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企業情報研究開発

写真「榎本 敦子(えのもと あつこ)」
榎本 敦子(えのもと あつこ)
研究員

「まずは答えを出してください」―その言葉が糸口となって、画期的なシステムが生まれました。

数千点もの部品からなる機器の組み立て方法を、高速に自動生成する組立ナビゲーションシステム。長年、培われてきたモノづくりのノウハウも、アニメーションや3Dで効果的に伝えられます。

4年間、試行錯誤しながら作り上げたこのシステムが、設計と製造をシームレスにつなげていきます。

(2014年3月26日 公開)

アニメーションや3Dがモノづくりに貢献

組立ナビゲーションシステムとは、どのようなシステムなのですか。

榎本ひと言で言うと、3D-CADデータを基に、機械部品の組み立て方法を自動生成するシステムです。生成した組み立て方法は、アニメーションや3D作業指示書として出力できます。

日立では、主に産業用の機器…例えば、発電所で使われるような機器の生産指示に、組立ナビゲーションシステムを利用しています。発電機器ですとか、電力制御機器ですとか。部品の数で言うと、数千点ぐらいでしょうか。

こういった機器を工場で生産するとき、どの部品を使って、どういう風に組み立てるのか、作業員に的確に指示を出す必要があります。いまは、海外の工場で生産することも多いので、どんな人でも組み立てられるような指示を出さないといけない。組み立てにもさまざまなノウハウがあるのですが、それを伝える手段として、アニメーションや3Dはとても効果的なんです。

アニメーションなら、言葉がわからなくても理解してもらえそうですね。

榎本そうなんです。以前は、海外に新しく工場を作るとなったら、ベテランの方が半年近く組み立て指導に行っていました。ノウハウを口頭で伝えるとなると、それだけ時間が掛かっていたのですが、組み立て指導にアニメーションを活用することで、指導期間をぐっと短縮することができました。

アニメーション自体も、従来は専用のエディタを使って手作業で作成していたので時間が掛かっていました。3D作業指示書も同様です。CADの画面をキャプチャしてはり付けて、さらにいろいろな指示文言を書いて…とても大変な作業でした。ある工場では、せっかく受注をいただいても作業指示を出すところがボトルネックになってしまうということもあったそうです。

組み立て方法を自動生成できるなら、そこからアニメーションや作業指示書を自動生成できないか。組立ナビゲーションシステムは、工場の方の「願い」から生まれたシステムなんです。

図1 組立ナビゲーションシステムの利用イメージ
組立ナビゲーションシステムの利用イメージ図

正攻法でいくのか、それとも…?

組み立て方法はどのようにして生成しているのですか。

写真「榎本 敦子(えのもと あつこ)」

榎本組み立て方法には規則があるんです。最初はベース部品と呼ばれる大きな部品から組み立てます。そのあとは、部品に上下関係がある場合は下から、奥行きがあるものの場合は奥から、というように。

自分で何かを組み立てる場面をイメージしていただくとわかりやすいと思います。手前から組み立てていったら、邪魔でしょうがないでしょう(笑)。

そういった基本的な規則を、組み立て規則としてあらかじめ定義しておきます。そして、この組み立て規則を利用して、まずは分解方法を探していきます。

組み立て方法ではなく、分解方法を探すのですか。

榎本はい。組み立て方法を探したいなら、まず分解方法を探しましょうというのは、割と一般的な考え方です。分解できれば、組み立てもできますよね。

組み立て規則は、逆にすれば分解規則になります。上の部品、手前の部品から外していって、最後にベース部品を外す。この規則を基に、分解方法を探して、最後にそれを逆にすれば組み立て方法になります。3D-CADデータには、組み立てが終わって完成している状態のモデル(組立モデル)があるので、これを利用して機器をどんどん分解していきます。

何だか簡単そうな印象を受けるんですが…。

榎本いえいえ、この分解方法を探すのがとても難しいんです。なぜなら、部品数の階乗分だけ分解方法が考えられるから。NP困難*1と言われているものなのですけれど、100部品を超えたあたりから、生きているうちに終わらないぐらいの膨大な計算量になってしまいます。

