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総務省 情報通信国際戦略局長 谷脇 康彦 氏
総務省 情報通信国際戦略局長 谷脇 康彦 氏

IoT、AI、ビッグデータ、こうしたテクノロジーの波の中で、日本の産業はどのような可能性があるか?また政府としてはどのようなビジョンを提示するのか?総務省の谷脇康彦氏は「IoT、AI、ビッグデータを社会の抱える課題解決のために実装していく」と語る。谷脇氏に今後向かうべきデータ主導社会のイメージとそのための取り組みについて聞いた。

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この記事は、翔泳社が運営するBiz/Zine に、2017年2月10日 に掲載された記事より転載しています。

IoT、AI、ビッグデータをまたぐ戦略

IoT総合戦略:基本的枠組み(『情報通信審議会 第三次中間答申概要』より)
IoT総合戦略:基本的枠組み(『情報通信審議会 第三次中間答申概要』より)

──本年1月、総務省情報通信審議会は「IoT/ビッグデータ時代に向けた新たな情報通信政策の在り方」という第三次中間答申を出されました。

谷脇氏 はじめに、IoT、AI、ビッグデータという3つの分野について、相互の関係を示してみたいと思います。

現実のリアルな社会から、「IoT」によって、様々なセンサーを通じ、従来より安価で効率的にデータの収集ができます。IoTによって収集・蓄積されるのが「ビッグデータ」。そしてそのビッグデータについて「AI」を解析ツールとして活用し、社会課題の解決のためのソリューションを展開していきます。そして、これらのツールを活用して様々なデータをリアル空間とサイバー空間との間で好循環させて経済社会を活性化させていくとともに、日本の社会が持つ課題を解決していくことが重要なテーマだと考えていて、われわれはそれを「データ主導社会」と呼んでいます。

──そこで言うデータとはIoTのデバイスから収集されるデータという意味でしょうか?

谷脇氏 データの種類とその活用目的は多種多様で、ビッグデータといっても様々なものがあります。ひとつは「オープンデータ」です。国や地方自治体の持つデータを機械が読める状態にしていくことです。昨年には国会で「官民データ利活用推進基本法」も成立しました。これに基づき、政府や都道府県はデータ利活用の基本計画を策定し、データ利活用を進めていくことが求められています。

2つめは「暗黙知を形式知に変えていくためのデータ」です。例えば農業の分野ですが、日本の農家の平均年齢は67歳で、後継者不足の中、高齢の農家の方々の経験はこのままでは次世代に受け継がれなくなります。農業のICT化によって農家の皆さんの経験、つまり暗黙知を構造化し、形式知とすることで社会全体で活用することが可能となります。また高度経済成長期に作られた橋、トンネル、道路などの社会インフラも50年以上を経て老朽化しており、インフラ管理の効率化・高度化が求められています。こうしたインフラの老朽箇所の発見はこれまでベテランの技術者による打音検査に頼ってきました。こうした仕事も、センサーや画像認識技術を使ったデータ活用型に置き換えていく。このように、これまでの経験と勘といった暗黙知を形式知に変えていき、次の世代に伝えていくことが必要です。

3つめはM2M。車両や機械が生み出す大量のストリーミングデータを使って部品の不具合の検知や人や車の流れの解析などに活用できます。そして4つめがパーソナルデータです。改正個人情報保護法が本年5月に全面施行されますが、個人の許諾を得たパーソナルデータや匿名加工情報をうまく活用することで、利便性の高いサービスを提供していくことが可能となります。

こうしたビッグデータを活用していくためには、様々な領域のデータを単独で活用するだけではなく、異なる領域のデータを掛け合わせて使っていくことで新しい価値が創造されます。そのためには、データの連携を可能とするデータ様式の標準化も必要です。

──データを活用するための仕組みは具体的にはどういうものでしょうか?

谷脇氏 例えばデータの「取引市場」の創設や、データを仲介する、いわゆる「情報銀行」の仕組みを作ることが考えられます。個人の許諾を前提としたパーソナルデータの活用や匿名加工情報の利用によって、きめの細かいパーソナライズされたサービスを提供していくことが可能となります。しかし個人一人ひとりが自らのデータを提供先に対して個別に約款を理解し、逐一許諾を与えるのは大変な作業になります。仮に個人データを提供して享受できるメリットがあっても、手間というコストを考えればデータの活用が進みません。

そこでデータを流通させる取引市場を創設するととともに、取引市場等において個人の情報提供ポリシーにそってデータの仲介を行う、いわゆる情報銀行の仕組みについて検討が必要です。しかし、ここで大事なのがプライバシーの確保です。

──個人が自分のデータを銀行口座のように預けて管理してもらうというイメージでしょうか?

