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コロナ禍を機に、「出社しなくても働ける」という事実に気づいてしまった私たち。リモートワークやハイブリッドワークの普及は、働く場所にとらわれないというメリットをもたらした一方で、「会社への帰属意識の低下」や「従業員同士のコミュニケーションの希薄化」といった新たな課題が生じました。

ただでさえ労働人口の減少による採用難が続くなか、こうした課題がやがて離職のきっかけになりかねないとあっては、企業として見過ごすわけにはいきません。そこで今、注目されているのが、従業員のエンゲージメントや定着率を高める“ウェルビーイング(心身ともに良好な状態)”の実現です。

本稿では、この目には見えないウェルビーイングをどのように実現すればよいのか、形骸化させずに全社でポジティブに取り組めるウェルビーイング施策とはどのようなものなのか、考察します。

なぜウェルビーイング施策が求められているのか

そもそも従業員のウェルビーイングや従業員エンゲージメントに注目が集まる背景には、働き方の多様化のほかにも、2023年3月期から適用された、上場企業における人的資本に関する情報開示の義務化があります。

人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方*1」です。情報開示が求められている項目には、従業員エンゲージメントや精神的健康・身体的健康など多岐にわたる項目が含まれますが、その根底にあるのは「人材こそ企業の競争力の源泉である」という考え方であり、「従業員のウェルビーイングにかかる支出は“コスト”ではなく“投資”と捉えるべきだ」という発想です。

*1

とはいえ、中には「うちは福利厚生がしっかりしているから大丈夫だ」と安心されている方もいるかもしれません。しばしば混同されがちなウェルビーイング施策と福利厚生。この2つは、何が違うのでしょうか。

福利厚生とは、企業が従業員に対して、給与や賞与などの労働対価に加えて支給する、制度やサービスの総称です。具体的には、社会保険や育児休業、社員食堂や住宅手当、健康診断などが含まれ、マズローの欲求段階説で言うところの「第1段階:生理的欲求(食事・睡眠など生命維持に必要な欲求)」や「第2段階:安全の欲求(雇用・健康・財産の安定)」を主に充足するためのものです。

これに対し、ウェルビーイング施策は、心理的安全性やエンゲージメントの向上といった、働く中での“心の健康”に重きを置いたものであり、マズローの欲求段階説では「第3段階:社会的欲求(所属・愛情・つながり)」「第4段階:承認の欲求(尊重されたい・認められたい)」「第5段階:自己実現の欲求(自己の可能性を最大限に発揮したい)」といった高次の欲求に応えるためのものです。

つまり、福利厚生という土台の上に築かれる“豊かさ”を追求するのがウェルビーイング施策であり、「福利厚生によって“働ける状態”が整っているからこそ、ウェルビーイング施策によって“イキイキと働ける状態”をめざすことができる」と言えるでしょう。

コミュニケーション不足が心理的安全性の低下を招く

ウェルビーイング施策の重要性を感じて、実際に実施してみたものの、「従業員が魅力を感じてくれず、思うように浸透しなかった」「ほんとうにウェルビーイングが向上しているのか、今一つ効果を実感できない」といった悩みを抱える企業も少なくありません。

典型的な失敗パターンを、従業員・担当部署(人事・総務部門など)・経営層それぞれの視点で整理すると、以下のようになります。

従業員:参加する意義を感じられない
→やらされ感ばかりが募り、ウェルビーイングの向上につながらない。
担当部署:施策を実施したことで満足し、効果検証まで手が回らない
→経営層にも現場にも成果を定量的に示せず、“やりっぱなし”になってしまう。
経営層:投資する理由を見出せない
→従業員エンゲージメントの低下・離職率の上昇といった経営課題を解決できない。

このような失敗の背景には、さまざまな要因があると考えられますが、なかでもウェルビーイング施策の成功を阻む根本的な要因のひとつが「社内コミュニケーションの不足」です。

