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2019年10月、東京国際フォーラムにおいて「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」が開催され、大勢のご来場者に、社会のさまざまな課題を解決する社会イノベーション事業の最新の事例や取り組みなどをご紹介しました。ここでは、「人事の実践経験者が語る! HRテックを活用した日立の働き方改革の実例」と題して行われた、株式会社日立製作所の大和田順子によるセミナーの模様をご紹介します。

世界の人事は「ピープル・ファースト」がトレンド

「”One to One”で一人ひとりを輝かす。これが、人事施策とHRテックの現在のトレンドです」

そう語るのは、日立の情報通信部門の人事でピープルアナリティクスラボを推進する大和田順子だ。

「人財へのアプローチの歴史をひもといていくと、かつて企業は給与や賞与、福利厚生といった金銭的な要素を充実させてきました。その後、成果主義というトレンドを経て、近年では”非金銭的な価値”が重視されています」

大和田が挙げた非金銭的な価値とは、企業に対する従業員の思い入れを示す「エンゲージメント」、従業員が仕事で経験するすべての要素を意味する「エンプロイーエクスペリエンス」、従業員の食事や睡眠にまで踏み込んで健康にコミットする「ウェルビーイング」の3つだ。

また、人事情報や給与などの記録システムとして活用が始まったHRテックは、人財がより価値を発揮できるためのマネジメントシステムを経て、最近ではAI/分析ツールや人事システムの高度な活用によるピープルアナリティクスが注目を集めている。この動きは日本国内に限らないと大和田は言う。

「人財の流動性が高いアメリカでは”ピープル・ファースト”が叫ばれ、ハイパフォーマーに大きな価値を発揮してもらうためのHRサービスや人事施策が次々に生まれています。ことはアメリカに限らず、人財の強化や生産性の向上など、人事が果たすべき役割はかつてなく高まっていると言えます。どんな人財を採用して、どう育てて、どうパフォーマンスを発揮してもらうか。より緻密な人事のアクションが求められています」

HRテックで、欲しかった”コトづくり”人財の採用に成功

では、日立はHRテックをどう活用しているのだろうか。そのスタートは、大和田が所属する情報通信部門における新卒採用の変革だった。

「日立では長らく、じっくり考えて着実に計画遂行できる”モノづくり”に適した人財が活躍してきました。しかし、産業構造がモノづくりからコトづくりに変わりつつある今、多様なアイデアを出し面白いことをすぐに行動に移せる”コトづくり”に長けた人財を増やす必要に迫られています。ところが面接をする従業員は、自分に似たタイプの学生――つまり”モノづくり”人財を多く採用する傾向がありました」

そこで日立は、HRテックを採用活動に導入。まず、在籍する従業員をクラスタ分析にかけた上で、増やすべき”コトづくり”人財の要件を定義した。さらに、人財ポートフォリオを見直し、狙いどおりの人財を採用できるよう面接の内容を設計。その結果、それまで従業員全体の5%だった”コトづくり”人財を、2017年卒の新卒技術系採用では15%確保することができた。

採用活動の変革の第一歩を踏み出した日立。次のステップで直面したのは、「採用した人財をどう配置するか」「いかに高い生産性で仕事に取り組んでもらうか」の2つの課題だった。

「ホワイトカラーの場合、業績はチームで上げるものですから、従業員一人ひとりの生産性はなかなか見えにくい。会議や行動などを数式化してもその価値、成果はうまく定義できません。そうであれば、数字を追いかけるのではなく、生産性に対する従業員の意識を可視化しようと我々は考えました。どうすれば生産性を上げられるのか、従業員に考えるきっかけを与えることで、行動変容につなげようという思惑がありました」

こうして、HRテックを人事に活用した日立の取り組みが始まった。

「生産性向上の意識」と「配置配属のフィット感」を向上させる因子

日立のHRテックは、他社が開発したものと何が違うのか。大和田は、次の3つを特徴に挙げる。

  1. 日立は人工知能「Hitachi AI Technology/H」を持ち、社内に多くのデータサイエンティストが在籍。そのため、AIとデータ分析技術を駆使したピープルアナリティクスが可能。
  2. 日立の知見に加え、筑波大学の心理学の専門家による学術指導のもと、「生産性向上の意識を計測するサーベイ」と「配置配属のフィット感を計測するサーベイ」を開発。
  3. 2つのサーベイにより計測した従業員個人の意識データに、人事データやPCログ、勤怠ログなどのさまざまな行動データを掛け合わせた分析が可能。

