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Hitachi

日々変化するビジネス環境に合わせて、ストレージに求められる技術も変化しています。日立製作所は、データセンターなどでストレージ装置を管理しているお客さまの期待に応えるために、複数のストレージ装置を仮想的に統合する、新たなストレージ仮想化技術「global storage virtualization」を開発しました。お客さまとの対話の積み重ねで生まれたこの技術が、ストレージの運用をより便利にしていきます。

(2015年4月3日 公開)

日立のストレージ技術に寄せられる期待

いま、ストレージにはどのような技術が期待されているのでしょうか。

川口どんなときでもストレージのサービスを継続できる技術が求められています。特に「古いストレージ装置から新しい装置に移行するとき、サービスを停止しなければならない。何とかしてくれ」という声が強い。

わたしが日立アメリカに出向しているとき、日立の技術をお客さまに紹介して意見を聞く「デザインセッション」という場がありました。わたし自身も数多くのお客さまとお話をさせていただきましたが、「サービスを停止せざるを得ない」という現状から脱却したいとお考えの方が多かったですね。中には「いま困っているんだ」「いつできるの」「早く作ってよ」と、ものすごい熱意をお持ちのお客さまもいらっしゃって。

どうしたらお客さまの期待に応えられるのだろうと、日米共同で検討を重ねて、「古いストレージ装置と新しい装置をまとめて1台の装置として使えればいいんだ」と思い至りました。新しいストレージ仮想化技術のコンセプトが生まれたのです。

斎藤そのコンセプトに基づいて新たに開発したのが「global storage virtualization」というストレージ仮想化技術です。global storage virtualizationを使うと、複数のストレージ装置を1台の仮想ストレージ装置としてサーバに認識させられるので、サービスを継続したまま、ストレージ装置を移行できます。

図1 ストレージ仮想化技術「global storage virtualization」の概要
ストレージ仮想化技術「global storage virtualization」の概要を示した図

止まらないサービスを実現する技術

ストレージ装置を仮想化すると、どうしてサービスを止めないで済むのですか。

斎藤これまで、ストレージ装置を移行するときには、新しいストレージ装置にアクセス先を変更するために、サーバのサービスを止める必要がありました。でも、装置を仮想化すれば、サーバから見たアクセス先が変わらない。古い装置を取り外すときもアクセス先を切り替えなくていい。実は、途中でアクセス先の装置が入れ替わっているんですけど、サーバにはそれを気づかせない。だから、サービスを止める必要がないのです。

川口それに、移行中に書き込まれたデータは、古い装置にも新しい装置にも反映されるようになっています。どちらの装置にも最新のデータが反映されるので、それぞれの装置から遠隔地にある別の装置にデータをコピーするなど、災害対策も継続できます。

図2 ストレージ装置の移行時にサービスを継続できる機能
ストレージ装置の移行時にサービスを継続できる機能のイメージ

斎藤新しいストレージ装置には、サーバに送る識別情報が古い装置と同じになるように、「仮想ID」という仮想の識別情報を付与します。IDを同じにすることで、古い装置も新しい装置も、同じ装置だとサーバに思わせているのです。

global storage virtualizationでは、この仮想IDを使って、装置に障害が発生したときにもサービスを継続できる機能も提供しています。
従来のように業務システムを2重化するだけでは、障害が発生すると切り替え作業に時間が掛かるので、サービス停止時間がどうしても発生してしまう。そこで、常時稼働状態のシステムでペアを組み、一方のシステムで障害が発生したとしても、用意しておいたもう一方のシステムでサービスを継続できるようにしました。
どちらの装置にデータが書き込まれても、両方の装置で同じデータを保持できる仕組みになっていますから、ストレージ装置に障害が発生したとしても、サービスを継続したまま、システムを切り替えられます。

図3 障害発生時にサービスを継続できる機能
障害発生時にサービスを継続できる機能のイメージ

特にこだわったところはどこですか。

川口仮想IDの管理は、こだわって開発したところの一つです。それぞれのストレージ装置のデータが同じになるように、いまはサーバに応答していいよ、いまは応答しちゃダメだよ、と装置同士が手を取り合って仮想IDを管理しています。IDを管理する仕組みはすでにあったので、これまでの仕組みを踏襲しつつ、新たな仕組みを追加する必要があって…。すでにある仕組みにうまく組み込む方法を考えるのが大変でした。

