“本当にやりたいこと”を理解し、共に実現することで、成果にコミットすることが情シスの存在価値だと考えます。

先の「業務部門からの要望をいかに黙らせるか」というスタンスも、シャドウITの増大を招くだけだと思います。「新たなものを導入させない、新たなことをやらせない」ことでガバナンスや全体最適を守るのではなく、“やりたいこと”にマッチし全体最適にも支障が出ない手段を提案するなど、「どうすればニーズに応えられるか、実現できるか」と考えることが大切です。

加藤氏  「システムの安定運用」が最重要ミッションだったこともあり、「できない理由」ばかりに注目してしまう傾向は確かに強いですね。しかし「ビジネスに寄与する情シス」が求められている以上、「どうすればできるか」と考えることは非常に大切だと思います。例えば、新しい運用管理ツールを導入する際も「情シスの運用負荷がこれだけ下がる」「コスト削減できる」といった情シスに閉じた観点ではなく、「どのようなビジネスメリットを得られるか」を考える。実際、そうした根拠がなければツール導入の社内稟議が通らないケースも増えつつあります。

編集部  単に負荷低減・コスト削減“だけ”を狙うのではなく、ビジネスゴールへの寄与を考える必要があるわけですね。

「単なる仲介役の情シスはビジネス推進のボトルネックでしかない。事業部門が本当にやりたいことを解釈・実現し、成果にコミットできなければシステムの価値はない。そのためには効率化すべき部分を効率化し、差別化に寄与する領域にリソースを集中することが必要だ」
「単なる仲介役の情シスはビジネス推進のボトル
ネックでしかない。事業部門が本当にやりたいこと
を解釈・実現し、成果にコミットできなければシス
テムの価値はない。そのためには効率化すべき部分
を効率化し、差別化に寄与する領域にリソースを
集中することが必要だ」

山下氏  例えば運用管理において、日々繰り返される定型作業は人がやるよりツールの方がはるかに迅速・確実です。また、定型的な管理業務は収益に直結しない以上、内製化したり差別化を図ったりする必要はなく、パッケージやSaaSを使う選択肢もあります。

つまり運用管理者は、単に「情シスの負荷低減・コスト削減」を考えるのではなく、「“ビジネスメリットを出すために”いかに運用を自動化・効率化するか」という視点で考える、それを実現するための「仕組み」を考えることが重要な役割になると思います。人的リソースは、“ビジネスや顧客に影響する部分”に集中して割り当てるべきです。


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特記事項

  • このページは、アイティメディア株式会社が運営する@ITに2017年3月1日 に掲載されたコンテンツを再編成したものです。
  • 記載されている会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

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