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通信・ネットワーク

Hitachi

携帯電話やWiMAXなどのモバイル通信インフラを通信事業者から借りてサービスを提供する「MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)」に参入する企業が相次いでいる。社会インフラとして定着したモバイル通信を取り込むことで、ビジネスに付加価値を提供することができるからだ。とはいえ、新たな事業領域に進出するためには、少なからぬ課題もある。
では、MVNOで成功を収めるためのポイントはどこにあるのか──。2010年2月24日に開催された「MVNO Forum 2010」」(主催:日立製作所、IDGインタラクティブ)において、その解が明らかにされた。

行政施策として新たなモバイル環境の整備を推進

会場内は満席となり、熱心に講演を聞く来場者でにぎわった
写真1:
会場内は満席となり、熱心に講演を聞く
来場者でにぎわった

「MVNO Forum 2010」の会場は立ち見が出るほどの大盛況となり、熱心にメモを取りながら講演に聞き入る聴講者であふれかえった(写真1)。彼らの目的は、MVNO市場を取り巻く最新情報を収集することと、MVNO事業で成功するための秘訣を探ることである。数年前から注目を集めているMVNOだが、それに関する情報が不足しているのが現状のようだ。

大塚康裕氏
写真2:
総務省の大塚康裕氏は
MVNO市場を活性化
するための行政施策に
ついて説明した

最初のセッションでは、総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 課長補佐の大塚康裕氏が、モバイル通信市場の活性化に向けた行政施策について解説した(写真2)。

総務省では、携帯電話を中心に広がったMNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)による垂直統合(1社単独)型のビジネス・モデルを見直し、端末からコンテンツ・アプリケーションまでの各レイヤーを水平分業(協働)で展開する「オープン型モバイルビジネス環境」の整備を推進。その一環として、MVNOの参入促進にも力を入れている。

大塚氏は、「MVNOの新規参入を促進することで、事業主体の増加によるサービスの多様化と、MNOでは実現できなかった新規市場の創出が見込める」と述べ、具体的な施策として、MVNO事業にかかわる法規の適用関係を明確化する目的で2002年5月に策定した「MVNO事業化ガイドライン」について詳説した。

同ガイドラインは2007年2月、2008年5月と改定を重ねる中で、MVNO事業を支援するMVNE(Mobile Virtual Network Enabler:MVNOの事業を支援する事業者)の定義、MNO側の対応方法(利用料金の標準プラン策定・公表や対応窓口の設置)なども追加され、MVNO事業のよりスムーズな参入を可能にした。その1つの成果として、2009年7月に開始されたWiMAXサービスでは、MNOであるUQコミュニケーションズのネットワークを利用した多数のMVNOが誕生している。

大塚氏はさらに、通信市場の環境変化に対応した接続ルールのあり方にも触れ、「モバイル分野では、MNOの設備共用ルールやローミングの制度化、課金・コンテンツ料回収代行など通信プラットフォーム機能のアンバンドル化といった公正競争環境整備の検討を進めている」と語った。

通信の価格競争が招いたデフレスパイラルを打開するための鍵

北俊一氏
写真3:
野村総合研究所の
北俊一氏は
「国内MVNOは
グローバル展開を
めざすべき」と提言した

続いて登壇したのは、野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 上席コンサルタント アジア情報通信プラクティスグループリーダーの北俊一氏だ(写真3)。同氏は、総務省のモバイルビジネス研究会や通信プラットフォーム研究会、ICT国際競争力会議ワイヤレスワーキンググループなどの委員を歴任し、現在はグローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースの委員を務めている。

北氏は、「日本の情報通信産業は、価格競争が招いたデフレスパイラルに陥っている。この局面を打開するには付加価値創出競争が不可欠であり、そのためには多様なプレーヤーの連携によるMVNOの登場が望まれる」と提言したうえで、国内・海外のMVNOに関するトピックを交えながら、MVNOビジネスのポイントと課題について語った。

北氏は、MVNOには、(1)目的としてのMVNO=純粋に通信事業として取り組む、(2)手段としてのMVNO=本業を強化するためのツールとして利用する、の2つのタイプがあり、新規参入に際して「どちらをめざしているかを明確にすることが重要」と指摘した。さらに、Appleの「iPhone」、Googleの「NexusOne」、Amazon.comの「Kindle」など、レイヤーや国境を越えた新規参入の例を取り上げ、「今後はグローバル展開を見据えた競争が不可欠。国内MVNOも海外進出を意識した事業計画を立てていくべき」と提言した。

また、MVNOビジネスにおける最大の課題として端末調達リスクを掲げ、その解決方法として、MNOのSIMロック解除を前提とした「SIM-only MVNO」および携帯電話以外のデジタル機器を生かした「ユビキタス端末」の実現に期待を寄せた。

同氏はさらに、「MVNOは立派な通信事業者であり、経験値が必要である。新規参入プレーヤーは自社の本来の強みを伸ばすことに専念する一方で、通信事業のノウハウ、特にOSS/BSSに関して強みを持つMVNEと組むことでWin-Winの関係を構築することが可能となる」と語り、ノンコア機能を補完するプレーヤーとしてのMVNEの重要性についても指摘した。

