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写真「原田 実(はらだ みのる)」
原田 実(はらだ みのる)
研究員

パソコン、携帯電話、デジタルテレビ…さまざまな電化製品がどんどん進化して、わたしたちの生活はより便利に豊かになっています。これは、電化製品の核である「半導体」が、nm(ナノメートル)という単位の、ミクロの世界で進化し続けているからです。

そんな半導体の製造を支えているのが、半導体検査装置です。日立製作所が(株)日立ハイテクノロジーズと共同で開発している半導体検査アプリケーションiPQも、半導体と共にどんどん進化し続けています。

(2013年10月4日 公開)

ミクロの世界で進化し続ける半導体

半導体というと、パソコンや携帯電話などに入っている小さなチップですよね。

写真「原田 実(はらだ みのる)」

原田そうです。半導体は、その小さなチップの中により多くの回路を集積するように進化しています。そのため、半導体の製造プロセスはとても微細化していて、いまや致命傷となる欠陥のサイズは十数nmくらいになっています。半導体の検査では、このレベルのサイズの欠陥を見つけなくてはいけません。

もともと、欠陥検出の検査には、広い範囲を高速に検査できる光学式顕微鏡が使われていました。しかし、見つけたい欠陥が十数nmであるのに対して、光の波長は数百nmあります。そのため、光学式顕微鏡では欠陥の位置はわかっても、どのような欠陥かはわかりません。そこで、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)を使った、より高感度な検査が必要になりました。

欠陥を見つけるために、検査する側も進化しているのですね。

原田半導体製造プロセスの進化は日進月歩であり、わたしたちはそれを支えるべくSEMを用いた検査システムの研究開発を行っています。

半導体の製造ラインでは、光学式顕微鏡で取得した欠陥の位置情報を基に、SEMを用いて欠陥を撮像し、どのような欠陥かを観察しています。この観察用の画像収集を自動化したのが、「レビューSEM」という装置です。欠陥画像の自動収集機能のほか、収集した画像を欠陥の種類ごとに自動分類する機能が搭載されています。

わたしたちが開発しているiPQ(Inspection & Process Qualifier)は、レビューSEMを用いた検査アプリケーションです。あらかじめ指定された位置(定点)のSEM画像を自動で撮像し、欠陥の発生傾向やプロセスの出来栄えなどを定量化します。光学式の検査装置と比較すると、低速で限られた範囲しか検査できませんが、非常に高感度な検査が可能となります。

図1 iPQを利用した検査からプロセス改善への流れ
iPQを利用した検査からプロセス改善への流れ

半導体の製造プロセスとは、どのようなものでしょうか。

原田半導体は、直径約300 mmのシリコンの基板(ウェハ)上に、回路を焼き付けて作ります。このウェハを切り分けると、携帯電話に入っているようなチップがたくさん出来上がります。そして、このチップに電気的な検査をして出荷します。

しかし、出荷前の検査で問題が見つかっても、半導体の製造としてはもう遅いのです。半導体に回路を焼き付ける際には、ウェハ上に膜を作って、膜の上に回路を描いて(露光)、彫りこんで(エッチング)・・・というプロセスを繰り返します。何層もの回路を重ねるので、一つのウェハを作るには、数百のプロセスがあります。このプロセスのどこかに一つでも問題があったら、膨大な不良品ができてしまいます。

そのため、製造途中でウェハを抜き取って検査することによって、問題をいち早く見つけ出し、解決することが重要になります。

iPQではどのような検査をするのですか。

原田iPQは「Inspection & Process Qualifier」の略です。その名のとおり、Inspection(欠陥検査)と、Process Qualifier(出来栄え検査)ができます。

欠陥検査では、欠陥の数、面積、明るさなどを調べて定量化します。また、出来栄え検査では、回路パターンの面積や明るさ、表面のラフネス(凹凸)などを調べて定量化します。ユーザはこれらの定量化された値を基に、どこに問題があるのかを見つけ出して、露光やエッチングなどのプロセスにフィードバックします。

着目する欠陥だけを検出

ではまず「Inspection」、欠陥検査について教えてください。

原田基本的には、良品画像と検査対象の画像(被検査画像)を比較することで欠陥を検出しています。良品画像というのは、欠陥がない画像のことです。この良品画像と被検査画像を比較して、どのくらい乖離(かいり)しているかを調べることで、欠陥を見つけ出します。

