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6人目のキーパーソンは、コンサルタントとして企業や公共団体の働き方の見直しを推進している株式会社ワーク・ライフバランス 松久晃士さん。どうすれば一過性の取り組みで終わることなく、新しい働き方を組織に根付かせることができるのか、実践的なノウハウを伺いました。

時間感覚を養う朝メール

ラボ室長
前回、働き方の見直しには4つのステップがあると伺いました。今回はそれらをひとつずつ紐解いていければと思います。ステップ1は「働き方の確認」でしたよね。
松久さん
はい。ステップ1でぜひおすすめしたいのが「朝メール」と「夜メール」です。毎朝出社した時に、一日の仕事のタスクを分単位で書き出し、チーム内でメール共有します。それが「朝メール」。そして帰り際に実際に何分かかったのか、一日を振り返って書き出したものが「夜メール」です。ポイントは朝立てた計画通りに進めようということではなく、計画通りに行かないことを実感し、なぜそうならないかを振り返ることにすべての意味があります。これをみんなで毎日繰り返すことで時間感覚を養っていくのです。

朝メール夜メール画面サンプル
朝メール夜メール画面サンプル

ラボ室長
毎朝出社した時に今日やることを頭で確認こそしますけど、きちんと書き出している人はほとんどいないかもしれませんね。でも、これを毎日続けるとなるととっても労力がかかりそうですが・・・。
松久さん
そうですね、仕事をはじめるとき今日やらなければならないことを段取りされている方は多いと思います。ただ、その「やらなければならないこと」のひとつひとつに何分かけるか、といった時間の見積までできている方は多くありません。そして、朝・夜メールを書くことに抵抗を示す人も確かに多いですが、ほとんど抵抗のない人もいます。取り組み当初から1日分の朝メールを3分ぐらいでパパッと書ける人もいる。これはその人が持っている時間感覚やタイムマネジメントのスキルの差です。
だからスキルを磨けば、最初は朝メールに30分かかっていた人も、およそ1カ月で5分もあれば書けるようになります。まずは時間の感覚を磨く筋力トレーニングだと思って始めてみてください。
ラボ室長
なんとか書けるようになっても、何のためにやっているのか、効果が見えないと人って面倒くさいことはやめてしまいがちです。やはり継続できるのかという心配が・・・水ばかり差してすみません。
松久さん
そうですね(笑)。それでは効果について具体的にお話しましょう。朝・夜メールにはすぐに実感できる効果が3つあります。
1つは集中して作業している時に「いまちょっといいですか?」と突発的に話しかけられることが少なくなること。これはチームでお互いのタスクが分単位で把握できるからです。2つめはお互いの距離が近づくこと。今日、彼はどんな仕事をしているのかが分かることはもちろんですが、備考欄に今日の仕事の意気込みを書いたり、最近読んだ本のことを書く人もいたりして、それに対して「私も読みました」といったレスポンスもあったり、とコミュニケーションのきっかけになったりします。メールなので遠隔地どうしでもやりとりができ、共通的な話題を持つことで隣にいるかのような感覚になれます。そうなると楽しくなって続けられますよね。
ラボ室長
なるほど。相手のやっていること、考えていることが分かるようになると、個々でバラバラにやっていた時よりもコミュニケーションが進んで、チームワークも緊密になりますね。朝・夜メールで書いただけでなく、それをチームで共有するところに意味がありそうですね。
松久さん
はい。そして3つめは、何よりも時間の使い方が上手くなることです。例えば新しいタスクが発生した時、以前はなんとなく引き受けていたので、どんどんタスクが積み重なって残業を生むことになっていた。それが朝・夜メールを始めたら、タイムマネジメントスキルが向上し、今日のどこに入れたらいいか、今週だったらどのあたりに入れられそうか瞬時に判断できるようになったそうです。頼みごとをされた際には「承知しました。15分ください」などと時間も一緒に答えられるようになります。
ラボ室長
おお!突発業務への対応やその調整能力も上がっていくわけですね。これは朝・夜メールというようなタスクや状況のチーム共有のやり方だけでも働き方が変わっていけるような気がしてきました。こうやって時間感覚を養うことは生産性向上の基礎体力の向上につながるんですね。

働き方を“カエル”会議

ラボ室長
ステップ2としては「業務課題の抽出」ですか。
松久さん
はい。朝・夜メールをやりながら業務のやり方を振り返る中で課題を抽出していくわけです。その際、「自分の主たる業務に時間が掛けられているか」とか、「もっと時間をかけたい、あるいは効率的に進めたい業務は何か」などを考え、課題を抽出するのです。
ラボ室長
その課題をもとに、チームで集まって、ステップ3「会議で働き方の見直し」と進めていくというわけですね。
松久さん
はい。私たちはこの会議を「カエル会議」と呼んでいます。働き方を”変える”、早く”帰る”、人生を”変える”、という3つの“カエル”の意味を込めています。理想は週1回60分。もしすでに毎週課会があるのならその一部を使って週1回15分〜30分をカエル会議とするという方法もいいと思います。
ラボ室長
ぜひ3つとも変えていきたいですね。で、カエル会議ではどういったことをやるんですか?
松久さん
一番初めにやるべきことは、どんなチームになりたいのか(どのような働き方を手に入れたいのか)、ゴールイメージをみんなで決めること。これが決まらないままではカエル会議をやっても、働き方の見直しをしても絶対に失敗します。チーム全員が共感できて、具体的なイメージがわくことが重要です。たとえば「情報共有が徹底され、誰でも代理対応ができるため、顧客からの信頼を得ており、定時で帰宅してもクレームが来ないチーム」といったイメージです。
ラボ室長
ゴールイメージが定まっていないと、みんながバラバラの方向に走っちゃいますものね。そういう意味でもチームでの具体的なゴールイメ―ジの決定、これがとても重要になりますね。
松久さん
陥りがちなのが、現状の課題から考えて、その延長線上にゴールを設定してしまうこと。「会議が少ないチーム」とか。しかしそれではただの「改善」です。カエル会議がめざすのは「変革」です。変革するには発想のジャンプが必要になります。

