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企業情報研究開発

  • 写真「齋 寛知(さい ひろとも)」
    齋 寛知
    (さい ひろとも)
    主任研究員
  • 写真「廣岡 慎一郎(ひろおか しんいちろう)」
    廣岡 慎一郎
    (ひろおか しんいちろう)
    研究員
  • 写真「薄井 勉(うすい つとむ)」
    薄井 勉
    (うすい つとむ)
    研究員

街中や店舗などに設置されている監視カメラ。安心・安全な社会を支えるために欠かせない存在となっています。そんな監視カメラの大敵は、映像がかすんでしまう霧でした。日立製作所は、霧のかかった街を撮影しても被写体がクリアに見える機能を搭載した監視カメラを製品化。「人の目よりも見える」を合い言葉に、開発に携わった研究者のみなさんからお話を伺いました。

(2012年11月22日 公開)

監視カメラが抱える課題とは

街中のさまざまなところに監視カメラが設置されています。

写真「齋 寛知(さい ひろとも)」

そうですね。銀行のATMや駅など、いろいろなところに設置されているのを見かけると思います。アメリカでの大きなテロをきっかけに安全意識が高まり、街中に監視カメラが設置されるようになりました。最近は、避難誘導を想定して、「こちらには火が回っていない」というように安全確認や状況確認の目的で建物内に設置することも望まれています。

ほかにも店舗の棚卸し、教育、介護など、さまざまな場面で、監視カメラは人の目の代わりとして活躍しています。

確かに、人の目の代わりとして大活躍ですね。

写真「廣岡 慎一郎(ひろおか しんいちろう)」

廣岡監視カメラは人の目と同じように見えていると思われがちなのですが、実は、人の目の代わりとは言いきれないところもありました。例えば、マンションなどのエントランスにある監視カメラを想像してみてください。多くの場合、エントランスの内側から外側に向けて監視カメラが設置されている。そうすると、だいたい外の方が明るいので、エントランスに人が入ってくると、逆光になって顔が黒くつぶれてしまうんです。人の目で見ればちゃんと顔が見えるのに、カメラでは見えないところもあるのが実情でした。家庭用ビデオカメラなどは、人が撮影したいものを見ながら撮りますから、逆光であれば逆光にならないように工夫できます。監視カメラはそういうわけにはいきません。監視カメラには、どのようなシーンでもきちんと撮れることが要求されています。

写真「薄井 勉(うすい つとむ)」

薄井いまは、明るすぎるところや暗いところで撮影した映像を改善するコントラスト補正という技術で、逆光などに対応しています。コントラスト補正とは、人が目で見て明るさを判断するのと同じように、カメラが撮影した映像の暗いところと明るいところを判断して補正する技術です。この技術によって、逆光で撮影した映像であっても人の顔などが認識できますし、明るすぎるところでも白く飛ぶことなく撮影できるようになりました。

ただ、逆光のほかにも、屋外に設置されることも多い監視カメラには課題がありました。その一つが霧です。

図1 コントラスト補正技術
コントラスト補正技術の概念図

モヤッとした霧、濃さを見極め取り除く

霧ですか。かすんでしまって何も映らなくなりそうです。

廣岡そうなんです。屋外に設置した監視カメラにとって霧は大敵の一つでした。霧がかかると、撮影した映像が白茶けてしまうんですよ。そのため、人が通行しているのかわからないとか、車のナンバープレートが見えない、という問題がありました。これをどうにかしてほしいというニーズがあり、撮影した映像から霧を除去する技術の研究を始めました。

薄井コントラスト補正技術がすでにありましたから、それを応用して霧に特化させることにしました。霧を撮影した映像が白茶けてしまうのは、映像の信号がつぶれている、つまりコントラストが小さくなっているからなんです。ただ、実際にデータをよく見ると小さな信号が残っていますので、その信号を使って霧を除去しよう、と考えました。

