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企業情報研究開発

写真「船戸 裕樹(ふなと ひろき)」
船戸 裕樹(ふなと ひろき)
研究員

携帯電話、パソコン、タブレット端末。そして電気自動車など、いまやわたしたちの暮らしは電気で動くものであふれています。

このように電子機器が密集している社会で重要視されているのが「電磁ノイズ」の問題です。電磁ノイズを発して周りの電子機器に影響を与えないこと、周りの電磁波の影響を受けて誤動作しないこと。電子機器にはこの両方を実現する設計や対策がますます求められています。

今回は、社会の安心・安全を支える基盤技術の一つ、電磁ノイズ測定技術についてお話を伺います。

(2012年9月6日 公開)

無線化・電動化する社会

いま、わたしたちの身の周りには、電気で動くものがあふれていますね。

写真「船戸 裕樹(ふなと ひろき)」

船戸そうですね。一人でいくつもの電子機器を持ち歩くのが一般的になってきましたよね。大多数の人が携帯電話を持つようになりましたし、最近ではタブレット端末を持つ方も増えてきています。情報機器の無線化や小型化が進んだ結果です。

一方で、地球環境の保護を背景とした電動化の流れもあります。ハイブリッド車、電気自動車などが一例ですね。これに伴い、パワーエレクトロニクス機器という、大きな電力を扱う機器が生活に浸透しつつあります。

このように、電子機器の密度が高い社会で問題になってくるのが、電磁ノイズです。それぞれの電子機器・パワーエレクトロニクス機器が発する電磁波が互いに干渉し合い、動作に問題が発生する…そういった現象が起こらないよう、設計と対策が必要なのです。自動車などは人命を預かるものですから、電動化するにあたっては特に高度な安全性が要求されます。また、携帯電話などの通信端末でも、電磁ノイズによって通話が途切れたり通信速度が落ちたりしないことが重要です。

安心・安全に加えて品質の面でも電磁ノイズを減らす必要があるのですね。

船戸そうなんです。この電磁ノイズの問題を解決することをEMC(Electro-Magnetic Compatibility)といいます。わたしたちはEMCを実現するための基盤技術を研究しています。EMCには、二つの側面があります。一つはエミッションといって、「出す」方です。電気を扱う機器が電磁ノイズを出さないようにすることをめざします。もう一つはイミュニティといって、「受ける」方です。電磁ノイズを受けても誤動作しないことをめざします。

電磁ノイズの問題は、以前からあった問題ですが、電子機器の小型化、高密度化、低電力化によって、より繊細な技術が求められるようになってきました。また、電子機器が高周波化しているため、高周波域の電子機器が発する電磁ノイズへの対応も必要になってきています。

図1 無線化・電動化する社会と課題
無線化・電動化する社会と課題について示す概念図
(画像引用元URL http://www.3dcadbrowser.com/terms.aspx)

図2 電子機器の高周波化および低電力化
電子機器の高周波化および低電力化を示すグラフ

*
Bluetooth は,Bluetooth SIG, Inc.の登録商標です。

電磁ノイズを「出さない」ための測定技術開発

電磁ノイズを「出さない」研究について教えてください。

船戸電子機器を電磁ノイズの漏れない構造に設計するためには、電磁ノイズの発生メカニズムを明らかにする必要があります。その手段として、理論計算やシミュレーションを行います。ただ、シミュレーションは、実際の現象と照らし合わせてみないと信頼性が証明できません。ですから、計測技術も必要になってきます。そこで、電磁ノイズを測定する磁界センサの精度を向上させました。

