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  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 事例 金融サービスのさらなる進化をめざし
    証券業務のデジタルイノベーションを推進

    2019-09-30

    金融の高度化をめざすFinTech の流れが加速する中、フロントオフィスのサービスだけでなく、バックオフィス業務まで一気通貫したデジタル化へのニーズが高まっている。そこで三菱UFJモルガン・スタンレー証券は日立との協創により「リテール事務共通システム」を開発。規制上の要件が詳細多岐にわたるため実現が難しかった証券業務をデジタル化する共通基盤を導入。顧客の利便性とサービス品質の向上、証券業務の負荷軽減を実現した。

    フロントオフィスのデジタル化だけではFinTechの効果を最大化できない

    金融サービスを顧客視点でとらえ直し、利便性の高いサービスと提供価値の向上によって金融の高度化をめざすFinTech。既にAIやビッグデータを活用した資産運用のアドバイザリーサービス、チャットボットによるコールセンターサービス、スマートフォンを使った決済サービスなどが次々と登場している。

    これまでFinTechは顧客とのタッチポイントをデジタル化することで、さまざまなイノベーションを生み出してきた。しかし、課題もある。その最たるものが、さまざまなアナログなプロセスを含むバックオフィス業務だ。特に日本の金融機関では個別最適化されたレガシーなシステムが多く、システム間連携やそれに伴う業務処理が複雑になりがちだ。そうなるとフロントオフィスを変革しても、バックオフィスで業務が滞ってしまう。

    こうした課題を打破し、業界に先駆けて証券事務のデジタル化を進めているのが三菱UFJモルガン・スタンレー証券だ。

    「金融機関を取り巻く環境が大きく変化したことで、さまざまな課題が顕在化しています。店舗やインターネットなど多様なチャネルを使いながら、いかにお客さまニーズに対応した利便性の高いサービスを提供していくか。また増え続ける紙ベースでの事務処理や規制対応・リスク管理を限られた人員でいかにミスなく効率的に処理していくか。こうした課題を解決するためにEnd to Endのデジタル化が必須要件になると考えていました」と語るのは、同社の杉村 章弘氏だ。

    従来、同社では、顧客から受領した帳票の受付、確認、回付、審査、承認など、紙を主体とした事務が手作業中心で行われており、制度の新設や改正の都度、帳票改定や業務フローの変更作業、新業務フローの周知・定着にかかる負荷などが大きな課題となっていた。さらに、これが顧客サービスの向上を阻害する要因の1つにもなっていたという。

    「例えば対面営業では、お客さまに窓口で必要書類を何枚も書いていただく、不備があった場合は後日書き直していただくなど、ご負担をかけるケースもありました。またインターネットなどの非対面チャネルでも、受付後の社内事務では情報を複数の業務システムに入力し直すなど、非効率的な業務が残っていました。このためサービス開始までに時間がかかったり、本来時間をかけて行うべき運用の相談や商品説明に時間を割けない場合があったのです」と同社の杉山 和宏氏は説明する。

    そこで同社は、フロントからバックオフィスに至る複数の業務システムとデータ連携し、事務のデジタル化を実現するシステムの導入を決定。そのパートナーに日立を選定した。

    三菱UFJモルガン・スタンレー証券のコールセンター

    新システムでは、画面には事務ガイダンスが表示されるため、
    担当者のスキルに依存しない顧客対応が行え、サービス品質が向上した

    ワークショップを基に課題を明確化しフラットな視点で業務フローを改善

    「新システムの導入にあたっては、複雑化した業務フローや仕事の進め方などを抜本的に見直すことが求められていました。それを社内の人間だけで議論しても今までのやり方からは脱却できない。コンセプト立案の段階から外部の知見やアドバイスを取り入れ、よりよいシステム開発に生かす方法はないかと検討した結果、実績豊富な日立のExアプローチ*1 が最適だと判断しました」(杉村氏)

