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エネルギー

期待されるが稼働率が伸びない日本の風力発電

世界各国で「カーボンニュートラル」をめざす動きが本格化するのを受けて、再生可能エネルギーの拡大に向けた取り組みも増えています。資源エネルギー庁も、2021年に策定した「エネルギー基本計画」で再生可能エネルギーの大幅な拡大を掲げていますが、中でも陸上・洋上の風力発電の拡大には特に力が注がれ、2030年度には19年度に比べて陸上風力発電を約4倍(17.9GW)、洋上風力発電を約6倍(5.7GW)にする数値目標が示されています。
(一社)日本風力発電協会によれば、日本では、2,574基の風車が稼働し、458万kWの電力が発電されています(2021年末)*1。しかし、政府の審議会などの調査によれば、欧州では97%の稼働率保証が多くなされるのに対し、日本における風力発電設備の年間稼働率(稼働時間÷年間総時間)は平均で87%*2、2011年以降に設置されたものでも92%に留まっており、これが風力発電の拡充が進まぬ一因にもなっていると言われています*3
こうした中で、約350基の風力発電設備の保守・メンテナンスを担う日立パワーソリューションズは、年間稼働率が98%*4という高稼働率を実現しています。その背景には、ドローンやAIを活用した精度の高い点検作業やサービス体制が整備されていることなどさまざまな理由に加え、現場で作業を行うサービスエンジニアの「現場力の高さ」もこの高稼働率を実現している理由の一つです。

日立パワーソリューションズでは、北海道から鹿児島まで、全国に9つのサービスセンタを置き、約200人(2021年12月現在)のサービスエンジニアが活躍しています。再エネソリューション本部フィールドエンジニアリング部の鈴木大地・担当部長は、「日本の風力発電が抱えるいくつかの課題をカバーするための体制とサービスエンジニアの現場力の高さ、さらには現場力を高めるための充実した教育体制が、国内屈指と言われる稼働率の高さを実現しています。」と語ります。

ダウンタイムを短期化する部品ストック

風力発電が抱える課題を解決する重要な鍵となるのがメンテナンスです。
言うまでもなく風力発電設備は24時間365日、過酷な自然環境にさらされ、破損や故障の半分が自然現象によるものです。回転羽根(ブレード)の破損や回転軸(ロータ軸)、発電機などの故障が多く発生し、部品交換で対応するケースが多いのですが、部品の取り寄せに時間がかかる場合もあるそうです。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査によれば、破損や故障で設備を稼働できない「ダウンタイム」は1回当たり29.9日にも達します。これが風力発電設備を安定稼働させて発電効率を維持させていくための大きな課題になっています。

一方で、「日立パワーソリューションズでは、茨城県日立市の大沼工場にパーツセンターを設け、各サービス拠点でも部品をストックしています。また、風力発電設備が多い東北地方の保守拠点である秋田県能代市の能代サービスセンタには、ブレードなどの大型部品もストックしており、破損や故障が発生しても迅速に対応することが可能で、ダウンタイムを短くすることができるのです。」(鈴木さん)

機械と電気の総合技能を高める教育体制

サービスエンジニアの育成においても風力発電ならではの課題があります。風を受けたブレードが回転し、発電機を回し発電するというのが基本的な仕組みですが、ブレードを風の吹いてくる方向に向ける制御(ヨー制御)装置や運転を監視する装置なども組み込まれています。さらには発電機を収納している「ナセル」や、それを支える「タワー」などの構造物もあります。

「屋内にある火力発電所の保守・メンテナンスならば、建屋の中での作業となるため、機械系や電気系など各分野のサービスエンジニアが集まって対応することができますが、風力発電の場合は屋外に点在しているため、メンテナンスや修理の場合 個別に作業を行うケースが多いのが実情です。
だからこそサービスエンジニア一人一人には、機械構造物から電気・電子、また高所作業における安全対策など、幅広い知識が求められます。これら全ての知識レベルを上げなければ故障の予兆を見抜くスキルも向上しません。サービスエンジニアの技能は“深く広く”が絶対条件であり、だからこそサービスエンジニアを育成するのは難しいというジレンマがあります。」(鈴木さん)

日立パワーソリューションズのサービスエンジニアは、日立トレーニングセンタと能代トレーニングセンタで座学や基礎訓練を受けてから各サービスセンタに配属されます。日立トレーニングセンタには風力発電の実機があり、ここで初めて実際の設備に触れます。また、配属後の現場の作業は先輩と2人で行うのが原則で、OJT(職場での実地教育)が基本となります。
さらに、年に1回、すべてのサービスエンジニアが日立トレーニングセンタで「サービスエンジニア教育」を受けなければなりません。「これは、サービスエンジニアを育成するうえで私たちが大事にしているのが基本行動の徹底だからです。初心にもどり基礎を学びしっかり身につけることで、さらなる高度な技術力を会得することができるのです。そのためには定期的な訓練が必要なのです。」と、トレーニングセンタの講師を務める小石雅明さんは語ります。

