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4人目のキーパーソンは、企業やNPO、起業家のコンサルタントとして活躍されている一般社団法人ソーシャル・デザイン代表理事の長沼博之さん。人々の多様な幸福感を引き受ける「パラレルキャリア」という新しい働き方の必要性を説きます。

自己実現、貢献の時代へ

ラボ室長
まずは、長沼さんが代表理事を務めていらっしゃる一般社団法人ソーシャル・デザインの活動をご紹介ください。
長沼さん
「ビジネスの進化から、社会の進化、人類の進化を描く」という理念を掲げ、企業、NPO、起業家に向けたコンサルティングを通じて、社会全体により良いインパクトを与えることを目指しています。事業をよりスマートかつソーシャルにする、近未来型の事業モデルの構築をサポートするほか、「ソーシャル・デザイン・ニュース」というウェブメディアの運営や執筆、講演などを行っています。
ラボ室長
さまざまな企業のコンサルティングをされていて、近年、人々の働き方にどのような変化があると感じてらっしゃいますか?
長沼さん
「世の中をこんなふうに便利に豊かにしたい」「社会のこんな問題を解決したい」「世の中に自分たちが惚れ込んだこんな製品・サービスを届けたい」。こう思った時、これまでは大企業に属することが、効率のいい方法でした。しかし今は単純にそうとは言えなくなっています。大企業に属さずに個人やチーム、小さな組織、NPOや社団法人で自分たちの思いを実現しようとしている人が増えているのです。
ラボ室長
単にお金のためじゃなく、自分が信じるもののために働く人が増えた、と。
長沼さん
心理学者のアブラハム・マズローは、人間の欲求を「生理的欲求」「安全の欲求」「帰属の欲求」「尊厳の欲求」「自己実現の欲求」という5段階のピラミッド構造で説明しました。人はある次元の欲求が満たされると、より高次元の欲求を求めるようになります。いまの若者たちを見てみると、グループへの「帰属」や人としての「尊厳」を強く求めているように思います。フェイスブックの「いいね!」は、まさに「帰属」「尊厳」のニーズを満足させています。これは、若者が少し早く時代に適応したということであって、この流れは全世代に拡大しています。「生物としての生存」のために働くのではなく「人間としての生存」のために働きたいと願っている。つまり、これからはより良い人間関係の構築をベースとして、自分の持つ能力や可能性を最大限に発揮する「自己実現」、そして他者への直接的な「貢献」を求めて、働く時代へと移行しようとしているのです。

パラレルキャリアのススメ

長沼さん
実はいま、大企業に属しながら「パラレルキャリア」という方法で、自分のやりたいことに打ち込んでいる人たちも増えています。パラレルキャリアは、経営学を発明したピーター・ドラッカーが提案した概念です。定年後の生きがいとしての活動を「セカンドキャリア」と呼ぶことがありますが、パラレルキャリアは、現役のビジネスマンが本業を続けながら、本業以外にチャレンジすることです。「副業」よりももう少し大きい概念を指し、必ずしも報酬が目当てではなく、自身のスキルアップや使命を感じられるような活動に取り組むことを含みます。
ラボ室長
たとえばパラレルキャリアでどのような活動を行っている人が多いですか?
長沼さん
土日に地域のボランティア活動に参加したり、仲間とイベントを主催したり、インターネット上で趣味に関連するショッピングサイトを立ち上げたり、NPOを作って地域を活性化させるソーシャルビジネスを始めている方もいます。最近では、本業でのスキルを活かしたボランディア活動、いわゆる「プロボノ」を募るサイトも増えており、パラレルキャリアを始めやすい環境になっていると言えます。

