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Person1 田澤由利さん【前編】

田澤さん、なぜ今、
テレワークなのですか?

一人目のキーパーソンは、柔軟な働き方を実現するテレワークを推奨し、国の地方創生プロジェクトにも参画する株式会社テレワークマネジメント代表の田澤由利さん。テレワーク・在宅勤務の実現が、企業にどのような価値をもたらすのかを尋ねました。

働けない人が働けるようになるのが、テレワーク

田澤さんが代表を務めていらっしゃるテレワークマネジメント社。テレワークという言葉が社名に入っておりますが、まずは会社について簡単にご紹介いただけますか。
テレワークマネジメントを立ち上げたのは2008年です。自分がテレワークをしながら、在宅勤務者を雇用してきた経験を活かして、離れた場所で仕事をする「テレワーク」という働き方を世の中に広めるために作った会社です。 企業に対するコンサルティングが主な業務になります。テレワークを実現するためには、働く人よりも、まず企業が変わらないといけませんからね。
立ち上げた当初は、「仕事と生活を両立するワークライフバランス」と言ってもなかなか必要性を認めてもらえなかったのですが、近年はテレワークを国が推奨していることもあって、追い風を強く感じています。
田澤さんは国の委員会などで提言をされる立場にもあるわけですが、現在、政府ではどのような取り組みが進んでいるんですか。
複数の省庁がそれぞれの目的に合わせてテレワークを推進しています。
厚生労働省であれば、ワークライフバランスという観点から。国土交通省であれば、都市集中緩和、地方分散という観点から。経済産業省であれば、地方の中小企業を強くするという観点だし、総務省であればITの活用という観点です。
まさに国を挙げて、という感じですね。その背景には、何があるんでしょうか。
最も大きなものは、34年連続で少子化が続き、働き盛りの30代の人口が減り続け、人財不足の波が到来しているという問題です。これを解決しなければ、日本は立ち往かなくなるという危機感を持って各省庁は取り組んでいます。
すなわちテレワークを取り入れると、働きにくい、あるいは働けなくなった人が働けるようになるということですね。たとえば、どんな状況の人が働けるようになりますか。

これまでの日本の社会では、9時から17時まで、オフィスに来て働くのが当たり前というのが絶対的な価値観でした。たとえば、保育園のお迎えの時間に間に合わない、あるいは自宅で親の介護をしなければならない。そんな環境に置かれた人は働くことをあきらめざるを得ませんでした。 ところがテレワークを導入すれば、働く場所と時間が解放されますから、辞める必要はありませんし、会社も貴重な人財を継続して活用できます。
自分もそうでしたが、夫婦共働きだと保育園などの送り迎えは本当に大変ですよね。 よくあるのが、朝、少しぐらい熱があっても、子どもを保育園に預けてしまう。そうすると案の定、保育園から電話がかかってくるんですよね。「熱が出ました」って。で、結局みんなに謝って仕事を抜け出して、保育園に迎えに行く。
よく37度線って言われますよね(笑)。でもテレワークならば、子どもを寝かしつけた後に、自宅で仕事の続きができるので、「迷惑をかけずに済んだとホッとする」という話を聞きます。

育児休業中に、膨らみ続ける不安

育児休業ってありますよね。もちろん必要な制度ですが、その間の1年は、どうしてもキャリアロスになるわけです。中には出世に響くからと、出産を先送りしたり、1人目の大変さから2人目をあきらめたりする人もいて、少子化の要因にもなっていました。
キャリアアップを図りたい女性にとっては大きな悩みですよね。
うちの社員の1人は、育児休暇は何となく「権利」のように使ったけれど、実際休んでみると自分の帰る場所がなくなるんじゃないか、と不安でいてもたってもいられなかったと言っていました。現実問題、会社も空いたポストを他の誰かで埋めないといけないわけですから。

その不安は分かります。復帰すればしたで、人間や仕事の中身がガラリと変わっていて浦島太郎状態になってしまって、またそれがプレッシャーになる。
そうなんです。そこで最近、育児休業中に在宅勤務で働く人が増えているんです。
実は2014年10月に、育児休業給付金の給付規定が変更されました。従来は1カ月に10日以上働くと給付金がもらえませんでした。たとえ、1日1時間しか働かなくても、です。それが、1カ月に80時間以内まで働いて大丈夫、に変更されました。
毎日数時間ずつでも働けるので、本人の不安も解消されますし、浦島太郎状態になることもないですし、会社だって助かりますよね。コンサルさせていただいている企業の中で、職場復帰の3カ月前からスムーズに業務に戻れるように在宅勤務をスタートさせるケースがありました。
世の中はちょっとずつ働きたい人が働きやすい社会に変わってきているんですね。

実は、日本こそテレワークに向いている

柔軟な働き方の実現は、日本の未来に重要なのはもちろんですが、海外でも先進国では少子高齢化は進行していますよね。海外は今どんな状況なんですか。
アメリカやヨーロッパは、もともとテレワークがしやすい国で、日本より若干進んでいるかもしれません。たとえばアメリカの仕事のやり方は個人主義、かつ成果主義です。在宅で状況が見えなくても、アウトプットをちゃんと出せば、それでOK。成果に応じた対価が支払われるので、テレワークしやすい国と言えます。
ヨーロッパは、バケーションが1カ月あるように、家族との生活を大切にする社会です。がむしゃらに働くのではなく、柔軟な働き方を許容する土壌があります。
ところがアジアは、日本だけでなくお隣の韓国もそうですが、急速な経済成長を遂げるために、朝から夜遅くまでみんなで働くことが美徳だった時代が長く、なかなか柔軟な働き方が浸透しにくいんです。
日本は、テレワークのような柔軟な働き方に対する心理的な抵抗感が根強いということですね。
アメリカのテレワークを勉強した時に思ったんですけど、アメリカ人は、石橋を叩きながら渡ります。課題があっても、とりあえず始めてみる。一方、日本人は不安を一個一個挙げながら、石橋を叩いているうちに壊しちゃうんです。
渡らないで壊しますか(笑)。それじゃ始まらないですね。
でも今、日本企業はテレワークを実現しないと立ち往かなくなる状況にあります。そうなると日本は時間がかかるとしても、すべての不安を解消できる完成度の高い仕組みやルールを整えるでしょう。結果として日本型テレワークは、アメリカよりも成功する可能性が高いんじゃないかと思っています。
アメリカでは、大手IT企業の在宅勤務制度が廃止されたことが話題になりましたよね。
やはり、見られていないとさぼる、ということがわかって廃止に至ったそうです。アメリカはとりあえず石橋を渡り始めたものの、今、真ん中ぐらいで止まっている、という状況でしょうか。
日本人は真面目で、協力し合うことに喜びを感じる傾向があります。しっかりとした仕組みやルールがつくられて、みんなの意識が「よし!」となれば、日本型テレワークが一気に進んでいくんじゃないでしょうか。

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