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高温下でも劣化しない鉛フリーはんだ接合技術

パワーエレクトロニクス製品への適用を実現

写真「池田 靖(いけだ おさむ)」
池田 靖(いけだ おさむ)
主任研究員

電子部品の接合に古くから使われてきた「はんだ」。かつては鉛を含むものが主流でしたが、人体や環境への影響を考慮して、鉛フリー化が進められています。

しかし、自動車などに使用するパワーエレクトロニクス製品のはんだ接合については、製品使用時に接合部が高温になるために、技術的に難しく、鉛フリー化が進んでいませんでした。

そんな中、日立は、早くから鉛フリー化に取り組み、耐熱性が高く、高温下でも劣化しない鉛フリーはんだの接合技術を開発。パワーエレクトロニクス製品への適用を進めています。

(2013年5月21日 公開)

進む、はんだの鉛フリー化

はんだの鉛フリー化が進められているそうですね。

写真「池田 靖(いけだ おさむ)」

池田はい。長年にわたって鉛を成分として含むはんだが使われてきました。鉛を含むはんだは、とても使いやすく、良好な接合を得やすいためです。しかし、2006年7月にヨーロッパで施行されたRoHS指令をきっかけに、鉛を含まないはんだへとシフトする"鉛フリー化"の動きが進められてきました。RoHS指令というのは、部品に使われるはんだなどを含めて、電子機器製品に有害なものを含んではいけない、という規制です。

ただ、溶ける温度が高い鉛を主成分とする"高鉛はんだ"については、ほかに代わるものがないために、いまでもRoHS指令の規制の対象外になっています。

高鉛はんだは鉛フリー化が難しい、ということですか?

池田そういうことになりますね。高鉛はんだには、融点が高い、耐熱性に優れる、という二つの特徴があります。耐熱性に優れるというのは、高い温度で使用しても劣化しない、つまり熱に強いということです。融点が高い金属はほかにもあるのですが、材料コストや使いやすさで鉛にかなうものがない、というのが世界的な認識でした。とはいえ、やはり人体や環境に影響のあるものをずっと使うわけにはいきませんので、できるところから鉛フリー化を進めていこう、というのがいまの取り組みです。

高鉛はんだは融点が高いとのことですが、融点が低いはんだもあるのですか?

池田はんだは、使う場所によって、融点の高いものと低いものを使い分けます。

たとえば、携帯電話やパソコンに緑色の基板が入っていますよね。その基板に電子部品を接合するためにはんだを使うのですが、接合する電子部品の内部でも、部品同士の接合にはんだを使うんです。このような場合、電子部品内での部品同士の接合には融点の高いはんだを使い、基板に電子部品を接合するときは融点の低いはんだを使います。その理由は、融点が同じはんだを使うと、基板に電子部品を接合するときに、電子部品の内部のはんだが溶けてしまい、電子部品が壊れてしまうからです。

写真1 電子部品をはんだ接合した基板
電子部品をはんだ接合した基板

池田自動車などに用いるパワーエレクトロニクス製品の場合は、パワー半導体の発熱によって、はんだ接合部が高温になった状態で使われますので、基板に電子部品を接合するはんだに比べて、はるかに高い温度で使用できるはんだが必要になります。わたしは、このパワーエレクトロニクス製品の完全鉛フリー化をめざして、鉛に代わるはんだ材料の研究に着手しました。

図1 製品使用時のはんだ接合部の温度
製品ごとの使用時のはんだ接合部の温度を表すグラフ

はんだ材料検証での成功と失敗

はんだ材料の研究では、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

写真「池田 靖(いけだ おさむ)」

池田まず、スズと銅を混合したはんだを検証しました。

スズは、一般的な鉛フリーはんだの材料です。基板に電子部品を接合するときに使用するはんだの主成分で、融点が低いという特徴があります。そのスズに、融点が高い銅を混合することにしました。

スズに銅を混合したはんだの接合では、まず融点の低いスズが溶けます。その後、接合が進むにつれてスズと銅が反応して、スズと銅の化合物ができます。その化合物はスズよりも融点が高い。最初のはんだの状態では融点が低いけれど、接合している間にはんだ全体としては融点を上げられるだろう、という考えです。これは、いままでにない新しいコンセプトでした。

図2 スズと銅を混合したはんだの接合メカニズム
スズと銅を混合したはんだの接合メカニズム

新しいコンセプトは、うまくいったのですか?

