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HVDC(高圧直流送電)

脱炭素化に向けて、今、求められることとは。 脱炭素化に向けて、今、求められることとは。

再生可能エネルギーの主力電源化を支えるHVDC(高圧直流送電)。

グローバルで加速する脱炭素化に向けた動きを受け、日本でも再生可能エネルギーの導入拡大を国レベルで推進しています。これを強力に後押しし、エネルギーを効率的かつ安定的に供給するための日立の取り組みや技術について、エネルギー問題に詳しいフリーキャスターで千葉大学 客員教授の木場弘子氏が、日立製作所 執行役常務の浦瀬賢治に話を聞きました。

※この対談は、2021年2月、新型コロナウイルス感染症拡大を防止するため、オンラインにて実施しました。

エネルギー分野は3つの“D”をキーとした転換期へ

木場地球温暖化や気候変動といった世界共通の課題の克服に向けて、2020年10月、菅総理は2050年のカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざすことを宣言し、さらに12月には、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。この政策で掲げられたチャレンジングな目標について、どうお考えでしょうか。

浦瀬今、激甚化する自然災害が各地で起こっており、国際社会の中でも気候変動に対する危機感がますます強くなっています。そのような中で、持続可能な社会の実現に向けた日本の今後のポジションを確立する英断であり、たいへん高く評価しています。
2050年のカーボンニュートラルへの挑戦は、日本の新たな成長戦略であると同時に厳しい課題でもありますが、日立が長年培ってきたエネルギー分野での経験と知見、そしてノウハウにより、これらの課題解決に取り組んでいきたいと考えています。

木場私も2021年の年明けから経済産業省の審議会で、産業界の方々と議論をさせていただく機会がありましたが、やはりこの戦略には相当なインパクトがあったようですね。
中でも電力部門では“脱炭素化”が大前提となっていますので、クリーンエネルギーへの大きな転換期でもあるわけです。日立はこれまでも石炭から石油へ、さらには化石エネルギーからの脱却など、エネルギーシステムの転換を技術革新によって実現されてきたと思います。こうした大きな転換は、大きなビジネスチャンスでもありますよね。

浦瀬 確かに大きな転換期だと感じています。今のエネルギー分野の潮流は、Decarbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)、Digitalization(デジタル化)という3つの“D”がキーとなっていますが、デジタル化の急速な進展で、分散化した電気の流れをデータで細かく把握できるようになりました。データを活用した新たなビジネスは、これから急成長すると思います。
脱炭素化の実現では、洋上風力発電が注目を集めています。大量導入、コスト低減、経済波及効果などが期待され、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札となるのではないでしょうか。欧州を中心に全世界で導入が拡大しており、アジア市場でも急成長が見込まれています。
海に囲まれた日本も洋上風力の主力電源化に向けた動きが出てきていますが、その一方で系統の整備、電力を蓄えるバッテリーといった課題もあります。これらの課題に対して技術的にいかに取り組んでいくのかということも、われわれの仕事になると考えています。

洋上風力を最大限に生かすための大送電網へ

木場 洋上風力発電について、もう少し話を深めさせてください。日本は、エネルギー資源小国ではありますが、四方を海に囲まれた島国という利点を生かせることは大変なメリットだと感じています。今後、洋上風力は再生可能エネルギーの主力電源となり得るのでは、と期待しております。
国が推進するグリーン成長戦略の中でも、再生可能エネルギーを最大限に導入するために、系統の整備の重要性がうたわれています。さらに洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会では、洋上風力産業ビジョンにおいても直流送電の具体的検討などが明示されていますね。

浦瀬私もその協議会の委員ですが、洋上風力のポテンシャルを最大限に生かすために、適地から大需要地に運ぶ大送電網の必要性を感じています。長距離送電にはさまざまな課題がありますが、これを解決する手段の一つがHVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)です。特に環境負荷の低減や、工期短縮のためにケーブル送電を適用するケースが多くなると考えられますが、その場合にも交流送電に比べHVDCが有利であり、特に自励式HVDCが今、注目されています。
近年のHVDCは自励式という方式が主流となってきており、送電能力も拡大し、交流系統の安定化にも大きく貢献します。またHVDCは単に送電するだけにとどまらず、交流系統との組み合わせにより系統の安定化にも大きく貢献します。世界でもますますHVDCが増えていくと予想されますので、課題への解決策も取り入れながら、私どもの技術力を生かしていきたいと考えています。

