お客さまのビジネスに成果をもたらすビッグデータ利活用
永年培ってきたデータベース基盤技術やフィールドサポートのノウハウに加え、最新のAIテクノロジーやデータ分析技術を駆使しながら、ビッグデータをお客さまのビジネスに役立てるソリューションを提供する日立の新しいビジネス。今回は、そのビッグデータソリューション事業のマーケティングとプロモーションの担当者にお話をお伺いします。
第4回目は、「顧客インサイト分析サービス」の概要と特長についてお話を伺いました。
逸見さん(左)、長江さん(中央)、藤田さん(右)
──まずは自己紹介をお願いします。
逸見 顧客インサイト分析サービスにおいて、お客さまのデータの分析などを行っています。以前は製造業向けのM2Mソリューションを担当していました。
長江 入社以来データベース技術を手がけてきていて、現在はこのサービスの開発を担当しています。
藤田 研究所で趣味嗜好・ライフスタイルなど人間の行動にかかわる分析技術の研究開発を行っており、このサービスの中核となる機械学習システムの技術開発を行いました。
──早速ですが、新しく発表された「顧客インサイト分析サービス」とはどのようなものでしょうか。
逸見 主に小売業向けのサービスで、消費者一人ひとりの趣味嗜好・ライフスタイルによって異なる“モノを買うときの気持ち”を見える化して、販売施策や商品企画の立案を支援するサービスです。現在、小売業では年齢・性別ごとに購買傾向を分析するのが一般的ですが、例えば「30代の女性」といっても、毎日遅くまで働いているOLさんと子育てで忙しいお母さんとではたぶん興味のある商品が違います。
そこで本サービスでは、まず商品一つひとつに特徴タグを付与します。例えば、カルシウム成分の多い牛乳を選ばれるのは「健康志向」の顧客だろうとか、お買い得の牛乳を選ばれるのは「価格重視」の顧客ではないかとか、購買の判断のもとになる「気持ち」を想定してタグをつけていきます。そして、顧客一人ひとりの購買履歴データを特徴タグで横串にすることでその顧客の購買行動を分析します。さらにその結果をもとに趣味嗜好別の顧客セグメンテーションに基づく分析結果レポートを月単位もしくは週単位で提供するというのが、このサービスの概要です。
──本サービスを開発されたのは、どういう経緯からでしょうか。
長江 お客さまから趣味嗜好別に顧客をセグメントしたいとご相談いただいたことがきっかけだったのですが、その背景としては2つあると考えています。1つ目は、冒頭でご説明しました通り、「30代女性」といった大まかな分類では消費者のニーズに応えきれなくなってきたことがあげられます。スマートフォンの普及によって、消費者一人ひとりにアプローチできる時代です。一人ひとりに個別の情報を届けられるようになったのに、適切な情報を配信できなければ意味がありません。その顧客の気持ちが理解できれば、より効果の高い適切な情報をお届けできるようになります。
2つ目は、運用業務の負担の増大です。高度な顧客セグメントは行いたいが、運用の大変さで二の足を踏んでおられるお客さまが多数いらっしゃいます。大手のスーパーマーケットなどでは何十万件の商品を扱っておられ、品揃えも頻繁に変わっていきます。それらの商品一つひとつにタグをつけるだけでも大変な作業です。私たちのサービスではそうした運用プロセスもトータルサポートしています。
──そもそも最初の特徴タグはどのように決めるのでしょうか。
藤田 標準的な雛形をいくつか用意していますが、基本的にはお客さまが把握したいセグメントを抽出するためにどのような特徴タグが必要か、お客さまとディスカッションして決めます。そのお店にとって意味がある顧客セグメントをご一緒に考えさせていただくことでお客さまのニーズもしっかり把握できますし、お客さまの業務知識を学ばせていただくこともできます。流通のプロであるお客さまのノウハウと日立の技術の協創によって最適なソリューションを提供できると考えています。
──お客さま企業とディスカッションする際に難しかったことなどはございますか。
逸見 最初のディスカッションでは、お客さまからできるだけ多くのセグメントを把握したいという要望をいただくことが多いです。その場合にしっかり話し合わなければならないのが、そのセグメントは売上向上への有効な施策に結びつくのか、という点です。例えば、「安全安心」をコンセプトに品揃えしている店舗では、「安全安心」というタグを設けることはあまり意味がありません。お客さまの戦略と照らし合わせて、売上向上に本当に寄与するセグメントは何なのか、そうした見極めをしながらお互いに理解を深めることがとても大切だと感じています。
──正しい特徴タグの付与がサービスの鍵になりそうですね。