池田接合後に融点を上げるという点は、電子部品内部の接合向けのはんだとして認知され、今でははんだの標準化を進める団体であるJEITA(電子情報技術産業協会)でも評価されるようになりました。

しかし、わたしがターゲットにしているパワーエレクトロニクス製品への適用では、残念ながらうまくいかなかったんです。パワーエレクトロニクス製品では、1 cm角くらいの半導体素子を、すき間なくきれいにはんだ接合しないといけないのですが、はんだがうまく充てんされず、すが入ったような状態になってしまって。

結局、日立としては、パワーエレクトロニクス製品へのこの接合技術の適用を断念することになりました。部品の接合に適用できただけで十分画期的な方法ではあったんですが。

ただ、このプロセスがあったおかげで、パワーエレクトロニクス製品の場合にどんなポイントを押さえなければいけないのかを、考え直すことができました。

別のアプローチでの検証―失敗から開けた道

パワーエレクトロニクス製品に大事なポイントとは、何だったのですか?

池田パワーエレクトロニクス製品が150℃〜200℃くらいの高温下で使用される、ということです。一般的な、スズを主成分とする鉛フリーはんだが適用できなかった理由は、高温下で使い続けると、はんだと接合する部材の間で反応が進み、はんだにボコボコ穴が開いて部材が取れたり、特性が劣化してしまうおそれがあるからでした。この反応を抑えることができれば、パワーエレクトロニクス製品にも適用できるのではないか、ということで、これまでとは発想を変えて、別のアプローチで検証することにしました。

どのようなアプローチで進めたのでしょうか。

池田一つは、はんだの成分の工夫です。先ほどの方法は、接合時にスズと銅が反応して化合物ができる、という仕組みでしたが、初めからスズと銅の化合物をはんだに入れることにしました。

同時に、部材の接合面にも、ひと工夫しました。接合面をニッケルでめっきすることにしたんです。こうしておくと、ニッケルでめっきした接合面に、スズと銅の化合物が寄っていきます。これがバリア層となり、部材とはんだの間の反応を抑止するのではないか、と考えました。

図3 スズと銅の化合物を入れたはんだの接合メカニズム
スズと銅の化合物を入れたはんだの接合メカニズム

検証した結果はいかがでしたか。

池田この写真を見ていただくとわかるかと思いますが、スズと銅の化合物がニッケルでめっきした接合面に寄っていくことを確認でき、ねらいどおりの結果になることを検証できました。

写真2 スズと銅の化合物を入れたはんだの接合の様子
スズと銅の化合物を入れたはんだの様子を示す写真

池田ちなみに、このアプローチを考えるにあたっては、スズと銅を混合したはんだを検証した際の失敗から得た知見が生きています。

先ほど、スズと銅の化合物がニッケルでめっきした接合面に寄っていくと説明しましたが、これは、はんだの成分のうち、余分な成分が接合面に寄っていくという現象を利用しています。スズと銅を混合したはんだを検証した際、通常では入れないような量の銅をはんだに入れたことで、余分な成分が接合面に寄っていくということがわかったんです。

この知見を生かしたことで、ねらいどおりのはんだ接合ができ、耐熱性を向上させることができました。結果が得られたとき、ようやく道が開けた気がしましたね。パワーエレクトロニクス製品への適用の検証へ入れると。

パワーエレクトロニクス製品への適用に向けて

製品への適用はスムーズに進んだのでしょうか。

池田運がよかったのか悪かったのか、いちばん条件の厳しい製品での適用を検証することになってしまいまして。最初に検証した製品では、残念ながら適用とはなりませんでした。