2020年7月に日立ABBパワーグリッド社を設立

木場2020年7月に日立ABBパワーグリッド社を設立した日立にとって、この分野は力を入れている分野の一つですね。

浦瀬そのとおりです。このHVDCの技術こそ、現在、日立が注力している大きな事業の一つです。1954年に世界で初めてHVDCを商業化し、世界No.1シェア*1を誇る日立ABBパワーグリッド社と、1970年に直流送電技術を開発して以来、国内のほとんどのプロジェクトに関与してきた国内実績No.1*2の日立が組むことで、世界最高品質のHVDCを提供できると考えています。
脱炭素化に向けて、温室効果ガスを削減するために再生可能エネルギーに置き換えていく世界的な潮流に加え、EVやデータセンターの増加といったニーズもあることから、HVDC市場は、これからますます拡大していくことでしょう。

  • *1:2019年受注高ベース、日立ABBパワーグリッド社調べ
  • *2:2019年変換器容量・受注ベース、建設中プロジェクト含む、当社調べ

木場両社のシナジー効果は計り知れず、世界最高クラスの高品質なHVDCを提供していただけるものと期待しています。

浦瀬2020年9月、約1,800kmの直流送電で、容量6,000MWというインドのHVDCプロジェクトの第一期工事が終わりました。また2020年10月に英国とフランス間、2020年12月にはドイツとノルウェー間のHVDCによる国際連系線プロジェクトがそれぞれ通電試験を完了しました。国内では、飛騨信濃周波数変換設備のHVDCも、2021年春の運転開始に向けて工事を進めています。

NordLink(ノルウェー・ドイツ国際連系線)ドイツヴィルスター変換所

飛騨信濃周波数変換設備、運転開始へ

木場大規模なプロジェクトが世界中で進行中ですね。今お話しいただいた飛騨信濃周波数変換設備について伺います。先日、『日立評論』の対談でお会いした東原社長から、飛騨信濃周波数変換設備で用いられているHVDCについても、日立が手がけていると伺いました。国内の期待も高いと思いますが、現在、どのような進捗状況でしょうか。

浦瀬2020年10月に始まった系統連系試験も完了に近づき、いよいよ2021年の春に運転開始という段階です。この飛騨信濃周波数変換設備は、60Hz側の飛騨変換所(中部電力パワーグリッド株式会社)と50Hz側の新信濃変電所(東京電力パワーグリッド株式会社)という、日本で初めて架空線で異周波系統間を直流連系する設備で、飛騨変換所は日立が担当しています。調相機能を備えたフィルタ設備は日立ABBパワーグリッド社製ですが、これは国内の電力用直流連系設備で海外製の気中絶縁式高調波フィルタを採用したという、多くの面でチャレンジングな事例です。
私も一昨年、この変換所を訪れる機会があり、日立ABBパワーグリッド社製のフィルタ設備を直接見ましたが、その規模と壮大さに驚きました。また、標高1,000m以上の場所に位置するこの飛騨変換所では、冬は約2mの積雪で気温はマイナス30℃にまで下がり、夏は35℃にまで気温が上がるそうです。こうした厳しい気象条件にも対応した製品を導入しました。

中部電力パワーグリッド株式会社 飛騨変換所(2021年2月撮影)

木場大変な環境ですね。実は、4月に取材に伺うことを予定しておりまして、浦瀬さんのお話を聞いてさらに楽しみになりました。

浦瀬このような厳しい環境で、さまざまな挑戦をしながら進めてきたプロジェクトなので、この春が私も楽しみです。

木場大変過酷な環境ですが、日立ABBパワーグリッド社は欧州でもこうした過酷な条件下でのノウハウをお持ちなのでしょうか。

浦瀬極寒の北欧や、猛暑のインドでの経験はあったそうですが、これほど積雪が多いところは初めてだったようですね。

自励式HVDC技術のニーズが高まる

木場さて、社会に大きなメリットをもたらすHVDCについて、もう一度整理していただけますか。

浦瀬HVDCの交直変換器は、他励式と自励式と大きく2つに分かれています。他励式は、サイリスタを用いて系統の電源に依存してスイッチングするものです。歴史が長く成熟した技術で、容量も1,000万kWを超えるまでになっています。最近では大きな電力を長距離送電する場合に多く適用されています。
もう一つの自励式は、1999年から商用で適用が始まった比較的新しい技術ですが、近年の半導体技術の向上で大容量化が可能になってきています。直流の電圧源を変換器内に有しており、系統の電源に依存せずに自在にスイッチングができるため、接続する系統条件に制約が少なく、一方の系統が電力喪失してもブラックスタートができる、系統の有効電力と無効電力を別々に制御できるなどの特長を備えています。これらは周辺装置の小型化なども可能にしました。自励式は電力系統の安定化と経済的な合理性との2つを両立したHVDC技術です。