当初は分解方法をすべて出して、それを評価するという方向で考えていました。組み立て方法の自動生成を研究されている方は、ほかにもたくさんいらっしゃいましたが、「分解方法をすべて出す」という点はみなさん同じでしたね。ただ、分解方法をすべて出していては使い物にならないんですよ、実際の現場では。部品が数千点というのも普通で、いまは数万点ぐらいまで要求されていますので…。

なかなか現実的な案が出てこなくて困っていたら、工場の方から「分解規則の順番で出せばいいじゃない」と言われました。「全部はいらないから、まずは答えを出してください」と。その言葉をきっかけに、考えの方向ががらっと変わりました。とにかく1案、これが近いんじゃないのっていうのを1案出せばいいやって。そこで考案したのが「分解順序先送りアルゴリズム」です。

図2 組立ナビゲーションシステムの仕組み
組立ナビゲーションシステムの仕組みを示した図

*1
NP困難:NP(Non-deterministic polynomial times)-hard

困ったときは"先送り"−分解順序先送りアルゴリズムの仕組み

分解順序先送りアルゴリズムの仕組みを教えてください。

図3 分解順序先送りアルゴリズムの仕組み
分解順序先送りアルゴリズムの仕組みを示した図

榎本図3に示すように、大きく分けて三つのステップがあります。

一つ目は、「分解順序の初期案の作成」です。分解規則を基に、とりあえずこの順番で分解してみましょうという案を一つ作ります。これはあくまで案なので、合っていないかもしれません。

二つ目は、「部品の干渉を回避する分解運動の生成」です。最初に外す予定の部品について分解運動(部品を外すときの動き)を生成します。

三つ目は、「分解順序の見直し」です。二つ目のステップで分解運動が生成されれば、その部品は外せるということなので、その部品の順番はそのまま確定します。分解運動が生成されなければ、その部品は外せないということなので順番を先送りにします。

図3の歯車を例に説明すると、歯車には円筒の軸が挿入されています。そのため、歯車はこの円筒の軸の方向にしか動けません。しかし、軸の両端には軸を固定する別の二つの部品があり、歯車と干渉してしまうので外せません。つまり、この歯車に対して、干渉を回避する分解運動は生成できないのです。したがって、順番を次の部品と入れ替えます。

この三つのステップを繰り返し行うことで、分解するときの順序と動きが決まります。最後に、順序と動きを逆にすれば、組み立て方法になります。

部品を動かせるかどうかは、どのように判断するのですか。

図4 幾何学的な拘束と干渉

榎本幾何学的な拘束を基に判断しています。例えば、部品の面と面が接触している場合。これを「平面拘束」と言いますが、この場合は面の法線方向(二つの面に直角で互いに離れ合う方向)と面に沿った任意の方向に動かせます。

右の動画をご覧ください。この歯車の場合は、「円筒拘束」です。円筒軸に沿った方向に動かせます。これに平面拘束が加わると、分解運動の1成分が干渉することになります。このように、幾何学的な拘束により、分解運動成分とその干渉を予測することができます。部品をどう動かせるかというのを、接触する二つの部品の組ごとに一つずつ機械的に見ていって、部品の動きを出していきます。

3D-CADデータには、「動き」に関する情報が明示的に書かれているわけではないので、必要な情報をどのように取り出すのか、その仕組みを考えるのが大変でした。組立モデルは、本来、部品に幾何学的な拘束を付けながらCAD上で組み立てていくものです。しかし、部品を単に配置しただけというモデルもたくさんあります。この場合、幾何学的な拘束は明示的な情報として存在していません。そこで、部品のどの面と面が接触しているのか、または近接しているのか、すべての部品の干渉を解析するということもしています。

いままでのやり方を手放す勇気

ほかに大変だったことはありますか。

榎本アニメーションを生成する処理も大変でした。3D-CADデータはとても重いデータなので、アニメーションを作る前に軽いデータ(軽量モデル)に変換します。この変換によって、3D-CADデータのモデルと軽量モデルとで部品の対応が取れなくなることが、ねじなどの同じ名前を持つモデルで頻繁に起きました。本当はこの部品が動くはずなのに、違う部品が動いてしまうんです。

ねじのように、同じ名前を持つ部品はたくさん存在しているので、名前で部品同士を対応づけるのは難しい。そこで、部品の位置と形状を利用して対応づけることにしました。変換前後のデータを比較して、同じ位置、同じ大きさだったら、これは同じ部品と認識させることで何とかうまく動くようになりました。

