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企業情報研究開発

ビッグデータ、M2M(Machine to Machine)IoT(Internet of Things)…。日々、進化を続ける情報技術は、「情報」という分野の垣根を越えて、産業分野にも影響を与えています。

日立では、産業機器向けの通信基板を新たに開発。工場にあるさまざまな機器が、通信基板を介してつながります。「リソースが限られている中で、要望にどう応えていくか」—研究者のモノづくりへの熱意が、この基板に詰まっています。

(2015年8月3日 公開)

「融合」が世界にもたらす変化

企業のIT活用に関して面白い動きがあるようですね。

Bondanはい。ひと言で言うと、産業分野と情報分野の「融合」です。例えば、工場にあるさまざまな産業機器を情報ネットワークにつなげて、稼働状態をリアルタイムで収集する。これにより、ムダな電力消費量を減らしたり、何十台、何百台とある機器を効率良く管理できるようにしたりする。工場のどこで何が起きているのかを常に把握できるので、意思決定のスピードアップにもつながります。
このような動きは、日本だけのものではなく、世界的なものです。ドイツやアメリカではここ数年、国をあげて研究開発に取り組んでいます。

望月従来の産業機器にも通信機能が付いています。ただ、通信方式が独自の規格のため、そのままでは情報ネットワークにつなげることができない。情報ネットワークにカンタンにつなげるような仕組みが必要ということで、5年前から研究を始めました。その研究成果の一つが、今回紹介する「産業機器向け通信基板」です。事業部がハードウェア部分を、わたしたちがソフトウェア部分の開発を担当しました。

なぜ、通信基板だったのでしょうか。

望月一口に産業機器といってもさまざまな種類があります。機器ごとに一つ一つ仕組みを作るとコストがかさんでしまう。それだったら、通信基板を作って各機器に組み込んでしまおう、と考えました。
最初に通信基板を組み込んだのが、PLC(Programmable Logic Controller)という制御装置です。ほかには、電力を監視するための装置や、産業用インクジェットプリンターに組み込んでいます。最近発売されたものとしては空気圧縮機がありますね。(株)日立産機システムの「HISCREW NEXTIIseries」という製品です。

Bondanこの空気圧縮機はけっこう先進的なんです。カラーのタッチパネルが付いていて、運転状態が常に表示される。設定を変更することもできます。さらに、Ethernet通信だけでなく、Bluetooth通信もサポートしているので、タブレット端末から設定を確認したり変更したりすることもできます。

図1 通信基板の適用例
通信基板の適用例を示す図

タブレット端末片手に工場内の機器をチェックする…なんかかっこいいですね。

望月そうですね。5年前は、こんな世界になるとはまったく思っていませんでした。わたしもBondanも、それまでこういったインフラ系とは別の分野の研究をしていましたし。いま考えると、携わることができてよかった、と思う研究テーマです。

効率的にプロトコルを変換するポイントとは

通信基板の役割を教えてください。

図2 通信基板の役割
通信基板の役割を示す図

Bondanパソコンやタブレット端末が通信で使うプロトコル(HTTPなど、TCP通信のプロトコル)を、各機器に以前から搭載されている通信プロトコル(レガシー通信プロトコル)に変換します。もちろん、その逆も。いわゆるゲートウェイとしての役割です。

望月いま工場で稼働している機器の中には古いものもあります。10年ものとか、20年ものとか。そのような古い機器に手を加えることはできないので、古い機器が理解できる言葉に変換してあげるんです。

まるで翻訳者みたいですね。どうやって変換しているのですか。

Bondanプロトコルには決まりがあり、伝えたい内容が同じでも、プロトコルによって表現の仕方が違ってきます。そのため、通信基板はパソコンやタブレット端末から送られてきたメッセージの構成を解析して、機器が理解できる構成に書き直す、ということをしています。

望月メッセージを書き直す際にポイントとなるものが二つあります。一つは「タグ」。メッセージの構成を表すのに「タグ」が使われていることが多いため、この「タグ」に注目して変換処理を行っています。

もう一つは「対応表」です。レガシー通信プロトコルでは、機器のメモリアドレスを指定して通信を行うようになっています。そのため、メモリアドレスの「対応表」を準備し、効率良く変換できるようにしています。また、「対応表」の内容は、機器に応じて柔軟に変更できるようにしています。これにより、さまざまなプロトコルの変換に対応できる仕組みにしています。

通信の特徴をうまく利用したのですね。ほかに工夫されたことはありますか。

Bondan同時に複数の通信が発生した場合に、どのように負荷分散するかというところですね。

空気圧縮機に組み込まれている通信基板、実は空気圧縮機内の通信にも一役買っているんです。空気圧縮機内の通信には2種類のシリアル接続が使われています。一つはエンジンを制御する基板との通信に使われる「RS485」というシリアル接続、もう一つはタッチパネルとの通信に使われる「RS232C」というシリアル接続です。

