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企業情報研究開発

  • 写真「町田 芳広(まちだ よしひろ)」
    町田 芳広
    (まちだ よしひろ)
    主任研究員
  • 写真「飯室 聡(いいむろ さとし)」
    飯室 聡
    (いいむろ さとし)
    主任研究員
  • 写真「末永 晋也(すえなが しんや)」
    末永 晋也
    (すえなが しんや)
    研究員

クラクラするほど暑い日も、身を切るような寒い日も、家に帰ればいつも快適な温度でお出迎え—そんな夢のような生活が容易に実現できるようになりました。家のエアコンがネットワークにつながることで、外出先からスマートフォンで操作が可能に。運転状態も確認できるので、エアコン消し忘れたかも…と思い悩むこともなくなります。そんな便利で快適な生活を支えているのが、日立の「つなぐ」技術です。

(2014年9月26日 公開)

つながることで、より便利に。より快適に。

最近の家電製品は便利な機能が多いですね。

写真「町田 芳広(まちだ よしひろ)」

町田そうですね。省エネなのはもちろんのこと、より快適で使いやすい製品にするために、日立も日々研究を続けています。最近は、「スマート家電」と呼ばれるネットワーク接続機能を持つ家電製品も増えてきました。例えば、家庭用のエアコン。エアコンをネットワークにつなげることで、外出先からスマートフォンを使って操作できるようになりました。

飯室エアコンの運転や停止はもちろん、現在のエアコンの状態を確認することもできます。最近発売されたエアコンであれば、ほぼすべての機種で利用できますよ。カタログでは「日立エアコン モバイルコントロール」という名前で紹介されていますので、目にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

エアコン消したかな…と心配しなくて済みますね。どういうシステムなのでしょうか。

末永システムとしてはそれほど難しいものではありません。図1に示すように、ユーザーがスマートフォンのアプリから操作指示を出すと、インターネットを通じて専用サーバに指示内容が送られます。その後、専用サーバから無線LAN接続アダプターを介してエアコンに指示内容が送られて、目的の操作が実現するという仕組みになっています。操作の結果はメールで通知されます。

図1 空調遠隔操作システムの概要
空調遠隔操作システムの概要を示した図

エアコンに操作指示が伝わるまで、さまざまな機器を経由するんですね。

町田そうなんです。この仕組みを実現するために、エアコンを作っている事業部をはじめ、複数の日立グループ会社にも協力をいただいています。短期間でシステムを構築する計画でしたので、スムーズに構築に携われるように、設計段階からいろいろと工夫しました。

やり取りに使うのは…メール!?

どのような工夫をされたのでしょうか。

町田まず挙げられるのが、スマートフォンと無線LAN接続アダプターの間の通信方法です。スマートフォンと専用サーバの間はHTTPSプロトコル、専用サーバと無線LAN接続アダプターの間はメールプロトコルを使用して通信しています。どちらも標準的なプロトコルなので、実装やテストがしやすいんです。

また、専用サーバに必要な機能がWebサーバとメールサーバに限定されるため、スモールスタートで始められて、将来ユーザーが増えたときに拡張しやすいという利点もありました。

図2 スマートフォンと無線LAN接続アダプター間の通信方法
スマートフォンと無線LAN接続アダプター間の通信方法を示した図

操作指示を送ると、その結果がメールで返ってくる…面白い仕組みですね。

飯室特徴的ですよね。もちろん、やろうと思えば複雑な仕組みや高度な通信を利用したり、最新の技術を入れ込んだりすることは可能です。ただ、そうするとどうしても無線LAN接続アダプターの負荷が大きくなり、消費電力が増えてしまう。便利さをキープしつつ消費電力を抑えるためには、間欠駆動—必要なときに必要なだけ動くような仕組みにすることが大切なんです。メールなら、受信と送信のタイミングだけ動けばよいのでちょうどいいな、と。

町田操作結果をユーザーに通知するというのは、意図しない操作を回避するという意味で、安全性を考慮するうえでも重要な要件です。ただ、さまざまな機器を介して通信を行うので、どうしてもタイムラグが発生してしまいます。

現在の仕様では、ユーザーが操作指示を出してから操作結果が通知されるまで、最大5分のタイムラグがあります。その間ずっとスマートフォンを見ていないといけない、というのは現実的ではないですよね。アプリを閉じていても操作結果がちゃんと戻ってきて、かつ誰でも使える仕組みは何だろう、と考えたとき、メールがいちばんふさわしいと判断しました。