藤田 はい。そして日立の強みは、特徴タグの付与精度を高めてそれを維持するための独自の機械学習技術を開発し、特許を持っていることです。例えば健康志向だと考えてタグ付けした商品が、実は健康志向の消費者に買われていないことがありますし、また同一商品でもそのライフサイクルの中で特徴は変化していきます。タグの付与精度を落とさないためには、変化を読み取って振り直す必要があるのですが、人手で行うには煩雑で時間がかかり過ぎます。日立では、こうしたタグの振り直しを機械学習技術により半自動化しており、これにより分析の質を上げるとともに、バックエンドの省力化も実現しています。
──他に日立ならではの特長には、どのようなものがありますか。
長江 今回のサービスには、データ収集からデータの蓄積、分析にいたるまで、日立がこれまで積み重ねてきたノウハウが活かされています。例えば大量のデータを高速で分析するために超高速データベースエンジンのHitachi Advanced Data Binder(*1)を使っています。さらに、これまで日立は、流通業はもちろん製造業や金融機関や官公庁など、さまざまな業種業態のお客さまのデータ活用のお手伝いをしてまいりましたが、そうした豊富な経験を積んだ分析の専門家を結集して成果を出せることが日立の強みだと思います。
──本サービスを実用化する際に特に配慮したことはありますか。
長江 このサービスはお客さまのデータを日立がお預かりして分析するものです。ですので、セキュリティ面に特に気を遣っています。消費者のプライバシーに関わるデータですから、情報漏えいしないために堅牢な日立のデータセンター内にアクセスできる人間が限定された堅固なシステムを構築しています。
藤田 あと、レポートのわかりやすさも重視しています。単にデータを並べるのではなく、データから読み取れたことをお客さまの言葉を使って誰にでもわかりやすくビジュアルに伝えることを心掛けています。お客さまのビジネスに寄り添ったアウトプットを出すことは、PDCAサイクルを効率的に回すうえでとても重要なことだと実感しています。
──顧客インサイト分析サービスを導入されたお客さまからの評判はいかがでしょうか。
逸見 いままでにない切り口で顧客をセグメントできるようになったといった点が大変に喜ばれているのはもちろんですが、さらにレポート提示までのスピードに対しても高い評価をいただいています。
──実際にこのサービスではどういった成果を上げられていますか。
逸見 あるお客さまでは、このサービスを活用した顧客アプローチが、性別・年代分析を活用した顧客アプローチに比べて2倍の購買率を実現しました。また別のお客さまでは、このサービスを活用して店舗の品揃えを改善した結果、対象分野の商品売上が最大10%向上しました。さらに社員食堂の事例もあります。約2年半およそ90万件の購買履歴データをもとにメニューのおすすめ表記の効果を検証する実証実験を行ったのですが、このサービスを用いない場合と比べて、施策立案にかかる工数を8分の1に短縮できるとともに、購買人数が5%向上しました。
藤田 さらなる成果を上げて頂くために、このサービスを継続的に使っていただくことが重要だと考えています。人間は何かアクションを加えると行動が変わります。例えば、高級な商品をお薦めし続けていると、そのお客さまは高級志向が強くなってきます。また、流行などの外的要因によって嗜好が変わる場合もありますし、商品もどんどん入れ替わっていきます。従来型の分析サービスでは大規模なデータ分析を期ごとですとか、あるスパンで行うのが一般的でしたが、それでは変化を正しく追えません。私たちのサービスによって恒常的に分析を継続することでアプローチの精度を高められますし、そんな大規模な分析を恒常的に行えるのが先進のビッグデータ利活用技術に裏付けられた本サービスの強みだといえます。
──今後のビジョンをお聞かせください。
逸見 このサービスは、お客さまにとってなくてはならないサービスにしていきたいですね。本部の管理部門の方がアプローチの施策立案に使うだけではなく、店舗で働いている人が仕入れやポップ制作に使うなど、幅広く活用していただけるよう、付加価値が高く、わかりやすい情報を提供していきたいです。
長江 このサービスは、最終的な消費者が個人であるすべての業種業態に展開可能だと考えています。消費者の行動やライフスタイルを見える化することで、小売・流通の他には鉄道、金融、医薬などにも応用できるポテンシャルを持ったサービスです。このサービスをどのような業種へ展開し、その時にどんな付加価値を提供できるのか、しっかり考えてサービスを開発していくことは、ビッグデータ利活用の分野で先頭を走る私たち日立に期待されていることだと考えています。
──お客さまに役立つ、さらに進化したサービスが生まれそうですね。本日はどうもありがとうございました。