斎藤わたしはサーバからのI/Oの処理ですね。ストレージって、基本的にやることは単純で、書き込んだものをあとで読み出せる。それだけなんです。でもサーバからは、ただの読み書きだけじゃなくて、もっと複雑な命令を出せます。そういうサーバからの複雑な命令に、一つ一つ対応しました。基本の読み書きだけできればいい、と割り切ってもよかったのかもしれませんが、それ以外の機能にもちゃんと対応しよう、と。「より完全な製品」と言えばいいですかね。サーバからの複雑な命令があっても、それぞれの装置で同じデータを保持できるように、処理を作っていきました。

川口どちらも地味なところなのですが、地道に作り上げました。

「心に響く」製品を提供するために

ほかに工夫されたところはありますか。

写真「斎藤 秀雄(さいとう ひでお)」

斎藤開発する機能がある程度固まってきたところで、もう一度お客さまと議論する場を設けました。コンセプトが決まったあとでお客さまと議論する場を設けたのは、global storage virtualizationの開発が初めてでした。製品化しようと考えていた機能と、それとは少しタッチを変えた機能を幾つか用意して、お客さまに聞いてみたんです。「どれがいちばん心に響きますか」って。

川口わたしたちとしては、お客さまがまず必要とする機能を優先して提供したい。そしてなにより、お客さまの「心に響く」製品にしたい。そのために、わたしたちが想定しているユースケースや機能性が、本当にお客さまの要望とマッチしているのか、間違った方向に進んでいないのかを確認することにしたんです。

2回目の議論でお客さまにいちばん響いたのは、ストレージ装置を移行するときに使う機能でした。これは予想どおり。でも2番目に響いたのは「こ、これですか…」という機能で。それがストレージの障害を想定した機能でした。

コンセプトを決めるときもですが、お客さまとお話しする際には悩みを伺うだけではなくて、わたしたちから提案して、ご意見を伺っています。「こういうコンセプトで、こういう機能を作ろうと思っているのですが、こういう提案って心に響きますか」と。複数のお客さまからさまざまな意見を伺って、どうしたら期待に応えられるかを考えて、お客さまに提案して意見を伺って…ということを何度も繰り返しています。

斎藤機能を作り込むときにもお客さま目線で考えましたね。ストレージ装置の移行で使う機能を作るときは、ストレージの旧機種にはなるべく手を加えないように工夫しました。旧機種にも手を入れれば、もっといろんなことができるようになります。その代わり、移行できる機種が限られてしまう。それって、お客さまには不便ですよね。

ですから、global storage virtualizationを搭載する新機種に、ほとんどの機能を搭載して、どんな旧機種からでも移行できるようにしました。最初は、旧機種には全然手を入れなくていいと思っていたのですが、どうしても旧機種に少し手を入れなくてはいけなくって…。でも、移行作業に掛かる手間は最小限に抑えられたので、お客さまにも納得いただけるものになったと思います。

よりわかりやすく、より進化した技術をお客さまのもとへ

ご自身のこれからの目標はなんですか。

写真「川口 智大(かわぐち ともひろ)」

川口開発したストレージ仮想化技術について、どれくらいの可用性があるのか、もっとうまくお客さまに伝えられたら、と思っています。いまは、ストレージ仮想化技術についての統一された評価手法がありません。global storage virtualizationでは、システムに障害が発生してもサービスを継続できる機能を提供しています。

ただ、システムの障害といっても、ストレージ装置、サーバ、ネットワークなど、どこにでも起こり得ます。サービスが停止してしまうまでに、どのくらい長くデータにアクセスできるのか、評価する方法がまだ決まっていない。評価する方法の提案すらされていない段階なので、ハードルは高そうですが、チャレンジしてみたいと考えています。

斎藤日立のストレージ仮想化技術は、ストレージの代を追うごとに進化してきました。今回のglobal storage virtualizationは、第4世代として製品化したものです。わたしとしては、これを第5世代のストレージ仮想化技術にうまくつなげられればいいな、と思っています。

今回、2台のストレージ装置間でデータを完全2重化する技術ができましたので、これを違うユースケースに応用できないかと考えているところです。早く製品化できるよう、ちょっと変えるだけで全然違うユースケースに活用できればいいな、と。お客さまの悩みを解決するためにも、ストレージ仮想化技術をより進化させていきたいですね。

特記事項

  • 2015年4月3日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。