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写真「中土 裕樹(なかつち ひろき)」
中土 裕樹(なかつち ひろき)
研究員

炭素繊維や粉砕した鉱物など、透き間のある構造物に樹脂をしみ込ませて固める「樹脂含浸(がんしん)成形」。この方法で作った素材は強度が高く軽量なため、自動車の車体、航空機、ロケットの胴体などに広く用いられています。

温度、粘度、時間など、さまざまな条件によって、浸透の仕方が変わる樹脂。樹脂が確実に浸透する条件を決めるのは容易ではありません。

そこで日立は、樹脂が物質に浸透する様子をシミュレーションする技術を開発しました。

(2014年10月24日 公開)

基材の小さな透き間を埋める樹脂含浸成形

樹脂含浸成形とはどのようなものでしょうか。

中土樹脂含浸成形は、樹脂で物を形作る方法の一つで、透き間のある構造物に樹脂をしみ込ませ、固める方法です。一般的に樹脂の成形というと、型に樹脂を流し込む方法をイメージすると思いますが、樹脂含浸成形では、炭素繊維や、マイカと呼ばれる層状の鉱物とガラス繊維でできた複合材に液体の樹脂をしみ込ませて、硬化させます。

この方法で作った素材は、基材の種類によって、強度を高くできたり、軽量にできたり、電気を通しにくくしたりできます。例えば、金属は強度がありますが、重たいという欠点があります。樹脂だけで作った素材は、軽いけれど強度が足りない。そこで、基材の透き間に樹脂を浸透させることで、金属と同じくらいの強度を持ち、しかも鉄の約1/4の重さという、強くて軽い素材を作ることができます。そのため、自動車、飛行機・ロケット、船舶、発電設備などによく用いられています。

樹脂含浸成形の難しいところは、基材の目の粗さや構造によって樹脂の流れるスピードが変わってくるところです。また、樹脂自体も、含浸時間と温度で粘り気(粘度)が変わってきます。粘度が低いと樹脂が浸透しやすく、粘度が高いと樹脂がなかなか浸透しません。樹脂の温度を高くすると樹脂の粘度を低くできますが、すぐに固まってきてしまいます。一方、樹脂の温度を低くすると、固まるまでの時間は長く確保できますが、粘度が高くなります。このため、樹脂が全体に行き渡らずに途中で止まってしまうことのないよう、温度や樹脂の粘度、含浸時間などの成形条件の検討が必要なのです。

図1 樹脂含浸素材の適用分野
樹脂含浸素材の適用分野を示した図

製造の現場ではどのような課題があったのでしょうか。

写真「中土 裕樹(なかつち ひろき)」

中土基材の種類や形によって、樹脂をまんべんなく充填(じゅうてん)するための最適な時間や温度は異なります。今までは、含浸時間が最も短くなるように、温度や時間、樹脂の粘度などの最適なバランスを探るには、さまざまな条件で試作を行う必要がありました。また、基材を設置した構造物の大きさや形状から含浸時間を経験値を基に予想したうえで、充填不足を避けるために、予想よりも長めに含浸時間を設定していました。そうすると、大きな構造物になるほど製造期間が長くなり、コストが掛かります。

最適な含浸条件を知るためには、樹脂がどのように浸透しているのか把握する必要がありますが、浸透の様子はなかなか見ることができません。そこを事前にシミュレーションで見えるようにすると、どれくらいの時間や圧力、温度に設定すれば良いのかが簡単にわかるようになると考えました。

複雑な樹脂の流れをモデル化

シミュレーションを行うためにどのようにアプローチしたのか教えてください。

中土シミュレーションを行うには、樹脂や基材の特性を考慮した解析モデルが必要です。
正確な解析を行うために、基材の透き間の形状をミクロレベルで解析するという方法もありますが、透き間の大きさがミクロレベルなのに対して、基材の大きさはメートル単位です。ミクロレベルですべてモデル化しようとすると、とても計算しきれません。