働き方の多様化が進むなかで、日常的な雑談や気軽な声かけといった業務外の会話が減ってしまい、従業員同士の心理的な距離が広がっています。特に、若手社員はその影響を強く受けており、日立が実施した2024年度のグローバル従業員サーベイでも、「若手社員の心理的安全性は、経営層よりも約30%低い」という結果が出ています。

心理的安全性が低いということは、従業員が周囲との関係性に不安を抱き、自分の率直な意見を出すことをためらう状態である可能性があります。そのような環境下で、健康促進アプリの導入や形式的な交流イベントといったウェルビーイング施策を実施しても、従業員は心を開いて積極的に関与することができません。その結果、エンゲージメントの向上につながらないどころか、かえって心理的負担を感じさせてしまう恐れもあります。

だからこそ、ウェルビーイング施策を成功させるには、心理的安全性が低い人でも自然と参加しやすい形で、無理なくコミュニケーションの輪に入れる仕掛けから始めることが重要です。そのうえで、施策の成果を可視化し、PDCAサイクルを回しながら、段階的にウェルビーイングの向上を図っていくのが効果的でしょう。

「CO-URIBA」のありがとうクーポンで実践するウェルビーイング施策

そこで日立が従業員同士の自然なコミュニケーションを生むきっかけとして着目したのが、顔認証やセンサー技術などを搭載した無人コミュニケーション店舗「CO-URIBA」の活用でした。

CO-URIBAは、もともと財布やスマートフォンを持たずに手ぶらで買い物ができる無人店舗として開発されたのですが、そこに「感謝を贈り合える“ありがとうクーポン”」という機能を追加することで、単なる福利厚生から、従業員同士の能動的なコミュニケーションが生まれるウェルビーイング施策へと進化させられるのではないかと考えたのです。

幸福学の第一人者である慶応義塾大学大学院教授 前野隆司先生は、人の幸福感と深い相関関係のある4つの因子のうちのひとつとして、つながりと感謝の因子である「ありがとう」因子を挙げており、「ありがとう」と感謝の気持ちを声に出して伝える人ほど幸せを味わいやすいと言います。

この「ありがとうクーポン」では、日頃の感謝や労いの気持ちを記した「メッセージ」と、CO-URIBAで販売されているお菓子やドリンクなどと交換できる「クーポン」をセットで送ることができます。

実際に利用した従業員からは、「ありがとうクーポンのメッセージをきっかけに、異動前の部署の人と久しぶりに飲みにいくことになった」「上司からありがとうクーポンをもらって、一緒に商品を交換しに行くことになり、自然と会話が生まれるきっかけとなってうれしかった」といった喜びの声が届いています。また、上司から部下に「ありがとうクーポン」を贈る施策を実施し、施策前後に対象者にアンケート調査を行いました。その結果、クーポンの贈り合いによって「心理的安全性が高まった」と回答した人の割合は73%に達し、さらに、上司から「ありがとうクーポン」を受け取った若手社員では、その割合が92%に大幅に上昇しました。

さらに今後、CO-URIBAには、ありがとうクーポンの活用状況を定量的に可視化するダッシュボードの搭載も予定しており、ウェルビーイング施策としての継続的な改善に役立てられるようになります。

リアルとデジタルが融合した“ありがとうの贈り合い”を起点に、社内のあちらこちらでコミュニケーションが生まれ、心理的安全性と従業員エンゲージメントが高まっていく。そんなウェルビーイングの実現にご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

黒崎さんのお写真
今回の語り手:金融システム営業統括本部 事業企画本部 One Hitachi事業推進部
黒崎 大地さん

語り手より

企業成長の原動力は人財であり、従業員のみなさまの可能性を最大限引き出すため、ウェルビーイングやエンゲージメントの向上は企業として注力すべきテーマだと考えています。 「CO-URIBA」はそのお手伝いができるサービスでございますので、ぜひお気軽にご相談ください。