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「家族」も「仕事」も「自分」も大切にする働き方へ 〜日立が実践するこれからのワークスタイルとは〜

他人事ではない、今、そこにある職場の危機とは?

現在、いろいろな企業の職場で「人が足りない」という話を聞く。人が辞めても新しい人員をなかなか補充してもらえないので、現場が悲鳴を上げているわけだ。中には契約社員や派遣社員を雇うことでその場を乗り切ろうとするケースもあるが、業務はその会社の文化や業務知識、プロセス、人のつながりがわかっていなければ遂行できないことも多く、思った以上の効果を発揮できるとは限らない。

仮に人員が補充できても、慢性的な人手不足の職場は負のスパイラルに陥りやすい。新しい人が入っても、もともと人数が足りていないから十分な教育ができない。そのため新しい人員の能率が落ちるとともに、職場にも溶け込めない。その結果、新しい人員がすぐに辞め、再び残りのメンバーで業務を続ける。そうして残りのメンバーも長時間労働に耐えきれずに辞めてしまうという悪循環だ。もちろん、目の前の仕事で手いっぱいな職場から、顧客が求める新たな提案や発想が生まれるはずもない。

ここで挙げた話は、何も特殊な話ではない。多かれ少なかれ、誰もがこうした話を見聞きしているはずだ。少子高齢化などによる労働人口の大幅な減少という問題に直面しつつあるなか、企業にとって人財の流出は職場の危機につながる重大なリスクの一つだといえるだろう。また、結婚・出産・育児といったライフイベントで休職や離職を余儀なくされる場合もある。さらにこれからは高齢化によって、介護で働き盛りの社員が休む、退職するといった事態も増加していくだろう。

このような危機がある一方で、問題解決に取り組み、いきいきと働く職場を社員に提供しながら、さらなる成長を遂げつつある企業もある。その一つが日立製作所(以下、日立)だ。日立では、1990年代から人財戦略としてダイバーシティマネジメントに取り組み、「制度」「IT」の整備を両軸に着実に進化させてきた。多様な人財が活躍できる環境整備の一環として、ワークライフマネジメントにも注力し、“フレキシブルワーク(場所と時間に縛られない働き方)”の実現をめざし、より成果を出しやすい働き方を積極的に推進しているという。

以降では、営業職Aさん、技術職Bさん、管理職Cさんへの取材をもとに、どのような働き方が可能になり、仕事やプライベートにおいてどのようなメリットが生まれたのかについて紹介する。

営業職Aさん、技術職Bさん、管理職Cさん プロフィール

営業の第一線で働ける理由は、「場所」と「時間」からの脱却にあり!

Case1 営業職 Aさんの場合

1歳になる子どもを抱えながら、営業の第一線で働くAさん。現在は短時間勤務や在宅勤務を組み合わせ、見事に育児と仕事(営業職)を両立している。しかし職場に復帰する前は、正直、気持ちの上で迷いもあったという。

「もちろん日立では以前から、育児と仕事を両立している方がたくさんいます。ただし、営業は“お客さまありき”の仕事。お客さまに迷惑をかけることになるのではないか、チームに負担をかけるのではないか。そう考えることもありました。ただ、営業の仕事が好きですし、これまで培ってきたお客さまとの信頼関係を失うのはすごく残念で…」


「紙と仕事に埋もれていた10年前の職場」と
「現在の職場環境」
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Aさんが不安を口にしたように、以前は日立でも、営業から他の部署へ異動するケースも少なくなかったという。その理由の一つは営業が「時間に融通が利かない」仕事だったからだ。事実、10年前まで、一般的な営業担当者のデスクには紙文書が山積し、昼間は客先へ出かけるため書類の整理や報告書作成などは帰社してから。残業も珍しいことではなく、オフィスにはずっと照明が点いているような状況だった。

オフィス(場所)に縛られる業務が多いことも、育児中の女性が営業職を断念せざるを得ない大きなハードルとなっていた。例えば、営業資料の作成は、紛失のリスクから社内環境でしか行えず、そのために会社に戻らなければならなかったという。こうした状況下ではどうしても育児と仕事を両立させることは難しくなってしまう。

