トラックドライバーの時間外労働規制により顕在化した「物流の2024年問題」。小口多頻度化や人手不足といった構造的課題を背景に、物流は大きな転換期を迎えています。物流の現状と課題を整理し、改正物流効率化法のポイントや、荷主企業に求められる具体的な対応、「物流統括管理者」Chief Logistics Officer (CLO)の役割について解説します。
トラックドライバーの時間外労働に上限が設けられることで、輸送能力の不足が懸念される「物流の2024年問題」は、物流業界だけでなく、荷主企業を含むすべての産業に影響を及ぼす重要な経営課題です。EC市場の拡大による小口多頻度配送の進行や、ドライバー不足・高齢化といった構造的な問題が重なり、日本の物流は抜本的な見直しを迫られています。こうした状況を受け、政府は物流の持続的成長を目的に改正物流効率化法を施行しました。ここでは、物流を取り巻く環境変化を整理しながら、法改正のポイントと企業に求められる対応を解説します。
時間外労働の上限規制により、これまで長時間労働に依存して維持されてきた輸送能力が縮小し、輸送力不足が顕在化する可能性があります。小口多頻度化や慢性的な人手不足を背景に、物流コストの上昇や企業活動への影響も懸念されており、物流の効率化や商慣行の見直しが重要な課題となっています。
直近の物流の動向を見ると、貨物1件あたりの重量は1990年の2.43トンから、2021年には0.83トンへと大幅に減少しています。一方で、物流件数はこの約30年でほぼ倍増しました。その背景には、ネットショッピングをはじめとしたEC市場の拡大や宅配貨物の増加があります。
EC:Electronic Commerce
この結果、小口多頻度配送が常態化し、1台当たりの積載量は減少する一方、運行回数だけが増える構造が生まれました。加えて、貨物自動車の積載率は2010年以降40%を下回る低水準で推移しています。輸送量が減少しているにもかかわらず、従来と同様の距離・頻度で運行せざるを得ない状況は、物流現場に大きな非効率と負担をもたらしています。
物流を支えるトラックドライバーの労働環境は、厳しい状況にあります。年間労働時間は全産業平均と比べて約2割長い一方、年間所得は5〜10%低い水準にとどまっています。その結果、有効求人倍率は全産業平均の約2倍に達し、慢性的な人手不足が続いています。
年齢構成を見ると、40〜50代の割合が高く、若年層の割合が低い点も特徴です。長時間労働にもかかわらず賃金水準が低いことから、特に若手人材の確保が進まず、ドライバーの高齢化が加速しています。現在の中核世代である40代・50代が10年、20年後に引退すれば、ドライバー数が急減する可能性が高いと懸念されています。
こうした状況の中で、2024年度から時間外労働の上限規制が適用されました。この規制は、ドライバーの健康確保や待遇改善に資する重要な施策である一方、従来の長時間労働を前提として維持されてきた輸送能力は確保できなくなります。試算では、2019年比で最大14.2%、重量にして約4億トン相当の輸送能力不足が生じる可能性があるとされています。
物流コストも上昇を続けています。2010年代半ば以降、ネット通販の拡大や人手不足の深刻化を背景に、物流費はバブル期を超える水準に達しました。コロナ禍以降も高止まりの状況が続いており、物流コストのインフレが進行しています。
需給の不均衡を放置すれば、2030年時点で7.5〜10.2兆円の経済損失が発生する可能性も指摘されています。物流需要にどれだけ応えられるかという「物流の供給力」は、今や企業や産業全体の競争力を左右する要素となっています。物流は単なるコストではなく、競争優位を左右する経営資源へと位置づけが変わりつつあり、「物流優位の時代」に入ったといえます。
これまでのように運賃圧縮によって物流費を削減する手法には限界があります。今後は、商慣行の是正や設備投資による物流の効率化を徹底し、物流費を抑制しながら供給力を向上させる取り組みが求められます。同時に、労働環境の改善や賃上げを通じてドライバーを確保していく視点も不可欠です。
目指すべき物流システムの姿は、デジタル技術を最大限に活用し、物流を含めたサプライチェーン全体を統合的にマネジメントすることにあります。物流コストも考慮したうえで、サプライチェーン全体を最適化する戦略が求められています。
具体的には、サプライヤーから販売に至るまでのデータを一元的に同期し、各部門が必要なデータを適時活用できる環境を整備することが重要です。需要予測や需給情報をリアルタイムで共有することで、リードタイムの短縮や調達・生産の平準化を実現し、一気通貫のサプライチェーンマネジメントを構築していく必要があります。これらの取り組みは個社単独では実現が難しく、企業間連携や国全体での取り組みが不可欠です。
こうした課題を背景に、政府は物流の持続的成長を目的として「改正物流効率化法」を制定しました。本法は、商慣行の見直し、物流の効率化、荷主や消費者の行動変容を一体的に進めるための抜本的な制度改正です。
改正物流効率化法では、すべての事業者に対して「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」「積載効率の向上等」という3つの努力義務が課されています。予約システムの導入やパレットの活用、余裕を持ったリードタイムの設定など、具体的な取り組み例も示されています。
さらに、2026年4月からは一定規模以上の事業者に対し、より踏み込んだ対応が求められます。年間9万トン以上の貨物を取り扱う荷主などは「特定事業者」として指定され、中長期計画の策定や定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任が義務付けられます。
特定事業者に指定された荷主は、物流統括管理者(CLO)を選任し、届け出を行う必要があります。CLOは物流部門にとどまらず、生産部門や営業部門など社内の幅広い組織と連携し、物流全体の最適化を推進する中核的な役割を担います。包装仕様の見直しや、トラック積載を前提とした資材設計など、部門横断的な調整が不可欠です。
その先進事例として、「CLO of the Year 2025」で金賞を受賞した日清食品株式会社(以下、日清食品)とJA全農の共同配送の取り組みが挙げられます。岩手県から茨城県へ米穀を輸送したトラックが、帰り便で日清食品の商品を積載することで、輸送効率を向上させました。類似の取り組みは福岡―山口間でも実施され、ドライバーの拘束時間を約7%削減する成果を上げています。
また、複数の小売事業者が発注時間の見直しやリードタイムの確保、賞味期限運用の緩和などを共同で進める取り組みも広がっています。さらに三菱食品株式会社では、CLOを中心に物流構造の可視化を進め、社内で分散していた物流リソースを統合し、配送センターやトラックの共同利用による最適化を実現しました。
競合や異業種を超えた協調が、物流改革の鍵となっています。CLOには、荷主同士や荷主と物流事業者をつなぐ「外交役」としての役割が期待されています。
改正物流効率化法はすべての荷主事業者に影響を与える一方、制度や用語がわかりにくい側面もあります。こうした課題を補うため、「物流効率化法 理解促進ポータルサイト」が開設されました。法令や判断基準の解説、優良事例集、物流パターン別の整理資料、特定荷主向けの手引きなどが公開されています。自社の取り組みを具体化するための実務的な指針として、積極的な活用が期待されます。
*本記事中の実績につきましては、当該お客さまでの事例におけるケースとなり、必ずしも同様の効果が出るとは限りません。