横浜研究所では、無線LAN接続アダプターの開発にも取り組まれたそうですね。

町田ええ。飯室がハードウェアやOSなどの土台部分を、末永がその上で動作するアプリケーション部分を担当しています。アプリケーション部分はメインとなる技術の研究が進んでいたため、半年ほど先行していましたが、土台部分はシステムの構築と並行で進めていく感じでした。

OSにLinuxを選定した二つの理由

無線LAN接続アダプターの土台部分は、どのように開発されたのでしょうか。

写真「飯室 聡(いいむろ さとし)」

飯室最初に、要件に合うハードウェアやソフトウェアを選定します。通常はハードウェアの選定を先にすることが多いのですが、今回はソフトウェアの選定が先になりました。

というのも、無線LAN接続アダプターは、こっちでメールをやり取りしながら、こっちでエアコンの状態を見る、というように、同時に複数の仕事を実行することが求められます。このような動きをさせるには、OSの力を借りるのがいいんです。

無線LAN接続アダプターぐらいの規模であれば、日本ではITRONというOSがよく使われますが、今回はメールのやり取りなど、ネットワーク系の機能を組み込みやすいという理由から、Linux®というOSを選定しました。オープンソースの豊富なライブラリも利用できるので、開発期間の短縮に貢献できるのもメリットでした。

OSも用途によって向き不向きがあるのですね。

飯室そうなんです。ネットワークが得意なLinuxを使っておけば、今後いろいろな通信に対応しやすいだろうと。将来を考えて、拡張しやすいプラットフォームを選択しました。拡張のしやすさの例としては、最近市場の要望が高まっているHEMS(Home Energy Management System)対応についても、ソフトウェアの一部を変更することで実現可能です。

末永普通はコストがいちばんの制約になるんです。コストに見合うハードウェアを選んだ結果、高機能のOSの搭載をあきらめることになった、ということもよくあります。今回はOSを先に選定したので、ハードウェアもちょっとリッチなものを使っているんですよね(笑)。

写真1 無線LAN接続アダプターの基板
無線LAN接続アダプターの基板の写真。マイコンやメモリなどの部品が配置されている。

飯室はい(笑)。Linuxを動かすために、マイコンは通常より一ランク上のものを使っていますし、メモリも容量の大きいものにしました。ちょっと高いですが、開発期間の短縮効果や拡張性を総合的に判断したうえでのギリギリの選択です。

ハードウェアとソフトウェアが決まったら、どういう風にシステムに組み込むかを決めたり、実際に組み込んで問題点をつぶしたりしていきます。最終的には、写真のような基板を作成しました。

この基板の上でアプリケーションが動くのですね。

末永そのとおりです。アプリケーションの役割は、異なる機器がやり取りをする際の橋渡しをすることです。機器の種類によって通信時に使用するプロトコル—しゃべる言葉が違うので、正確でスムーズなやり取りを実現するために二つの技術を組み込んでいます。一つは「プロトコル変換フレームワーク」。もう一つは「ネットワーク下位レイヤー協調制御技術」といいます。

*
Linuxは、Linus Torvalds氏の日本およびその他の国における登録商標または商標です。

幅広い機器に適用できる技術をめざして

アプリケーションに組み込まれている二つの技術について、詳しく教えてください。

図3 無線LAN接続アダプター内の通信処理の仕組み
無線LAN接続アダプター内の通信処理の仕組みを示した図

末永「プロトコル変換フレームワーク」というのは、プロトコルの差異を吸収しながら変換するための技術です。

プロトコルが異なる場合、通信内容の表現方法にも大きな差異があります。つまり、しゃべる言葉だけでなく、しゃべり方も大きく違うんです。例えば、あるプロトコルでは一つの言葉で表現できる内容が、別のプロトコルでは何回も言葉を繰り返して表現しないといけなかったり。

「プロトコル変換フレームワーク」では、発信側のプロトコルを共通プロトコルに変換したあと、その共通プロトコルを受信側のプロトコルに変換します。共通プロトコルがクッションとなることで、表現方法の差異を吸収できるようにしています。