谷脇氏 いわゆる情報銀行では、あくまで自分の情報は自分でコントロールすることができる、という事が前提になります。そのためには、個人のポリシーに沿って情報銀行が第三者に個人のデータを提供し、その見返りとして、きめ細かいサービスの提供が受けられるようにすることが必要となります。

──取引市場と情報銀行というと、なかなかイメージしづらいのですが、海外などで事例はあるのでしょうか?

谷脇氏 海外、例えば米国では情報銀行に近いビジネスを展開するベンチャー企業も登場してきています。日本でもデータ取引市場を作る具体的な動きが一部企業において出てきています。総務省としては、こうしたデータ取引市場については技術革新の芽を摘むことなく、優れた取引市場を後押しする任意の認定制度のような環境整備を進めたいと考えています。取引市場で一翼を担うこととなる情報銀行については、個人のパーソナルデータのコントロールの可能性やプライバシー確保の問題が出てくるので、紛争処理など一定の公的な関与が必要になるかもしれません。このあたりは今後、専門家で構成するワーキンググループで議論をしていきます。



IoT総合戦略とは

 IoT総合戦略:基本的枠組み(『情報通信審議会 第三次中間答申概要』より)
IoT総合戦略:基本的枠組み(『情報通信審議会 第三次中間答申概要』より)

──そうしたデータの流通を含めてIoTの総合戦略というものを提示されていますが、それについてご説明ください。

谷脇氏 IoTに関しては様々な検討が行われていますが、その全体像を理解できるよう、今回の情報通信審議会第三次中間答申では政策領域をレイヤーという切り口で整理してみました。一番下にセンサーデバイスなどの端末層があり、その上のネットワーク層を通じてデータが収集されます。そして、その上のプラットフォーム層で異なる領域のデータを連携させて、その上のサービス(データ流通)層において新しいサービスが提供されたり、さらなるデータ流通が生み出されます。この4つのレイヤーと各層を縦断する5つの領域を設定し、それぞれ3項目の具体的な施策を全体で15項目に整理し、今後の検討アジェンダとして俯瞰的に整理しました。

──プラットフォーム層とは政府が巨大なシステム基盤をつくるということでしょうか?

谷脇氏 そうではありません。プラットフォーム層というのは異なる領域のデータ連携を可能としたり、紐付けをするためのものであり、個人を認識させるIDによって様々な情報を紐付ける認証連携基盤です。個人が自分で情報のコントロールをすることで、利便性の高いサービスの提供を得ることが可能になります。
別の視点を挙げるとすると、システミックリスクへの対応が必要となってきます。IoTは単一のシステムではなく、複数のIoTシステムが相互に連携した「システム・オブ・システムズ」として成り立ちますが、ひとつのIoTシステムがサイバー攻撃を受けると全体のシステムに影響が出る。これがシステミックリスク、連鎖リスクです。この連鎖するリスクを回避するための、スイッチのオン・オフのような機能をシステム間に持たせる必要があり、その際、プラットフォームレイヤーが重要な役割を担うこととなります。

このようにIoTシステムを連携させていく基盤がプラットフォームですが、その仕組みは必ずしも中央集権的に作られるものではありません。データの管理の仕組みは集中管理的なものと分散的なものが並存する形に変わってきています。IoTシステムに接続されるセンサー等の機器の脆弱性を記録し、システムから切り離すためにブロックチェーン技術、つまりピア・トゥ・ピア型の分散台帳にセンサー情報を記録として保持して改ざんできないようにしていくことも今後検討が必要になってきます。

──プラットフォームにある情報を個人がコントロールするためには、安全なIDの仕組みが必要になると思いますが、どのようなツールを使うことになるのでしょうか?

谷脇氏 そのためには、公的個人認証としてマイナンバーカードの利用を積極的に活用していくことが考えられます。
マイナンバーカードの裏側にはICチップが搭載されており、2種類の電子証明書が格納されています。ひとつは個人が誰であるかを特定する電子証明書、もうひとつは個人が電子文書に署名する時の電子署名用の電子証明書です。

──ようやくマイナンバーカードの利用イメージが出てきました(笑)

谷脇氏 マイナンバーカードの利用事例を増やしていくことがとても重要です。マイナンバーカードの電子証明書を活用した公的個人認証は活用範囲が広いものです。たとえばオンラインバンキングを使うときも従来のIDとパスワードだけの認証だけでは脆弱になってきていて、ワンタイムパスワードや生体認証などの多要素認証が必要になってきます。こうした多要素認証のひとつの要素としてマイナンバーカードの公的個人認証を使うことが考えられます。もちろん、カード自体をいつも持ち歩くのは避けたいという方もいらっしゃると思います。そのため、マイナンバーカードに格納されている電子証明書をスマートフォンに搭載して活用するための技術実証実験も始めています。これが実現しますと、マイナンバーカードの電子証明書を搭載したスマートフォンを健康保険証や診察券にしたりできます。また、イベント会場への入場をチケットレスで行ったり、チケットの転売の防止のための仕組みづくりも可能となります。

──こうした取り組みによって社会的にはどのような恩恵がもたらされるのでしょうか?

