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エネルギー

風力発電設備のブレード安全性向上への対応として制定されたガイドライン

2050年のカーボンニュートラル達成に向けて主力電源として位置づけられる再生可能エネルギー。日本の再生可能エネルギー電力比率は2019年度で18%、再エネ発電設備容量は世界6位となっています。その一翼を担う風力発電は、これまで日本の気象条件や立地の制約から大きな割合ではなかったものの、風力発電設備の進化や保守サービスレベルの向上により導入台数も徐々に増えており、この10年間で約1.5倍の数となっています。(※1)

風力発電は昼夜にかかわらず風が吹く限り発電可能であり、比較的狭小地でも設置・発電が可能といったメリットがある一方で、ブレード(羽根)が常に回転していることから摩耗による劣化、台風のような暴風で設備に負荷がかかりすぎる、雷などによる損傷といったリスクも有しています。

日立グループは、風力発電設備に関して、国内トップレベルの累計860基を受注するなど豊富な実績を有しており、なかでも日立パワーソリューションズは、1996年に風力事業を開始して以来、累計461基の風力発電設備を建設。現在、国内で保守契約している風力発電設備は300基以上になります。そして同社は、2022年4月にAIなどのデジタル技術と最新のドローン技術を組み合わせることによって、風力発電設備のリスクを軽減させるための先進的なサービスを開始します。

日立パワーソリューションズで、風力発電設備の保守サービスを担当している白濱幸弘さんは、適切なブレードの維持管理の重要性をこう指摘します。
「発電時、ブレードの先端は時速300kmで回転しているため、とてもダメージを受けやすい箇所なのです。実際、国内にあるさまざまな風力発電設備では、ブレードの落下や折損といった事象も発生しており、雷や台風によって設備が損傷する事故は、私たちが扱っている設備でも経験してきました。」

そこで、業界団体の一般社団法人 日本風力発電協会(JWPA)は、2021年3月に「風力発電設備 ブレード点検および補修ガイドライン」を制定しました。日立パワーソリューションズは、ガイドライン作成のためのワーキンググループに参画していたこともあり、風力発電設備の安全性向上による安全安心の確保を目的に、2021年度に同ガイドラインに見合った新たな保守サービスの開発に着手しました。

点検作業の時間短縮などの効果を生み出したドローンによる高精細な撮影技術

先進的な保守サービスを開発するうえで、日立パワーソリューションズが重視したのは、デジタル技術を用いた点検と、これまで培った知見や技術を用いた保守計画・補修を組み合わせて保守サービスを高度化させること。プロジェクトを進める中で、ドローンの自動撮影技術を有する(株)センシンロボティクスが協業のパートナーとなったことで開発に拍車がかかりました。

その経緯について、プロジェクトのまとめ役を担った白濱さんが語ります。
「同社からの技術提案もあって、実際の風力発電設備でドローンを用いたブレード点検を試みたところ、初見から約2時間で自動飛行による点検ができたのです(※2)。しかも、その時12m/s前後の風が吹いていました。それまでは、風が強い地域に設置される風力発電設備の点検に、ドローンは適さないものだと思い込んでいました。しかし、これなら設備の点検に十分使えるという手ごたえを感じ、2021年6月初旬から開発を本格化させたのです」
その後、月に5〜6回ほど開発関係者とのミーティングを重ねるとともに、実証試験を繰り返した結果、ブレード点検システムが完成します。

ドローンによる自動撮影のメリットは、第一に点検の時間短縮と作業効率の向上です。従来の点検作業は、サービスエンジニアが地上から損傷していると思われる箇所を、望遠レンズを付けたカメラで撮影して確認するという方法でした。しかし、この方法による点検作業は、かなりのマンパワーを要します。半年に一度のタイミングで目視点検を実施しているため、年間約1,800本のブレードを点検しなければなりません。ドローンを用いたブレード点検システムを活用することによって、その点検時間の短縮に加えて作業効率の向上をも実現することができたのです。