ネットワークを活用した新たなサービスを創造

中澤秀夫氏
写真4:
日立製作所の
中澤秀夫氏は
同社がMVNO市場の
牽引役となるべく
本腰を入れる姿勢を
強調した

続いて、主催者である日立製作所ネットワークソリューション事業部 ソリューション本部 本部長付の中澤秀夫氏が、MVNOビジネスを支援する同社のMVNE事業を紹介した(写真4)。

中澤氏はまず、MVNOの事業形態として、(1)回線のリセール、(2)回線接続、(3)サービスのネットワーク化、の3つのモデルを提示し、「MVNO市場拡大のためには、(3)のモデルで付加価値の高いサービスが多数提供されるようになることが不可欠」と述べた。

また、最も注目するMVNOビジネスとして、自らも利用しているAmazon.comの「Kindle」を取り上げ、愛用の電子ブックリーダー端末を掲げながら、「読書用途としての必要十分条件を満たしており、非常に使いやすい。このような専用端末であれば、ファブレス(自社で生産設備を保有せず、外部に生産を委託している企業)での提供も容易になってきているため、MVNOでも短期間で独自ブランド端末を使ったサービスを立ち上げられるだろう」と語った。

オール・イン・ワンのMVNOシステム基盤を披露

中澤氏のセッションの後半では、日立製作所がMVNE事業として2009年7月から提供を開始した「日立MVNO事業支援サービス」についての詳しい説明がなされた。

法制度の整備などによってMVNOへの参入障壁は確かに低くなり、さまざまな業種で事業化への意欲が高まっているものの、通信ビジネスに必要なノウハウ、すなわちシステム基盤や端末調達にかかる初期投資のリスク、ユーザー対応窓口の構築・運営、サービスの拡張など、現実的な課題が少なからずある。「そこで、当社が通信事業者向けビジネスで培ってきた経験・ノウハウを生かし、MVNOサービスを短期間かつ低コストで立ち上げられる仕組みを開発することにした」と中澤氏はサービス提供の背景を述べた。

「日立MVNO事業支援サービス」は、WiMAX事業者のUQコミュニケーションズに採用されたフルアウトソーシング・サービスを体系化したもので、高品質・高信頼のサービス基盤を提供する「MVNEプラットフォーム利用サービス」と、顧客対応窓口の開設・運営を支援する「コンタクトセンタサービス」で構成されている。

併設された展示会場では、MVNO向け「ハード一体型All-In-Oneシステム基盤MV1」に注目が集まった
写真5:
併設された展示会場では、MVNO向け
「ハード一体型All-In-Oneシステム基盤
MV1」に注目が集まった

「MVNEプラットフォーム利用サービス」では、MNO側の通信設備との接続管理システム(OSS)および顧客管理や料金計算などの業務支援システム(BSS)をネットワーク経由で利用できるSaaS型メニューに加え、2009年12月からは、高付加価値サービスをめざす中規模MVNO向けに、OSS/BSSモジュールをブレードサーバに搭載し、容易なカスタマイズと柔軟な拡張を可能とした「ハード一体型All-In-Oneシステム基盤 MV1」の販売も開始した(写真5)。セッションの中では「ハード一体型All-In-Oneシステム基盤 MV1」を例に掲げ、実際の業務フローに照らし合わせて、その導入メリットが紹介された。

さらに中澤氏は、モバイル回線インタフェースの拡充やサービス基盤の拡張による幅広い業種への対応などを進め、「水平分業型によるモバイルビジネスのバリューチェーンのつなぎ役として、プラットフォーム提供型MVNEをめざしていきたい」と意欲を語った。

MVNO市場の成長を展望 既存のビジネス・モデルを変革

田島淳氏
写真6:
MVNOの先駆者である
日本通信の田島淳氏は
「MVNO市場には強い
追い風が吹いている」と
語った

プログラムの最後は、MVNOの先駆者として1996年から事業を展開している日本通信 取締役 工学博士の田島淳氏が、自社のサービス提供例を交えてMVNO業界の動きを現場の視点で紹介した(写真6)。

田島氏は冒頭で2枚の写真をスクリーンに映して、有害鳥獣(イノシシ)の捕獲監視および飼育牛の繁殖期診断を提供しているMVNO事例を説明し、「このようなニッチな市場はいたるところにあり、通信を“部品”としてうまく使えば新しいビジネス・モデルを生み出せる。MVNOの意義は、さまざまな産業と通信の融合を誰でも実現できることにある」と語った。

また、日本通信がMVNEとして支援している日本ヒューレット・パッカード(HP)の事例も紹介された。これは、3G携帯電話および無線LANのモジュールを組み込んだノートPCとともに、自社ブランドのチャージ式モバイル・ブロードバンド・サービス「HP Mobile Broadband」を提供するというもの。田島氏は、「これまでの通信事業者とメーカーの関係を考えると、主従が逆転したようにも見える。MVNOビジネスは、既存のビジネス・モデルを変革させるインパクトも持ち合わせている」と指摘した。

そして、MNO側でも以前のようにMVNOをタブー視することなく、むしろ“新しい営業チャネル”として捉えるようになってきたことに注目し、「オープンな環境を整えるにはクリアすべき課題がまだまだあるものの、MVNOビジネスに強い追い風が吹いているのは確かだ。すでに70社を超えた国内のMVNOはさらに増加し、それによってモバイル通信の世界が大きく変わっていくことはまちがいない」と今後の市場を展望した。

〔株式会社IDGインタラクティブ オンライン・メディア「Computerworld.jp」から抜粋〕

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