どうやって霧を除去したのですか。

廣岡霧の濃さに応じて残っている信号を引き伸ばす処理をしました。

霧といっても均一にかかっているわけではなく、撮影した映像の中には霧が濃いところも薄いところもあります。そのため、映像のエリアごとに、それぞれにどのくらい霧がかかっているのかを解析します。解析した結果を基に、霧が濃いところはコントラストを補正して、薄いところは見やすい程度に処理を抑えるというように、「どの程度コントラストの補正が必要か」を判断しました。あとは、大気の散乱を考慮すると、どのように明るさが圧縮されていくかというのがわかりますので、これを基に霧がかかる前の状態を再現しています。

図2 霧除去の処理の流れ
霧除去の処理の流れの概念図

図3 霧除去の補正前と補正後のイメージ
霧除去の補正前と補正後のイメージ

薄井監視カメラの中には、撮影した映像を信号化するセンサーや、信号処理を制御するCPU、画像処理を行うハードウェアなどがあります。霧の除去では、CPUが霧の状態を判断し、どの程度補正すればよいかを決め、その結果を基に、ハードウェアが霧除去の画像処理をしています。

霧の濃さの判断や画像処理も、すべてカメラで行っているんですね。

はい。最近の監視カメラはLAN回線などでレコーダーや集中管理システムに映像を伝送するのですが、データ量を抑えるため、伝送時にデータを圧縮しています。この伝送時の圧縮により、情報の欠落が起きてしまうのです。先ほど「よく見ると信号が残っている」と説明しましたとおり、効果的に霧を除去するためには完全なデータが必要です。ですから、伝送する前、つまりカメラ側で補正する必要があるんです。

評価するのは実験と人の目で

霧が除去できたかどうかは、どのように評価したのでしょう。

写真「廣岡 慎一郎(ひろおか しんいちろう)」

廣岡実験による定量的な評価と、人の目で見る主観的な評価を行いました。

実験では、室内に霧が発生する環境を作り、霧除去の技術を適用して撮影すると、どのくらい映像が改善するのかを繰り返し測定しました。霧の場合、「視界何メートル」という指標がありますよね。ただ、これは見る人の視力によって変わるものです。天気予報で「視界100メートル以下」といわれれば、霧がどのくらい濃いのかがわかりますが、霧が除去できたかどうかを評価できる指標ではなかった。そこで、霧の除去技術によって映像がどのくらい改善したのかを、信号の伸びで評価しました。先ほど、霧を除去するために残っている信号を伸ばすと説明しましたが、信号の伸び具合から、霧の中でどれだけ視界がよくなったかがわかるわけです。

実験で得られた結果に加え、さらに人の目で見て、どの程度補正するのがよいのか、ということを決めました。監視という目的上、霧の除去によって被写体が見えるようになるのはよいことなのですが、一方で除去しすぎてしまうと、ノイズが大きくなるという問題があります。そのため、最終的にどの程度まで霧を除去するかは、実際に監視カメラを使われるお客様や事業部、営業のみなさんを交えて、一緒に映像を見ながら決定しました。

実験では、どうやって室内に霧を発生させたのですか。

薄井加湿器を使って、霧を再現しました。実は、最初は霧を再現する方法がわからなくて、演出用のスモークマシンなどいろいろと試しました。いきなり霧だらけになって、煙と間違われて騒ぎになると困るので、試しに外でどのくらい煙が出るんだろうってやってみたりもして。結局、加湿器がベストな方法でした。

廣岡ただ、部屋の中で再現した環境は、実際の霧とはどうしても違うんですよ。ですので、最終的には実際に霧が発生するシーンを追いかけて中国で実験しました。中国には、緯度が高く寒いせいか、霧が多く出るところがありますので。

製品化だからこその苦労も

監視カメラの技術開発で苦労したのはどのような点ですか。

写真「薄井 勉(うすい つとむ)」

薄井実験室と外の違いというのが一つあると思います。実験室の場合は部屋に設置しているライトが光源になりますが、外では太陽が光源です。太陽は刻々と変化しますし、明るさが全然違う。ほかにも木が揺れていたり、車が走っていたりと、外にはいろいろなシーンがあります。すべてのシーンを実験室で再現して問題点を洗い出すことは難しいので、最終的には、先ほど説明したように、現場に行ってお客様や工場の人たちと一緒に見て評価する、ということが大切だと実感しました。実際にお客様たちと一緒にやることで、実験ではわからない、いろいろな問題を見つけることができました。