1つめの生産性サーベイの開発にあたっては、「個人がどんな状態にあり、どんなことを意識すると生産性が上がるか」を検討し、11の因子を発見した。次の図は、日立が考える生産性向上の意識のモデルだ。

「11の因子の内訳は、心身の健康を整える意識があるか、自分の役割を理解しているか、成果に対する意識が高いかなどの6つの個人因子と、組織内の意思決定過程が明確化されているか、従業員の自立が尊重されているかといった5つの組織因子です。1つの因子につき3問、合計33の質問に5段階で回答してもらいました」

2つめの配置配属サーベイでも、大和田らは11の因子を見出した。

「今やっている仕事が自分のやりたいことなのか、組織に貢献できているのか、評価・処遇に納得できているかなどの6つの個人因子と、各従業員の役割が明確か、従業員同士が相互に尊重しあっているかなどの5つの組織因子が、配置配属へのフィット感に関係していることがわかりました。この配置配属サーベイについても合計33問の質問を用意し、サーベイを実施しました」

従業員個人へも、サーベイの結果をフィードバック

「従来の組織活性化サーベイは、従業員個人を特定できないことを前提に結果報告書が設計されていたため、組織全体の平均値しかわかりませんでした。また、従業員本人にはフィードバックされないため、自分の状態を知ることもできませんでした」と大和田は指摘する。

これに対して、日立が開発したサーベイは、マネージャー向けの結果報告書に従業員一人ひとりの結果が明記されている。そのため、マネージャーは部下が何に行き詰っているかを把握したうえで指導できる。さらに、従業員一人ひとりにも結果がフィードバックされる。次の図は、個人向けの結果報告書の一部だ。

「自分自身の創造性や効率性、心身調整度などがどのくらいの得点で、組織の平均と比べてどんな位置にいるのかを見てもらうことで、『効率的に働けているけど創造性はまだまだだな』とか、『仕事は頑張っているけど健康面のケアが全然できていないな』といった気づきを、従業員一人ひとりが得ることができます」

こうした「個を活かすPeople Analytics」の独自性と先進性が評価され、日立は2018年、第3回HRテクノロジー大賞の「大賞」を受賞した。

実は相関なし。上司による評価と、本人の「配置配属のフィット感」

2つのサーベイによって、日立の社内ではどんな実態が見えてきたのか。ある事業部で2017年と2018年に実施したサーベイの結果を比較したところ、生産性への意識に関してはすべての因子の得点が上昇した。「サーベイの結果から従業員が自分の状態を客観視できるようになったことで、生産性に対する意識が研ぎ澄まされてきたのではないか」と大和田はこの結果を見ている。また、配置配属へのフィット感についても、ほとんどの因子で得点が上がった。

ちなみに、配置配属サーベイの結果は、人事評価には使用されないという。その理由を大和田はこう明かす。

「成果を出しているハイパフォーマーは、上司の目には気持ちもご機嫌に仕事をしているように映りがちですが、サーベイを行ったところ、必ずしも配置配属へのフィット感が高いわけではないことがわかりました。周囲が『あの人、よく頑張っていたのにどうして急に辞めちゃったの?』と思うような突然の退職者が出てくるケースは、このような誤解に起因するのかもしれません。むしろ、人事評価と本人にとってのフィット感に相関は無いということがわかってきました。

ですから、フィット感が低いからといって安易に他部署へ異動させるようなこともしません。今、自分がその組織で期待されていることは何なのか。なぜその組織に配置配属されたのか。仕事を通じてどんなことをアウトプットすべきなのか。従業員一人ひとりがそういったことを考えるための材料として、このサーベイの結果を活用してほしいと考えています」

