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Hitachi

顧客や社会から信頼され、選ばれる企業になるべく
競争力強化と成長を見据えた
ITインフラを整備

関西電力は電力・ガス自由化に伴うコスト競争力の強化と、成長を加速させるイノベーションの推進を図るため、ITインフラ基盤の刷新を行った。新ストレージ基盤のSIベンダーに選定された日立製作所は、先進的な技術を使い、正副両センターから同時アクセス可能な「センター間仮想ボリューム」を実現。大規模災害時の事業継続性と運用性を向上するとともに、攻めのデータ活用に向けた高性能かつスケーラブルなインフラ構築を支援した。


成長戦略の推進に向けITインフラ基盤の強化を決断

川合 昭徳氏
関西電力株式会社
IT戦略室
情報技術グループ
川合 昭徳氏

 いかにコスト競争力を高めながら、成長を加速させていくか。これはすべての企業にとって共通の課題だといえるだろう。その実現に向け、着実な歩みを進めているのが関西電力だ。同社は電力・ガス自由化に象徴されるエネルギー新時代を勝ち抜くため、中期経営計画に10年後のめざす姿として「高収益企業グループの実現」「ビジネスフィールドの拡大」「強い経営基盤の構築」という方向性を明確化。これに伴い、競争力強化に向けた高効率経営の実現、成長を加速させるイノベーションと事業領域の拡大、盤石な送配電事業の推進といった観点から様々な取り組みを進めている。

 この一環として、2016年から同社ではITインフラ刷新プロジェクトを推進している。その理由について、関西電力 IT戦略室の川合 昭徳氏は次のように述べる。

 「大きく3つの目的がありました。1つ目が、現在の信頼性と可用性を担保したまま、調達コストを最適化すること(コスト削減)。2つ目が、従来の運用負担を減らしつつ、柔軟なディザスタリカバリ環境を実現し、事業継続性のさらなる強化を図ること(サービス向上)。3つ目が、電力・ガス自由化でスマートメーターからのデータ収集量が増えることを見越し、性能向上を図ることでした(品質の向上)」(川合氏)

 今回のITインフラ刷新では、2つ目のディザスタリカバリの強化において、副センターのストレージに切り替える操作を不要とする機能が新たに必須となることもあり、3つの要件すべてにおいてストレージ基盤の強化が重要なポイントになったという。

 ただし、その実現は言葉で表現するほど簡単ではない。今回対象となったストレージ基盤は、同社のITインフラにおいて最重要設備といっても過言ではないからだ。

田口 達也氏
関西電力株式会社
IT戦略室
情報通信センター
ITインフラ技術グループ
田口 達也氏

 「このストレージ基盤は、オープン系サーバーの標準ストレージとして、発電、送配電、営業、管理・間接(総務・購買・労務)など、全部門の事務処理系システムからの利用を前提としています。そのデータ量は約300テラバイトで、バックアップや正副センターのレプリケーションも含め、現在約1ペタバイトの容量を確保しています。右肩上がりに増えているデータ量は、今後4年間で2倍以上になると想定しており、将来的なハードウエアコストや運用コストをいかに低減できるか、業務の重要性を考慮した無停止移行が行えるかも重要なテーマとなっていたのです」と同じくIT戦略室の田口 達也氏は語る。つまり、従来の信頼性・可用性を担保しつつ、システムの自由度を高め、性能向上とコスト削減も狙うという、かつてない困難なプロジェクトになることが予想されたのだ。

 そこで、関西電力では複数のベンダーにRFP(Request For Proposal:提案依頼書)による提案を依頼。慎重に検討した結果、最終的にパートナーとして選ばれたのが日立製作所(以下、日立)だった。

要件にとどまらない付加価値の高い提案を高く評価

 このプロジェクトになぜ日立が選定されたのか。その1つは、日立の先進的なストレージ技術への評価と期待感に加え、的を射た総合的な提案が大きなポイントになったという(図1)。

図1 関西電力に向けた日立の提案のポイント
図1 関西電力に向けた日立の提案のポイント

 「当社は一部のシステムでメインフレームを使っており、接続できるストレージの選択肢が限られています。そのため、メインフレームとオープンストレージをこれまで同様、分けて運用する提案が多かったなか、日立さんはこの2つのストレージを仮想統合して、メインフレーム専用ストレージを削減するプランを提案してくれました。これが当社のコストや運用負荷削減のニーズにフィットしたのです」(川合氏)

藤原 宏樹氏
関電システムソリューションズ株式会社
ITサービス事業本部
ITサービス第1部
電力IT基盤第1グループ
藤原 宏樹氏

 一方で、関西電力のITインフラ運用を支援する立場からプロジェクトに参加していた関電システムソリューションズの藤原 宏樹氏は「既存サーバー環境との接続性保証」も大きな決め手になったと話す。

 「ベンダーロックインの排除に向けて、これからサーバーをマルチベンダー化するといっても、現状はまだ古いハードウエアやOSが混在した状況にあります。新ストレージ基盤は今後の移行過程において、そういった新旧混在のシステムとの確実な接続性を担保しなければなりません。ほかのベンダーからは“レガシーシステムはサポート外”と説明されましたが、日立さんだけは“接続性を保証します”と断言してくれた。過去からの接続検証事例をナレッジベースで多数持たれていることも安心感を覚えました」(藤原氏)

