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Hitachi IoT Platform Magazine

ビズジンが主催する無料イベント「Business Book Academy」(協賛:日立製作所)。8月は、「AI・シンギュラリティ時代の成長戦略」をテーマに開催。講師は、Biz/Zine連載「人工知能社会論からの考察」が好評で、人工知能社会論研究会の共同発起人である、駒沢大学講師の井上智洋氏と、AI研究者である理化学研究所の高橋恒一氏。井上氏からは「人工知能の経済学−雇用なき爆発的な経済成長−」として、人工知能が未来の経済をどのように変えるのかについて。高橋氏からは、「シンギュラリティは本当に来るのか? −日本の取りうる道−」として、特化型人工知能から汎用型人工知能への潮流の変化や、その鍵となる「認知アーキテクチャ」と日本企業の取りうる選択肢としての「オープンプラットフォーム戦略」を解説。その講演内容をレポートします。

2030年に誕生する汎用人工知能とは一体何か。開発の鍵を握るのは「全脳アーキテクチャ」

人間の脳と同じように様々な知的振る舞いをこなすことのできる「汎用人工知能」が2030年頃には完成すると言われている。仮に実現すれば、第4次産業革命が起き、私たちの生活は一変する。革命の鍵となる汎用人工知能とは一体何か。汎用人工知能出現により私たちの現在の生活はどのように変化していくのか。

巷を騒がせている人工知能の多くは「特化型人工知能」に分類される。この人工知能は、一つのタスクしかこなせないのが特徴だ。たとえば、Googleのような検索エンジンやSiriなどの音声認識が当てはまる。インプットしたある特定の分野には高い能力を発揮するが、人間の脳のように自律的に考え判断し、行動する、というようなアウトプットはできない。一方、汎用人工知能は自律的に物事を考え判断するという特徴を もっており、人間のような振る舞いも可能だ。

汎用人工知能を完成させるためには、人間の脳をモデルとした機械学習器をつくる必要がある。汎用人工知能は2つの方式のいずれかによって実現されると言われている。1つは、「全脳エミュレーション方式」というもの。これは、1000億のニューロンと100兆のシナプスから成る脳の神経系のネットワーク構造をすべてデータ化してコンピュータ上にソフトウェアとしてすべて再現するという方式だ。2つ目に、「全脳アーキテクチャ」と呼ばれる、脳の構造を模倣した「人工脳」を作ることで実現される方式がある。後者の全脳アーキテクチャは、おおよそ2030年には完成されると言われており、もし実現できれば一人の人間の知性を凌駕する汎用人工知能が生まれるとされている。



第4次産業革命による経済構造の大きな変化

人工知能による影響を経済学の観点から研究する井上智洋氏は、全脳アーキテクチャによる汎用人工知能が誕生するとされている、2030年を「第4次産業革命」の始まりと語り、そこで起きる経済構造へのインパクトについて語る。

井上智洋氏(駒沢大学講師)
井上智洋氏(駒沢大学講師)

第4次産業革命はビッグデータ、IoT、そして人工知能によってもたらされる次の産業革命だ。産業革命の歴史をたどると、1770年には、蒸気機関による第1次産業革命が起き、1865年には内燃機関や電気モータによる第2次産業革命が起きた。そして、1995年にはパソコンやインターネットが引き金となった情報革命である第3次産業革命が起きた。

井上氏は、これら産業革命の歴史を俯瞰して「第1次産業革命は、定住革命以来の大きな経済構造の変化をもたらした。第4次産業革命はこの第1次産業革命に匹敵するほどの大きな変化になる」と語る。

第4次産業革命が起きると、経済構造に大きな変化が訪れる。これまでの資本主義経済を形成していた「機械化経済」が、人工知能やロボットが生産活動に必要なインプットを主導する「純粋機械化経済」へと変わっていくためだ。

純粋機械化経済の構造


需要が増えても雇用が増えない「汎用人工知能」時代の深刻度

オックスフォード大学 フレイ&オズボーンの論文

2013年にオックスフォード大学のカール・ベネディクト・フレイとマイケル・A・オズボーンが発表した論文「雇用の未来−コンピュータ化によって仕事は失われるのか」によれば、今後は企業の受け付けなどの事務的な労働だけでなく、会計士や弁護士助手などの知的労働、ウェイター・ウェイトレス、理髪師などの肉体的労働も奪われていくとされている。進歩した技術によって一定の失業者が発生する技術的失業が起きるのは避けられない。 

