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Hitachi

社会インフラシステムを支える日立製作所の製品群。優れた製品で社会に貢献するために日々努力する技術者たちを支え、より早く、より多くのお客さまに製品をお届けしたい。日立は、発電所や変電所の設備など、大規模で複雑な製品の設計工程にコンフィギュレータを適用しました。グローバル市場で勝ち抜くために、社会イノベーション事業のビジネスのあり方を変えていきます。

(2015年10月6日 公開)

事業環境の変化に対応するために

コンフィギュレータとはどのようなものですか。

松井簡単に言うと、入力した要求に合った製品やサービスの組み合わせを自動で選んでくれるシステムです。身近な例では、インターネットで保険のサービスを申し込むときに、希望するオプションを選んでいくと、最後にお勧めのプランや月々の保険額が表示されますよね。あれがコンフィギュレータです。

図1 コンフィギュレータを使用した機器選定の流れ
コンフィギュレータを使用した機器選定の流れを示した図

今回わたしたちが開発したのは、例えば、発電所や変電所の設備のような大規模で複雑な機器構成の製品を設計するときに使用するコンフィギュレータです。設備を設置するプラントで水が使えるかなど、お客さまからの要求仕様に沿って条件を入力していくと、あらかじめ設定しておいたルールに従って、コンフィギュレータが必要な機器を選んでくれる。それぞれの機器にどんな部品が付くか、その製品はいくらになるか、製品を作るのであればどんな図面になるかも出してくれます。

図2 コンフィギュレータ適用による設計工程の変化
コンフィギュレータ適用による設計工程の変化を示した図

芳賀コンフィギュレータの研究自体は以前から行われていて、エレベーターなどの量産しやすい製品の設計にはコンフィギュレータの適用が進んでいました。しかし、大規模な製品の設計にコンフィギュレータを適用することは考えていませんでした。そのころは国内のお客さまの特殊な要求に応えて、1品1品作るということが売りでもありました。

ただ、1品1品作る方法では、仕様を知り尽くしている熟練の設計者しか製品を設計できない。社会イノベーション事業の強化を図る日立がグローバル市場でどう戦っていくかを考えたときに、それでは間に合わない。これまでのやり方を変えて、もっと数を伸ばせる方向へビジネスを変えていく必要があると考えました。
そこで、設計工程にコンフィギュレータを使って、部品を標準化したり、設計をルール化したりするのが有効ではないか、と2010年ごろに研究所から開発を提案しました。

最初から「設計をルール化できる」と考えられていたのですか。

松井わたしたちに確証があったわけではありません。ただ、実際の設計工程では、まるっきり新規に設計するわけではなくて、過去の似た案件を流用して設計しているんです。設計者に話を聞くと、「法則はあるはずだ」とおっしゃる方もいました。ですから、過去の設計の実績データから、統計的にルールを導き出せる部分があるのではないかと考えました。

さまざまな製品に適用できるルール生成技術を確立

熟練の設計者しか対応できなかった設計をルール化するのは難しいように思いますが…

芳賀設計者の頭の中にある「考え方」をモデル化すればいいんです。…と言っても、設計者はいろんな要素を考慮して製品を設計していますから、その考え方を言葉にしたり、計算式にしたりするのは難しいですよね。そこで、設計者がこれまで何回も設計した過去の実績データを分析して、ルールを見つけることにしました。

松井しかし、過去の実績データは膨大ですから、人間が一つ一つルールを抽出していくとなると、とても時間が掛かります。新しい仕様が出てくれば、またルールを作る必要があるし、たとえ1製品のルールができたとしても、ほかの製品には使えません。多くの製品にコンフィギュレータを適用するためには、できるだけ手間を省いて、効率的にルールを作れる仕掛けが必要でした。ですから今回、過去の実績データを統計的に分析して、「こういう条件のときには、こういう結果になっている」というルールを自動で生成する技術を開発しました。

図3 コンフィギュレータのルール生成技術
コンフィギュレータのルール生成技術を示した図

松井コンフィギュレータは、if thenという「もしこうだったら、こうなりますよ」というルールを基に段階的に仕様を決めます。例えば、発電所設備の設計では、設備を設置するプラントで水が使えるかどうかによって、冷却装置が変わります。水が使える場合は水冷式を使うし、水が使えない場合は空冷式を使う。さらに、空冷式を使うのであれば、必要なモーターの出力も連鎖的に決まる。「プラントで水が使えるか」という仕様が決まれば、ほかの仕様も連鎖的に決まるんです。

芳賀今回のルール生成技術では、相関関係にある仕様と仕様を矢印でつないでネットワーク図を作ることで、「これさえ決まればいい」という大本の仕様を見つけ出して、ルール生成を効率化しました。設計者の頭の中にあった知識体系から、重要な関係だけを取り出した感じですね。