ラボ室長
長沼さんご自身はどのようなパラレルキャリアの活動をされているのでしょうか?
長沼さん
例えば、福島の実家が、原発から約57kmにあるので大変な思いをしましたけど、そういったことから個人的に再生エネルギーに関する思いが高まり、100%再生可能エネルギーへとシフトしたドイツをテーマにした「第4の革命」というドキュメンタリー映画の上映会を福島県や地元の新聞社の後援を受けて、郡山市で開催したりしました。
ラボ室長
それは素晴らしい活動ですね。まさに自分の信じることのために活動していらっしゃる。しかし、パラレルキャリアは企業側からすると本業を疎かにするのか、とネガティブに捉えられることも多いと思います。こうした固定化された考えを払拭するにはどうしたらいいですか?
長沼さん
そうですね。まず、パラレルキャリアは個人のスキルアップにつながり、会社に還元されるものであるという認識を、管理職や経営者の方に持っていただく必要があります。テクノロジーの進化のスピードは速く、さまざまな情報をキャッチアップしなければならないのが、現代のビジネスマンが置かれている状況です。本業プラス1もしくはプラス2の活動を行うことで、本業では知り得なかった幅広い情報をキャッチアップでき、人脈も広がります。これは必ずビジネスにプラスに働きます。また、外に飛び出して経験を積むことで、自身のスキルアップを図ることができます。
ラボ室長
企業の中にいると必ず誰かのサポートがあるけど、一人で外に飛び出していくとサポートがまったくない中で、全部一人でやらなきゃいけない。これは結構鍛えられるかもしれませんね。

長沼さん
現代社会の最大の課題は、超長寿社会にあると思っています。これまでは30代〜50代に仕事の成果を出せば、その人の人生は素晴らしかったと評価されていたのが、人間の寿命が伸びて、元気でいる限り働き続ける世の中になり、定年後の20年、30年をどのように生きていくかが問われている。さらに、シニア時代の充実こそが、その人の人生の幸、不幸を決定づける大きな要素になってきています。そういった意味合いからも会社に勤めて本業だけをやるというキャリアプランは、もはや現実的ではなくなっているのです。

働く=傍(はた)を楽にする

ラボ室長
近年、人々の「働くこと」の価値観が大きく変わってきているように思います。ワークライフバランスを推進する企業が増えているのも、そういう背景があるのでしょうか。
長沼さん
リーマンショックや東日本大震災を経験し、私たちの価値観は大きく揺さぶられました。人間は一人で生きられるものではなく、「経済的損得」が社会の第一義になっていては一瞬にして危機に陥ることを知りました。家族を大切にすること、そして他者や社会に貢献して生きる「社会貢献」の重要性を多くの人が痛感しました。
NPO法人ファザーリング・ジャパンの安藤さんがやっておられる「イクボス」の活動や、環境や社会に配慮した商品を購入する「エシカルトレード」、発展途上国などで作られた作物や商品を適正な価格で継続的に取引する「フェアトレード」などは、まさにそうした認識から生まれたものです。

ラボ室長
長沼さんの著書に、『働く』の語源は、江戸時代の「傍(はた)を楽にする」こと、つまり、「周りに貢献する」ことだと書かれていましたが、これからの働き方は、まさにそういう方向に向かっていくんでしょうね。
長沼さん
江戸の職人は、日に大体4つの仕事・活動を行っていたと言われます。朝は隣近所に声をかけ、困ったことが起きていないか様子を見て周り、その手当てをします。これが「朝飯前」の語源です。朝飯後の午前中は働いてお金を稼ぐ。これが現代の仕事です。昼飯をとった後は、人のため町のために「傍を楽にする」ような活動をします。現代で言えば、ボランティア活動やライフワークです。そして夕方は、明日元気に働くためのリフレッシュタイム。各自が思い思いに過ごしたそうです。
ラボ室長
まさに江戸時代の働き方が、現代に復活しようとしているのですね。

長沼さん
ヘンリーフォードの時代から1日8時間労働という状況は変わっていません。しかし、社会の生産性は大きく上がっています。AI(人工知能)が普及するこれからの社会では尚更です。
例えばスウェーデンでは、1日6時間労働を基本にしようとするうねりが大きくなっています。長時間労働と大量生産・大量消費によって経済を回し、人々の欲望を満たそうとする消費社会から、みんなが主体者、生産者となって経済を育み、自己実現や貢献欲求をベースに動いていく生産社会へ移行しようとしているのです。これまで消費の拠点として言われていたような場所は、ことごとく生産の拠点としての側面を有していきます。それを可能にするのが、働き方を変える「21世紀のインフラ」なのです。
ラボ室長
それでは次回は、働き方を変える新しいインフラについてお話を伺っていきたいと思います。

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