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2007年9月28日
株式会社日立製作所

強誘電体材料の微細分極構造を観察する
「クーロン偏向走査透過型電子顕微鏡技術」を開発

ナノメートル単位での電場ベクトルの観察に成功

  株式会社日立製作所(執行役社長:古川 一夫/以下、日立)は、このたび、株式会社村田製作所(代表取締役社長:村田 恒夫/以下、村田製作所)と共同で、圧電素子や強誘電体不揮発メモリなど産業分野で広く利用されている「強誘電体材料」の微細な電気的分極構造を、計測・可視化する「クーロン偏向*1走査透過型電子顕微鏡(STEM*2)法」を開発しました。これは、細く絞った電子線を強誘電体の薄膜試料に照射した時に、電子線の進行方向が強誘電体内部の電場によって曲げられる現象(クーロン偏向)を利用したもので、偏向の大きさと方向から試料内部に存在する電場の大きさと方向を求める新しい計測法です。今回、照射スポット径をナノメートル(100万分の1ミリメータ)以下まで細く絞った電子線を用いて、強誘電体薄膜の分極における電場ベクトル(電場の大きさと方向)の様子をナノメートルの空間分解能で観察することが可能となりました。
  今回開発したクーロン偏向STEM法を用いることによって、これまで不可能であった強誘電体試料内部の分極構造を詳細に観察することが可能になります。今後、産業応用が拡大する強誘電体材料を利用した製品において、より高度な設計・製造を実現する計測技術として期待されます。

  現在、セラミックコンデンサや圧電素子、強誘電体不揮発メモリなど、強誘電体を用いた電子デバイスがさまざまな情報機器で利用されるとともに、その需要は世界的に拡大しています。強誘電体は、外部から電場を加えなくても電気的な分極(電場)を持ち、さらにその内部は、方位の異なる電場を持つナノメートル単位の領域から構成されています。この電場の揃った微細な領域は「分域」と呼ばれ、強誘電体を用いた電子デバイスの性能は、この分域の電場の変化によって影響を受けると考えられています。このため、強誘電体を用いた電子デバイスの開発や製造では、分域の電場の大きさと方向、すなわち電場ベクトルを評価する技術が必要とされています。これまで、強誘電体表面の分域構造については、走査プローブ顕微鏡*3を用いた観察手法が実用化されています。しかし、強誘電体の内部については、走査透過型電子顕微鏡を用いて、分域と分域の境界(分域壁)の観察は行われていましたが、分域内の電場ベクトルを観察できる手法がありませんでした。

  このような背景から、今回、日立は、村田製作所と共同で、強誘電体の薄膜内部の分域構造における電場ベクトル分布を計測する電子線計測技術を開発し、その可視化に成功しました。

  今回開発した技術は以下の通りです。

(1) クーロン偏向STEM法を用いた電場の定量化技術

  サブナノメートルのスポット径に細く絞った電子線で試料を走査し、このとき試料中の走査位置で、電子線が試料内部の電場によって受ける偏向(クーロン偏向)の大きさと方向を定量的に測定します。これは、偏向を受けながら試料を透過してきた電子線の到達位置を検出器で計測し、偏向を受けない場合の電子線の到達位置との差分から求めます。電場の方向と大きさを、矢印の向きと太さで表示することによって、試料内部の電場ベクトルを可視化します。さらに今回、加速電圧300kVの電子線を用いることによって、厚い試料の観察も可能となりました。本手法は、日立において実績のある、磁性体試料内部の磁場を可視化するローレンツ偏向STEM法*4を強誘電体に展開したものです。

(2) 強誘電体試料作成技術

  透過電子顕微鏡で観察するためには試料を薄膜化する必要がありますが、その過程で強誘電体の性質が破壊される恐れがあります。これは特に、試料に含まれる不純物の存在に影響されるものですが、今回、村田製作所の高品質な強誘電体作成技術を用いることによって、強誘電体の性質を破壊することなく観察試料を薄膜化し、試料内部の分域構造を計測することが可能となりました。

  今回、加速電圧300kV、照射スポット径0.5ナノメートルの電子線を使って、厚さ300ナノメートルの薄膜内部の分域構造の計測を行ったところ、ナノメートルサイズの分域について、電場ベクトル分布を可視化することに成功しました。
  今後、日立は、本技術の時間分解能や感度の向上に取り組むとともに、強誘電体以外の材料にも応用を拡大していきます。

  なお、本成果は2007年9月24日から米国で開催されている「FEMMS 2007」(Frontiers of Electron Microscopy in Material Science)において、発表しました。

用語説明

*1
クーロン(Coulomb)偏向 : 一般にローレンツ(Lorentz)偏向とは運動する電子が磁場と電場から受ける偏向として定義されますが、ここでは磁場による偏向を狭義のローレンツ偏向と称し、これと区別するために電場による偏向を特にクーロン偏向と称しています。
*2
STEM : Scanning Transmission Electron Microscope。
*3
走査プローブ顕微鏡 : プローブと呼ばれる微小な探針で試料表面を走査し、探針と試料の間に働く種々の力を検出して、試料表面の形状や物性を可視化する顕微鏡。
*4
ローレンツ偏向STEM法 : 収束した電子線の試料内部磁場によるローレンツ偏向を可視化するSTEM法。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 中央研究所 企画室 [担当:花輪、木下]
〒185-8601 東京都国分寺市東恋ヶ窪一丁目280番地
TEL : 042-327-7777(直通)

以上

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