木場自励式は他励式に比べてかなり制御性が高く、メリットも多い。世界中で年々、導入も増えているとのことで、これからは自励式の時代が来るということでしょうか。

浦瀬もちろん最適な方式を都度選択していくことにはなりますが、自励式のニーズが高まっているのは事実ですね。そうなっていくと思いますし、自励式HVDCの技術革新をリードするのが日立の役割だと考えています。

系統連系容量の増強で、電力を安心して使える社会へ

木場これから建設が進む中部電力パワーグリッド株式会社の東清水変電所には、日立と日立ABBパワーグリッド社の技術を融合した自励式周波数変換装置を提供すると伺っていますが、日本のお客さまにとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

浦瀬2011年3月11日に発生した東日本大震災では、東北地方および関東地方の電力会社の供給エリアの多くに大規模電源の喪失が起こり、一部の地域では計画停電を余儀なくされる事態となりました。その際に、他電力会社から電力の融通ができないのかという話がありましたが、やはり系統や連系の問題と制約から、実現が困難でした。
こうした事態を受けて設立された、電力会社間の電力融通を監督する電力広域的運営推進機関では、電力会社間のエリアを超えて広域的な系統運用を行うための系統連系容量の増強を最重要課題として、60Hzの中部電力パワーグリッド株式会社と50Hzの東京電力パワーグリッド株式会社の連系容量を増やして、現在の120万kWを300万kWまで増強しようとしています。
その一環として、東清水変電所(中部電力パワーグリッド株式会社)では、連系容量を30万kWから90万kWへと増強するプロジェクトを推進しており、2027年度の運転開始を予定しています。そこでは日立ABBパワーグリッド社製の制御保護装置を含む交直変換装置と、日立製の変換用変圧器を組み合わせたシステムを構築しています。

木場気候変動の影響によって近年、想定を超える異常気象が起きています。台風や集中豪雨、豪雪などの被害が甚大化していますが、電力レジリエンスの観点からも非常に重要なことですね。
お話にあった電力広域的運営推進機関ですが、こちらのホームページを拝見したところ、先日来の大寒波の影響で電力の需給が逼迫(ひっぱく)していました。その際にこの機関が電力会社に対して218回も電力融通の指示を出していました。今後はもっと円滑に電力が融通できるようになると思ってよろしいのでしょうか。

浦瀬はい。解決につながるものだと考えています。日立は社会イノベーション企業として、さまざまなプロジェクトを一つ一つ積み上げていくことで、電力を安心して使用できる社会の実現に貢献していきたいと考えています。

木場このような設備が増えて、電力の広域連系、長距離送電が実現できるようになると、災害時における私どもの不安もかなり減っていくことと思われます。HVDC技術は、脱炭素社会の実現にとても有効であり、その拡大促進が待たれます。本日は日立の取り組みについてご説明いただき、ありがとうございました。これからも日立の取り組み、そして技術に大いに期待しています。

日立製作所 執行役常務
エネルギービジネスユニットCEO
浦瀬 賢治
1986年九州大学大学院総合理工学工学科エネルギー変換工学専攻修士課程修了後、日立製作所に入社。日立GEニュークリア・エナジー業務役員副社長、日立製作所日立事業所長、日立パワーソリューションズ取締役社長、日立製作所執行役常務/水ビジネスユニットCEOを経て、2019年より現職。

フリーキャスター/千葉大学 客員教授
木場 弘子
千葉大学教育学部卒業後、アナウンサーとして1987年株式会社TBSテレビ入社。同局初の女性スポーツキャスターとして多数のスポーツ番組を担当し、1992年フリーランスとなる。2007年洞爺湖サミット・クールアースアンバサダーおよび規制改革会議メンバー、2009年教育再生懇談会メンバーを歴任し、現在、七つの省庁で審議会のメンバーを務め、2013年より千葉大学客員教授。国際石油開発帝石株式会社社外監査役および日本港湾協会理事。
予防医学指導士。