しかし、現在はさまざまなITを使った仕組みのおかげで多くの問題を解決している。その中核を担っているのが、2004年より導入し、現在では日立グループ全体で約9万人が使用している「シンクライアントを活用したシステム」だ。シンクライアントシステムとは端末(パソコン)側にデータを保存できない仕組みのこと。集中管理されたデータセンターから画面情報だけを転送する仕組みであるため、万一、端末を盗難・紛失したとしても情報漏えいなどの心配がなく、出先や自宅で安心して業務に従事することができるようになった。現在、端末からは、オフィス系資料の閲覧・作成、メール、スケジューラはもちろん、さまざまな社内アプリケーションが利用できる。

シンクライアントシステムを活用して、自宅でも外出先でも安心して作業を進めるAさん。

「営業資料については、ほとんどが自宅や外出先で作成できるようになりました。ちょっとしたスキマ時間を見つけて作業を進められるのでとても効率的になりましたね」とAさんは喜ぶ。

「それに、シンクライアントだけでなく、タブレットなどのスマートデバイスでも社外から安全にアクセスできるようになったので、さらに便利になりました。移動などの合間にタブレットを取り出して簡単なメールを作成したり、タブレット画面を共に見ながら資料を確認したり、利用場面は格段に増えましたね。会社が用意してくれたさまざまなITの仕組み、支援制度、それから上司や同僚の理解、この三つがそろっていたから、私は営業職を続けられているのだと思っています」とAさんは語る。

父親にとっても、仕事と子育ての両立は重要というBさん

Case2 技術職 Bさんの場合

ハードウエアの設計に携わるBさんは、30代の男性。二児の父親だ。共働きのため裁量勤務制度を活用し、保育園に子どもを送ってから出社している。今では「イクメン」で通るBさんだが、第一子が小さい頃は仕事を優先せざるをえず、妻への負担が気がかりだったという。それは急な体調不良で子どもが保育園を休んだときの対応についてだ。

「保育園に預けてからしばらく、子どもが発熱したり、体調を崩すことが多く、その度に妻ばかりが休むことになっていました。実家は遠く、急に呼び出せるような距離ではありません。私が休めれば妻の負担が減るのですが、いろんな関係者を交えた会議も多く、急に休むことは難しかったです。なるべく子育てや家事を平等に分担したいという理想があったのですが、思うようには行きませんでした」

しかし今では、Aさん同様、シンクライアントから出先や自宅でも多くの業務をカバーできるようになったため、二人目の子どものときには、子育てを分担できるようになったという。

「私がよく活用しているのはWeb会議です。これがあれば子供が病気のときも、自宅から会議に参加できます。仕様検討やハード的な構造などについて話すことが多いのですが、その修正や変更箇所を伝える際に、電話やメールの文章だけでは、詳細なイメージが伝わりにくい。その点、Web会議システムは必要な資料を全員で共有しながら会話できるので、出張やFace to Faceの会議は必然性のあるときだけ。移動時間を大きく節約できたので、その分を違う仕事にあてることもできるようになりました」

Web会議のメリットはそれだけではない。現場判断や情報共有のスピードも格段に増している。最近の業務はプロジェクトベースで進むことも多いため、Bさんのいる部署だけでなく、他の部署や拠点、研究所や関係会社ともやり取りすることが多い。「関係者が多い場合は、会議を設定するだけで時間も手間もかかっていました。しかし今では、スケジューラですべての出席者の空き時間がすぐにわかるし、Web会議なら場所も関係ないので、キーパーソンを簡単につかまえられます」とBさんは話す。

Bさんが効率的に働けるようになったのは、Web会議の仕組みに加え、「サテライトオフィス」という存在も大きい。サテライトオフィスとは、本社、支社・支店などに用意された、打ち合わせ用のミーティングスペースや、出張者用の作業スペースのこと。わざわざ自席に戻らなくても、そこに置いてあるシンクライアントや自分のシンクライアントを使って作業が行える。「私の業務は、重要な技術情報を扱うことも多いため、外出先のどこからでも作業ができるわけではありません。そんなとき出張先のサテライトオフィスを使えば、Web会議をしたり、必要な業務を行ってから自宅に直帰することも可能です」とBさんは話す。

Web会議やサテライトオフィスを使って、仕事と育児を両立するBさん。

新たなワークスタイルにより、Bさんの家庭では、子どもが急病になったときは、夫婦で交代に休むようになり育児の負担も分散された。最近ではBさんが保護者会に出席することもあり、会社とは違う人間関係が良い刺激になっているという。

身近に部下がいるとは限らない――。
新しい働き方で生じる管理職の不安や懸念は?

