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Hitachi IoT Platform Magazine

4人目のキーパーソンは、企業やNPO、起業家のコンサルタントとして活躍されている一般社団法人ソーシャル・デザイン代表理事の長沼博之さん。人々の多様な幸福感を引き受ける「パラレルキャリア」という新しい働き方の必要性を説きます。

誰もが生産者

ラボ室長
前回お話にありました、消費社会から生産社会への移行のなかで、新しい働き方を可能にする21世紀のインフラとはどういったものなんでしょうか?
長沼さん
ネットを通じてつながるクラウド(Crowd=群衆)に業務を発注する「クラウドソーシング」は21世紀の労働インフラであり、資金調達を行う「クラウドファウンディング」は21世紀の金融インフラです。これらは私たちの「働き方」を大きく変えていきます。
たとえば、スキルを持つ個人にインターネットを介して仕事を照会するクラウドソーシングを利用すれば、これまでのような積極的な営業活動を行わずとも、仕事ができます。つまり、コミュニケーションコストが低減しているため、パラレルキャリアを実現しやすい世の中になっているのです。
ラボ室長
クラウドソーシングは、企業にとっては必要な時に必要な人財を獲得できるというメリットがあります。でも実際には知らない人にいきなり仕事を出すのは難しさもありますよね。
長沼さん
もともと信頼関係のあるオンラインワーカーに仕事を任せる形もありますし、成長の著しいクラウドソーシングプラットフォームでは、オンラインワーカーと企業間を仲介するディレクターを置いています。これからはディレクションの時代であり、チームを良い方向に導くディレクターの価値は高まっていくと思います。いまロボットに仕事をまかせる「ボットソーシング」も注目されていますが、これからは、単純作業はロボットに任せて、このディレクターのように、人間はより創造的・構造的で、接触的かつ貢献的な仕事をやるようになるのではないでしょうか。

ラボ室長
いまボットソーシングのお話もありましたが、日本最大の産業である製造業の形はこれから変わっていきそうですね。
長沼さん
いま、目の前にあるほとんどのモノは、消費社会の大量生産モデルによって作られていますが、生産社会への移行とともに、誰もが生産者になれる時代が到来します。いわゆる「メイカーズ革命」です。これからは3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションの技術進化、小ロット生産請負業者の出現で、誰もが製造業の起業家となれる時代になります。日本のハンドメイド業界は4000億円市場とも言われており、そこに携わっている人たちにも、新しいチャンスが訪れることは間違いありません。日本の高品質なハンドメイド技術にデジタルファブリケーションを加えれば、さらなる付加価値を生み出すことが可能になります。そして、その資金はクラウドファウンディングを使って調達する、というのも普通の時代になると思います。
ラボ室長
クラウドファウンディングと言えば、個人や中小企業ではなく、国内の大手電機メーカーがクラウドファウディングで商品を作っていくというニュースは衝撃的でしたね。
長沼さん
遠くない将来BtoCのほとんどのプロダクトは、クラウドファウンディング経由になるという予測があります。クラウドファウンディングは、商品のコンセプト段階から、そのアイデアに人が集まるため、テストマーケティングとしても活用できますから、商品開発のスピードに圧倒的な差が生まれます。数年単位で進めていた商品開発が、数ヶ月という単位で可能になる。さらにクラウドソーシングを使って世界中から優秀な人財を集められる。商品の質もスピードも柔軟性も、あらゆる面で上がっていくと思います。

ラボ室長
もはや機密情報は外に出せないからと社内だけで閉じてコツコツとものづくりを行う時代ではありませんね。
長沼さん
来年度よりVR(バーチャルリアリティ)ヘッドセットが一般に普及し始めるということで、代替体験とも呼ばれるような、あたかもその場にいる感覚を得る技術も進化していきます。時間や場所を選ばない新しいコミュニケーション&コラボレーションの形が、テクノロジーの進化によって実現されていくことが期待されているわけです。同じ志を持った人たちがよりつながりやすくなり、こんなものがあったらいいな、という製品を小ロットでスピーディーに作り上げていく。そんな時代の様相は、色濃くなっていきます。

21世紀も支持され続ける企業へ

ラボ室長
人々の働き方が大きく変わっていく中で、21世紀も支持され続ける企業であるために、企業はどういったことに取り組むべきでしょうか?
長沼さん
人々の働き方が変われば、オフィスの形も変える必要があります。社会がどんどんつながり始めているいま、会社内の人間関係をどうデザインしていくかが、これからのオフィスに求められる課題だと思います。
私もオフィスデザインについてアドバイスを求められることがありますが、単に先行事例の真似から入るのではなく、それぞれの企業の”バリューを生み出すワークフロー”を見直すことから始めるべきです。現在どのような問題点があり、ワークフローをどのように進化させるべきかを緻密に検証する必要があります。ひょっとしたら、社員の半数を在宅勤務にして、空いたオフィススペースにカフェテリアを作ったり、はたまたビリヤード台を置いて、いろんな情報を気軽にシェアできるような場にしても良いかもしれない。これまでの時代は、喫煙スペースや飲みニケーションが重要な役割を果たしていたかもしれませんが、タバコを吸う人もお酒を飲む人も減っている。そういった場合には次世代のコミュニケーションスペースが必要になることがあるわけです。
ラボ室長
事業部門やIT部門、人事部門など、部門単位でコミュニケーションが分断しがちな組織において、ゆるいつながりを生むことは、非常に重要なことだと思います。