しかし、留意したい点が、この統計はあくまでも機械によって代替可能か否かを技術的に示しているだけということだ。実際に機械に置き換えるかどうかは、導入コストなどを踏まえて考える必要がある。

“機械の導入コストと人件費を比較した際に、導入コストが高ければ、人を雇用し続けるでしょう。つまり、10〜20年の間に消えそうな仕事ランキングが、実現するかどうかは現時点では判断がつきません。この部分は、経済情勢と密に関わっていて、どれくらい労働者の実質賃金が下がるかということで変わっていくでしょう。“

さらに井上氏は、機械に置き換えられる“可能性の低い”、人間にしかできない仕事を表す略語「CMH」を解説した。

中間層の雇用破壊

  • C:「Creativity」 小説や映画の作成、研究開発、商品企画
  • M:「Management」 企業経営、店舗・工場の管理
  • H:「Hospitality」 介護、看護、ホテルマン、マッサージ師

しかし、こうした職業に対しても人工知能は容赦なく影響を与えるという。例えば、ホスピタリティを必要とする仕事に、バーテンダーが挙げられる。

バーテンダーはお酒を提供する以外にも、その場にいるひとたちを盛り上げる必要がある。これは人間にしかできないと思われがちだが、汎用人工知能が誕生した場合、人工知能やロボットがホスピタリティを身につける可能性は大いにあり得る。となると、CMHの仕事ついてもロボットとの競争が起きる可能性が十分にあり得る。

“全脳アーキテクチャ方式の汎用人工知能は、人為的に作って模倣しただけなので完全に人間の脳と異なり、生命の壁は乗り超えられません。まったく人間と同じようなホスピタリティを発揮出来るとは言い難いでしょう。しかし、人間の真似をすることで、どんどん学習していくので、ホスピタリティのレベルを追い越す可能性も十分にあり得ます。機械との競争に負けるバーテンダーも出て来れば、勝ち続けて残るバーテンダーもいる、こうした二極化は今後ますます進んでいくでしょう。“

技術的失業をさらに紐解くと、特化型人工知能による失業と汎用人工知能による失業と分けることができる。前者が原因の失業は、労働者が仕事を変えること(経済学では「労働移動」と呼ばれる)によって解決されると考えられていた。しかし、後者の汎用人工知能による失業は、それが通用しない可能性がある。

“人間の知性と同じような働きをする人工知能が誕生して、それがロボットに搭載され、人間と同じように身体的な振る舞いをする汎用ロボットが登場した場合、ほぼ全ての職業を不必要にしてしまうかもしれません。“

失業の解決策であった労働移動の移動先がなくなる未来が訪れるかもしれない。マクロ経済政策によって景気を良くして需要を増大させ、雇用を増やそうとしても、需要は増えるかもしれないが人工知能やロボットが雇用を奪い、生身の人間の雇用が増えない可能性がある。


雇用の喪失によって生まれる新しい社会の形「ベーシックインカム」

技術の進歩による「人間の労働からの解放」は、もはや必然であろう。特化型人工知能により事務労働は減少させられており、頭脳労働や肉体労働も減少している。さらに追い討ちをかけるように、2030年に汎用人工知能が実現した場合、雇用はますます減っていく。

人間が労働から解放され、賃金労働が消滅した場合、労働者と資本家の所得分配はどうなるのか。ロボットが生産を行う無人工場を所有する資本家は、技術が進歩することで絶え間ない恩恵を得ることができる。しかし、自分の力を切り売りしていく労働者は、技術が進歩することで収益を得る手段がなくなってしまう。

こうした労働者を救済すると考えられている1つの手段として、「ベーシックインカム」が挙げられる。ベーシックインカムは、収入に関係なく、全ての人に無条件に、 最低限の生活費を一律に給付する制度だ。ひとり7万円の生活費が配られるというのであれば、それが人々に無償で配布されるということになる。

井上氏は、「人工知能が人間の代わりに働くとユートピアが実現する、と考えているひとも多いが、ベーシックインカムのようなしっかりとした制度を構築できなければユートピアは実現しない」と言及し、発表を締めくくった。



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