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エネルギー

洋上風力発電の系統連系や大需要地への長距離送電など、再生可能エネルギーの主力電源化を支援し、脱炭素社会の実現に貢献するソリューションとして注目を集めているHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)。スウェーデン王国の首都ストックホルムから約220キロ離れた中部地方にある、スウェーデンのルドヴィカ工場は、このHVDCに関する世界トップレベルの技術と世界各地のプロジェクトへの納入実績を有する日立エナジーの中核拠点であり、同社の前身であるElektriska Aktiebolaget Magnet(エレクトリスカ・アクティエボラゲット・マグネット)社*が鉱山や発電所などの産業に電気機械設備を提供する企業として1900年に創立した地でもあります。歴史があり、各国の技術者が集うこの地で、先進のHVDC技術を学ぶ日々を送っているのが日立HVDCテクノロジーの乗松 圭さんです。

乗松 圭さん

日立エナジー・ルドヴィカ本社

日本にはない案件や経験が刺激に

乗松さんがルドヴィカ工場に赴任したのは2022年の1月。以来、高調波解析を行う部署に所属し、日立エナジーのエンジニアとして海外プロジェクトに従事する中で設計・解析プロセスを学んでいます。

「こちらでの業務は、日本で携わっていた中部電力東清水変電所向け自励式周波数変換装置のプロジェクト(以下、東清水プロジェクト)に継続して従事しながら、併せて日立エナジーが進めているプロジェクトに従事しています。主に担当しているのは英国の洋上風力発電のプロジェクトで、洋上で発電した電気を英国の本土へ送電するためにHVDCが利用されます。その解析を進める中で、お客さまであるデンマークの会社や英国の送配電会社と打ち合わせをして課題を共有したり、今後の進め方を調整したりしています。打ち合わせは基本的にオンラインですが、お客さまがルドヴィカへ来られることもあります」と乗松さん。

「日本ではまだ事例が少ない洋上風力ネットワークの高調波解析に携われていることや、海外のお客さまとの打ち合わせなど、こちらでの業務の内容や経験には技術者としておおいに刺激を受けています」

ドッガーバンクHVDC系統連系(イギリス)
(出典:Aibel)

日本で得たHVDCの知見をさらに深めるために

日立への入社後、戸塚の事業所でカーナビシステムの組み込みシステムの設計などを担当していた乗松さんは、2011年から大みか事業所に異動し、電力系統設備のシミュレーション研究や評価、制御パラメータを専門とする研究を行ってきました。その後、日立エナジーの自励式HVDCを導入する東清水プロジェクトに従事し、日立HVDCテクノロジーズのシステムエンジニアとしてシステム解析部分の取り纏めを担当していました。

「東清水プロジェクトでは、日立エナジーとお客さまである日本の電力会社の間で、解析諸元の調整をはじめとする技術的なコミュニケーションに関わったり、日立エナジーから出される解析結果のレビューや解析結果の報告をするなど、両者の橋渡しのような役割を務めていました」

東清水プロジェクトで約2年間の経験を重ねたのち、その知見をさらに深めるためにルドヴィカ工場に勤務することになった乗松さん。初めての海外勤務への戸惑いなどはなかったのでしょうか。

「日立エナジーの皆さんとは以前からオンラインでやり取りしていましたし、ルドヴィカにも出張で何度か訪れていたので、こちらの技術者の方や業務にはすぐなじめました」

日立エナジー、ルドヴィカ工場

各国の技術者とはフィーカ(Fika)で交流を深めて

ルドヴィカ工場では、現在60以上の国と地域の人たちが働いています。乗松さんが所属している部署もスウェーデン人、インド人、イラン人など、さまざまな国籍のメンバーで編成されています。そうしたマルチカルチャーな雰囲気は職場に限らず、街中にも異なる言語や文化があふれていますが、そういった環境の中でも特に不自由は感じていないようです。

「部署内のメンバーには日本で一緒に働いていた人もいますが、ほかの人とは一緒に仕事をしたり、お昼ごはんを食べたりする間に仲良くなってきたという感じです。スウェーデンには、日本のおやつタイムのようなフィーカ(Fika)*という文化があって、10時とか14時になるとみんなでコーヒーや紅茶などを飲み、お菓子を食べながらおしゃべりをします。こちらで交流を深めるとしたら、お昼ごはんとフィーカですね」

ルドヴィカに来て約1年になる乗松さん。職場の仲間と打ち解けるとともに、夏は自転車で周辺の森や田園地帯を散策したり、冬は湖でスケートをしたりと、豊かな自然に恵まれたルドヴィカで仕事もプライベートも充実した時間を過ごせているといいます。

「こちらの人たちは、朝早くに仕事に来て午後4時半くらいには帰って、あとはプライベートの時間を楽しんでいます。打ち合わせも午前中に入れることが多いですし、人によっては朝の5時半に来て午後早くに子供をピックアップしに帰る人がいるなど、すごくフレキシブルですね。はじめは日本との違いを感じましたが、今は慣れました」と、働き方にもうまく順応できているようです。