現場で活用してもらうためにはまず信頼を得ること

コンフィギュレータの開発でいちばん苦労された点はどこですか。

芳賀製品を設計している工場で、コンフィギュレータを実際に使ってもらうまでが苦労しました。実は、自動で出したルールをそのまま実際の業務に適用できるわけではないんです。ルールが間違っていないか、足りないルールはないか、設計者に意見を出してもらう必要があります。工場の中で設計者をサポートして、コンフィギュレータの適用まで立ち上げていくところが、いちばん重要でした。松井さんにいちばん苦労してもらったところです。

写真「松井 貴元(まつい たかはる)」

松井コンフィギュレータを現場で活用してもらえるように、工場に2年間異動して対応しました。コンフィギュレータは、設計者の仕事のやり方そのものを変えるものです。信頼できる技術だという確信がなければ、現場では使ってもらえない。ですから、コンフィギュレータの必要性を説明して回り、理解してくれる設計者を見つけて、コンフィギュレータを使ってみてもらうことから始めました。

設計者からの信頼を得るために、「スピード命」で取り組みました。例えば、「ルールがちょっと違う」と言われたら、すぐにデータの分析方法を見直して、ルールを更新する。「ここのルールがない」と言われたら、すぐにデータを分析して、「これがルールですよね」と確認する。設計者に少しずつ経験してもらいながら、設計者からの声にすぐに反応することを心掛けました。

設計者の皆さんからの評価はいかがですか。

松井「これがないと仕事が回らない」と言っていただけました。いちばんの喜びです。
コンフィギュレータの開発を始めた当初は、設計を自動化することに対するネガティブな反応もあったんです。設計ってクリエイティブな仕事なので、お客さまに合わせて一つ一つきめ細かに考える、ということに誇りを持っている方が多い。当初はコンフィギュレータの必要性を理解してもらうことが大変でしたから、苦労が報われました。

芳賀わたしたちとしては、設計者の仕事の一部分を自動化することで、設計者の手間を減らしたい。手間が減れば、設計者が新しい製品を考える時間が取れるようになって、本当の意味での創造するところに注力してもらえると考えています。コンフィギュレータが事業の中で安定して使われるようになって、うれしいですね。

新たな技術で設計者を助けたい

今後の展望をお聞かせください。

写真「芳賀 憲行(はが のりゆき)」

芳賀ビジネス的には、すべての日立製品の見積もりや設計に、コンフィギュレータの仕組みを適用できれば、と考えています。特に、日立の社会イノベーション事業は大規模な製品が多くて、ほとんどの製品に見積もりや設計という工程があると思うので、コンフィギュレータでより生産性を高めていきたい。

技術的には、コンフィギュレータに人工知能のような技術を組み込めないかな、と思っています。例えば、インターネットの上の情報を集めて、ルール生成技術のように、設計手順の相関関係を自動で抽出してくれる技術。これまでやったことのない設計でも、「この設計のルールはこうです」と教えてくれる仕組みができあがったらすごいな、と。すごいと思っているだけで、実際に取り組むかはまったくわからないので、これは野望と言うべきですかね(笑)。

松井わたしは、お客さまからの要求を自動で理解する技術を研究したいと考えています。いまのコンフィギュレータでは、3,000ページもあるような仕様書を読み解いて、お客さまの要求を理解するところは、どうしても設計者が行わなければならない。これがとても大変なんです。仕様書から要求を理解するところも自動化できたらいいですね。

もう一つは、製品を製造して、お客さまに届けて、保守して…という、モノづくりのすべての工程をつなげられる自動化の技術ができれば、と考えています。それぞれの工程ではいろいろな自動化の仕組みがあるのですが、工程と工程の間をつなげられていないので、一つずつつなげていければ、と。現実には、完全に自動化することはできなくて、必ず人間が確認しなければならないところが出てくると思うのですが、究極の目標として、めざしていきたいです。

お二人の研究で、ますます日立のモノづくりが変わっていきそうですね。

芳賀いつも、どうやって設計者を支えるか、設計者のためになるのは何かな、と考えて研究しています。
わたしは入社して1年目に、工場の設計者として1年間実習したことがあるんです。そのとき、少人数で新製品の開発をしている設計者の姿を見ました。設計って、すごく大変なんですよ。そのときから、大変な思いをしながら、すばらしい製品を作っている設計者を助けてあげたいな、っていう思いが生まれた。設計者を助けたい、というのが、わたしが最初から抱いている研究のモチベーションです。

松井設計者って本当に忙しいんです。設計者を支えながら、お客さまも日立の事業もハッピーになる技術を、これからも研究していきたいと思います。

特記事項

  • 2015年10月6日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。

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