そこで、ミクロレベルで解析するのではなく、基材に樹脂を流し込んだ際に、樹脂の粘度や密度、基材の形状などの条件によってどれくらい圧力が損失されるかに着目しました。もともと、樹脂の圧力損失を計算する解析モデルはありますので、これをさらに発展させた新たな解析モデルを作りました。

これまでの解析モデルと、具体的にどのような点が異なるのでしょうか。

中土解析モデルには、樹脂の流れにくさを表す係数があります。そこをもっと細分化して、形状に関する係数と、樹脂の粘度に関する係数に分けました。

形状に関する係数は2種類あります。一つは、基材の方向による流れ方の違いを表す係数で、「断面係数」と呼びます。これまでの解析モデルでは、樹脂が流れる方向を1方向だけで考えていたのですが、新しい解析モデルでは、横方向(長手方向)、縦方向(幅方向)、厚さ方向(積層方向)による樹脂の流れ方の違いを計算式に組み込みました。例えば、今回の研究で用いた発電機固定子コイルの絶縁層は、高密度のマイカ片でできたテープをコイルの導体に何重にも巻き付けています。ですので、テープの積み重なっている厚さ方向には樹脂が流れにくいという特性があります。

図2 絶縁層の解析モデル
絶縁層の解析モデルを示した図

もう一つの係数は、「基材の圧縮率」です。発電機固定子コイルの導体の断面は四角になっていますので、絶縁層のテープを導体に巻き付けると、角の部分はテープに張力が掛かり、厚さ方向に圧縮された状態になります。そうすると、透き間が潰れるので樹脂が通りにくくなります。このように、場所によって圧縮率が違うことを考慮しました。

新しい解析モデルでは、「断面係数」、「基材の圧縮率」、「樹脂の粘度」の係数を求めて、樹脂の圧力損失を計算します。基材の圧縮率と樹脂の粘度については、別の計算式で求めることができますが、断面係数だけは、基材のサンプルを使用した流動実験を行って測定する必要があります。

樹脂の広がり方から流れにくさを測定

断面係数を求める実験の様子を詳しく教えてください。

中土断面係数を求めるには、基材の横方向、縦方向、厚さ方向で、流れ方がどのように違うかを実験で測定する必要があります。しかし、樹脂がどのように絶縁層の中を流れているかは、なかなか目で見ることができません。そのため、絶縁層のテープをオーバーラップさせて積層した板状のサンプルを置いた状態で上から樹脂を流し込み、樹脂の広がり方を観察しました。

この装置の構成としては、いちばん下にアルミ製の下型を置き、次に絶縁層のサンプルを入れ、その上に穴(注入口)のあいた透明なアクリル製の上型を置きます。そのあと、プレス装置で上型と下型を固定し、上型の注入口から樹脂を注入します。樹脂の広がる状態(流動面積や流動長などの情報)から先ほどの解析モデルの中の断面係数を求めます。

絶縁層のサンプルは、テープ間の透き間を流れる横方向(長手方向)に流れやすく、高密度のテープ内を流れる厚さ方向(積層方向)には流れにくいため、これに応じて、サンプルを設置する下型は横方向を長くして、厚さ方向を薄くしました。実際に流し込むと、横方向に流れやすいので、細長い「だ円形」に樹脂が広がります。

図3 断面係数を求める実験装置
断面係数を求める実験装置を示した図

実験ではどのようなところに苦労しましたか。

写真「中土 裕樹(なかつち ひろき)」

中土絶縁層の構造自体が非常に高密度で、方向によって流れるスピードが全然違うため、最初のアプローチとしては難しかったです。
流れ方が一緒だったらもっと簡単だったのですが、厚さ方向には流れにくく、横方向には流れやすい。そのため、厚さ方向に樹脂が到達する前に、横方向に到達してしまうと実験としては失敗となります。