また、もう一つの「ネットワーク下位レイヤー協調制御技術」は、やり取りのタイミングを合わせるための技術です。

例えば、エアコンが運転中かどうかを問い合わせるような場合、エアコンに対して「現在の状態を教えてください」とお願いしても、タイミングによっては「いま忙しいんです!」と、エアコンがなかなか教えてくれないことがあります。そのため、相手が必要とする情報を橋渡し役である無線LAN接続アダプターに言づけておくことで、お互いに都合のいいタイミングで情報をやり取りできるようにしています。

ワンクッションおくことが重要なのですね。

写真「末永 晋也(すえなが しんや)」

末永ええ。直接1対1でやり取りするような仕組みにすることもできるのですが、それだと汎用性がなくなってしまうんです。今回、やり取りをする相手は家庭用のエアコンでしたが、ほかにも家電製品はたくさん種類があります。また、業務用の機器とやり取りをする可能性もあります。

例えば、業務用のエアコンは空調機という意味では家庭用のエアコンと同じですが、通信時に使用するプロトコルはまったく違います。1対1でやり取りする仕組みとして作った場合、家庭用エアコンと同じように業務用のエアコンを操作したいと思っても、やり取りの仕組みを再度作らないといけなくなってしまうんです。

飯室いままでネットワークにつながっていなかった機器というのはたくさんありますし、スマートメーターのように、これから普及していく機器もあります。研究者としては、何か特定の機器に特化するのではなく、できるだけ幅広く適用できるような仕組みをめざそうと。

末永もちろん、すべての機器でうまく通信できるかというのはわかりません。機器によっては、ある程度の手直しが必要になってくるでしょう。現時点で想定できる機器の範囲で、うまくいくものを作ってみようと試みた結果、このような仕組みにたどり着きました。

安全に対する新しいアプローチ

ほかにこだわったところはありますか。

写真「町田 芳広(まちだ よしひろ)」

町田これまでになかった家の外からの操作機能について、安全性をどう確保していくか、というところでしょうか。家電製品の場合は、電気用品安全法の技術基準というのが一つの指針になります。ただ、開発に着手した時点では、遠隔操作に関する基準は見直しの真っ最中。見直しを担当する「遠隔操作タスクフォース」に日立もメンバーとして参加していたので、タスクフォースでの検討状況を随時チェックしながら、必要な仕組みを入れ込むということもやりました。

飯室日立は安全性には特に気を遣っていて、独自の基準も設けています。今回のように、ほかにも基準がある場合、その基準もクリアしないと製品が出せません。両方の基準を満たす必要があるんです。

厳しくチェックされているんですね。

写真「飯室 聡(いいむろ さとし)」

飯室もちろんです。ただ、これからは基準をきちんと守るだけでなく、基準を守っているということを証明できることも必要になってきます。「機能安全」といって、製品がちゃんと安全にできています、ということを企業は証明する責任がある、という考え方によるものです。

町田機能安全に関しては、国際的な規格もありますね。日本では、工場で動くロボットや電車のブレーキなど、人命に直接かかわる分野が対象になっていますが、2016年ぐらいをめどに家電製品にも範囲が広がる予定です。

飯室わたしたちの部署でも、機能安全について最近力を入れて研究を進めているんですよ。安全性を証明するといっても、特別なことばかりやる訳ではありません。ぐちゃぐちゃなプログラムでは安全かどうかがぱっとわからないから、開発時からきれいに整理したかたちで作るようにする、というのも一つの方法です。きれいに作ると、当然、開発効率も上がります。安全というのは、日々の改善の延長線上にあるのでは、と思っています。

関係ないように見えても、実はつながっているという…。

写真「末永 晋也(すえなが しんや)」

飯室そうですね。わたしは現在、エアコンとはまったく違う分野の製品に組み込むシステムの検討に携わっていますが、マイコンがあって、OSがあって、という点では一緒。無線LAN接続アダプターの開発で得た知見を生かして、今後もさまざまな分野の製品のシステムを検討していきたいですね。

末永わたしは、ものとものの間をどうやってつないでいくか、つなぎ方やつなげるための仕組み作りにチャレンジしていきたいです。単なる機器だけではなく…例えば、クラウドのような計算資源とつながるようにしたり。

町田つながることのうれしさ、についても考えていきたいですね。つながることでユーザーにどのような価値を提供できるか。手探りな部分はありますが、いままでにない価値を創出していけたらと思っています。

特記事項

  • 2014年9月26日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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