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企業情報ニュースリリース

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2014年5月27日

ストレス関連ホルモンの検査キットに向けた分子鋳型ポリマーの作製技術を開発

コルチゾールの高感度検出に成功

  株式会社日立製作所(執行役社長兼COO:東原 敏昭/以下、日立)は、このたび、国立大学法人 神戸大学工学研究科応用化学専攻 竹内俊文教授(以下、神戸大学)と共同で、ストレスに関連するホルモンであるコルチゾールの高感度検出を実現する分子鋳型ポリマーの作製技術を開発しました。今回開発した技術では、従来のように生体から分離・精製した抗体を準備する必要がなく、高い感度でコルチゾールを検出できるため、今後、唾液の中に存在するストレス関連ホルモンをその場で検査できるキットの実用化に道を拓くものです。

  近年、精神疾患の対策と予防は、日本のみならず世界的な課題です。ヒトの血液中および唾液中に存在するコルチゾールは、慢性ストレスに関連してその分泌量が変動することが知られています。従来のコルチゾールの検出には、天然由来のタンパク質抗体の作製が必須でした。一般的に、タンパク質抗体は、コルチゾールを動物に注射し、一定期間が経過した後、動物の血液から分離・精製して作製するために、複数のプロセスと準備期間を必要とします。しかし、コルチゾールは、唾液中にも微量ながら存在することから、唾液を用いてその場で検査(POCT*1: Point-of-Care Testing)できれば、検査の簡素化および普及が期待できます。
  このような背景から、日立と神戸大学は、コルチゾールの簡易検査技術として、特定の化学成分を吸着する分子鋳型ポリマー(MIP*2:Molecularly Imprinted Polymer)に注目しました。この分子鋳型ポリマーは、検出対象とする分子の立体構造や性質に応じて、高い確率でターゲット分子を認識できるように表面を設計したポリマー(分子が多数結合した高分子材料)です。これまで、コルチゾールを吸着した事例はあるものの、吸着したことの確認やその定量には、大規模な分析装置が必要でした。今回、コルチゾールをその場で検査することを目的に、分子鋳型ポリマー及びコルチゾール吸着を可視化する蛍光標識化コルチゾールの作製技術を開発しました。本技術の特徴は、以下の2つです。

 
(1)コルチゾールの高感度検査に適した分子鋳型ポリマーの作製
  一般的な分子鋳型ポリマーの作製方法では、コルチゾールを鋳型としてその周囲をポリマー原料(機能性原料、架橋性原料)で囲んだ状態でポリマー原料を反応させ、ポリマーを形成させた後に、コルチゾールのみを除去することで、コルチゾールの形状をした穴が開いたポリマーを作ります。
  今回、より多くのコルチゾールを捕捉するため、ポリマー原料と強く結合可能な分子を導入したコルチゾールを鋳型として用いて分子鋳型ポリマーを作製しました。その結果、コルチゾール形状の穴を多く有し、コルチゾールの認識力が高い分子鋳型ポリマーを作製でき、コルチゾールの吸着量を増やすことができました。
 
(2)分子鋳型ポリマーの簡易検査キットへの応用を可能にする蛍光標識化コルチゾール
  分子鋳型ポリマーを用いて、検査キットに応用するためには、コルチゾールが吸着したことを確認する手段が必要です。そこで今回、タンパク質や分子の高感度検出に有効なことが知られている蛍光分子で標識化したコルチゾールの合成法についても確立しました。(図1)あらかじめ決められた量の蛍光標識化コルチゾールと分子鋳型ポリマーを組み合わせることで、分子鋳型ポリマーによるコルチゾール吸着の定量化を実現しました。

  コルチゾールを検出対象として、(1)の開発技術を適用した分子鋳型ポリマーと適用しない分子鋳型ポリマーを比較した結果、コルチゾール濃度125 µmol/Lにおいて、開発技術を適用した分子鋳型ポリマーへのコルチゾール吸着量が、開発技術を適用しない分子鋳型ポリマーの25倍以上になることを確認しました。本技術は、従来のように生体から分離・精製した抗体を準備する必要がなく、かつ、大規模な分析装置も不要であり、高い感度でコルチゾールを検出できるため、ハンディサイズの検査キットに実装することが可能となり、ストレスの簡易診断に道を拓きます。

  今後、さらなる高感度化の開発・原理検証を進め、唾液による定量性能の検証を実施し、唾液中に存在するコルチゾールの簡易検査キットの実用化によって、ストレス性疾患の予防などに貢献していきます。

  なお、本技術は、2014年5月27日から30日までオーストラリア・メルボルンで開催される「Biosensors 2014」にて発表する予定です。

[図1] 蛍光標識したコルチゾールの蛍光顕微鏡像(白色が強いほど蛍光量が高い)

*1
POCT(Point-of-Care Testing): 臨床現場におけるその場での即時検査。糖尿病患者向けのグルコースセンサが有名である。
*2
分子鋳型ポリマー(MIP:Molecularly Imprinted Polymer): 1930年の初期に原理が提唱された技術。検出や捕捉すべきターゲット分子を鋳型としてポリマーを合成し、その後、ターゲット分子を除去することで、選択的にターゲットを検出・捕捉できる技術。一般的な作製方法は、溶媒と触媒の存在下で、①検出・捕捉したいターゲット分子そのもの、②ターゲット分子を認識する機能性原料、③それらを架橋する原料、の反応を進行させポリマーを得る。その後、①のターゲット分子を除去することで、ターゲット分子を選択的に認識する部位を持ったポリマーが作製できる。あたかもターゲット分子を鋳型としたポリマーであることから、分子鋳型ポリマーと呼ばれる。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発本部 技術統括センタ [担当:吉田]
〒244-0817 神奈川県横浜市戸塚区吉田町292番地
電話 050-3135-3409 (直通)

以上

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