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企業情報研究開発

マルチホップ無線ネットワーク技術

自動検針システムに適用しスマートグリッドを実現

いつ、どこで、どのくらいの電力が消費されているのか。現代社会において、きめ細やかな電力管理が世界的に注目を集めています。

電力の安定供給、省エネ、さらにはより便利な電力管理システムを実現するために、日立製作所では無線を使った自動検針システム向け通信技術を開発しました。これによって、大規模、しかも刻々と変動する環境でも安定したデータ通信ができるようになります。

(2012年9月27日 公開)

急速に高まるスマートグリッドへの期待

近年、スマートグリッドが急速に注目されています。

写真「五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)」

五十嵐もともと、停電の多い欧米でスマートグリッドは注目され始めました。大規模、長時間の停電が起こる中で、停電個所を把握したり、復旧までの時間を短くしたりするなど、電力を安定して供給していきたいという要望があり、政策の後押しもあって、スマートグリッドが一気に広がりました。

日本でも緩やかにスマートグリッドが注目されてはいましたが、将来必要になるだろう、という程度のものでした。日本の電力系統はとても安定しているので、すぐに導入しなければならないという切迫感はなかったんです。

一方で、太陽光発電などの分散型電源が電力系統に接続されると、電圧の安定化が必要になります。電気は、ちょうど水が上流から下流に下っていくようなイメージで、発電所から家に下っています。出力変動の大きい太陽光発電が多数接続されると、電気の逆流による電圧変動が頻繁に起こることになります。このような場合の電圧も管理したい、という要望も出ていました。

それが、昨年の大震災とそれに伴う計画停電の実施以降、系統の安定化、需給対策などの課題が生じ、スマートグリッドやスマートメーターの注目度が一気に高まりました。どこでどのくらい電力を消費しているかをリモートで管理するために、日本でも導入すべき、という流れになってきています。省エネへの啓もうにもなりますしね。

スマートグリッドの実現に向けて、どのような課題があるのでしょうか。

五十嵐スマートグリッドの一要素であるスマートメーターは、検針するメーターに通信機能を持たせたものです。通信機能を持たせる方法はいろいろありますが、わたしたちは無線通信に取り組んでいます。

この無線通信の課題として、まず「無線が届かないことがある」ということが挙げられます。スマートメーターの検針データは、通信経路の途中でゲートウェイという装置にいったん集めてから電力会社に送ります。しかし、ゲートウェイはコストの面を考えるとあまり多くは設置できません。そのため、スマートメーターからゲートウェイまで無線が届かない場合を考慮した通信経路の構築方法を検討する必要があります。

写真「原田 諭(はらだ さとる)」

原田通信が大規模になるとさらに難しくなる問題があります。無線の通信速度は有線に比べると低速なので、通信時間が長くなります。なおかつ、それぞれのメーターがランダムにデータを発生させると、電波が干渉して、受信側に届かなくなってしまう。また、無線通信の一般的な課題として、2つの送信端末の真ん中に受信端末があることで通信できなくなる「隠れ端末問題」もあります。

こういった問題があると、確率論的に電波が衝突するので、通信のデータ収集率が100%になりません。電力会社が確実にデータを収集するために、このような電波の衝突を回避する方法を考える必要があります。

通信のバケツリレーでデータを届ける"マルチホップルーティング"

1つ目の課題、通信経路の構築方法について教えてください。

五十嵐無線通信では、「無線が届かないことがある」という問題があります。その解決策として、「マルチホップルーティング」が挙がりました。マルチホップルーティングは、バケツリレーのようなかたちで情報を伝送していく方法です。

経路を作るルーティング方式は世の中に多数存在します。標準技術もありますし、各社独自のものもたくさんあります。わたしたちは標準技術をベースにすることにしました。インフラとして使っていくものですし、アメリカで標準技術を使う流れになっていたということも理由としてあります。

