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Hitachi

AIを用いた患者の再入院リスクの予測値とその根拠データを提示することができる情報ダッシュボードを開発

退院前カンファレンス向けに、より効果的なケアプランの作成・実行につながる議論を支援

2018年12月12日
株式会社日立製作所


図1 AI予測結果の根拠データ管理技術を搭載した再入院リスク情報ダッシュボードの利用イメージ

  日立は、米国Partners Healthcare社と共同で、退院患者の再入院リスク要因となり得る特徴量を抽出して、医師や介護福祉士などの医療・介護関係者間で連携すべき課題を可視化することができる、退院前カンファレンス*1向け再入院リスク情報ダッシュボードを開発しました。本ダッシュボードでは、電子カルテなどの診療データから人工知能(AI)を用いて患者の再入院リスクを予測する従来技術に加え、新たに開発したデータ管理技術により、その根拠となるデータを高速に検索することができます。退院後の患者にとって、より効果的なケアプランの作成・実行につながる議論を支援することで、患者のより良い健康状態の維持などQoL向上および社会保障費の抑制に貢献します。

  現在、退院後にケアが必要な入院患者に対して、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士、介護支援専門員などの医療・介護関係者が集まり、電子カルテなどの診療データから退院後にケアすべき点を洗い出して、ケアプランを作成する退院前カンファレンスが行われています。日本では2018年度の診療報酬改定から、本カンファレンスに参加する、より多くの職種に保険点数が付与されるようになるなど、医療・介護関係者にカンファレンスの実行を促す制度面の改定が進んでいますが、現場ではケアプラン作成に必要な各専門分野の情報が必ずしも十分に共有できていない状況となっています。

  そこで日立は、2017年12月に開発した心疾患患者の再入院リスクの予測値と、その要因となり得るリスク特徴量を抽出する人工知能(根拠を説明できるAI)*2のアルゴリズムを用いて、予測結果の根拠となるデータを検索可能な根拠データ管理技術を開発しました。さらに、本技術を用いて、Partners HealthCare社と共同で、医療・介護関係者間の連携を支援する再入院リスク情報ダッシュボードを開発しました。

  本技術の効果をPartners HealthCare社の約1万人分の診療データを用いて検証したところ、日々の診療により電子カルテなどのデータが随時更新される状況においても、患者ごとの再入院リスクの予測値とその根拠データの情報共有が可能であることが明らかとなり、開発したダッシュボードの有用性を確認しました。

  今後、日立は、本技術を地域包括ケアシステムなどのヘルスケア分野向け情報システムに適用することで、医療・介護関係者間の連携を支援していきます。

今回開発した再入院リスク情報ダッシュボードの特長

1. AI予測結果の根拠データ管理技術を搭載

  (1)診療記録などの学習用データソース、(2)処方歴での薬剤名の出現度合いなど、再入院リスク要因となり得るリスク特徴量*3、(3)そのリスク特徴量を用いて再入院リスクを予測する学習済みモデルの3つを、これらのデータ処理フローの情報から関連づけて記録・管理するデータ処理技術を開発しました。これにより、「根拠を説明できるAI」が抽出した「単語」およびその出現頻度(リスク特徴量)から、その「単語」を含む「段落」や「文書全体」などのデータソースを検索することが可能になりました。また、リスク特徴量の計算において、同じデータ処理フローの結果を再利用することで、この検索に必要な特徴量算出の処理時間を従来の約20分の1に短縮することができました。


図2 根拠データ管理技術の仕組みとその効果

2. さまざまな業務に従事する医療・介護関係者でリスク特徴量が議論可能

  「根拠を説明できるAI」が抽出した対象患者の再入院リスク特徴量(上位50個)を、過去に再入院歴のある患者および無い患者のリスク特徴量(それぞれ上位50個)と比較可能なダッシュボードを開発しました。これらのリスク特徴量を、患者背景情報や入退院サマリ*4と合わせて表示することで、対象患者の退院後のケアプランを作成する上で重要なリスク特徴量を絞り込みやすくします。
  また、例えば、「milk」という単語がリスク特徴量として抽出された場合、それだけでは意味が不明確であれば、この単語が含まれるデータソースを検索し、「Milk of Magnesia for constipation (便秘向けにマグネシウム乳を処方)」という記録を表示することができます。
  さらに、本ダッシュボードでは、リスク特徴量にコメントを付けて整理することが可能です。例えば、薬剤師の「腎疾患患者にはマグネシウム乳の処方は注意すべき」というコメントを「milk」というリスク特徴量に関連づけて記録することができます。このコメント機能により、医療・介護関係者間で連携すべき課題の洗い出しが容易になり、これまで以上に患者の状況を把握しながら退院前カンファレンスでの効果的なケアプランの作成・実行が可能になります。




図3 再入院リスク情報ダッシュボード画面
(上: リスク特徴量表示例、中: 根拠データ管理技術利用例、下: カンファレンス参加者によるコメント記録・整理例)

*1
退院前カンファレンス: 患者が退院する前に、退院後の注意すべき点を検討する会議。退院時カンファレンスともいう。
*2
2017年12月12日ニュースリリース「日立とPartners HealthCareが、AIを用いて心疾患患者の再入院リスクの高精度な予測に成功」 https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2017/12/1212.html
*3
特徴量: 人工知能の計算処理前に、データソースを加工して、何らかの特徴の意味付けをした数量のこと。例えば、ある特定の薬剤名称が退院時処方に多く現れることが、再入院のリスクを意味する可能性のある場合、その薬剤名称の出現頻度をリスク特徴量として、処方歴データソースから加工して数量化しておく。
*4
入退院サマリ: 入院時所見から入院中検査、処置、および退院時状況などにつき概要を記した書類。

照会先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

掲載先

このトピックスは、以下の新聞に掲載されました。

2019年1月24日