*コーヒーや紅茶とお菓子を持ち、同僚や友人と語り合うスウェーデンのお茶文化。

ルドヴィカオフィスでのフィーカ・タイム

HVDCの最前線といえる環境の中で

ルドヴィカ工場での業務に就いて最初に驚いたことは、「進行しているプロジェクトの多さとその規模、対応している送電容量の大きさでした」という乗松さん。

HVDCへのニーズが世界的に高まっている中でも、特に欧州では連系強化が経済的にも有効であるという評価から、さらなる連系強化が計画され実行もされています。また、技術面では送電能力が拡大し、交流系統の安定化にも貢献する自励式HVDCという方式の導入が主流になっています。こうした状況に対して、日立エナジーではルドヴィカ工場を中心に生産体制を整え、現在も複数の新設自励式HVDCプロジェクトが並行して進行しています。 まさにHVDCの最前線ともいえる業務環境について乗松さんは、

「いろいろな案件に関われるので、そのぶん新しい課題も出てきますが、それらの課題についてプロジェクトのメンバーと議論したり、対応策を考えたりすることが面白いですね。日本でも新しい課題は出てくる中、調べていくと前例があることが度々ありますが、こちらでは全く新しい事例と出会うこともあります。新しい課題に突き当たるごとに、エンジニアとして大きなやりがいを感じています」

日立エナジーのHVDC Light®

適用の鍵は技術よりもコミュニケーション

海外で一足早く導入が進み、運用実績が拡大しているHVDC。その日本への適用について「技術的な問題はない」と乗松さんはいいます。

「日本の案件では、発注の前にお客さまからメーカーに対して何ができて何ができないかといった確認が入るので、そこで技術的なすり合わせをしっかりしておけば問題や齟齬は起きないはずです。それでも、商習慣の違いや国内規格・既設サイトとの協調などへの対応は必要なので、やはりお客さまとのコミュニケーションが重要になりますね」

例えば海外では、国際標準規格(IEC etc.)の適用と機器設計の標準化が進んでいて、そうした機器を組み合わせてシステム設計を行うことでプロジェクト期間の短縮、コストダウンを図っています。しかし日本には国内の規格があり、設置スペースへの対応や、気候や地震への対策などから標準化が難しく、独自の仕様が求められます。また、サプライヤーに発注する機器に対しても詳細な技術的説明やエビデンスが求められることがあります。

こうしたシステムに対する考え方や進め方の違いを理解したうえで「日本からの要望や問い合わせの意図をどのように海外のエンジニアやサプライヤーに伝え、それに対する詳細な説明を引き出すか。また、日本のお客さまに対しては、システムや機器の仕様、コストなどについて説明をして理解を得られるようにできるか」そこが一番の課題になるといいます。

技術への理解を深めてよりロジカルに

そうした課題を解決するために乗松さんが心がけているのは「よりロジカルに説明できるようにすること」だといいます。

「日本で東清水プロジェクトに従事していたとき、ルドヴィカのエンジニアとお客さまの間の調整をしていました。例えば、ルドヴィカ側からお客さまからの質問や問い合わせの意図を聞かれたときには、風習の違いを考慮して理由を説明できることもあれば、逆に日本のお客さまに対しては説明するのが難しいと考えてしまうようなことがありました。それは自分の考え方がロジカルじゃなかったからだと思っています」

「ルドヴィカで海外の技術者に交じって経験を重ねるうちに技術面であっても文化や風習の違いであっても「ロジカルな説明の必要性」をより強く感じるようになりました」

「設計プロセスや研究開発の内容を把握し、理解を深めることで、技術志向の日本のお客さまにも納得してもらえる説明をできるように務めています。根気がいることですが、そうすることで、日本でのプロジェクトもより効率的に進められると思っています」

世界と日本をつなぐプロジェクトエンジニアに

世界で加速する脱炭素化の流れを受けて、日本でも再生可能エネルギーの導入を推進する方針が示されています。その主力電源化を支える技術となるのがHVDCです。

「日立エナジーには、まだ日本国内にはないような大容量の自励式HVDCプロジェクトの運用実績が数多くあります。そうした豊富な経験から、日本のお客さまの大規模な洋上風力発電の計画でも潜在的な課題を技術検討時点で洗い出してリスクを最小化することができます。また、リードタイムの短縮などにも貢献できると思っています」

日立エナジーの技術と経験が日本におけるHVDC拡大にもたらす価値を感じているからこその、乗松さんの思いがあります。

「HVDCの導入ニーズの高まりに伴い技術者の仕事が細分化される傾向にある中でも、プロジェクト全体のプロセスを考慮してより良い提案や検討ができるエンジニアをめざしています。日立と日立エナジーの相互理解を深め連携を強化することで、将来のプロジェクトや日本のお客さまに貢献できればと思っています」

その視線は、ルドヴィカでの経験を重ねる中で未来を見つめています。

日立エナジー、スウェーデン・ルドヴィカ本社にて
乗松 圭さん

*スウェーデンのアセア社はElektriska Aktiebolaget Magnet社を1916年に買収した後、1988年にスイス連邦のブラウン・ボベリ社と合併し、ABB社となりました。2020年7月1日には、日立製作所がABB社のパワーグリッド事業の買収を完了、2021年10月から日立エナジーになりました。

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