谷脇氏 様々なデータが円滑に流通する仕組みを構築していくことで、人の流れ、車両などの交通量、電力消費量、街なかのごみの収集、自然災害予測や森林資源の状況など様々なデータを活用して都市資源の把握や都市経営に活用していくことが可能になると考えられます。

こういう取り組みは、データ利活用型スマートシティと言う文脈でも注目されています。たとえばデンマークのコペンハーゲンやイギリスのブリストルでは、データを街中から吸い上げて、そのデータを、利用したい事業者や企業に販売するというプロジェクトが動いています。単にデータを収集して都市経営の効率化をするだけでなく、データを有償で取引することで自治体も収入を得られる。そして、これをスマートシティの維持費用に当てるというモデルです。こういうサステナブルなモデルを作っていくためにデータ利活用型スマートシティの構築実証を来年度から始めたいと考えています。

──今でもインバウンドや訪日観光客の位置情報などのビジネスがありますね。

谷脇氏 総務省では「IoTおもてなしクラウド」というプロジェクトを進めています。2月から本格的に実証実験を開始しますが、インバウンドの観光客を対象に交通系ICカード(Suica)等を配って、カードの固有番号IDとIoTおもてなしクラウドに登録した個人のデータを紐付けてもらう。訪日観光客に対して多言語対応、スムーズなホテルのチェックイン、自国語による経路案内などのパーソナルサービスの提供を行う実証実験です。まさに、いわゆる情報銀行の先行例となります。こうしたプロジェクトを通じ、情報銀行の具備すべき要件や課題の洗い出しを進めていきたいと考えています。



AIを社会に実装していく

東京大学教授 森川博之氏

──AIとの関係についてはいかがでしょうか?

谷脇氏 日本は少子化、高齢化、自然災害などの課題が山積みで「課題先進国」と言われています。こうした社会課題の解決のためにAIの活用は非常に有効です。しかも日本の抱える課題は早晩他国も直面する課題ですので、AIの活用を含む社会課題解決型のソリューションの開発はグローバル市場への展開を含め重要な課題だと思います。

総務省では情報通信研究機構(NICT)が過去数十年にも渡ってAIやユニバーサルコミュニケーションの分野で地道な研究を重ねてきた成果があります。日本語環境ではNICTが持つ自然言語処理、あるいは音声処理のAIの技術は圧倒的に優れていると思っています。

──NICTのAI研究の成果はどのように活用されていますか?

谷脇氏 最近注目されているのが音声インターフェースです。アマゾンのエコーに代表されるような音声による入力と出力はAIの応用分野として注目されています。こうした自然言語処理や音声認識のAI技術は、たとえば介護の現場などで大変役立つわけです。とくに日本語での自然言語処理や音声認識のAIはNICTが持つ大きなアドバンテージであり、その技術を実際の介護や災害対応など、具体的な社会課題の解決に役立てることができるよう、実際の現場に実装していくための取り組み事例を増やしていきたいと考えています。

──総務省が管轄する通信会社の音声などはAI研究に活かされるのでしょうか?

谷脇氏 通信会社の音声を直接活用することはありえません。ただ、NICTの研究開発の中でAIの活用事例としては、多言語音声翻訳も有望な分野です。iPhoneやアンドロイドスマートフォン用に「ボイストラ」(VoiceTra)というアプリを無料で公開していており、現在31か国語に対応しています。AIを活用した音声による自動翻訳を実際の利用シーンに生かしていくために分野ごとのコーパス(対応辞書)を充実させるなどAIの開発に役立てています。ぜひボイストラをお試しいただきたいと思います。

またアプリ提供だけではなく、ボイストラの技術を民間企業にライセンスすることで、多言語音声翻訳の様々な製品・サービスの実現を支援しています。東京都との連携のもと、東京マラソンや防災訓練の場でも試験的にボイストラが活用されているほか、医療や鉄道の現場でも利用実験が進んでおり、その結果ウェアラブル端末などの製品も出始めています。

このように、AIの社会実装や社会全体でのデータの共有を考えた場合、日本のAIやIoTは大きな可能性があると思います。

──ぜひ日本のIoT、AIの政策にドライヴをかけてください。ありがとうございました。



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