「金曜日をノー会議デーに」という荒療治が奏功

2017年のサーベイの結果を受け、2018年に上述の事業部が行った2つの施策がある。1つめは、「金曜日をノー会議デーにする」という荒療治だ。

「2017年の生産性サーベイで、『金曜日に残業が多い組織は生産性に対する意識が低い』とう結果が出たのです。これを改善するための象徴的な施策として、『金曜日には会議を設定しない』という対策を打ちました。会議がなければ、まる一日を自分の作業に使えるからです。その結果、生産性に対する意識が向上し、残業時間も縮減できました。あわせて「意思決定過程浸透性」の得点も大きく上昇しており、おそらく『どうすれば手戻りが少なく済むかきちんとタスクの意図を理解しよう』『どうすれば指示を明確にできるか』を従業員一人ひとりが考えて仕事をするようになったのでしょう。かなり思い切った施策でしたが、従業員が自分自身の働き方を考えるきっかけになったのではと見ています」

2017年の生産性サーベイで、もう1つ明らかになった課題がある。それは、若手従業員の挑戦意欲度が低いこと。そこで行われたのが、マネージャークラスを対象とした施策「Will-Can-Must研修」だ。

「『やりたいこと・できること・やらなければならないこと』をどう統合させていくか。それをどう指導するかという研修をマネージャーに受けてもらいました。結果、生産性の意識の因子の1つ『自立尊重性』の得点が上がりました」

その一方、最初に行ったサーベイからすでに2年が経過したことで、人事担当者が看過できない事実も明らかになってきた。

「サーベイの導入後に退職した人のうち、入社3年目以内に退職した人の回答結果を見たところ、配置配属のフィット感がどの項目でも非常に低いことがわかりました。中には、すべての質問に対して5段階評価の3を選択した人もいました。おそらく『この質問に回答したところで意味ないよな……』という気持ちになっていたのでしょう。また、ほとんどの退職者においてとりわけ低かったのが『対人関係安心度』でした。彼ら彼女らは、きっと組織の中に自分の居場所を見いだせなかったのではと推察されます。非常に重く受け止めなくてはいけない問題ですし、周囲の人間がどうフォローすればよかったのか、早く気づいて対策を打てなかったのかが我々の反省でもあります」

配置配属のフィット感が上がると、業績も上がる

ポジティブな事実も明らかになってきた。日立では2つのサーベイと並行して、従業員にエンゲージメントサーベイも実施している。「この会社を誇りに思いますか」「他の人にも入社を勧めますか」「この会社で長く働きたいですか」などの問いに対する回答と、生産性への意識や配置配属へのフィット感との相関を分析したところ、配置配属のフィット感が高まると、エンゲージメントも高まることがわかった。また、配置配属のフィット感が高まると、生産性への意識も高まることがわかっている。さらに大和田らは「生産性への意識が高まれば業績も上がるはず」という仮説を分析。すると予想どおり、業績目標を達成した部署と達成できなかった部署とで有意な差が見られた。

「中でもなるほどと思ったのが、従業員が『目標が明確だ』と感じている組織ほど業績を達成できているという事実です。さらに、社員一人ひとりの心身調整度が高いと仕事の効率性も高まり、さらに創造性も向上し、最終的に売り上げ向上につながることがわかりました」

組織の課題解決に、積極的に寄与していく人事へ

これまで紹介してきたフレームワークは、2018年10月に『日立人財データ分析ソリューション』としてリリースされた。日立の取り組みに共鳴する多くの企業が導入し、すでに約2万人近くの従業員に活用されている。

人事のさらなる進化を見据え、日立はすでに新たな取り組みに着手している。

「例えば、XAI(Explainable AI:説明可能なAI)を用いて、その人の経歴や業績など、あらゆるデータを入れ、従業員がサーベイに答えることなく配置配属のフィット感を予測できれば、配属を決める前に従業員と部署とのマッチングができます。また、入社した人財の育成がどんな状態で進んでいるかを可視化することで、社会人として必要とされる要件の明確化ができます。こういった開発にも現在取り組んでいます。

データで組織課題を解決していく人事が、これからの企業に求められます。まずは、従業員の配置配属のフィット感を高めながら、生産性の向上を図る。本日ご紹介したフレームワークで、日立がそのお手伝いをさせていただければと思います」

◆講演資料ダウンロード◆

1.企業改革に対応したHRテックの取り組み
2.当社の事業部の実例




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Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO

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