Case3 管理職 Cさんの場合

最後に紹介するのは、広報の管理職(課長)を務めるCさんのケースだ。現在、フリーアドレス化された社内で、Cさんは数人のチームをまとめている。Cさんのチームにも育児中の部下がいる。それだけに、部下が常にCさんの近くにいるとは限らない。違うフロアにいるときもあれば、出張先や自宅にいるときもある。

話そうと思ったとき、近くに部下がいない。あるいは自分が業務をしている時間に部下が業務中ではない――。新しいワークスタイルの実践によるこうした状況は、管理職にとって不都合はないのだろうか。例えば、チームとしての一体感がなくなったり、在宅勤務やサテライトオフィスにいる部下の勤務状況を把握できないといったケースも考えられる。

しかしCさんはまったく不都合はないと答える。

「『座席ナビ』というプレゼンス管理システムを使えば、オフィス内でどこに誰がいるかという所在確認もできます。また、シンクライアントで仕事をすると、業務時間がログとして残るため、勤務状況の把握も可能です」

それ以外にも、チャットが可能なインスタントメッセージや、内線電話を自動的にスマートデバイスに接続するFMC(固定・携帯電話融合サービス)を使って、頻繁にチームでやり取りしたりできるため、物理的に場所が離れている場合でも業務に必要なコミュニケーションは取れているという。「もちろん、定期的にFace to Faceのミーティングもします。むしろ普段は離れていて直接会わないからこそ対面での会話の密度や重要性が強くなりました。適切な手段でコミュニケーションを継続していけば、チームとして一体感は失われません」。

「座席ナビ」による所在確認

それどころかチームの意識が、「個人プレイヤー」として働くのではなく、「チームの一員」として働くという意識に変わってきているという。それは「誰かがいなければ、自分を含む他の誰かがサポートしなければならない」という状況であるため、誰がどんな仕事を抱え、どんなステータスなのかを正確に把握する必要があるからだ。そのため情報共有をチーム内で徹底して行うようになっているという。

また、Cさんが部下を評価する視点も変わりつつある。以前は長時間労働で遅くまで残っている部下であっても期ごとに成果がでていれば評価していた。しかし、時間に制約のある社員が当たり前のチーム状況下においては、「かかった時間」も意識するようになり、時間当たりの生産性や価値創出を重視して日常的なフィードバックをするようになったのだという。「さらに、ライフイベントをきっかけに辞める人が少なくなったため、人員が足りないと悩むことも少なくなりました。これは私の部署だけではありません。またひょっとしたら、近い将来、私たちの世代の中にも親の介護などで会社に来られない人が出てくるかもしれません。そうしたライフイベントにも柔軟に対応できる環境があることは、働き手として安心ですね」とCさんは話す。

このようにITや制度をチームマネジメントに最大限に活用することで、チームでの価値創出を最大化していく「ワークスタイル」が浸透しつつある日立。どのようなライフスタイルの変化にあっても「働き続けられる」と思える安心感を提供することによって、有能な人財の継続雇用が可能になった。また、在宅勤務など柔軟な働き方が選べることで、通勤費や出張費、オフィススペースの削減といった直接的なメリットも生まれているという。

さらに日立では自社での実践を踏まえ、顧客の「働き方改革」を支援する組織「クライアント統合ソリューションビジネス開発ラボ」を設立。顧客との対話とソリューション提供を通じてより良い働き方を提案していく考えだ。「働き方改革」に有効なIT環境の整備のみならず、コンサルティングまで含めて、トータルなサポートが行えるメニューを整えているという。もし新しいワークスタイルを模索しているのであれば、まずは日立に相談してみるとよいだろう。

特記事項

  • この記事は、日経ビジネスOnline Special(2014年10月)に掲載されたものです。
  • 記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。
  • 記載の仕様は、製品の改良などのため予告なく変更することがあります。