仕組みを作り上げるまでに、どのくらい時間が掛かったのでしょうか。

榎本2006年から研究を始めて、形になったのが2009年ですね。4年間やらせてもらって、やっと形になった。とても長い目で見ていただいたと思います。

写真「榎本 敦子(えのもと あつこ)」

最初のころのアニメーションはすごかったです。工場の方にも笑われました。順番がめちゃくちゃ過ぎて(笑)。部品が予想外のところからにょきっと…こう、タケノコのように出てきたりして。最初だからみんな笑ってくれたのですけれど、それはもうひどいものでした。

いまの仕組みに落ち着くまでは、いろいろなやり方を試しました。すんなりと行き着いたわけではないんです。先ほど説明した「幾何学的な拘束を基に部品の動きを判断する」という仕組みも、最初に考えていたものとはまったく違うものになっています。

もともと、この研究は1990年代に産学官による国際共同研究プロジェクト(IMS:Intelligent Manufacturing Systems)でやっていた研究をベースにしています。ただ、そのときに考えていたやり方では、接触する部品との干渉を考慮していなかったので、部品同士が干渉しない動きをうまく抽出できませんでした。

だから、最終的にはそれまでのやり方を全部捨てました。心残りはありましたが、とにかく結果を出すことが大事。早く形にして現場の人に使ってもらえないと、結局は、その研究が生きてきませんからね。

いちばん良い答えを追い求めて

組立ナビゲーションシステムは、現場でどのように使われているのでしょうか。

写真1 3D作業指示書による組み立て作業
3D作業指示書による組み立て作業の様子

榎本海外の工場*2では、組立ナビゲーションシステムを使い、現地生産拠点で3D作業指示書を作成し、指示書を表示しながら、組み立て方法を作業者に指導するということをしています。

現地の方も「これはオモシロイ」と興味を持って取り組んでくれるみたいで。作業指示を出すところは、なんと工場の見学コースになっているそうです。

また、国内の工場*3では、機器の設計が終わったら、組立ナビゲーションシステムで3D作業指示書をばーっと作成してしまうそうです。作成した指示書は現場に送られて、作業者はそれをモニタで見ながら組み立てをするという流れになっているのだとか。

この工場のすごいところは、作成した3D作業指示書を、機器の検査や部品の配ぜんにも利用している、というところです。どこでどんな部品が必要なのか、指示書をベースに準備しておく。また、作業者の動作に何秒掛かっているのか、ログを取るのにも使っているそうです。徹底して使い倒してくれています。

とても愛されているシステムなんですね。

写真「榎本 敦子(えのもと あつこ)」

榎本はい。ありがたいことです。実際に組立ナビゲーションシステムを使っていただいている方からご意見をいただいて、いまも改良を続けています。今後も着々とバージョンアップしていく予定です。

例えば、いまの組立ナビゲーションシステムの仕組みでは、接触している部品に対してだけ、干渉があるかどうかを判断できるのですけれど、接触していない部品も含めて判断できるようにしていきたい。いちばん良い組み立て方法は何ですか、という問いに答えられるようにしたいんです。

また、組立ナビゲーションシステムは人手で組み立てられる大きさの製品が対象ですが、いまはもっと大物の組み立て作業の省力化をテーマに研究しています。プラントの建設とか、大型機器の据え付けとか。クレーンやジャッキなどの補機をどう使うか、どういう経路で搬入すれば効率的か、小さめの部品と違って下準備がいる分、とても難しくて、日々頭を悩ませています。

わたしたちのミッションは、効率よく、品質の高いものを作るためのソリューションを提供していくこと。あらゆる数理的なアルゴリズムやIT手段を駆使して、いちばん良い答えを出せるように、これからも努力していきたいと思っています。

*2
HHPE(Hitachi Hi-Rel Power Electronics Pvt. Ltd.)
*3
日立製作所 インフラシステム社 大みか事業所(制御システムの設計・生産拠点)

特記事項

  • 2014年3月26日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
  • 本記事の作成に当たり、「日立製作所 インフラシステム社 大みか事業所」および「HHPE(Hitachi Hi-Rel Power Electronics Pvt. Ltd.)」の協力を受けています。

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