第二に、点検の精度向上にも大きく貢献します。望遠レンズを使っての撮影では、雨で視界が悪かったり、逆光による弊害を避けたりするなど、いわば自然環境を読みながらの作業でした。損傷の判定がしづらい時には、ビル壁面のメンテナンス作業と同じように、クレーンやロープを使って近接点検していました。他方、ドローンによる自動撮影は、全方向を漏れなく撮影し、かつ正面から間近に高精細な撮影が可能なため、撮影環境に影響されることなく、損傷の判定が可能になったのです。

最適な点検・保守計画・補修を実現するワンストップ体制を構築

さらに、保守計画の立案、補修については、これまで日立パワーソリューションズが培ってきた知見や技術による強みがいかんなく発揮されています。
「実は、国内では、点検・保守計画・補修をワンストップで提供できる企業は、わずか数社しかありません。当社は、ドローンによる自動撮影から、スムーズにAIで損傷具合を判定、その結果をもとにいつまでにどのような補修をするのか、どの補修材料を選定するのかなど、ベストな保守計画を立案し、補修を実施することができるのです」(白濱さん)

なぜ、保守計画が重要なのかというと、補修のタイミングや方法で損傷の進み具合が大きく変わるためです。最適な保守計画によって、補修回数や補修範囲を減らすことも可能に。すなわち、事業者にとっては、風力発電設備を止める時間を少なくすることができ、発電量をなるべく減らさないというメリットが享受できるのです。

また、従来の点検データ管理では、1基につき100枚以上にもなる写真から状態や損傷を確認できるものを選び出す作業を人手に頼っていました。今回のプロジェクトでは、データを管理するシステムも開発し、撮影した膨大な画像データは、発電所別や撮影方向別などに振り分けて分類管理するとともに、点検・保守計画・補修のデータ管理をデジタルで一元管理することによって作業効率の向上を実現。それだけでなく、過去の損傷や補修履歴などのデータをナレッジとして蓄積・管理することで、保守計画の実効性を高めることも可能にしました。

一方、補修についても、ドローンを用いたブレード点検の効果を大きく取り込んだといいます。長年にわたって現場で補修の技術を磨いてきた金澤尚也さんが、こう説明します。
「ドローンによる自動撮影は、いうでもなく毎回同じ位置・方向から撮影しますが、加えて当社からパートナーである(株)センシンロボティクスに、5方向からの撮影を提案しました。X・Y軸の4方向から正面のみの撮影では、損傷の判定が難しい場合があるからです。損傷判定の精度が低いと、補修方法に影響を及ぼしてしまいます。今回の開発では保守計画を含めて、最適な補修による整備が実施できるよう、点検から補修に至るまで先進的なサービスの開発に取り組んだのです」

この点検・保守計画・補修の一貫した「つながり」ゆえに、新サービスは「ブレードトータルサービス」と名づけられました。

風力発電設備の安心安全から再生可能エネルギーの拡大をめざして

ますます注目される風力発電の安心安全な運用を支える「ブレードトータルサービス」の役割や目標について、白濱さんに伺いました。
「ひとつには、OT×ITの強みをさらに生かすことを考えています。例えば、ブレードの損傷傾向や補修履歴などといったナレッジを蓄積し、サービスの最適化につなげていきたい。同時に、今回のサービスは自社が扱っている風力発電設備に限らず、さまざまなメーカーの風力発電設備のメンテナンスも想定しており、広く国内の風力発電事業に貢献していくことをめざしています」(白濱さん)

さらに、2020年代後半の実用化が期待されている洋上風力発電設備へも、日立グループがこれまで携わっていたプロジェクトなどで得られた知見を生かして、適応を検討していきたいと考えています。
「再生可能エネルギーの拡大のためには、風力発電設備の安心安全の確保は欠かすことができません。きちんとした保守の一助となる『ブレードトータルサービス』を広く提供することで、私たちもカーボンニュートラル達成に少しでも貢献していきたいですね」(白濱さん)

日立パワーソリューションズは、「ブレードトータルサービス」の提供を通じて、風力発電設備の安全性向上と安定稼働を支援し、脱炭素社会の実現をめざしていきます。


(※1)「NEDO日本における風力発電導入量の推移」より。
(※2) 風車用に簡易ルートを作成した試験走行。ブレード1本の2方向を点検。

  • 公開日: 2022年3月