    日立は、ステークホルダーを巻き込んだワークショップをベースに、現行の事務業務フローをExアプローチで可視化して業務改善ポイントを明確化。事務工数を大幅に削減するとともに、将来の制度変更などのシステム改変にも柔軟に対応する基本設計を行った。

    「ワークショップでは、システムで代替できる業務は何か、人でしか行えない業務はどれかなどを皆で議論し、フラットな視点で新しい業務フローを作り上げていきました。この過程で、昔から積み上げてきた業務に無駄な工程が潜んでいたことを実感しました。また日立に業務フローのデモ画面を作っていただき、現場ユーザーの意見を取り入れながら何度も改善を重ねたことで、皆が使いやすく一体感を持ったシステム開発につなげることができました」と杉山氏は評価する。

    ルールエンジンとガイダンスにより事務処理の標準化を実現

    2018年8月に運用を開始した「リテール事務共通システム」は、営業店やコールセンター、インターネットなどチャネルごとに異なる手順や帳票を標準化・ペーパーレス化するとともに、関連システムとのデータ連携を自動化し、業務負担を大幅に削減。ルールエンジン*2 の実装で、顧客の申込情報に基づいた各種チェックや入力項目の不備・相関チェックが自動化され、制度改正などによる手続変更が発生した場合でもシステム改修にかかるコストや期間を削減できるようになった。

    導入からわずか1年で、既にその効果は現れている。

    「例えば新規口座開設の場合、従来はお客さまに説明した後で紙に必要事項を記入していただく方法をとっていました。新システムではこれを対話型に変え、お客さまとやりとりしながら画面上に一緒に入力していきます。お客さまの記入負担が減るだけでなく、分かりやすさも向上したと好評です。画面には事務ガイダンスが表示されるため、営業員のスキルに依存しないお客さま対応が行えるようになり、入力項目やいただく書類に漏れやミスがなくなりました。これにより口座開設にかかる時間が半減し、不備により帳票を再度記入いただくこともなくなりなりました」(杉山氏)

    これまで複数システムで行っていた事務作業が集約されたことで、非対面のインターネットやスマートフォンでの口座開設、顧客の属性変更などをワンストップで完結する証券事務のSTP化*3 が実現。顧客別・営業員別の取引進捗状況も一元的に把握・管理できるようになった。

    「証券会社の社会的な務めは本来、投資に関する情報や知識をお客さまにきめ細かく提供し、市場の動きを正しくジャッジしながら大切な資産を増やしていただくことにあります。近年は事務手続きの煩雑化やリスク管理に時間を取られ、お客さまへのご提案やご相談に割くべき時間の確保が難しくなる傾向がありました。しかし今回のシステム導入によって、これを本来のあるべき姿に戻していくことができると考えています」(杉村氏)

    今後も三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、本システムの適用範囲拡大と、フェーズ2として取り組んでいる外訪営業員のタブレット端末活用により、3レス(ペーパーレス、印鑑レス、入力レス*4)をコンセプトにした証券事務のSTP化を推進し、顧客の利便性向上や事務の効率化・生産性向上を一段と強化していくという。

    また日立は、本システム構築で得た知見をデジタルソリューション「Lumada」のユースケースとして広げていく構えだ。

    *1
    日立の価値協創手法。関係者が協力しながら本質的課題と解決策の理解・共有を図る日立独自のフレームワーク。
    *2
    業務要件やビジネスの制約をルールとして定義・細分化して管理する仕組み。
    *3
    Straight Through Processingの略。証券取引において発注・売買成立から決済に至るまでの一連のプロセスを、人手を介さず電子的に行うこと。
    *4
    他システムへの二重入力がないこと。

    杉村 章弘 氏
    三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
    取締役 常務執行役員
    コンプライアンス・法務・事務統括

    杉山 和宏 氏
    三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社
    事務統括部長

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    はいたっく2019年11月号掲載記事(本記事は、日経ビジネス2019年9月30号に掲載されたものです。)