図2 良品画像との比較による欠陥検出
良品画像との比較による欠陥検出

原田ただ、良品画像をどうやって撮像するかという問題があります。例えば、ウェハ面内で画像を何百点と撮像しても、その中から欠陥がない画像を探すのは大変ですし、そもそも存在しない可能性もあります。

そこで、撮像した画像から欠陥がない部分だけを選んで、良品画像を合成するという機能を開発しました。この機能によって、良品画像が存在しないプロセスの開発段階など、いろいろな場面で欠陥を見つけることができるようになりました。

良品画像と比較するだけで、欠陥を検出できるのですか。

写真「原田 実(はらだ みのる)」

原田いえ、画像で比較すると差異があるのに、欠陥にはならない「製造公差」というものがあります。これが欠陥を検出する上で、難しいところです。

例えば、回路パターンのサイズが変化する場合があります。そうすると当然、サイズの差異を検出するのですが、「その差異は製品の欠陥にはならないので検出しないでほしい」、と半導体メーカーから言われることがあります。いま着目している欠陥だけが検出されるようにすることも大切です。そこで、フィルタリングによって欠陥を抽出する機能を作りました。

iPQでは、検出された差異について、どのような外観かを定量化します。この定量化した値は「特徴量」といいまして、数十種類あります。フィルタリングは、この特徴量を基に、欠陥が持っている特徴と一致するものを検出する仕組みになっています。

しかし、フィルタリングの条件となる欠陥の特徴を設定するのが、また難しいところです。欠陥の特徴はプロセスによって多種多様で、製造公差もそれぞれに違います。どの特徴を見れば欠陥と製造公差を見分けられるか、その都度異なります。そこで、ユーザが欠陥の位置を数点指定すれば、それを基にアプリケーション内部で自動的にフィルタリング条件をチューニングするような機能も作っています。

図3 特徴量を基にしたフィルタリング機能
特徴量を基にしたフィルタリング機能

オーバーレイ計測による出来栄えの定量化

次に「Process Qualifier」、出来栄え検査について教えてください。

原田回路パターンの領域を自動で認識して、その形状の特徴や、重ね合わせの精度を計測する機能です。この重ね合わせの精度を計測することを、「オーバーレイ計測」といいます。

半導体の回路パターンというのは、何層も積み上がっています。水平方向の層(レイヤー)の中できちんとできていることも大切ですが、レイヤーとレイヤーの重なりも重要です。層が上下でずれていると、デバイスの特性に影響を与えることがあるため、ズレを計測して一定の範囲内に収まるように調整する必要があります。

従来のオーバーレイ計測では、半導体の1層目と2層目など、別々のプロセスで計測用のパターンをウェハ上に作りこんでおいて、パターンのズレを計測していました。半導体チップの隅に作りこんだパターンを光学式顕微鏡で計測していたのです。しかし、これでは計測誤差が大きくなり、半導体の微細化に対応できなくなってきました。そのため、計測用のパターンを小さくしてチップの面内に埋め込み、SEMで計測するという方法も検討されてきています。

これらの方法に対し、iPQでは計測用のパターンを使わないで、回路パターンから直接オーバーレイ計測を行う方法を実現しました。

図4 オーバーレイ計測の対象パターン
オーバーレイ計測の対象パターン

iPQでは、計測用のパターンを埋め込む手間が省けるのですね。

原田そうですね。それに、メモリを製造しているメーカーでは、実際の回路パターンから直接オーバーレイ計測を行いたいというニーズがあります。これは、半導体の種類によって、計測用のパターンを埋め込みにくいものがあるからです。ロジック系と呼ばれるCPUなどの半導体は計測用のパターンを比較的埋め込みやすいのですが、メモリの半導体は、いかに回路を高密度に作るかが重要なので、計測用のパターンを埋め込みにくいのです。

また、メモリの半導体の方が先に微細化が進むため、より高精度に計測したいということも、ニーズがある理由です。

iPQはどのような仕組みでオーバーレイ計測を行っているのでしょうか。

原田仕組みとしては欠陥検出と同様に、良品画像と欠陥画像を比較します。ただ、オーバーレイ計測では、1画面の中に見えている上下の層を、画像処理によって上の層と下の層に分解して認識し、ズレを計測します。この、上の層と下の層に分解して認識することが、技術的に難しいところです。回路がどのようにできているかはわからないので、「ここが上の層だろう」と推定して分解します。

