エネルギー業界は、人口が減り続ける中で近年の電力・ガス自由化もあり、企業間競争が激化している。政府が掲げる2050年のカーボンニュートラルへの貢献が求められる一方で、資源調達リスクも増しており、変化への対応力が試される環境にある。
このような中で北ガスグループは、2050年以降のカーボンニュートラル時代を展望しつつ2030年を中間点と位置付けた、北ガスグループ経営計画「Challenge2030」を策定。2022年から取り組みを進めている。その中で「総合エネルギーサービス事業の進化による分散型社会の形成」「カーボンニュートラルへの挑戦」とともに打ち出しているのが、「デジタル技術の活用による事業構造変革」である。

北ガスグループは「Challenge2030」の中で、デジタル技術や次世代プラットフォームの活用により事業構造を抜本的に変革し、
高付加価値型の事業基盤を構築することを目標に掲げる

北海道ガス
デジタルトランスフォーメーション・構造改革推進部
情報プラットフォーム基盤管理グループ
主査
青木 琴 氏
これを実現するため、同社はデータ活用の推進を打ち出す。しかし課題もあった。北海道ガス デジタルトランスフォーメーション・構造改革推進部 情報プラットフォーム基盤管理グループ 主査 青木琴氏は次のように語る。
「データを活用して価値を提供するためには、社内外のデータをつなぐ必要があります。しかし従来は業務ごとにシステムが分断され、データもバラバラ。データのひも付けが難しい状態でした」。そこで2020年から、新たにデータ基盤を核とした次世代プラットフォームの構築に取り組み始めた。
同時に、当時利用していたデータセンターは2024年8月に閉館されることが決まっており、並行して次期システムインフラ基盤の構築が求められた。その要件として重要視したポイントのひとつが「拡張性」。データ活用が増大することが自明だったため、柔軟な拡張性が求められた。オンプレミスでは拡張性に制約がある。そこでクラウド活用を前提に検討が進められた。
クラウド活用の調査をスタートしたものの、全社システムの移行を前提としたシステムインフラ全体の構想を描くには、社内のクラウドに関する知見が不足しているという課題があった。そこで専門技術を有するエンジニアが、既存環境のアセスメントから移行計画策定までサポートする日立の「クラウド利用方針策定支援サービス」を利用した。
「クラウドという言葉が先走り、自社だけでの計画立案につまづいていました。日立さんはクラウドだけでなく当社のシステムや業務に関する知見もあり、経営層への提案に向けて協力してもらいました」(青木氏)
本サービスではシステムごとに、クラウド移行の可否を切り分け。一部をオンプレミスに残すことを決断し、ハイブリッドクラウドで環境整備を行うこととなった。構築プロジェクトは2022年2月にスタート。まずはクラウド基盤の構築を完了させたのち、2022年10月から各システムの移行を順次進めた。

北海道ガス
デジタルトランスフォーメーション・構造改革推進部
情報プラットフォーム基盤管理グループ
主査
阿部 実咲 氏
移行にあたり同社が重視したのが、安定運用を維持できるか。同主査 阿部実咲氏は、「リスクを減らして確実に移行することが最重要でした。その中で既存システムの保守期限などを考慮しながら、何から移行するかを考えました」と語っている。
移行先のクラウド環境として日立が提案したのが、AWS(Amazon Web Services)である。その理由を日立製作所 クラウドエンジニアリング本部 クラウドデリバリプラットフォーム部 主任技師 松本忠利は、次のように説明する。
「移行するシステムが大小十数システムあり、その種類も基幹システムから会員サイトのような公開システムまで多様でした。保守期限など厳守すべきスケジュールもあり、短期間での構築が求められました。このような移行をすばやく確実に進めるためには、AWSが最適と考えました」