長沼さん
これまでの社会では、利益最大化こそが企業活動の目的でした。こうした社会では、「人間のための組織」ではなく「組織のための人間」、つまり、働く人がさもしく手段化されていきます。しかし、リーマンショックや東日本大震災を経験し、人生の成功、幸福=企業の利益最大化という価値観が崩れたこれからの社会では、単純な利益追求型の企業に人はついていきません。あらゆるステークホルダー、つまり”人間が幸せになるための組織”に進化できた企業だけが、21世紀も支持され続けるのだと思います。
ラボ室長
そういったことに気付いた企業から、ワークライフバランスやダイバーシティといった、誰もが働きやすい組織改革を進めているというわけですね。少子高齢化で労働人口がどんどん減っていく中、そうした進化は企業の死活問題と言えますね。

長沼さん
アメリカの有名コーヒーチェーン店が、正規・非正規を問わず、2万5千人の社員の大学授業料を支援するという取り組みが話題となりました。これは、従業員の自己実現のために組織があるというメッセージだと思います。
ラボ室長
それは、素晴らしい取り組みですね。
長沼さん
コーヒーチェーンの例もそうですが、企業は利益の最大化から、貢献価値の最大化、影響力の最大化へと、その活動目的をシフトしていく必要があります。企業はこれまでのようなCSRの文脈だけではなく、本格的に公益性を追求せざるを得ない時代になるのです。高い志を持ち、顧客や社員など、人に良い影響を及ぼせる範囲が広ければ広いほど、企業はより長く存続していけるのだと思います。

尊敬が幸福の鍵

長沼さん
米カリフォルニア大学の心理学者キャメロン・アンダーソンが、周囲からの「尊敬」が幸福の大きな鍵になる、という研究結果を発表しました。どんなに高収入でも人は裕福な状態にすぐに慣れてしまうため幸福につながらず、そうした慣れが生じない幸福の鍵が「尊敬」だと言います。これはマズローの「自己実現の欲求」に通じるものがあります(前編参照)。そして地域のボランティア活動や、ライフワークや趣味、事業型NPOやソーシャルビジネスなどの「コミュニティ」に積極的に参加する人々が増えている背景には、そこに幸福があるからだと思います。
ラボ室長
リアルなコミュニティだけでなく、フェイスブックやツイッターといったネットのコミュニティも存在します。
長沼さん
はい。つながりによる幸福はこちらのコミュニティで実現し、自己実現の欲求を満たす時はあちらのコミュニティで、他者への貢献による幸福は別のコミュニティでというように、それぞれのコミュニティによって求めるものを変えるような動きもすでに起きています。つまり、こうしたコミュニティに幸福を求める流れが、多種多様なパラレルキャリアを生むバックグランドとなっているのです。

ラボ室長
企業も、志の高いコミニティのひとつとして存在意義を示さないと、生き残っていけない時代になりつつあるのですね。
長沼さん、本日は貴重なお話、ありがとうございました。
長沼さん
こちらこそありがとうございました。

ラボ室長の探訪後記

企業や団体の存在価値が「利益の追求」から「貢献価値の最大化」に変わっていく中、そこで働く人の考え方や目標の立て方、持つべきスキルも変わっていく必要があると強く感じました。
企業や団体が、本業を強化するようなパラレルキャリアを積極推進していくことは、新しい人財育成の手段であり、また外部の人脈を広げることにもつながり、まさにダイバーシティを進める経営手法になり得ます。そして、そういった活動時間の捻出のために、オフィスに長時間縛り続ける業務形態やマネジメント方式の是正が不可欠となるでしょう。
現在、商品やサービスのライフサイクルが数年と持たないくらいに激しく短命化している世の中において、1つのビジネスに大勢の雇用がぶら下がることの危うさはすでに多くの事例が証明しています。

今後ますます、働く人自身が「自分はどんな価値で社会に貢献できるのか?」を常に意識しながらスキルを継続的に磨き上げることが大切になるでしょう。そして本業の他に、世の中にとっても自分にとっても意義のある貢献価値提供の場に参加する、というようなワークスタイルが主流になっていくのではと思います。

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