もちろん、DISの成果は源氏物語絵巻の復元だけにとどまらない。各分野の専門家との協働作業のもとでさまざまな先導的プロジェクトを推進しており、国内外において高い評価を受けている。
そこでの代表的な事例のいくつかを以下に紹介したい。
◆二条城・二の丸御殿「海棠の木」復元
2003年に築城四〇〇年を迎えた二条城は、世界遺産に登録され、なかでも二の丸御殿は国宝に指定されている。この建物ならびにその内部に現存している多数の障壁画を後世に伝えるべく、京都市は1972年から障壁画模写事業を実施し、文化財の保護・保存に努めてきた。
そうしたなかで日立は、京都デジタルアーカイブ研究センター(当時)が実施する二条城プロジェクトの一環として、障壁画模写制作の精緻な技のアーカイブと、切断されて他の場所に転用されたと考えられる障壁画のデジタル復元を受託。長年にわたって模写制作に従事してきた専門家の学説をもとに、二の丸御殿式台の間にあった腰高障子貼付絵に着目し、DIS技術によって失われた障壁画を復元した。
◆バーミヤーン大仏群の復元
破壊される前のバーミヤーン遺跡の大仏や天井壁画などを映像データベースによって仮想復元した。
バーミヤーン渓谷のパノラマ写真プリントは、京都大学の学術調査隊による複数の測量用写真を結合し、さらにカラー写真から色情報を移したもので、差渡し1300メートルの風景が一枚に収まっている。多視点の画像を結合したこのパノラマ写真は、地形を非常に正確に表すと同時に、肉眼では決して見られない風景であるという特徴を持つ。
また、天井壁画のデジタル復元プリントは、さまざまな角度から撮影された写真と、フランスの調査隊による描き起こし図をもとに、撮影角度や色調の違い、天井部の湾曲による歪みを補正して一枚に合成。さらにスケッチを重ね合わせることで、その内容をより容易に理解できるよう工夫されている。
◆戸隠神社・龍の天井絵復元
長野県の戸隠神社中社には、慶応元年(1865年)に狩野派の絵師河鍋暁斎によって描かれた「龍の天井絵」があったが、約60年前に火災によって消失してしまった。
そして2002年、戸隠神社からの依頼を受け、この天井絵の再現プロジェクトがスタートした。復元にあたって最大の難関は、現存する資料がたった一枚の絵葉書しかなく、それを約千倍に拡大しなければならなかったことだ。当然のことながら、絵葉書を単純に拡大したのでは墨線の輪郭がぼやけてしまう。そこで日本画家の模写の技法をDIS技術に取り入れることにより、暁斎の筆遣いを損なうことなく、消失前の天井絵を再現することに成功した。

長野県・戸隠神社からの依頼を受けて復元した「龍の天井絵」。3.6×3.6メートルの大きなサイズの墨絵であるが、資料はたった1枚の絵葉書(9×14センチ)しかなかった。東京芸術大学文化財保存学日本画研究室の協力のもとで作成された模写をコンピュータに取り込み、絵葉書にある墨の濃淡情報を融合することで、暁斎の筆遣いを再現した。
現在、DIS技術はヨーロッパやアジアにも活躍の舞台を広げている。そうしたなかでの象徴的な取り組みが、「国際DIS研究所(フィレンツェ)」の設立ならびに、そこを拠点とした新たな活動の推進だ。
同研究所は、イタリア・トスカーナ州、フィレンツェ大学、日立の三者によるアグリーメントに基づくもの。RAI(イタリア国営テレビ)内にあるフィレンツェ大学研究施設内に設立予定である。そこには、イタリアと共同でさまざまな文化財修復やアーカイブプロジェクトを推進し、DIS技術を進化させながら事業モデルを確立していくという狙いがある。
日立としては、トスカーナ各地の文化財を含む多様な地域情報について、地図をベースとした階層状のアーカイブを行い、マルチメディアデータとして集積する「デジタル・トスカーナ」と呼ばれるプロジェクトを提案中である。
もっとも、こうした国際間のコラボレーションが一足飛びに実現したわけではない。1999年より東京大学とともに取り組んできた「古代都市ローマ/ポンペイ遺跡:象形文化集積検索システム」など、文化財保護において文化と技術の両面から果たしてきたDISの貢献が、イタリア政府によって認められたことが大きな背景としてある。
「私個人としても、現在イタリアからは特別の待遇を受けています。同国文化財庁の前長官であり学術界のトップに立つパウロッチ氏から、過去にイタリア国外へ一度も出したことのない『受胎告知』をはじめとするウフィツィ美術館のダヴィンチの絵画を日本に持ち込んで展示するためのデジタル化権までいただくことができました。DIS技術を通じて、精緻なダヴィンチの絵画を広く世界に発信していくといった、かつてない画期的なプロジェクトを展開したいと考えています」(神内氏)