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企業情報研究開発

スマート社会推進などで無線ネットワークが増える中、電磁ノイズがネットワークの信頼性を低下させる問題があります。信頼性を確保するには、電磁ノイズの出所を特定して対策を取らなければなりません。そこで今回、日立は電磁波の到来方向を可視化する技術を開発しました。

「目に見えないものは説得力がない。だから『可視化』なんです」と大前さん。学生のころから取り組みたかった「可視化」で無線ネットワークの高信頼化をめざします。

(2015年2月5日 公開)

needs×dream 始まった研究

今回開発されたのは、どのような技術なのですか。

写真「大前 彩(おおまえ あや)」

大前広い空間において、電子機器から発せられる電磁ノイズを測定し、可視化する技術です。この技術を組み込んだ装置で電磁ノイズを感知しますと、空間の密度をカラーグラデーションで表現した画像が出力されます。その画像だけでは空間との位置関係がわからないので、カメラ映像と重ね合わせ、どこから発生しているかを「見える」ようにしています。単に計器で測定するだけではなく、実際に電磁波ノイズが「どれくらいの強さ」で「どこ」から出ているか、「見える」ことがこの技術の特長です。

この技術を開発した背景には、信頼性の高い無線ネットワークを作りたいという思いがあります。いま、社会では無線通信をする電子機器がたくさん使われていますが、そのネットワークは、基地局や電子機器から発せられる電磁ノイズが干渉して途切れることがあります。今後、無線ネットワークの利用範囲を拡大していくには、高信頼化が重要なのです。

須賀それで、高信頼化を実現するために、ネットワークに干渉している電磁ノイズを特定したいわけです。しかし、従来の電磁ノイズを測定する技術ですと、測定範囲がとても小さかったり、計算負荷が高かったりと課題がありました。そこで今回、大前さんに提案してもらったのが、「可視化」をキーにした測定技術の開発です。

大前実は、学生のころから電磁波の可視化について研究していまして、入社後もことあるごとに「可視化をやりたい」と周りにアピールしていました。そうしましたら、須賀さんから提案のお声掛けを頂いて。社内でも電磁ノイズの発生元を可視化したいという要望が出始めていたころでしたし、よし、波に乗ろうと。

須賀大前さんが「可視化」をやりたいことは知っていましたので。社内に先行研究を提案できる制度があるので、タイミングを見て「やってみないか」と声を掛けました。通常、研究は事業部などから依頼を受けて始まることが多いのですが、今回の研究は、将来想定される社会的な課題に向けてわたしたちから提案して始まったものなんです。

学生のころからの思いがかなったのですね。「可視化」にこだわったのはなぜですか。

大前ノイズの発生元を特定するにあたって、「あそこから出ているね」と目に見えることがいちばんわかりやすいと思ったんです。人って目に見えないものは、なかなか信じられないじゃないですか。説得力がないんです。可視光以外の電磁波は人の目に見えないので、いくら「電波が出ている」もしくは「まったく出ていないよ」と言っても信じてもらえない。だから「見える」ことがすごく重要だと思っていたんです。

レンズ×センサー ヒントは人の目

仕組みについて、もう少し詳しく教えてください。

大前おおまかに言うと、人の目のような構成になっています。水晶体にあたる「レンズ」で電磁波のエネルギーを集めて焦点を結ばせ、それを網膜にあたる「センサー」で感知します。センサーで感知した情報は、センサーの後ろに接続された回路によって制御用のパソコンに収集され、解析・画像処理されます。そして、出力された画像に、別途撮影したカメラ映像を重ね合わせることで、実際に「どこ」から電磁波が出ているかが「見える」。そういった仕組みです。

図1 技術の概要
技術の概要およびターゲットの説明

大前レンズは「ルネベルグレンズ」というレンズを使っています。完全球体で、素材の特性(比誘電率)がレンズの中央に行くほど変化するんです。そしてレンズの外側に行くほど空気に近くなる。その特徴によって電波がぐーっと曲げられ、一つに焦点を結ぶことができます。また、エネルギーの入射角度ごとに、異なる位置に焦点を結ぶという特徴を持っています。

そしてセンサーは「EBG(Electromagnetic Band-Gap)型電界センサー」を使っています。センサーはいくつもの四角い金属のパターンで構成されており、その金属一つ一つがエネルギーを感知します。とても細かい間隔で金属を配置できるので、分解能が上がるのです。つまり、レンズが結んだ焦点を正確にとらえられる。また、反射が少ないのが特徴で、入ってきたエネルギーを漏れなく吸収して、センサーにつながっている回路に伝えてくれます。

レンズとセンサーを使おうと思ったのはなぜですか。

写真1 技術装置の外観
技術装置の外観写真および各部位の説明

大前人の目が可視光をとらえられるなら、人の目の仕組みを応用すれば違う周波数の電磁波もとらえられるのではと思ったのがきっかけです。あとで調べたら、考え方自体は似たようなものがすでにあったようですね。