ナセルの中は非常に狭く、外に出れば地上数十メートルという高所での作業で、基本行動のレベルの高さが保守・メンテナンスの質の高さに直結するのです。ですから、タワー内の梯子の上り下り、工具類の使い方など、どれも疎かにはできない訓練なのです。
例えば梯子を上り下りするとき、墜落防止用器具(ハーネス)も合わせて梯子にセットしますが、体重のかけ方次第ではすぐにロックがかかってしまい動けなくなります。

さらに、人はそれぞれ個性があるように、作業員一人一人にも得意分野・不得意分野があります。「その上で講師陣は、機械系を得意とするサービスエンジニア、電気系を得意とするサービスエンジニアといったように、気質や得手不得手の違いを見極めて指導の力点を決めます。それを毎年続けることで、総合的な技能が身についてくるのです」(小石さん)

救出訓練も必須の「サービスエンジニア教育」

サービスエンジニア教育内容は技術研修だけでなく、レスキュー訓練であったり、労働災害の防止となるヒヤリハットの共有も行うなど多岐にわたっています。例えばレスキュー訓練では、同僚がハーネスによって空中に吊られた状態になった時の救出を、8分で完了できるようになるまで訓練します。なぜ8分かと言うと、人は空中で吊り下げられた状態が続くと、10分ほどで心肺停止になってしまうからです。救急隊の到着を待っている余裕はないため、いかに早く救出作業をするか、徹底的に訓練します。

また、ボルトテンショナーという油圧でボルトを締める工具を使うときは1520ba(バール)という油圧がかかります。これは消防車が放水するときの約109倍もの圧力であり、扱いを一つ間違えばケガだけでは済みません。そのため高所でいかに正しく使うかの訓練が重要となってくるのです。非常に高度な作業であるため、このボルトテンショナーのような特殊工具の扱いは、合格認定がなければ扱えないようにもしています。

全国にサービスセンタを設けるのは、お客さまの設備の故障などに迅速に対応するためのサービス体制の充実に他ならないのですが、それは同時に、現場のサービスエンジニアの技能を高める基盤にもなっています。

「サービス拠点は、北は北海道、南は鹿児島まであり、冬場の寒冷地での積雪対策や夏場の九州での湿気対策など、さまざまなノウハウが蓄積されています。それを研修会で共有したり、ローテーション人事でいろいろな現場を体験してもらったりすることで、目標値の高い技術が育成されていきます。現場力を高めるために、ここまできめ細かく取り組んでいる点は、当社の強みでもあります。」(小石さん)

「DX時代でも決め手はサービスエンジニアの力」

保守・メンテナンスでは、IoTなど、いわゆるデジタル化されたサービスも増えています。日立パワーソリューションズでも予防保全を重視したサービスメニューを揃えていますが、鈴木さんは、「今後メンテナンスでも、ますますデジタルを活用する事になります。その場合でも、やはりサービス員の現場での力というのが最後の決め手として重要なのです。」と言います。

そもそもデジタル化は、サービスエンジニアの作業負担を減らしたり、補助となるのはもちろんですが、データ分析もメンテナンス項目の検証に役立つものでなくてはなりません。
実際、風力発電設備では1年に2回のメンテナンスがあり、特に4〜5月の風の弱い時期に行われるマスターメンテナンスでは約250項目について2人の作業員が3日間をかけて点検します。マスターメンテナンスの点検項目は、かつては400項目以上ありましたが、データ解析の結果などにより現在の数まで削減でき、その分サービスエンジニアは予防保全の措置に力を注げるようになりました。

ただ、デジタル技術の活用による自動化は、システムの全体像を理解できていないままに日常の作業を行ったり、マニュアル通りで、それ以外には関心がなくなったりという問題もはらんでいます。鈴木担当部長は、「教えたことをさらに深く理解する姿勢がないと、予期せぬ事態が発生したときの対応力や創造力が発揮されません。だからこそ……」と力を込めます。「私たちはやはりOJTを大事にしたい。先輩と一緒に仕事をすることで応用力を鍛え、勘を磨く。日立パワーソリューションズは、1996年に風力事業を開始して以来、現場力を鍛えることに力を惜しまなかったからこそ今の高い稼働率の実現とお客さまからの信頼という実績を得られたのです。」
多くのサービスエンジニアは、自分が保守作業を行ったり、建設に関わった風力発電設備を見て誇りを感じています。それは、カーボンニュートラルの実現に向け、微力ながらも貢献できていることが仕事への前向きな姿勢につながっていると言います。そうした思いが、日立パワーソリューションズの保守・メンテナンスの現場力の基礎となり、さらに向上させていきたいという強い志にもつながっているのです。


*1
日本風力発電協会2022年2月25日付ニュースリリース「2021年末日本の風力発電の累積導入量」より
*2
資源エネルギー庁「風力発電競争力強化研究会報告書」より
*3
風力発電競争力強化研究会「風力発電競争力強化研究会報告書2016年10月」より
*4
日立パワーソリューションズと長期包括保守契約を締結している発電所の2020年度稼働率実績。本稼働率は保守契約に沿った稼働率のため、免責分(系統事故、自然災害など)の停止時間は含まれません。稼働率保証契約は95%で、実績値とは異なります。