そこで私が研修でよくやるのが、みんなに付箋を10枚配って「自分たちのチームの素晴らしいところ」を書き出してもらうことです。業務上の話じゃなくても「他のチームより飲み会が多い」「経験豊富なメンバーが揃っている」など、なんでもいいんです。すると、やがてチームの強みが見えてきます。その上で今度は、ふたたび付箋を配り「もっと良くするためには何をしたらいいか」をみんなで書き出していくのです。それらを俯瞰するとポジティブで素晴らしいゴールイメージが浮かび上がってきます。

ラボ室長
その決め方なら、ある特定の個人の独りよがりではなく、チーム全員で気持ちよくイメージを共有できますね。ではゴールイメージが定まったら、カエル会議ではどのように業務上の問題を議論していくのですか?
松久さん
ゴールイメージが定まることによって、理想的なチームの状態をみんなが思い描くことができるはずです。そうすれば、あとは現状とのギャップを見つけていきます。このギャップが取り組むべき新たな問題になってくるわけです。この問題は3つに区分できます。すでに顕在化している「見える問題」と、潜在的な「探す問題」、そして未来を見据えて「つくる問題」です。このうち変革を起こすために重要なのは「つくる問題」です。たとえば「5年後の社会を見据えていま営業部門が考えるべきことは何か」といった問題です。こうした問題をつねにチーム内で共有することで変革につながっていきます。

関係性の向上から着手せよ

ラボ室長
カエル会議で問題を発見し、やるべき施策を決定したら、いよいよステップ4の「見直し施策の実施」をしていくわけですが、実際に働き方を見直された企業では、たとえばどのような成果を挙げていらっしゃいますか?
松久さん
生産性が上がって労働時間が短くなったのはもちろんですが、ある開発系のIT企業では、生み出した時間を就業時間内でも現在の業務とは異なる新しいチャレンジに当てていいと決めていました。するとスマートフォンのアプリ開発を始めた人がいて、それが技術力の向上になったそうです。そういった良い取組みが個人からチームに拡がっていったケースがありました。
ラボ室長
働き方の見直しによって個人力のみならずチーム力を引き上げていくことにつながっていくと、付加価値の高い商品の開発につながる可能性を感じますね。あと、このケースではチーム内のコミュニケーションの活性化が効いているのでは、という感じがします。
松久さん
おっしゃる通りです。朝・夜メールやカエル会議の副次的な成果としてチームの関係性が良くなったという声をよく聞きます。お互いの経歴もあまり知らなかったのに、働き方を改善しようとカエル会議を重ねていくうちに、お互いのことが分かってきて、雑談したり一緒に飲みに行く機会も増えて、「仕事に行くのが楽しくなった」という方もいらっしゃいました。
マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授は「組織における成功の循環モデル」の中で「成果の質を高めようとするならば行動の質から始めるのではなく、関係の質の向上から着手せよ」と言っています。つまりチーム内の関係性を良好にした結果、思考が良くなり行動が良くなり、結果が出るという話です。
ラボ室長
関係性といえば、日立でもセンサー技術と人工知能を使った分析により、組織の活性度を見える化する取り組みをしていますが、良い成果を出しているチームほど全員が密接に関連して人的ネットワークが構築されていくのが確認できます。コミュニケーションが活発なチームは目標となる業績や効率化などの指標も良くなるというような分析結果もでているようです。チームの関係性に着目することは働き方変革をする上では重要なキーワードになりますね。

それでは最後に、この働き方の見直しサイクルを回し続けていくコツなどはありますか?
松久さん
まずはスモールスタートがおすすめです。小さな部署から、手が届くゴールイメージで効果を実感しながらすすめてください。ゴールイメージはどんどんブラッシュアップしていって構いません。達成したらまた次のゴールが見えてくはずです。 あとはマネジメント層の方には温かく見守ってもらいたいです。経験豊富な方ほどカエル会議などの様子を見た時に口を挟みたくなると思うのですが、それをしてしまうとせっかくの取り組みが誰のものか分からなくなり、自主性が失われてしまいます。そこは一旦口を出すのをグッと我慢していただいて、取り組んでいる部署から自発的に相談が来た時には、ぜひ力を貸してあげてほしいですね。

ラボ室長
新しい価値を生み出すチームになるために、働き方の見直しにぜひ挑戦していただきたいですね。本日は非常にためになるお話、ありがとうございました。
松久さん
こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。

ラボ室長の探訪後記

着目すべきはやはり、チームでの働き方でした。
働き方を変革していくには時間がかかります。それも個人ではなくチームで変わっていく必要があります。ITも使いながら朝・夜で作業記録の振り返りを実施しつつ、同じゴールを共有しながら毎週の変革ミーティングで継続的にそこへの道のりを刻んでいく。数百社のクライアントへのコンサルティング実績から導かれたその方法論は極めてシンプルですが、確実に変革の方向へと進んでいく手ごたえを感じました。

しかも個人では継続困難な変革の道のりも、チームなら続けやすいもの。その点松久さんの方法論にはチームコミュニケーションの活性化をキープできるやり方が埋め込まれ、チームで成長していく好循環を生むことができます。まずは個々人の夢のように遠く離れたゴールではなく、チームでリアリティを持って共感できる羅針盤のようなゴール設定ができた瞬間に本当の変革がスタートできるのだと思います。やり方は明確、あとは始めるだけです。

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