それで、レンズとセンサーの組み合わせ候補を考えていたころ、ちょうどEBG型電界センサーの研究発表を聞く機会がありまして。発表を聞き、特性を理解するにつれて「あれ、これは使える?」と。そうしてEBG型電界センサーの使用が決まりました。そのあとレンズを探し…行き着いたのがルネベルグレンズです。

須賀ちなみにこのレンズ、とてもサイズが大きくて。我々が使っているのは直径80cm、重さは50kgあるんですよ。

ずいぶん大きいですね…。

大前はい。今回ターゲットにしていた無線LANの、最小受信感度以下の電磁波を感知するために大きいレンズが必要だったのです。

また、大きいほど感度が高くなるので、できるだけ大きいものをと。おかげで、ターゲットの電磁波を目標よりもかなり高い感度で見ることができました。

アイデア×チーム力 成功の陰に支えあり

システム作りで大変だったところはありますか。

須賀この技術は、ルネベルグレンズEBG型電界センサーを組み合わせたところがポイントですが、ただ組み合わせただけでシステムが機能するわけではありません。例えば、センサーの裏につながれている回路ですが、センサーを構成する金属板が感知したエネルギーを、それぞれから何百本という導線で引き込んできています。その情報を一つずつ解析して1枚の画像を構築していきますので、すごく規模が大きい回路です。それを回路研究のスタッフが力を合わせ、一気に作り上げた。大前さんのコンセプトを短期間で具現化するための縁の下の力持ちといいましょうか。

大前本当に強力にバックアップしていただきました。システムを組んだ経験もあまりなく、特に回路についてはまったく経験がありませんでしたから、わたし自身もすごく勉強になりました。

いちばん頑張ってくださった方で方田さんという方がいらして。いまはアメリカの研究拠点に出向していて不在ですが、是非名前を出していただきたいです!回路作りもそうですし、あとカメラ映像に電磁ノイズ画像を重ねるプログラムの仕組みを考えてくださったりもしました。実はそのプログラム、作成が最後まで後回しになってしまい、「誰が作る?」という状況だったのですが、そこへ助け船を出してくださいました。その後、お互いに「動くかな」「どうかな」と言いながら駆け込みでプログラムを組みました。実は試運転するまであまり自信がなくて。できるかどうか不安だったんです。

須賀自信なかったの?

大前はい。でも試運転してみたら意外と順調に画像が出てちょっとびっくりしました。「あれ…見える」と(笑)。とてもうれしかったのを覚えています。でもスムーズだったのは、最終的なアウトプットを想定してしっかり回路を作ってくださっていた方田さんのご尽力が大きいと思っています。

図2 テスト環境と出力例
テスト環境の写真および出力例

メンバーに恵まれた研究ですね。

須賀そうですね。彼女をサポートするさまざまな分野の技術者が何人もいる。また、うわさを聞きつけて違うチームの人にアクセスするなんてことも、大前さんを中心にやりました。総合力を発揮できた、よいプロジェクトだと思います。

「可視化」で広がる夢

この技術の課題は何ですか。

大前レンズの大きさからお気づきのとおり、現状のシステムは大きすぎて持ち運びできません。まだ原理を確認するためのプロトタイプなので大きいのですが。無線が飛んでいるところに持って行き、実際に測定するためには小型化が課題の一つです。あと、現状のシステムですと、1枚の画を抽出するのに何十秒と掛かってしまっていますので、リアルタイム性も追求したいところです。

また、今回は2.4GHzという無線LANの周波数に合わせて作りましたが、今後さまざまな要望にお応えするために、いろいろな周波数をカバーするのも課題ですね。

夢への取り組みはまだまだ続きますね。

大前そうですね。本当はわたし、ものすごく小さいものを作りたいんです。メガネくらいの。大きいと利用シーンが限られてしまいますから。メガネにはならなくても、タブレットくらいのサイズなら使いやすそうですので、そのくらい小さいものをめざしたいです。

写真「須賀 卓(すが たかし)」

須賀わたしとしてはこの仕組みをもともと取り組んでいる研究でも生かせないかと考えています。この技術は、電波の強さがわかるとともに、どこから出ているかがわかる点がとても画期的です。

わたしたちの研究に、電磁両立性(EMC:Electro-Magnetic Compatibility)という、電子機器が出す電磁ノイズが規定の範囲内であるかどうかの検査について、その検査方法の研究があるのですが、その検査用のアンテナとして使えないかと思っています。日々の電波測定業務にこのシステムを使えるとなれば、他メーカーも含めて利用シーンがぐっと増えるのではと。そんなことも考えています。

また、この技術を社内で発表したときに、利用シーンについてわたしたちも想定していなかったアイデアをいろいろともらうことができました。例えば、コンサートホールなどの高セキュリティエリアで、電子機器の不正利用を検出するなど、セキュリティへの応用です。また、災害時の救援作業への応用案もありました。いろいろな意見をもらって、この理論がいろいろと応用できることに気づかせてもらいました。応用に向けても、これから取り組んでいくことになると思います。

特記事項

  • 2015年2月5日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。

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