ちなみに、電磁波には電界と磁界の二つの成分がありますが、まず磁界の計測技術に着目しました。

これまでのセンサからどこが改善されているのですか。

写真「船戸 裕樹(ふなと ひろき)」

船戸大きく三つあります。一つは「細かさ」です。電子機器の小型化により、電子部品は小さいスペースに詰め込まれるようになりました。そのため、非常に微細なレベルで電磁ノイズの出ている場所を区別する必要がありました。二つ目は「感度」。問題になる電磁ノイズは非常に小さいのでそれを探り当てなければいけません。そして三つ目は周波数です。高速化・高周波化している電子機器に対応するため、高周波域での計測を可能にする必要がありました。

まず、高周波域への対応と、感度についてです。先ほど、電磁波には電界と磁界の二つの成分があるとお伝えしました。磁界センサの感度を高めるためには、電界を拾わず磁界だけ拾いたい。ですので、電界と磁界をきちんと区別できるモデルを検討しました。

磁界センサは、図3の右に示すように、先端がループ形状になっています。このループ部分が、磁界を検出する部分です。そして、斜線部分はシールドといって、磁界以外の影響を受けないようにするためのカバーで覆われています。

図3 実験用磁界センサ
実験用磁界センサの概念図

船戸従来のセンサでは、磁界の検出部分をどのくらい覆えば電界の影響をどれくらい減らせるかという問題は、実は明確になっていませんでした。そこで、覆われている部分と電界の影響の関係を説明するため、検出部分がまったくシールドに覆われていないタイプ(Aタイプ)と一部覆われているタイプ(Bタイプ)で、磁界に対する測定精度の比較検討をしました。その結果、シールドが検出部分を覆う割合を調整すると、磁界の測定感度を向上できることが明らかになったのです。さらに、シールド形状の調整によって、測定したかった高周波帯域に対応できることもわかりました。結果、課題に対してベストなセンサの形状を導き出すことができました。

細かさへの挑戦、そして伝わり漏れるノイズの測定

「細かさ」への取り組みについて教えてください。

船戸センサは先端のループ部分の大きさで、感度も細かさも決まるため、世の中ではセンサを小さく作ろうとする流れが主流でした。しかし、そのアプローチはなかなかうまくいっていなかったので発想を変えました。つまり、いまある大きさのセンサで細かく測れる方法を探したのです。それで考え出したのが、測定位置をずらすというアプローチです。測定するときに、少し位置をずらして2回測定します。そして、ある計算処理を実施し、動かした差分領域の測定値だけを導き出すのです。これによって、センサの大きさを変えずに、より「細かい」測定を可能にしました。

図4 「細かさ」へのアプローチ
電界センサの「細かさ」に対する改善について示す概念図

ほかにも開発された測定技術はありますか。

船戸いまお話ししたのは、一つの電子機器を対象とした測定技術です。パソコンなど、複雑な電子部品が何個も搭載されたようなシステムですと、それぞれの電子部品に対し、どの部品が電磁ノイズを生成し、どこを伝いどうやって外に漏れているのかを特定する必要があります。その計測手段として、ねじ部の電磁ノイズを測定する磁界センサも開発しました。

企業では、製品を出荷する前に必ず電磁ノイズのテストをします。部品単体では電磁ノイズが小さかったのに、パソコンに搭載して出荷しようとしたところ、電磁ノイズがとても大きくなってしまった…このような現象がよく起こっていたんですね。それらの現象を考察していくと、電磁ノイズが漏れている場所に予測が立ちます。つまり、電子部品同士を接続しているねじの電磁ノイズ量を測れば、最終的に外部に漏れている電磁ノイズの量を計算できるのではないかと考えたのです。このセンサによって、複雑な構成の電子機器から漏れる電磁ノイズも測定できるようになりました。

写真1 ねじ部測定用磁界センサ
実物のねじ部測定用磁界センサ

電磁波の影響を「受けない」ための測定技術開発

独立型の小型電界センサも開発されたそうですね。

船戸こちらは、逆に電磁波の影響を「受けない」を実現するための測定技術です。電気自動車を対象にしたEMCの技術開発で日立アメリカ社に出向していたときの話です。海外の自動車メーカーと一緒に、試作中の車体に電磁波を当て、内部機器への影響を評価する試験をしていたところ、とある信号の値が変動する不具合が発生したのです。「なぜここまで」と思いました。部品単体では問題なかったですし、ましてやボンネットを含め、何重もの金属に囲われている。電磁波など入ってくるはずがないと。