実験で使用する絶縁層の寸法を決める際は、工場で何度も試作をしました。実験装置を作る前の設計段階でも、試行錯誤して情報を集めなければならなかったという点で苦労しました。

樹脂が充填される様子を解析ソフトでシミュレーション

シミュレーションはどのようなものなのでしょうか。

中土先ほどの解析モデルを3次元流体解析ソフトに組み込み、基材の形状、樹脂の密度、圧力や時間、温度などの含浸条件を入れると、樹脂が充填される様子や圧力の変化を画像で見ることができます。

実験で使用した発電機固定子コイルは、実際には両端が曲がった3次元形状になっていて、それを樹脂の入ったタンクに漬けるのですが、シミュレーションでは曲がった形をそのまま再現しているわけではなくて、直線にした長さを再現しています。それが図4の解析結果の部分です。一番上の曲がった線状のものが、コイルの実際の形状で、その下がシミュレーション結果です。そして、どれくらいの時間で樹脂の充填が完了するかを最終的に計算します。温度や圧力などの条件によっては、最後まで充填できないということも予測することができます。

図4 3次元流体解析ソフトを使ったシミュレーションのイメージ
3次元流体解析ソフトを使ったシミュレーションのイメージ

シミュレーションの解析結果の精度はいかがでしたか。

図5 樹脂の充填率の比較(解析結果と実測値)
樹脂の充填率について解析結果と実測値を比較した図

中土傾向としてはかなり一致していました。このグラフは、樹脂の充填率について、シミュレーションの解析結果と実測値を比較したものです。実線が解析結果で、ひし形の記号が実測値です。

最初は緩やかに充填され、しばらくすると充填の速度が上がります。最後の方になると樹脂が段々と硬化していくので、充填速度が下がり、じわじわと充填されます。このじわじわと充填される挙動もシミュレーションで再現することができました。

実測値を取るときは、2〜3日間くらいずっと付きっきりになるんですよ。途中で交代したりもするんですが。ですからシミュレーションと実測値がちゃんと合っているとわかったときは嬉しかったですね。

技術のさらなる向上をめざして

今後の展望をお聞かせください。

写真「中土 裕樹(なかつち ひろき)」

中土樹脂含浸成形のシミュレーション技術を、いろいろな分野に広げていきたいですね。発電機固定子コイルの絶縁層という難しい基材を最初に扱って研究してきたので、ほかの基材でもある程度、応用ができるのかなと思っています。例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)という装置もコイルが使用されていて、このコイルにも樹脂含浸を行っています。もともと、研究を通していろいろな製品に携わりたいという思いがあり、その意味では今回の研究で一つ実現ができたと思っています。

また、シミュレーションの解析技術をさらに発展させていきたいです。今回の研究では、樹脂の広がり方というマクロ的、物理的な側面から、樹脂の流れ方を解析してきたので、もっとミクロ的なところから解析したいですね。いまは基材が変わるごとに実験を行って係数を求める必要があるので、係数が楽に求められると、もっと簡単にシミュレーションできるようになると思います。例えば、基材の構造の写真を撮っただけで、解析モデルの係数が求められるのが理想です。そのためには、基材の断面を撮影するCT(Computed Tomography)の精度のレベルアップも必要ですが…。

複雑に変化する樹脂。とても奥が深いですね。

中土樹脂は、条件によって液体から固体へと状態が変わっていくところが、おもしろいところでもあり、難しいところです。樹脂の流れ方は、物理的な条件だけではなく、化学的な反応も関係してくるので、物理的な現象と化学的な現象の相互関係を解明していかなければならない。さらに言うと、作る過程だけでなく、作ったあとに使用環境によって樹脂の状態がどう変わっていくかという長期的な信頼性も併せて評価できることが重要であり、今後のシミュレーションに求められる課題だと思っています。

まだ樹脂について把握できていないところがたくさんあるので、樹脂そのものを深く知る必要があると思っています。

特記事項

  • 2014年10月24日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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