最初に適用を検討した製品は使用環境が常時200℃と非常に高温で、はんだの接合技術にも高い信頼性が必要です。大変難しい条件だったのですが、「200℃で1000時間接合を維持する」、「200℃にしたり、マイナスの温度に冷やしたり、という温度変化に対して接合を維持する」というような信頼性の試験は、無事にクリアできました。しかし、実際の製品に適用する場合は、さらに"パワーサイクル試験"という半導体素子に電気を流す試験が必要でして。電気がオンのときに半導体素子だけが発熱して、電気がオフのときに冷却するという試験が目標をクリアできなかったんです。これをクリアしないと、製品へは適用できません。

製品への適用には、材料の検証とはまた違った難しさがあるのですね。

池田そうですね。ただ、そこであきらめることなく、もう少し使用環境の温度が低い「IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor) モジュール」で、適用を検証することにしました。IGBTモジュールは、電気自動車やハイブリッド自動車のモーターを制御するためのインバーターの心臓部にあたるものです。使用環境が150℃と、最初に検証した製品に比べて低いため、こちらであれば適用できるのではないか、と考えました。

図4 自動車のIGBTモジュール
自動車のIGBTモジュール

池田結果として、適用することができ、このIGBTモジュールが、自動車向けモジュールとしては、日立が世界に先駆けてはんだの鉛フリー化を成功したパワーモジュールになりました。いまでは、電気自動車向けIGBTモジュールとして採用されています。

IGBTモジュールの鉛フリー化、すごいですね。

写真「池田 靖(いけだ おさむ)」

池田ここまでたどりつくのは、かなり困難な道のりでしたが、製品に適用できたときは、本当に苦労が報われたと思いました。

1製品への採用をきっかけに、スズと銅の化合物を入れたはんだは、そのほかの電気自動車向けや、風力発電向けのIGBTモジュールに展開されるようになりました。

いま、わたしは、もっと耐熱性が必要な製品や電車、産業用の大きな電力を使う機器など、より高い信頼性が要求されるものに開発のターゲットをシフトして、それに適用できるはんだの開発をめざしています。

運も味方につけて、鉛を超えるはんだをめざす

これまでの研究を振り返っていかがですか。

池田わたしは運がよかったな、と思っています。理由は二つあります。

一つは、はんだの研究に携わったタイミングがよかったなと。入社してからずっとはんだの研究を続けていますが、ちょうど高温系の鉛フリー化という新しい取り組みが始まったころに、はんだを研究することになったんです。まだ誰もやったことのないところを研究させてもらえたのがよかったなと思っています。ただ、研究を始めたときは、はんだの世界の常識というものをあまり知らなかったんですね。学生時代は金属材料の研究をしていたのですが、はんだについてはそんなに詳しくなくて。だから、ある意味、正攻法じゃないことをいろいろとやったりして、たくさん失敗や空振りもあったんですけど、それが結果に結びつきました。

もう一つは、よい先輩に恵まれたことです。スズと銅を混合するアイデアは、もともと先輩が考えていたもので、その検証をわたしがやらせてもらいました。こういう少し面白いこと(笑)を考える先輩がいてくれたことが、非常にありがたかったです。

また、ちょうどわたしが入社したころ、日立グループは、IMS-EFSOTという鉛フリー化に関する国際共同研究プロジェクトを、リーダーシップを取って推進していました。当時、わたしの指導員だった先輩が、そのプロジェクトの中心となって活躍されていたんです。世界中を飛び回る先輩の姿を見て、とてもよい刺激を受けましたね。

今後の目標について教えてください。

写真「池田 靖(いけだ おさむ)」

池田パワーエレクトロニクス製品の世界では、これからは単に「鉛を使わない」というだけでなく、鉛を超える、現行の鉛では到達できない部分を実現する新しいはんだ材料を開発することが目標です。鉛の場合はオールマイティにいろいろな製品に使えましたが、そんな材料はなかなかありません。ですが、「この材料はこの製品に向いている」ということがわかってきているので、鉛よりも寿命が長く、さらに信頼性も高いはんだを開発し、適材適所で製品に適用していきたいと考えています。そして、その技術を適用した製品が世の中で使ってもらえるようになるとうれしいです。

特記事項

  • 2013年5月21日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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