写真「齋 寛知(さい ひろとも)」

技術的な話をしますと、理論的にはできるけど実際はできない、というハードルがあります。わたしたちが研究しているカメラはサイズが決まっていますので、どうしても入れられる回路の規模が限られてきます。回路を大きくするほどチップが大きくなりコストも上がる。実際に製品化する技術ですから、当然コストに見合った大きさの回路でなければなりません。いかにコストに合った規模の回路を開発するかということが難しかったですね。不要だからといって機能を削ってしまうと使ってもらえなくなるし、機能を入れようとするとコストが合わない、というせめぎ合いでした。

実際に製品化までかかわっているからこその苦労ですね。

廣岡製品化に関連していいますと、ロバスト性という点も難しかったことの一つです。

監視カメラが使われる環境は、お客様によってさまざまです。モニターの解像度や、映像を出力するフレームレートなどが異なるのですが、映像を映す環境が変わったら映像が安定しなくなった、ということがあってはいけません。そのために、お客様が使用するどんな条件でもきちんと映ることをチェックする必要があります。しかし、すべての条件を網羅的にチェックしようとすると膨大になり現実的にはチェックできない。実際には、いかに少ない組み合わせで、すべての条件において問題ないといえるチェックをするか、ということを考えます。このチェック方法の検討にとても苦労しましたね。

さらに安心・安全な社会のために

将来、監視カメラにはどのような存在になってほしいですか。

写真「齋 寛知(さい ひろとも)」

わたしたちは人の目よりも見えるカメラを目標にしています。

もともと監視カメラは人の目の補助となる存在でしたが、現在はコントラスト補正技術にもあるように人の目のように見えるという段階まで来つつあります。そして、安心・安全な社会のために、将来は人の目には見えないような暗いところから明るいところまで映せるようにすることや、霧以外にもあらゆる天候に対応できるようにしたいですね。また、安心・安全な社会システムを作るという点では、監視カメラだけでなく、車に載せる車載カメラなどの分野にもわたしたちの技術を展開していきたいと思っています。

図4 今後の技術展開の展望
今後の技術展開の展望の概念図

写真「廣岡 慎一郎(ひろおか しんいちろう)」

廣岡最初にご紹介したコントラスト補正技術は、黒つぶれや白飛びを改善するというものでしたが、改善した場所が本当にお客様の見たいところなのか、という疑問があります。どんなに逆光を改善しても、そこにターゲットとなる人物がいなければ意味がない。逆に、逆光を改善することで、まわりの部分が相対的に見えづらくなるということもあり、かえってよくないこともあるかもしれないんですよ。だから、お客様が見たいところをインテリジェントに判断して見せてあげる。そういった技術が、人の目よりも見えるということの一つなのかなと思っています。例えば、顔が見たいのであれば顔を検知して絶対に見逃さないようにする。車が走り去るのを見たいのであれば、車を認識してあげるだとか。

最終的には、インテリジェントで、かつ人の目には見えないところまで映してくれるような監視カメラを作っていくことが目標の一つですね。

監視カメラの将来にかける情熱が伝わってきました。やはりカメラがお好きなんですか。

写真「薄井 勉(うすい つとむ)」

薄井はい。わたしは監視カメラのほかに車載カメラの技術も担当しています。車が好きでカメラも好きで、幸いなことに、好きなものの研究に携われています。車載カメラも監視カメラと同じように、太陽があったりトンネルがあったり、いろいろなシーンを撮る。さらに人や車を正しく認識しなければいけないという点で、ベースとなる技術は監視カメラと同じです。監視カメラの技術を車載カメラの方にも発展させていきたいと考えています。

廣岡わたしも学生時代から画像認識、画像処理が好きでやっています。研究者であるいまは、いかに社会に貢献できる製品を作っていくかというのがテーマです。安心・安全な社会に貢献できる技術の開発を進めていきたいです。

特記事項

  • 2012年11月22日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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