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Hitachi

生産現場で長く使われてきた産業用ロボット。単純作業を正確にこなすのは得意ですが、複雑な作業や臨機応変な対応は苦手です。難しいことをロボットにやらせようとすると、かえって時間もお金も掛かってしまいます。

ロボットを活用しつつ、品種や生産量の変更にも対応し、安く製品を作るにはどうしたらいいのか—そこで日立が考えたのが「人・ロボット協調生産ライン」です。

人とロボットの巧みな分業で、多品種変量生産に柔軟・迅速に対応し、生産コストを削減します。

写真「梶田 大毅(かじた だいき)」
梶田 大毅(かじた だいき)
研究員

写真「中須 信昭(なかす のぶあき)」
中須 信昭(なかす のぶあき)
主任研究員

(2017年3月27日 公開)

人とロボットのいいとこどり

「人・ロボット協調生産ライン」とはどのようなものでしょうか。

中須人は、複雑なものでも器用に組み立てられます。一方ロボットには、単純な作業を正確にこなすという特性があります。これらを組み合わせて、いろいろな製品を効率よく組み立てられるようにした生産ラインのことです。

近年は嗜好(しこう)の多様化に伴い、「多品種変量生産」といって、さまざまな種類の製品を状況に応じた数だけ作ることが求められます。しかも、製品の寿命が短いため、製品のライフサイクルに合わせて短期間で柔軟に生産ラインを変えていかなければなりません。単純作業による大量生産が得意なロボットだけでは、ニーズに応えられなくなってきたのです。

梶田そもそも「これを本当にロボットにやらせるの」という作業もあります。例えば電気配線。電線はふにゃふにゃ曲がるので、ロボットに持たせたとき、毎回同じ状態にはなりません。だから、ロボット自身が電線を持ったまま先端を観察し、その状態に合わせて動きを決める、という複雑な処理をしなければなりません。こんな複雑なことをロボットにやらせようとすると、とても設備費が掛かってしまいます。

それならいっそ、ロボットに不向きな作業は人がやった方が早いし安いんじゃないか。この割り切りが「人・ロボット協調生産ライン」の基礎になっています。

中須ここ1、2年で、他社からも「難しいところは人がやる」という割り切った考え方が出てきましたが、我々が取り組みを始めた4年前としては、先進的だったと思っています。

人とロボットの分業は、具体的にどういった技術で実現できるのでしょうか。

中須製品や設備の3D-CADデータと、人件費や生産計画といった製造条件をインプットに、生産に必要な情報を一気通貫で自動生成する技術です。「組み立て順序生成」「ライン構成生成」「ロボット動作生成」「人作業指示生成」という要素技術で構成されます。我々は特に「ライン構成生成」と「ロボット動作生成」に取り組みました。

図1 「人・ロボット協調生産ライン」を支える技術
「人・ロボット協調生産ライン」を支える要素技術を示した図

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ライン構成とロボット動作を自動生成

「ライン構成生成」について教えてください。

中須はい。「ライン構成生成」は、ロボットを何台並べてどういう作業をさせるか、人は何人で何をするか、といったライン構成を自動で生成する技術です。人件費や作業の難易度、人とロボットどちらでやった方が安いかを総合的に判断します。工場がどの国にあるかによってもライン構成は変わってきます。人件費や作業者の技能が国によって異なり、それらを考慮するためです。この技術を用いると、生産量の変動に応じて人とロボットの割合を最適化でき、ライン全体のコストを抑えることができます。

「ロボット動作生成」はどのような技術なのでしょうか。

写真「中須 信昭(なかす のぶあき)」

中須簡単に言ってしまうと、製品と設備の3D-CADデータがあれば、ロボットの動作を自動生成できる技術です。

ロボットはプログラムによって動きます。このプログラムを作るには、ロボットのアームがどこをどう動くか、といった動作のための情報が必要です。この情報を入力する方法としては、ティーチングペンダントを使って、ロボットを動かしながら入力する「オンライン・ティーチング」が一般的です。この「オンライン・ティーチング」が大変なんですよ…。

梶田例えば、部品1個を組み立てる動作でも、最初に部品の上空までロボットのアームを移動して、下ろして、部品を持って、もう1回上空に上げて、部品を持ったままアームを移動して、組み立てるところに下ろしつつはめ込んで、部品を離して、アームを上げて…といった動作ごとに、通過する点をいちいち入力しなければなりません。製品は数百もの部品からできていますので、一つ一つ手動で入力すると、とても時間が掛かります。しかも、製品のマイナーチェンジが発生すると部品が変わるため、もう一度入力し直さないといけないんです。

さらに、部品を上空に上げて、なんて簡単に言いましたが、どのぐらい上空まで持っていくか、どのぐらいの速度で部品を置くかといった情報は、現場のみなさんが勘と経験を頼りに入力しています。これだと、作業者によって入力する情報が変わり、ロボット動作の精度が変わってきてしまいます。

こういった課題を解決すべく、これまで手入力してきた情報を3D-CADデータから自動生成する技術を開発しました。製品設計の段階で、3D-CADデータと呼ばれる部品のモデルのようなものを作ります。このデータは3次元なので、位置情報やどういう向きで置かれているかの情報が含まれています。その情報を解析して、ロボットの動作プログラムのインプットにしたのです。