 実際、日立は設計部隊と現場SEが何度となくテレビ会議を行い、重要なユーザーデータが絶対にロストしないように、多種多様な障害ケースを想定したテスト項目を設け、スムーズに検証作業を進めていった。つまり、RFPでの要求項目にとどまらない、一歩踏み込んだコスト削減案や、システムトータルでのサポート力といった付加価値が高く評価されたといえるだろう。

センター間仮想ボリューム方式を採用し、事業継続性を強化

 こうして、ストレージ基盤刷新プロジェクトを2017年1月からスタート。日立は、高性能・高信頼の仮想ストレージ「Hitachi Virtual Storage Platform G1500(VSP G1500)」を中核に、外部ストレージとしてVSP G200やVSP G100を適用し、関西電力の要件を高水準で満たすシステムを構築。2017年10月に予定通りカットオーバーを果たした。新ストレージ基盤の導入後まだ期間がたっていないが、すでにいくつかの導入効果をもたらしつつあるという。

 今回のプロジェクトで最大のポイントとなったのが、日立独自のActive/Activeなボリュームミラーリング機能「GAD(global-active device)」を適用した「センター間仮想ボリューム方式」の採用だ。GADでは、正副センター2台のストレージを、1台の仮想ストレージとして定義することができる。ストレージ間では同期コピーが実施されており、サーバーからは常に同一データを保持する1台の仮想ボリュームにアクセスし続けているイメージとなる。このため、一方のサイトで障害が発生してもサーバー側から副センターのストレージに切り替える操作が不要となり、業務を継続できる(図2)。

図2 日立独自のGADを適用した「センター間仮想ボリューム方式」
図2 日立独自のGADを適用した「センター間仮想ボリューム方式」
これまで必要だった副センターのストレージに切り替える操作を不要化することにより、仮想化基盤やサーバー、
クラスタソフトなど、マルチベンダー製品の組み合せでセンター間HAクラスタリングが実現できる

 関西電力は、以前から事業継続性の強化に向けたディザスタリカバリに力を入れ、センター間のActive/Standby構成によるHAクラスタリングとサイト間ストレージの同期コピーで、RPO(Recovery Point Objective:目標復旧地点)ゼロという、リアルタイムな業務切り替えを実現。さらにこの技術には特許も有している。

 「しかし、そのためにはストレージ切り替えのスクリプトをOSごとに開発し、維持運用するための負担が大きかったのです。クラスタソフトに加え、VMware vSphereのフェイルオーバーに対応したGADの適用で、そうした負担とサーバーのベンダー依存性がなくなり、コストを大幅に削減しながら従来通りの信頼性と可用性を持つActive/Active構成が実現できました」と田口氏は満足感を示す。

 さらに日立の無停止データ移行ソリューションにより現行ストレージからの無停止移行が実現。将来的にもデータ移行作業での工数削減や業務停止時間の最小化が期待されている。

外部ストレージのマルチベンダー化も実現

 VSP G1500と日立のストレージデバイス仮想化機能「Universal Volume Manager(UVM)」の組み合わせで、外部ストレージのマルチベンダー化も実現した。

 「データ量の増加に伴う実容量の追加では、ベンダーに依存しない柔軟な外部ストレージが選択できます。このため、将来にわたってコストの最適化が図れるようになりました」と川合氏は説明する。

 SAS(Serial Attached SCSI)ディスクから高速なSSD(Solid State Drive)に移行したことで、I/Oレスポンスも大幅に向上。データ量の増加で業務開始時間に食い込みつつあった夜間バッチ処理にも余裕が生まれた。さらに、SSDの導入による運用コストの削減効果も期待できるという。

 「データ処理量の急増をSSDがしっかり受け止められるようになったことで、ディスクの負荷分散対策などに頭を悩ませることがなくなり、OPEX(Operating Expense:事業運営費)やCAPEX(Capital Expenditure:設備支出)の低減にも効果が生まれると考えています」(藤原氏)

 今後、関西電力ではこの新ストレージ基盤を、電力・ガス自由化時代の競争力強化と新事業拡大に向けたイノベーティブな分野においても積極的に活用していく構想としている。

 「電力・ガス自由化に伴い、今後はより積極的にデータを活用し、新たなサービスの創出やお客さまの満足度向上につなげていく必要性が高まります。今回のプロジェクトでお客さまや社会から信頼され、選ばれる企業グループとなるためのITインフラが整備できたと思っています」と川合氏は語った。

USER PROFILE

関西電力株式会社関西電力株式会社

関西電力株式会社
[事業内容] 電気事業、熱供給事業、電気通信事業、ガス供給事業など
[住所] 大阪市北区中之島3-6-16(本店)
[設立] 1951年(昭和26年)5月
[代表者] 取締役社長 岩根茂樹
[資本金] 4,893億円(2017年3月)
[従業員数] 21,314名(2017年3月)

特記事項

  • このページは、2018年2月8日から2018年3月7日まで「日経ビジネスオンライン SPECIAL」に掲載されていた内容を抜粋したものです。
  • 掲載記事の無断転載を禁じます。