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企業情報ニュースリリース

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2017年10月10日

走査型プローブ顕微鏡において、熱ダメージレスで
組成や分子構造を計測する技術を開発

先端デバイス・材料や最先端医療での応用が期待される、有機物質・生体物質の解析に有効

[画像]図1 本方式の測定原理
図1 本方式の測定原理

  株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)は、物質(試料)の表面状態を拡大観察する際に用いられる、走査型プローブ顕微鏡*1向けの新しい測定プローブによる計測技術を開発しました。本技術は、測定プローブの上方にレーザー光を照射することで、そこから伝播・発生した局在的な光スポットを用いて物質を計測する技術です(図1)。これにより、測定時に物質近くにある測定プローブ先端へのレーザー光の直接照射を回避できるため、物質に熱ダメージを与えることなく計測が可能となりました。今後日立は、本技術を開発することで、情報通信、エレクトロニクス、医療分野などでの応用が期待される高機能材料のうち、特に有機物質や生体物質などの熱に弱い物質のナノレベル解析に貢献していきます。

  近年、急速にIoTや人工知能(AI)技術が普及しているなか、ナノレベルで生成・加工した先端デバイスや高機能材料 (ナノマテリアル)は、情報通信やエレクトロニクス、モノづくり、環境・エネルギー、健康・医療などの広範な分野でのイノベーションを牽引すると期待されています。一方、ナノレベルでの物質の生成・加工には未知の部分が多く、組成や分子構造を解析する汎用的な計測装置の開発が求められています。こうした高機能材料を構成する物質を解析するため、従来から、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定プローブの先端に強いレーザー光を照射し、数十nm*2以下の光スポット(近接場光*3)を発生させ、物質の解析(ラマン散乱光*4検出)を行っています。しかし、物質表面への強いレーザー光の照射を回避しながら、熱に弱い有機物質や生体物質を高感度に解析することは困難でした。
  そこで今回、日立は走査型プローブ顕微鏡において、金薄膜を裏面に有する薄膜シリコンから成る新しい測定プローブ構造を考案しました。その結果、物質にレーザー光を直接照射せずに、物質の解析(ラマン散乱光検出)を行うことが可能となりました。

  新しく開発した測定プローブの技術は、以下の通りです。

1. 物質へのレーザー光の直接照射を回避する技術

  シリコンから成る測定プローブの裏面に金(厚さ約50nm)の薄膜を付着させた後、FIB(Focused Ion Beam)を用いて、シリコンの厚みを、厚さ250nmに薄膜化する加工を施します。薄膜化したことにより、測定プローブの上方に照射したレーザー光(波長660nm)は、シリコン薄膜を透過し、プローブ裏面のシリコンと金の界面まで到達することができます。

2. 高効率な光スポットを生成する技術

  測定プローブのシリコンと金の界面に対し、固有の角度でレーザー光を入射すると、金表面にプラズモン共鳴*5と呼ばれる現象が起こり、入射した光は非常に高い効率で表面プラズモンに変換されます。このプラズモンが測定プローブ先端まで伝播することで、近接場光スポット(径約50nm)を発生させることが可能となりました。

  今回開発した測定プローブによる計測技術を利用した実証実験では、金属基板上の有機物質(4-PBT*6)の積層膜を測定し、ラマン散乱光を高感度に計測することができました(図2)。

  以上の技術を適用した結果、物質に直接レーザー光を照射することなく、生成した近接場光により、物質から発生したラマン散乱光を計測することができ、熱ダメージレスでの材料解析を実現しました。今後日立は、本技術を、最先端デバイスやナノレベルの機能材料を含む製品における熱ダメージレスの組成・形状解析に必要な計測装置向けに実用化を図っていきます。
  なお、本技術は10月8日米国ネバダ州リノで開催される「SciX 2017(The Great Scientific Exchange Conference 2017)」で発表する予定です。

[画像]図2 有機物質積層膜を測定した結果
図2 有機物質積層膜を測定した結果

*1
走査型プローブ顕微鏡:先鋭なプローブ(測定プローブ)を用いて、物質の表面をなぞるように動かして、測定プローブと物質間に作用するさまざまな物理量を計測し、微小領域の表面形状や物性を測定する顕微鏡の総称である。
*2
nm(ナノメートル):長さを表す単位、10億分の1メートル。「数ナノメートル」といえば、その長さは毛髪の太さの1万分の1程度、またDNAの幅程度となる。
*3
近接場光:光の波長よりも小さな物体に光を照射したとき、表面近傍に生じる薄い光の膜。光の回折限界を超えた微小領域の観察や操作を可能にし、ナノスケールにおける光技術を実現する。
*4
ラマン散乱光:光を物質に照射すると、光が物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つ散乱光が発生する。この散乱光をラマン散乱光と呼ぶ。ラマン散乱光は物質を構成する原子や分子の結合に関する情報を含んでいるので、測定したい試料がどのような物質でできているかを特定したり、様々な物性(分子構造、結晶性、応力など)を調べたりすることができる。
*5
プラズモン共鳴:金属と誘電体(或いは金属と真空)の界面に対して特定の角度で光を照射すると、入射光の反射率が急峻な極小値を示す現象がある。このとき、入射光と薄膜中の電子とが共鳴を起こし、入射光のエネルギーが吸収されて、金属中の電子の振動エネルギーに変化する。変化する現象をプラズモン共鳴と呼び、このとき形成した金属中の電子の振動をプラズモンと呼ぶ。
*6
4-PBT:正式名称は「4'-(pyridin-4-yl)biphenyl-4-yl)methanethiol」。この有機分子を今回の実証実験に用いた理由は、①分子構造の末端にチオール基(SH)を有するので、金基板上に強く吸着する薄膜構造(少ない数の分子の状態)を形成できるため、②ラマン信号を発することが明らかであるため[論文:Nanoscale, 7, 18225 (2005)]、の2つである。今回開発の測定プローブを用いることで、少ない数の分子の状態でも高感度にラマン散乱光を検出できることが実証できた。

技術開発への協力について

  本技術における、プラズモン共鳴による高効率な近接場光の生成技術は、国立大学法人徳島大学(学長: 野地澄晴)大学院社会産業理工学研究部理工学域光応用系の原口雅宣教授、岡本敏弘准教授との共同研究の結果、開発されました。また、入射・検出光学系は学校法人東海大学(学長: 山田清志)工学部光・画像工学科の立崎武弘講師との共同研究の結果、開発されました。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発グループ 技術統括センタ [担当:阿部、藤原]
〒244-0817 神奈川県横浜市戸塚区吉田町292番地
電話 : 050-3135-3409 (直通)

以上

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