中須150点の部品で構成される製品を使って試行したところ、従来のオンライン・ティーチングでは49時間掛かっていたものが、自動生成だと7時間でできました。この技術で、大幅な時間短縮と、作業者の経験によらないロボットプログラムの作成が期待できます。

図2 ロボット動作生成の流れ
ロボット動作生成の流れを示した図

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サイバーフィジカルが現場を変える

そのほかに、ポイントになる取り組みはありますか。

写真「梶田 大毅(かじた だいき)」

梶田「ロボット動作生成」の研究と併せて、製品の設計ルールを決めるという取り組みをしたのですが、それが結構ポイントだったと思います。

さきほどの「電気配線」のように、そもそもロボットには向いていない作業もあります。かといって、あれもこれもロボットにはできないとなると、ほとんど人が作らないといけなくなります。これだと人件費が膨らんでしまうので、安く作れません。

そこで、まず製品の設計から見直すことにしました。ロボットで作りやすいように製品の設計ルールを定めたのです。設計ルールは、こういう設備やロボットを使うならこういうふうに設計すればよい、という指針になるので、設計者が設計しやすくなるというメリットもありました。

ルールによってロボットで組み立てやすい製品設計になると、「ロボット動作生成」の技術がいっそう効果を発揮します。ロボットを使うことと、製品の設計を見直すことは、両輪で進めていく必要があると実感しました。

中須設計のしかたを変えてもらう、とひと言で言っても、一筋縄ではいかないことなんです。梶田が粘り強く説明し、少しずつ、現場の方に変化を受け入れていただきました。

技術開発とものづくりの現場はひと続きなんですね。

中須そうですね。要素技術をベースにラインが構築され、実際の現場でものを生産しているというところに、この仕事のおもしろさややりがいを感じます。研究にとどまらず、本当に使える設備を量産に耐えられるレベルに仕上げる。そこがこの仕事の醍醐味(だいごみ)だと思っています。

梶田中須さんとわたしは、もともとどちらかというとハード寄りの研究をする別の部にいて、この部署には移籍してきたかたちです。最近、ちょうどコンピューターと現実を融合させる…「サイバーフィジカル」といったキーワードが注目されていますが、まさにそれをやっているのが我々の部署なのかなと思っています。サイバー上で計算したものをロボットという実空間に落として実際に生産させていますので。注目の分野ですし、計算結果がどのように動くのか実際に確認できることが興味深いですね。

「人・ロボット協調生産ライン」について、社内の反応はいかがですか。

梶田「ライン構成生成」で最適なライン構成がわかるので、ロボットは必要な数だけ用意すればよい、というところが受け入れられたようでした。景気がよいとは言えないこのご時世、受注段階で大量生産が決まっていることはそうそうありません。設備への初期投資は抑えたい、というのがみなさんの思いなんです。「人・ロボット協調生産ライン」は、そんな生産現場の思いにうまく応えられたのだ、という確かな手応えを感じました。

写真「中須 信昭(なかす のぶあき)」

中須専用のロボットではなく、一般的に「産業用ロボット」として販売されているものを購入すれば実現できるところもよかったのだと思います。「このロボットじゃないと使えません」と言うと、なかなか広がっていきませんので。

梶田日立は産業用ロボットを作っていません。ですので、社外のお客さまは「日立がロボットって、いったい何ができるんだろう」と思われるかもしれません。これからはお客さまからも認知されるように、学会の発表や論文などで積極的な情報発信をしていきたいです。そのうえで、お客さまとも会話を重ねて、お客さまとともにこの分野を発展させていくことができたらと考えています。

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広がるロボット活躍の場

ロボット研究の今後について教えてください。

梶田いまロボットは、主にマテハン(マテリアルハンドリング)と呼ばれる、部品をAからBに持っていく、定型的な作業に使われています。途中でロボットのプログラムを変えてほかのことをやらせるような使い方は、ほとんど実現できていません。わたしたちは、流れて来たものに応じて毎回ロボットの動き方が変わるようなものをめざして研究を始めています。この場合、対象が来るたびに動作を自動生成しなくてはいけないので、いかに速く計算できるかが課題です。

写真「梶田 大毅(かじた だいき)」

また、計算結果が正しいかどうか、いまは実機を動かして確認していますが、これだと人の判断が必要ですし、時間が掛かります。そこで、計算結果の判定にAIを取り入れ、成功・失敗をデータで蓄積して、毎回うまくいくようにロボットが自ら考える、というのも手段としては可能だと思います。ただ、「ロボットが自動的に学習してうまくやってくれます」だけだと不安に感じる方もいます。AIを取り入れる場合は、安全性や信頼性をどう担保していくのか、併せて考えていかねばなりません。

中須ロボットが活躍する場所は、工場の中だけにとどまらないと思っています。これからは、コンビニで働くロボットなんてものも出てくるでしょう。工場から飛び出して、人のそばで働くロボットに発展できたらいいなと思っています。

特記事項

  • 2017年3月27日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。

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