わたしは、そのメカニズムを明らかにしたいと思いました。ですが、実際には容易ではありません。というのも、密閉された空間の電界を測定する方法がなかったからです。既存の電界センサはケーブルで接続する形式でしたので、利用するには完成した車を分解して機器の筐体に穴を開けたり、車外に設置した測定器につなげたまま車を動かしたりといった対処が必要でした。当然、そんなことをするわけにはいきません。そこで、「それなら密閉された空間でも電界の測定が可能なセンサを作ればいい」と考えたのです。測定対象の機器の内部に設置したいので小型のもの。そしてケーブルを使わずに単体で動かせるようにメモリとバッテリーを搭載したものをと考えた結果、独立型の小型電界センサの開発に至りました。

このセンサによって、車体内部に進入した電磁波の分布度合いを明らかにすることができるようになりました。そして、測定結果を次の設計に反映できるようになったのです。

図5 小型電界センサのコンセプトと活用例
小型電界センサのコンセプトと活用例を示す概念図
(画像引用元URL http://www.3dcadbrowser.com/terms.aspx)

写真2 小型電界センサ
実物の小型電界センサ

開発ではどのような点に苦労されましたか。

船戸目的である小型化や、独立型を実現するためのバッテリー駆動時間確保などがうまくいかず、何回も試作品を作りました。また、これをほぼ一人で取り組んだということも苦労の一つでしょうか。実は、この研究は当時の研究チームのメインテーマではなく、日中メインテーマに従事したあとの時間を使って独自に進めた研究だったんです。ただ、相談すれば喜んで手伝ってくれる研究仲間が周りにいましたので、自分で対応できない部分は相談したりもしました。それでなしえた成果といえますね。

研究は形にしてこそ

お一人で研究を進めるのはつらかったですか?楽しかったですか?

写真「船戸 裕樹(ふなと ひろき)」

船戸それはもちろん楽しかったです。大変ではありましたが、世の中にないものを作っていくのはやはり楽しいことですから。研究の成果によっていままで見えなかったことが見え、次の研究テーマにつながっていく。そういった点がモチベーションにつながっているのだと思いますね。

また、わたしには「必ず形にすること」という信念があるんです。技術者同士で、「こういうものがあったらよい」「こういう技術を実現するべき」という会話をたくさんします。しかし、それを形にしようとすると、うまくいかなかったり、課題が見えてきたりする。「形にする」という作業は、一番エネルギーと時間が要る大変な作業なんですよね。ですから、困難や課題を乗り越えて形にすることを、最も重要視しています。今回開発した小型電界センサについても、実は従来技術を組み合わせた技術ですので、要素だけを見れば革新的ではありません。しかし、新たな着眼点でそれらを組み合わせ、新しい機能を提供しました。それこそが一番大事だと信じていたから完成させることができたんです。

研究に対する熱意が感じられます。今後に対する抱負はありますか。

船戸今後も無線機器はどんどん増えていくと思いますし、電気自動車など、社会インフラの電動化も進んでいくと思います。すべての車が大電力のエネルギーを使いながら走り、その横の歩道を歩く人はみんな、無線でやりとりをしている。そういう未来はもうそこまで来ています。

そうなりますと、EMCに関連する技術はますます重要になってくると思いますし、現に研究分野は大きくなってきています。世の中に出ていく製品の性能向上は、こうした基盤技術の上に成り立っているということなんですね。そのことに誇りを持ち、これからもわたしたちの生活の安心・安全を支え続けられるよう、研究開発を行っていきたいと思っています。

特記事項

  • 2012年9月6日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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