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2002年5月16日
 
システム・イン・ディスプレイに向けた低温ポリシリコンTFT形成技術を開発
しきい電圧のばらつきが従来比1/4で、移動度480cm2/V・sを達成

    日立製作所 中央研究所(所長:西野壽一)は、このたび、次世代ディスプレイとして期待される“システム・イン・ディスプレイ(*1)”の実現に向けて、新たな低温ポリシリコンTFT(Thin Film Transistor)形成技術を開発し、素子特性のばらつきを従来の1/4に抑制するとともに、電子移動度(*2):480cm2/V・s(最大:670cm2/V・s)を達成しました。開発した技術は、『パルス変調固体レーザアニール法』というポリシリコン薄膜の結晶化法で、従来の低温ポリシリコンTFTプロセスとも互換性が高く、大型ガラス基板に対応したプロセスの生産性をさらに改善することも可能です。

    現在、ポリシリコンTFTを用いたディスプレイが製品化され、モバイル機器やノートパソコンなど各種製品に利用されています。ポリシリコンTFTは100-200cm2/V・sという高い電子移動度が得られるので、動作周波数の低い回路ならば、表示画面部分とともに同一ガラス基板上に搭載することができます。今後、さらに電子移動度が向上し、400cm2/V・sを超えるようになると、高機能回路についてもディスプレイに内蔵することができるので、いわゆる“システム・イン・ディスプレイ”が実現可能になります。
    ポリシリコンTFTの電子移動度を大きくするためには、電子の移動を阻害する結晶粒界を少なくする必要があります。従来は、エキシマレーザを用いた結晶化方法により、結晶粒を大きくする試みが行われていましたが、溶融したシリコンが凝固する時間が短いため(約100ナノ秒)、結晶の大粒径化が困難であり、さらに量産時に重要な特性のばらつきが大きいなどの課題がありました。

    このような背景から、当所では、400cm2/V・sを超える高性能かつ高品質のポリシリコンTFTの実現を目指して,“パルス変調固体レーザアニール結晶化法”を開発しました。これは、固体レーザ(Nd:YVO4, 波長532ナノメートル)のパルス幅を制御(パルス変調)してポリシリコンに照射することによって、ポリシリコン薄膜を最適条件で溶融・凝固させて、“擬似単結晶シリコン”(*3)を形成する技術です。固体レーザのパルス幅と間隔を任意に制御することにより、溶融したシリコンが結晶化する過程((1)結晶成長の起点、(2)結晶成長距離)を高精度で制御できるという特長があります。この技術によって、次の効果が得られました。
(1) 溶融から凝固への相転移中の冷却速度を2桁以上低減し、結晶化時間を延長することができました。これにより、現状の結晶と比べ結晶粒が20倍程度の大きさで、かつ平坦な表面を有するポリシリコン膜を形成することができました。

(2)

液相/固相シリコンの界面状態及び結晶成長速度を解析し、結晶粒の面方位と結晶成長方向を制御しました。これによって、移動度向上に有利となる、TFTの電流方向に沿った結晶粒の配置を実現しました。

    本技術を用いて、低温ポリシリコンTFTを作製した結果、従来のTFTと比べて、電子移動度は3倍以上(平均値480cm2/V・s, 最大670cm2/V・s)向上することを確認しました。また、これとともに、しきい電圧のばらつきは10%以下に低減し、特性の変動を1/4に抑制できることが実証されました。
    本技術は、従来の低温ポリシリコンTFTプロセスとの互換性が高く、大型ガラス基板の任意の位置で処理ができる特徴があるため、プロセスの生産性をさらに向上することも可能です。本成果により、100Mbps以上の高速インタフェース、1mW以下の低電力メモリ等の高機能な回路を液晶ディスプレイや有機ELディスプレイに内蔵できる、システム・イン・ディスプレイの実現が視野に入ってきたと言えます。
    なお、本成果は、5月19日から米国ボストンで開催されるディスプレイに関する国際会議「SID2002 (Society for Information Display 2002 International Symposium)」で発表します。

<用語説明>
*1) システム・イン・ディスプレイ:高性能な低温ポリシリコンTFTを利用して、低価格のガラス上にディスプレイとその駆動回路のみならず、メモリ機能、インタフェース、プロセッサ機能なども同時に形成した高付加価値ディスプレイ。
*2) 電子移動度:電子の動きやすさに対応した値で、トランジスタの性能を表わす基本パラメータのひとつ。この値が大きいほど、トランジスタは大きな電流を流すことができ、低電力で高速回路を実現できる。
*3) 擬似単結晶シリコン半導体:TFTの電流方向を横切る粒界が存在しないポリシリコン半導体。キャリアが散乱されず、電流が流れやすい。

以 上



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