それぞれのシリアル接続で使われるプロトコルが違いますから、「エンジンを制御する基板」と「タッチパネル」は直接やり取りができません。パソコンやタブレット端末と通信する場合と同様に、通信基板がやり取りの仲立ちをしています。
ですので、「エンジンを制御する基板」と「タッチパネル」間の通信がたまたま盛り上がっているタイミングで、パソコンやタブレット端末との通信が発生すると、通信負荷が高くなりすぎてしまい、処理が止まっているように見えてしまいます。

実際の「モノ」が開発の推進力に

一度に処理できる量にも限度があるのですね。どうやって回避しているのですか。

Bondan処理の優先度を調整しています。タッチパネルには空気圧縮機の運転状態を常に表示させる必要があるので、「エンジンを制御する基板」と「タッチパネル」との通信を途切れさせる訳にはいきません。通信負荷が高い場合は、タッチパネルの表示を優先し、パソコンやタブレット端末との通信は処理を遅くするようにしています。もちろん、パソコンやタブレット端末を使うユーザーが許容できるレベルまでですけど。

望月処理単位も調整しています。一度に全部の処理を行うか、ちょっとずつ順番に処理を行うか。例えば、タッチパネルの画面表示は、やり取りするデータ量が大きいため、ある程度分割して処理を行うようにしています。他の通信に影響しないような、いちばん効率の良いデータサイズはどのくらいなのか、実験をしながら導きました。

細かい部分まで考慮されているのですね。事業部の方の反応はいかがでしたか。

写真「望月 義則(もちづき よしのり)」

望月研究を立ち上げた当初は、反応がいま一つでしたね。「本当に使えるのかな?」と半信半疑な感じでした。
感触が良くなったのは、モノができてからでしょうか。タブレットから機器が動くのを見ることで、「これだったら使える!」と思っていただけたようです。

Bondan機能を説明するためには、何かしら作って見せた方が良いということを学びました。モノを見せることで「ああ、こういうのができたのですね」と、すんなり理解を得られたという印象があります。

望月理解を得られたことで、機能の追加要望も相次いで寄せられるようになりました。「運転データのログを収集・取得できる機能」ですとか、「ファームウェアの更新機能」ですとか。機能の数としては、当初の予定の倍近くになったでしょうか。機器が情報ネットワークにつながるだけでは、物足りなくなってしまったのかもしれません(笑)。

Bondanハードウェア部分は早い段階でできていたので、処理のリソースに限りがあって。寄せられた要望に、どのように応えていくかが大きな課題になりました。一つの機器だけではなく、他の機器にも適用できるようなソフトウェア構成にするため、「共通部分」と「機器固有部分」を明確に分けないといけない。単なる機能追加にとどまらないのも悩ましかったですね。

「共通部分」と「機器固有部分」はどのように分けたのですか。

望月各機器のユースケースを手がかりに大まかな分類を行ったあと、事業部の方に実際に開発したモノを見せて、ヒアリングしながら決めていきました。例えば、ある機能について、機器Aではこのように、機器Bではこのように使えますよ、というように。そこで、機器共通で使えると判断した機能については「共通部分」とし、それ以外の機能については「機器固有部分」とするようにしました。

普通は、「共通部分」と「機器固有部分」を分けてから開発に着手するものなのですけれど、今回は開発を優先しました。先進的なユースケースが見いだせたら、それを基に動くモノを作ってしまう。作り方としては変わっていますが、ニーズの先取りを意識することで、相乗的に良いものになったのではないかと思います。

言葉だけで終わらない、具体的なビジョンを描きたい

研究を振り返ってみて、いかがですか。

写真「Bondan Setiawan(ボンダン スティアワン)」

Bondanいろいろな方に使っていただけるものができたというのが、いちばんうれしいことですね。
空気圧縮機のパンフレットにも、わたしたちが開発した機能について説明があって。「おお、ちゃんと載っているな」って(笑)。自分にとっても、次の仕事への自信になります。

望月先日、社外の方に通信基板を見せる機会があったのですが、そこでの反応も好意的でした。同じような悩みをお持ちだったり、いままで考えていなかった要望が飛び出したり。ニーズの大きさを感じました。今後も、通信基板をベースに、お客さまに価値を提供できる仕組みを作っていけたらうれしいです。
Industrie 4.0とか、IoTとか、効率化とか…キーワードはいろいろと出ているのですけれど、どうも言葉だけが先行しているような気がしているものですから。

いままで以上に具体的な提案をしていきたい、ということでしょうか。

望月そうですね。研究者として、お客さまにこのような価値を提供できます、ということをはっきりと言えるようにならないといけないと感じています。どの研究部にも共通する課題なのではないでしょうか。
そのためにも、お客さまのニーズを聞きながら、ソリューションとして何を提供できるのか、というところを見つけていきたいですね。

Bondanわたしは、冒頭で述べた、産業と情報の「融合」に貢献していきたいです。対象はまだ漠然としているのですが、効率的な制御方法を提案できればいいな、と。産業機器でもいいし、制御システムでもいいし。情報ネットワークが世界中につながっていれば、何かすごいことが起こりそうな気がするんです。

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Bluetoothは、Bluetooth SIG, Inc.の登録商標です。
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Ethernetは、米国ゼロックス社または富士ゼロックス株式会社の登録商標です。
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