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2019年10月、東京国際フォーラムにおいて開催された「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」。ここでは、「デジタル時代におけるIT部門のありかたとは?」と題した、これからのIT部門のありかたに関するセミナーをご紹介。株式会社 日立コンサルティングの笹田剛宏氏が、IT部門のデジタル化のポイントについて講演した様子をレポートします。

IT改革全体の構想立案・実行を支援する中で見えてきたもの 笹田 剛宏氏

日立コンサルティングの笹田氏は、まず自分のキャリアとご自身が関わってきた日立のIT部門の改革について紹介した。

(株式会社 日立コンサルティング グローバル・ビジネスコンサルティング事業部 改革推進プロセスコンサルティング本部 シニアマネージャー 笹田 剛宏氏)

「私は日立製作所に入社以来、製造業やサービス業のお客さまを中心に、業務改革を伴うシステム構築や導入プロジェクトの企画・計画工程、いわゆる上流工程の支援をさせていただいてきました。その後、日立コンサルティングに移り、それらの業務を継続する一方で、コンサルティングの方法論として、上流工程を進める手順、そこで必要となる具体的な作業内容、ワークシートなどの整備も行ってきました。約10年前からは、お客さま企業のIT部門の人財育成支援もお手伝いしています。そうした中で、日立グループやその他の企業さまに対して、IT部門やITガバナンスの改革全体の構想立案や実行をお手伝いするようにもなりました。本日は、私のキャリアの中で学んできたことをふまえて、これからのIT部門がデジタル化にどう対応していくべきかについてお話したいと思います。」

デジタル化を成功させる5つのポイント

笹田氏は、最初に、デジタル化対応に向けた日立IT部門の改革事例を紹介し、組織の役割定義、人財の配置・育成、ナレッジ共有の重要性を強調した。そのうえで、日立や他社の取り組み事例をもとに、デジタル化を成功させるための5つのポイントを解説した。

「1点目は、デジタル化を推進する組織を明確にし、必要な人財を配置することです。その組織のミッションや役割を組織内外に宣言して、やらざるを得ない状況をつくることが非常に重要です。デジタル化推進においては、特に最初はやるべきことが明解に定義できないことも多いので、組織の形態は兼任ではなく専任にすることをお勧めします。
また、必要なスキルや人財はデジタル化の推進フェーズごとに違ってくると考えています。
推進フェーズには、『企画・構想』、『設計・構築』、『定着化・改善』の3つがあります。

最初の『企画・構想』のフェーズで必要なスキルは、主に4つと考えます。1つは、現場メンバーを巻き込んで合意形成できるファシリテーション力です。デジタル技術を活用した現行業務の改革・改善について、現場メンバーを巻き込みながら、案件を推進していくファシリテーション力は非常に重要です。そして、当たり前のことですが現場の業務や課題を理解できる力。それからAIやセンサーなどデジタル技術についてのある程度の知見が必要になります。さらにデジタル技術と業務課題をふまえて、新しい業務の仕組みを発想できる力が必要です。これはなかなか難しいですね。

分かりやすく伝えるために、架空の事例でお話しますが、例えばコンビニエンスストアのPOSレジには、客層キーというものがあります。お客さまが男性か女性か、何歳くらいかを店員さんが判断してキーを押し、そのデータを販売傾向分析などに用いています。ところが、現在の監視カメラの動画分析技術を使えば、店員さんが手入力するより、かなり正確に性別と年齢を判定することができるので、より良い代替手段になりえます。ただし、こうした発想は、カメラの画像分析技術を知らなければ思いつくことができません。デジタル技術の進展はとても早いので、キャッチアップするのはなかなか難しいです。そのために、個人のスキル・知見だけに依存するのではなく、のちほどご紹介するユースケース、つまり先行事例を活用することをお勧めします。
このフェーズで必要な人財を育成するには、現場業務の経験者にデジタル化の企画構想のやり方を覚えてもらうのが近道の1つです。

次の『設計・構築』のフェーズは、企画・構想したシステムを実装していく段階です。さまざまなデジタル製品を目利きする力と、システムだけでなく、センサーやカメラも含めたデジタル技術を活用したデジタル基盤の構築力が必要になってきます。このフェーズで必要な人財を育成するには、ITとデジタル技術両面を熟知している必要がありますから、現場システムのPMをやっていたような人たち、あるいはデジタル技術の専門家にやり方を覚えてもらうのが近道の1つだと思います。

最後の『定着化・改善』フェーズでは、1回仕組みを導入して、それがうまく回っているかどうかをチェックし、回っていない場合には改善案を作ることがタスクになります。ですから、このフェーズで必要な人財は、『企画・構想』と『設計・構築』のメンバーがいれば対応できます。
IT部門として全社のデジタル化推進に貢献するためには、自社の状況もふまえながら、どの工程で誰にどんな役割を担わせるかを、しっかりと考えて人財を配置し、育成していくことが重要になります。」