日立製作所
クラウドエンジニアリング本部
クラウドデリバリプラットフォーム部
主任技師
松本 忠利
今回のプロジェクトを担ったのは、営業や事業部門など多様なバックグラウンドを持つ人材で構成されるチームである。そのためITやクラウドに関する知識もバラツキがあった。その中で議論をしつつスケジュールに間に合うよう方針を決め、計画を遂行する必要がある。
青木氏は「ゼロからITやクラウドの知識を学びつつ、早いスピード感で多くのことを決める必要がありました。オンプレミスとクラウドを比較して説明してもらうなど、日立さんにはかなり苦労をかけました」と振り返る。阿部氏も「日立さんと会話をしながら、我々も少しずつ力をつけて課題を乗り越えることができました」と続ける。
システム移行は順次実施。北ガスおよび各システムを開発・保守するITベンダーに日立が加わり、システムごとに協議しながら進めた。松本は「ベンダーによってクラウドの知識に差があり、詳しいところもあれば、そうでないところもありました。後者に対しては、クラウドについて一から説明するとともに、システムの説明を受けて、どういうアーキテクチャーを採用すべきか一緒に検討しました」と話す。
データセンター閉館の3カ月前、2024年5月にはすべての移行を完了。クラウドへの切り替えが実現した。
システムは無事移行したものの、使い始めると新たな課題が浮上。安定稼働を最優先したため、クラウドネイティブなシステムに見直しはできていなかった。さらに、データ活用を全社的に推奨し、事業構造改革を進める中で、新たなシステム化の要望も多く寄せられ、クラウド利用は拡大していった。こうした背景から、クラウド運用の最適化が徐々に課題として意識されるようになってきた。「安定稼働を最優先としたうえで、クラウド環境のコストと品質を計画的に最適化していくこととしました」(阿部氏)。
そこで日立から、顧客のクラウド運用改善を継続的に提案・実行するサービス「Hitachi Application Reliability Centers(HARC)」の紹介を受ける。事前に予測が難しいクラウドコストを継続的に最適化しながら、クラウド利用の費用対効果の最大化と事業成長を促進するための方法論「FinOps(フィンオプス)」に取り組むことを提案した。なお「FinOps」とは、「Finance(財務)」と「DevOps(デブオプス)」を組み合わせた言葉である。
「アセスメントによって、コスト削減効果の大小と取り組みの難易度を示してもらいました。なるべく効果が大きくて取り組みやすいものから順に進めています。例えば不要なインスタンスの削除や料金割引プランの利用拡大などで、少しずつ効果が出始めています」(青木氏)
FinOpsはシステムの開発ベンダーも巻き込んで進めている。開発ベンダーはオンプレミスでの経験をもとにスペックや運用を検討しており、クラウドのメリットを最大限に活かすには課題が残っていた。一度導入すれば目に見えるコストがかからないオンプレミスと異なり、クラウドは使うだけコストがかかる。
そこでシステムごとの課金状況などを見える化。定例の運用会議で開示し、コスト最適化に向けた取り組みを継続している。「当たり前ですが、クラウドは利用していないときに停止すればコストが下がります。頭では理解していても、実際の効果は数字で目にすることで強く実感できます。オンプレミスにはなかった『止める』という発想を理解し、社内にクラウド活用に適した利用意識を根付かせるところから取り組んでいます」(阿部氏)。
既存システムの移行を終え、次はクラウドの利活用をさらに高める段階にある。「既存システムの移行は一段落したので、よりクラウドを使いこなせるよう、機能的にもコスト的にも改善する提案を継続的に行っていきます」(松本)。
北ガスグループが現在取り組んでいるのが、運用の内製化だ。現在はクラウド基盤を日立が、各業務システムは同グループの北ガスサービス(KGS)が運用している。今後は日立が担当するクラウド基盤の運用もKGSに移管する予定だ。「現在KGSさまと一緒に運用しながら、我々の持つ知見やノウハウをお伝えしているところです」(松本)。
日立のサポートについて阿部氏は、「設計や構築、運用まで一貫して支援いただいているので、安心感があります。ノウハウがない中で短期間に移行する必要があり、そこをサポートいただいたのは、我々の負荷の軽減という意味でもありがたい存在でした。初期はトラブルもあったのですが、迅速に対応いただいたのも非常に助かりました」と評価している。
運用から1年以上たち、データの蓄積が進む。北ガスグループはデータ活用を通し、本格的にサービスや業務変革に取り組んでいく。既に実現しているサービスに、北ガス会員制Webサイト「TagTag」を活用した「節電チャレンジ」がある。会員に対して電気の使用量を見える化。各会員に省エネ提案を行い、実際に省エネを実現した会員にポイントを還元する仕組みだ。従来はひも付けできなかった会員情報や電力使用量などを組み合わせることで、サービス提供を可能にした。
青木氏は、「データが見えるようになってきました。今の課題は、これからどう業務を変えていくか。現在は主に北ガス内で取り組んでいますが、今年度中にグループ内に活動を広げていきます。将来的にはデータを活用し、地域や社会に貢献できるようになりたいと思います」と抱負を語った。