標準技術といっても複数あるのですが、今回は「大規模化・スケーラビリティ」に適したものが必要になるので、RPL(IPv6 Routing Protocol for Low Power and Lossy Networks)というプロトコルを採用することになりました。このRPLのルールに従ったうえで、通信経路を構築しています。

図1 RPLの概要
RPLの概念図

図2 ネットワーク構成
ネットワーク構成を示した概念図

五十嵐無線通信では、日々の無線の通信品質によって、最終的なデータ収集率が変わってきます。例えば、車や人が通ったり、エレベーターが動いたりすることによって、通信時のノイズが増えたり、通信強度が変わったり、といったように、環境の変化に左右されるのです。そこでわたしたちは、刻々と変動する通信品質を監視し、「事実的に良いところ」を選ぶ技術を追加して、標準技術の裏で動かしています。

「事実的に良いところ」とは、どのような意味でしょうか。

五十嵐単純に良いところを選ぶのではなく、通信経路の切り替えのバランスを取るということです。というのも、経路を変えるときは、まず「経路を切り替えます」という情報が流れます。そのため、経路を切り替えすぎると、経路構築のための通信、つまり本来送りたい検針データ以外の通信が多く流れてしまい、通信量を圧迫してしまうのです。

つまり、トレードオフなんですよ。通信が悪くなったら良いところを探して切り替えたい。でも、経路を切り替えすぎると通信量が圧迫されて情報が取れなくなってしまう。だからといってまったく切り替えなかったら、通信が悪いままになってしまう。大規模になればなるほど、切り替えのバランスが重要になってきます。

わたしたちの技術では、「いかに緩やかに経路を切り替えるか」が特徴となります。過去数回分の情報を使いながら、「だめだ」とすぐに判断しないで、緩やかに切り替える。明らかにだめだったらすぐに切り替える。センサネットワークやマルチホップの研究をしてきた過去の知見から、そのあたりの基準はいろいろと持っているつもりです。

通信のタイミングを制御してより確実な通信をめざす

2つ目の課題、通信データの衝突を回避する方法について教えてください。

原田無線通信は有線通信に比べて通信速度が低速で、通信時間が長くなります。その上ランダムにデータが発生すると、衝突や輻輳が起こって、通信できなくなってしまいます。そこで、通信のタイミングを制御するという考えが解決策として出てきました。

図3 タイムスロット割り当て方法
タイムスロットの割り当て方法を示した概念図

原田図3のように、ゲートウェイと直接通信できるものには短い時間を設定して、中継回数に応じて何倍、というようなスケジュールにするといちばんコンパクトに収まります。ただし、いままでゲートウェイと直接通信できていても、間に建物が建ったり、車が通ったりして直接通信できなくなることがあります。そこでほかの端末を経由するとなると、通信時間が倍になってしまう。そのたびに通信スケジュールを組み直すのは難しいので、ある程度余裕を持った時間をそれぞれの端末に割り当てておいて、経路が変わってもその時間内で通信を終わらせる、というようにしています。

これもやはりトレードオフです。性能だけを追求するのではなく、運用面も考えながら開発しています。

限られた時間の中で確実にデータを収集するのは難しそうですね。

原田そうですね。それに、図4のように、データの収集だけでなく、逆にメーター宛てにデータを送ったり、ファームウェアのアップデートを通知したり、といったように、実はやりたいことがほかにも多くあります。そのすべてを事細かに区切っていくと、時間が足りなくなってしまうんですよね。そこで、重要なデータ、ある程度ロスしても良いようなデータ、というように、データに優先度を付けて、うまく時間内で収まるように組み合わせています。いろいろな要求を一定の時間内で実現できるような方式を考えるところに苦労しました。

図4 自動検針システムで使用する通信フロー
自動検針システムで使用する通信フローを示した概念図

構内実証実験で確かな技術をアピール

研究所構内で大規模な実証実験をされたそうですね。

写真「原田 諭(はらだ さとる)」

原田こういったことは机上の計算だけでは不十分で、やはり実際に試してみる必要があります。そこで、この横浜研究所に無線機を200台取り付け、評価環境を構築して実験しました。

