ページの本文へ

Hitachi

企業情報ニュースリリース

このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。なお、最新のお問い合わせ先は、お問い合わせ一覧をご覧下さい。

2019年3月14日
株式会社日立製作所
国立研究開発法人理化学研究所

日立と理研が、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞シートの
自動培養に世界で初めて成功

再生医療の普及に向けて、完全閉鎖系自動培養装置による医療用細胞の提供をめざす

[画像](左)図1、(右)図2

 
図1  完全閉鎖系小型自動培養装置*1
 
図2  自動培養により作製したヒトiPS細胞由来のRPE*2細胞シート

  株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)と国立研究開発法人理化学研究所(理事長:松本 紘/以下、理研)の共同研究チームは、再生医療用細胞の培養自動化をめざし、完全閉鎖系小型自動培養装置 (図1)を用いて、ヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮のシート状組織(RPE細胞シート、図2)の自動培養に、世界で初めて成功しました。また、自動培養により作製したRPE細胞シートが熟練技術者による手技培養と同レベルの品質であることを、各種マーカーを用いた解析などにより実証しました。本成果は、自動培養による医療用細胞の安定的な供給への途を拓く成果であり、再生医療の普及と発展に大きく貢献するものです。

*1
今回開発した完全閉鎖系小型自動培養装置は研究用装置である
*2
網膜色素上皮=RPE (retinal pigment epithelium)

  再生医療分野では、現在さまざまな疾病を対象とした新しい治療法に関する研究が進められています。その一つに加齢黄班変性*3があり、難治性眼疾患で潜在的患者数も多いことから、そのiPS細胞を用いた移植治療*4には、患者をはじめ医療関係者や研究者、産業界からも期待と注目が集まっています。

*3
加齢黄班変性: 加齢黄班変性は加齢に伴って発症、網膜の中心部にある黄班部の機能が低下し、最悪の場合には視力を失うこともある難治性眼疾患。大きく分けると萎縮型と滲出型の2つの種類がある。萎縮型は網膜色素上皮が徐々に萎縮していき、網膜が障がいされ視力が徐々に低下していく。一方、滲出型は異常な血管(脈絡膜新生血管)が脈絡膜から網膜色素上皮の下あるいは網膜と網膜色素上皮の間に侵入して網膜が障がいされる。
*4
自己の細胞を用いてiPS細胞や目的細胞・組織を用いる自家移植や、京都大学iPS細胞研究所が提供する「他家iPS細胞ストック」を利用した他人の細胞を用いた他家移植などの移植治療。

  理研 生命機能科学研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクトの髙橋政代プロジェクトリーダーらのグループは、滲出型加齢黄班変性患者の皮膚組織から作製したiPS細胞を用いてRPE細胞シートを作製し、患者本人の網膜下へ移植(自家移植)する臨床研究を2014年に世界で初めて実施し、2017年には移植2年後の経過が良好であることを論文報告しました*5。現在は、自家移植の課題であったiPS細胞や移植に用いる細胞の調製から移植までにかかる時間の短縮とコスト低減に向けて、他人のiPS細胞由来のRPE細胞を用いた臨床研究(他家移植)に取り組んでいます。

*5
総合医学雑誌NEJM (The New England Journal of Medicine) にて、2017年3月に論文発表。

  従来、再生医療用の細胞や組織の製造は、細胞培養技術者の手技にて実施されてきましたが、その品質が技術者のスキルに依存することや、限られた施設でしか培養できないため、普及に向けた量産化に限界があることが課題となっていました。日立ではこれらの課題を解決するため、2000年代初めより研究を開始し、2019年に大量自動培養装置を製品化*6するなど、高い無菌性を担保できる完全閉鎖系を技術的特長とした細胞製造の自動化技術を構築してきました。また、2017年に、理研も拠点を置く神戸医療産業都市内に日立神戸ラボを開設*7し、オープンイノベーションにより、iPS細胞の医療応用におけるトップリーダーらとともにさらなる技術の向上とアプリケーションの拡大をめざしています。

*6
再生医療の普及に向け、iPS細胞大量自動培養装置を製品化 国内初の商用装置を大日本住友製薬の再生・細胞医薬製造プラントに納入(2019年3月11日)
*7
神戸医療産業都市に再生医療の研究開発拠点「日立神戸ラボ」を開設(2017年4月3日)

  今回、日立と理研は、角膜上皮や口腔粘膜上皮などの細胞シートの自動培養で実績のある*8日立の完全閉鎖系小型自動培養装置を用いて、理研で臨床研究での医療応用の実績があり、既に確立したRPE細胞シートの手技培養手順に従って完全閉鎖系での装置培養に適用するべく、送液や送気条件などについて検討を重ね、ヒトiPS細胞由来のRPE細胞シート培養の自動化に成功しました。さらに、RPE細胞シートの培養に適した専用の閉鎖系培養容器*9(図3)を作製することで、高い再現性を実現しました。
  また、自動培養で作製したRPE細胞シートにおける細胞間接着マーカー(ZO-1)や基底膜形成マーカー(Laminin)の発現を確認(図4)し、熟練技術者による手技培養と同レベルの品質であることを実証しました。

*8
東京女子医科大学との共同研究
角膜ならびに食道の再生医療に向けたヒト細胞シートの自動培養に成功(2012年8月29日)
文部科学省 イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム 「再生医療本格化のための最先端技術融合拠点(CSTEC)」 尚、CSTECは東京女子医科大学の登録商標
*9
培養容器の改良については株式会社サンプラテックの協力を得て実施

[画像](左)図3、(右)図4

 
図3  改良した閉鎖系培養容器(RPE細胞シート用)
 
図4  自動培養したRPE細胞シートの品質評価(RPE細胞シートの縦断面)
       細胞間接着マーカー(赤):ZO-1、基底膜形成マーカー(緑):Laminin、細胞核染色(青)(DAPI)

  今回の成果は、再生医療用の細胞が完全閉鎖系で自動培養可能であることを示し、この技術により細胞培養従事者の労力を大幅に低減できるだけでなく、医療用細胞の安定的な供給による量産化を可能にし、今後の再生医療をより身近な医療へと導く一歩となります。自動培養技術を有する日立と研究から臨床まで実施する理研は、健康長寿社会の実現をめざして、今後も再生医療における新しい価値の創造に挑戦します。

  なお、本成果は、科学誌「PLOS ONE*10」(2019年3月13日付:日本時間3月14日)に掲載される予定です*11

*10
 PLOS ONE: Public Library of Science社より刊行されているオープンアクセスの査読つきの科学誌
*11
 Erino Matsumoto, Naoshi Koide, Hiroko Hanzawa, Masaharu Kiyama, Mari Ohta, Junichi Kuwabara, Shizu Takeda, and Masayo Takahashi "Fabricating retinal pigment epithelial cell sheets derived from human induced pluripotent stem cells in an automated closed culture system for regenerative medicine", PLOS ONE, 2019

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

以上

Adobe Acrobat Readerのダウンロード
PDF形式のファイルをご覧になるには、Adobe Systems Incorporated (アドビシステムズ社)のAdobe Acrobat Readerが必要です。