「2点目は、デジタル化の先行事例を"ユースケース"として蓄積・活用することです。ユースケースとは、成功した先行事例の『特定の課題』を解決した『業務の仕組み』と、そこで必要な『デジタル実現方式』を、他の案件に適用できる形で整理したものです。デジタル化と言っても、企画構想段階で新しい業務の仕組みなどを発想、立案するのは非常に難しいことが多いため、ユースケースを活用することで、デジタル化の推進を短期間で効率的に行えるようになります。

例えばエレベーターの故障予兆診断の仕組みがユースケースとして蓄積されていれば、それをアレンジして発電機の故障予兆診断の仕組みに応用できるかもしれません。また、故障が多い生産設備に対しても、この予兆診断の仕組みが使えるかもしれません。ユースケースを使えば、このようにして発想を広げていくことができます。
現場メンバーと一緒にデジタル化の検討をする時に、デジタル化のねらいや対象範囲、期待成果、制約条件などを見ながら、あらかじめ使えそうなユースケースを用意しておいて、それをもとに検討していくと、うまくいきやすいです。
また、担当した案件を他にも適用できるようにユースケースとしてまとめることを業務に加えると、人財育成にもなり、全社的にナレッジを共有していくという意味でもとても効果的です。」

デジタル化の効果創出には仕組みの継続的な改善と、段階的なKPI設定が重要

「3点目は、仮説・検証型で継続的に業務/デジタルの仕組みを改善・発展させていくことです。新しい業務の仕組み・デジタル実現方式を導入したうえで、データが蓄積されているか、活用されているか、結果的に効果が創出されているかという観点でチェックして、仕組みを改善させていきます。デジタル化はAIやセンサーなど新たな技術を使って業務運用を始めるので、どんな問題が起こるのかを、最初に読み切るのはとても難しくなります。そのため、いったん導入した上で、そのステージに合わせたKPIを設定して、仮説検証型で改善することが必要になってきます。

例えばある工場設備メーカーで、顧客に納入した設備の稼働時間を長くすることや、メンテナンスコストを下げることを目的として故障予兆診断の仕組みを入れたとします。ところが、上がってきたデータは破損が多くて分析そのものができないとか、アラートがあまり上がってこないといったことが起こります。そこで、センシングの方法を改善したり、アラートの判断基準を再調整したりしながら、改善していきます。
また、アラートが上がってきたので保守員が実際に現場に行ったのに、その保守員のスキルでは対応できなかったというようなことも起こります。この場合は、ITだけでは解決できないので、保守員のスキル整理や、保守員アサインをルール化する必要があります。このように、いったん導入した上でしっかりとチェックして、効果を上げるために継続して改善・発展させていくことが重要です。」

「4点目は、定着化のステージ(蓄積〜活用〜効果創出)に合わせてKPIを設定し、段階的な進捗管理をすることです。『データは蓄積されていますか?』『蓄積されたデータは活用されていますか?』『それで最終的に効果が出ていますか?』というように見ていくことが大切です。それぞれのフェーズで、どのような観点でKPIを設定していけばいいかの一例をご紹介しておきます。」

「5点目は、情報リスクを未然に防止するとともに、発生時の影響を最小化することです。
デジタル化はネットワーク接続機器が爆発的に増えるため、セキュリティリスクも何倍にもなると言われています。新しく導入した仕組みが、セキュリティリスクを未然に防止できるようにするとともに、もし発生してしまった場合には、その影響を極小化する仕組みをあらかじめ入れておくことが大切です。

工場を例にとると、各機器に最新のウイルス対策を実施できることが理想ですが、実際は、ネットワークに接続されている機器全てを把握できていない。仮に把握できたとしても、マイコンや組み込みコンピューターなどのOSが特殊なために、最新のウイルス定義パッチが当てられないということもあります。また、発生した場合に、IT部門や現場のメンバーが、本当に生産ラインを停止していいのかどうか判断できないこともあります。
そのため、予防に加えて発生時、かつ、システム面、運用面の両面での対策が必要になります。発生時対策としては、システム面では、SOCやネットワーク遮断の仕組みを整備するなど。運用面では、現場部門と一緒にBCP的な観点で生産ライン停止の判断基準・ルール・プロセスなどをあらかじめ決めておくことが求められます。」

最後に笹田氏は、「企業の競争力強化にとって、デジタル化が非常に重要となった現在、デジタル化推進のサポート力を高めていくことは、IT部門にとって避けられない命題になる。」、「全社のデジタル化を効果的・効率的に推進するために、IT部門としての最適な組織・人財・ガバナンスを、早期に確立する必要がある。」と、重要点をまとめて講演を終えた。





関連リンク

Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO

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