実験は、「30分ですべての無線機からデータを1回収集する」という条件下で行いました。そのため、まとまったデータを取るには丸々1日放っておかないといけません。また、設置した無線機に初期不良が出ることもあって、それを回収して設置し直すこともありました。データを集めるまでに、時間的にかなり苦労しましたね。

次は500台規模での実験を予定しています。500台で動かすことは必須だと考えています。今回の研究では、理論上2,000台規模の情報を収集できるとしていますし、技術者としては2,000台規模まで実験したいと思っています。ですが、実際には困難ですので、時間を縮めて対応することを考えています。簡単に言うと、時間を1/4に縮めて500台通信できれば、2,000台も通信できる、というイメージです。

無線機を設置する場所はどのように決めたのでしょうか。

五十嵐実際にメーターの置かれる環境を考えながら決めました。例えば、一軒家だとある程度間隔を空けてメーターが設置されますが、集合住宅だと1部屋に全メーターが密集して置かれるところもあるので、そのような環境をシミュレーションしました。ある程度まばらに置かないと通信できないし、まばらすぎても通信できないかもしれない。どこに置けばマルチホップするか、といった感覚的なものは、だんだん蓄積されてわかるようになってきました。

実際に街中で通信を実現するときはどのような課題が考えられますか。

写真「五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)」

五十嵐ビルだと、メーターが地下にあることがあります。集約装置は基本的に電柱に設置されますが、無線はあまりコンクリートを突き抜けていかないため、通信しづらくなることが考えられます。また、再開発地区など電柱がないところだと、集約装置が道路上の金属のボックスの中に設置されますが、金属で覆われてしまっている場合も無線は届きづらくなります。このように、環境によっては、どうしても通信がうまくいかないところもあります。

インフラとして使っていくには、100%無線ではなく、ほかの技術も使わないと難しいでしょうね。ただ、無線がメインの技術であって、ほかの技術が補完の技術であってほしいとは思っています。

社会に広く適用できる技術にするために

研究や実験を通じて、初めて気付いたことはありますか。

写真「原田 諭(はらだ さとる)」

原田まず一つは、運用管理が重要だということです。無線通信だと、やはり100%収集するのは難しい。それをどうリカバリーするかというところを含めて、運用管理を考えていかないといけないな、と思っています。

また、実験の結果、電波が届く条件が想定していたより厳しいことに気付きました。そういったところをもう少し考慮して、ブラッシュアップしなければ、という思いもあります。

もともとモノを作ることが好きなので、楽しんで進めていけたらいいなと思います。ノウハウ的なものはまだまだ未熟なので、そのあたりを勉強しながら、後々は自分が思ったものはすぐ作れるような技術を身に着けていきたいですね。

今後、この技術はどのように活用されていくのでしょうか。

写真「五十嵐 悠一(いがらし ゆういち)」

五十嵐いま、時間帯別に電気料金を変える「デマンドレスポンス」という話が出てきています。スマートメーターが入ると、この時間帯にこのくらい電気を使っている、ということがわかるので、電力ピーク時に料金を変えて、使用者の自主的な節電を促したり、特定の電力の負荷を制御したりできます。双方向でさまざまなことができるようになるわけです。

また、自動検針システム向けに作った技術ではあるのですが、自動検針システムに特化しているわけではないので、ほかのアプリケーションにも使っていきたいと思っています。

個人的には、もともとセンサネットワークを研究していたので、いろいろなセンサの情報をこのネットワークで取れたらおもしろいだろうなと思います。例えば、農業にはいろいろなセンサを利用するので農場の情報だったり、ビルの強度もセンサで採取できるので耐震性の情報だったり。いままで取れなかったアナログな情報、センサの情報が取れるようなインフラにできればうれしいです。今後の研究にも張り合いが出ますね。

特記事項

  • 2012年9月27日 公開
  • 所属、役職は公開当時のものです。
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