いまのところ、この「回路パターンを分解して認識し、良品画像との位置合わせによってオーバーレイを計測する」という一連のフローは、日立オリジナルの技術だと思います。

図5 iPQのオーバーレイ計測の仕組み
iPQのオーバーレイ計測の仕組み

半導体製造現場のニーズに応えるために

iPQについて、市場の反応はいかがですか。

写真「原田 実(はらだ みのる)」

原田iPQは、主にメモリの半導体メーカーに使っていただいています。iPQが付加価値となることで、(株)日立ハイテクノロジーズのレビューSEMの売り上げにも貢献できているのではないでしょうか。

もともと、iPQは我々のレビューSEMの製品競争力を向上させるために生まれた製品です。半導体メーカーには、コスト削減のため、一つの装置でできるだけ多くの検査をしたいというニーズがあります。そのため、いろいろな検査アプリケーションを付加することで、レビューSEMで欠陥の自動観察以外の検査もできるようにしています。この検査アプリケーションの一つが、iPQです。

開発当初のiPQは、良品画像と被検査画像を比較して、どれだけ乖離(かいり)しているかを数値として出す、というシンプルな機能でした。しかし、半導体メーカーから、「もっと欠陥をきちんとカウントできる機能が欲しい」、「もっと細かくいろいろな項目について定量化したい」といった、さまざまなニーズが出てきました。このようなニーズに応えるかたちで、(株)日立ハイテクノロジーズと横浜研究所が共同でiPQの開発を進めることになりました。

なぜiPQを共同開発することになったのでしょうか。

原田以前から、横浜研究所と(株)日立ハイテクノロジーズは、欠陥観察のための欠陥検出機能を共同で研究開発しています。その欠陥検出技術の知見を、iPQの開発に生かすためです。

わたしは、入社以来ずっと欠陥検出の研究をしています。そこにiPQの開発のお話を伺って、これは面白そうだと思いまして、開発にかかわることになりました。

開発当初は、いろいろなニーズが散発的に出てきたため、要求分析やソフトウェアの構造の検討から始めました。画像処理などはシステムエンジニア的な作業から始めたこともあって、結構大変でした。

基本的には、横浜研究所は画像処理アルゴリズムの研究開発、(株)日立ハイテクノロジーズはユーザインタフェースや他のシステムとの通信の開発という役割分担になっています。

図6 iPQの操作画面例
iPQの操作画面例

究極の半導体検査アプリケーションをめざして

これからの課題はなんでしょうか。

写真「原田 実(はらだ みのる)」

原田欠陥検査については、欠陥と製造公差を見分ける技術の向上です。半導体の微細化によって、欠陥と製造公差を見分けることが大変難しくなっています。どうやって欠陥だけを検出できるようにするか。さらに、ただ検出できるだけではなく、ユーザが簡単に、使い勝手よく、わかりやすく操作できるようにすることも課題です。

出来栄え検査については、オーバーレイ計測の高精度化と高速化です。オーバーレイ計測では、精度という意味で、再現性が強く求められます。再現性というのは、同じ個所を何度計測しても同じ値になるということですが、これを1 nm以下のスケールで求められているのです。この技術が、いまのところオーバーレイ計測でいちばん難しいところです。

また、半導体の製造プロセスが常に変化・進化し続けているので、いかにお客様の現場に入ってニーズを吸い上げて、早く対応していくかということも重要です。

例えば、これまでプロセスの層は平面だったのですが、最近は層が三次元化してきました。三次元化すると、深い穴の下を見なくてはいけません。しかし、SEMで撮像するときに穴の下から電子が上がってこないために見えないことがあります。そのため、少ない信号から欠陥と製造公差を見分ける技術が必要になっています。

研究する上で、特に重要な、こだわっていることを教えてください。

原田特に重要なのは、幅広いプロセスに対応できるようにすることです。世の中にあるすべてのプロセスを見ることはできないので、いま見ることができるデータから、どうやって幅広いプロセスに対して適用できる機能を作るかということが大切です。

性能を向上させようとすると、特定のプロセスに特化しがちになります。そうではなく、全体的に向上させることを考えるのが、いちばん難しくて頭を使っているところです。"特定"ではなく、"全体"にこだわっていないと、結局現場では使えないものになってしまいます。

検査対象が幅広い上に、どんどん進化していくので、どのような対象も検査できる究極のアプリケーションにするのは難しいのですが、できるだけそこに近づけることができればと思います。

特記事項

  • 2013年10月4日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。

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