ページの本文へ

Hitachi

Hitachi IoT Platform Magazine

6人目のキーパーソンは、コンサルタントとして企業や公共団体の働き方の見直しを推進している株式会社ワーク・ライフバランス 松久晃士さん。どうすれば一過性の取り組みで終わることなく、新しい働き方を組織に根付かせることができるのか、実践的なノウハウを伺いました。

「ワークをほどほどに」は大きな誤解

ラボ室長
本日はよろしくお願いします。御社の社名にもある“ワーク・ライフバランス”が、世の中のひとつのキーワードとなっていますね。
松久さん
労働力人口が減少するなかで、さまざまな制約や事情を抱える人も働き続けられる社会にしようと、いま国を挙げての取り組みが進んでいます。その中で“ワーク・ライフバランス”という言葉だけが一人歩きをしており、まだ誤解されている方も多いように思います。これは「仕事をしすぎだからワークをほどほどにしてライフの時間を大事にしよう」という意味ではありません。また「ワーク」と「ライフ」を天秤にかけて、ちょうどいい「バランス」にしましょうといった趣旨でもありません。短い時間でこれまで以上の成果を出せるように仕事のやり方を変えて、みんなが働ける世の中にしようという取り組みなのです。
ラボ室長
同感です。日立では、自分で時間を積極的にマネジメントすることで、新しい価値を生み出す時間を創ろうという意味を込めて、“ワーク・ライフマネジメント”という呼び名で 取り組みを進めています。
松久さん
定時を越えて労働時間があふれてしまっているのが、いまの日本の現状です。それをギューっと圧縮して余った時間を、自分の時間として活用する。時間を生み出せるようになることで、自己研鑽の取組みや睡眠もしっかり取れて、翌日フレッシュな脳で仕事をスタートできるようになり、労働の質が上がるという好循環のサイクルに入っていくことができます。ワークとライフの相乗効果でパフォーマンスを高められている状態が理想で、これを我々は「ワーク・ライフシナジー」と呼んでいます。そして、「ワーク・ライフシナジー」の実現のために、私は、全国の企業はもちろん省庁、自治体などさまざまな公共団体においていま、新しい働き方をコンサルティングさせていただいています。

ラボ室長
なるほど。ライフの充実がビジネスに好影響を及ぼすというのはどんな例がありますか?
松久さん
具体的には、少年野球や少年サッカーのコーチをボランティアでやっている方は、よくこのシナジーを感じると話してくださいます。子どもたちは実直でつまらない練習にはすぐに飽きてしまうので、どうしたらもっと意欲を持って練習してもらえるか、少年野球のコーチはつねに知恵を絞ります。そしてその経験は、部下のマネジメントにそのまま役立つそうです。その逆もしかりで、部下のマネジメント経験は少なからず少年たちの指導に生きます。 他にも、マンションの管理組合に参加してミーティングをファシリテートするなどの地域社会への参画の経験があると、年代や家族構成など多様な価値観を持つ人たちをひとつの方向に導くといった貴重な体験となり、チームリードやマネジメント、ファシリテーションといった仕事に欠かせないスキルにも当然つながっていくと思います。
ラボ室長
会社と家の往復を繰り返しているだけ、会社の人同士で会話しているだけでは、仕事の新しいアイデアが枯渇してくる。ビジネスパーソンはもっと積極的に外に出て、いろんな経験から学ぶべきですね。

「夜遅くまでお疲れさま」は間違い

ラボ室長
長時間労働にどっぷり浸かっている人ほど働き方を変えたいと思っているけど、日々の仕事に追われてなかなか…という人は多いと思いますが、そんな人はどうしたらいいのでしょうか。
松久さん
働き方を変えるために、一番変えなければならないのは働く人の意識です。本人の意識が変わらなければ変わっていくことはできません。「忙しすぎて今はできない」という人は来年の自分を想像してみてください。もっと苦しくなっている自分が見えるはずです。始めなければ何も変わらないことを認識すべきです。また意外に多いのが「仕事ができるようになるために、もっと多くの仕事がやりたい」という長時間労働を厭わない若手の方です。そういう方には「仕事しかしない人はだんだんと仕事ができなくなっていきますが、それでもいいですか」と言います。なぜなら、ワークの経験だけで情報をインプットしているビジネスパーソンと、ワークとライフの両方でインプットしているビジネスパーソンでは、圧倒的な情報の差があるからです。
ラボ室長
現状ではなく未来に目を向けるわけですか。しかし本人の意識がどれだけ変わっても、チーム上司の働き方が変わらないと厳しいですよね。
松久さん
そうなんです。私は様々な職層の方にお話をしますが、一般職層向けの研修後のアンケートで一番多いのが「この話を上司に聞いてもらいたい」という声です。 1995年頃を境に日本は「生産年齢人口が多い」「社会全体の扶養負担が小さい」という人口ボーナス期から「働く人が減っていく」「支えられる人が多く社会全体の扶養負担が大きい」という人口オーナス期に突入しました。現在はすでに働く人よりも働く人に支えられている人の方が多い状態になっているのです。しかし、このように社会構造が大きく変化しているにも関わらず、40代以上の管理職の中には人口ボーナス期の意識のまま仕事をしている現状が見受けられます。
ラボ室長
24時間フル稼働の大量生産、大量消費で成長していった高度経済成長期の成功体験ですね。
松久さん
はい。今後、長時間働ける男性を数多く雇うことがますます困難になっていくにも関わらず、マネジメント層の意識転換がなかなかできていないのです。
ラボ室長
モノを作ればどんどん売れていた時代の意識ですね。でも今は、商品やサービスのライフサイクルはますます短くなり、時代の変化を先取りした価値の創造が重要な時代です。もう変わらないとやっていけない兆候はあちらこちらで発生している。

松久さん
さて、ここで板橋さんにひとつ質問です。仕事を終えて帰ろうと思った時に時計を見たら21時だったとします。周りはみんな帰っているのですが、遠くのデスクに新卒の若手が一人残っていたとします。そこで何と声をかけますか?
ラボ室長
そもそも21時まで残っているマネージャーとは?というのは置いておいて(笑)―― そうですね。「こんな遅くまで何の仕事をやっているんだい?」ということから話しかけて、「早く帰った方がいいよ」というところにつなげていくと思います。
松久さん
さすがですね。それは板橋さんが意識を転換できている証拠だと思います。ほとんどの方は「がんばっているな」とか「夜遅くまでお疲れさま」とまず声をかけるのではないでしょうか。言ってみればそれは、夜遅くまで残っている人を評価している、ということ。でも今の時代は夜遅くまで残っているのは仕事が遅くて時間をかけすぎているのではないかという証拠だと認識して、「仕事のやり方が間違ってないか」と注意喚起して改善のアドバイスなどの声掛けをすべきです。それが働き手も時間も足りない人口オーナス期のマネジメントのあり方だと思います。

働き方見直しの4つのステップ

ラボ室長
では、具体的にはどのように働き方を変えていけばいいですか?
松久さん
まず、会社全体で一斉にというのは現実的には非常に難しいと思います。変わるにはある程度時間がかかりますし、旗を振る人のエネルギーにも限界がありますから。ですので、関心がある部門長がいたり、組織への影響力が強い象徴的な部署、5〜10人の小さな単位から始めてみてはいかがでしょうか。 そして働き方の見直しには4つのステップがあります。ステップ1は「働き方の確認」です。自分の働き方のクセや時間の使い方を把握し、改善のヒントを見つけていきます。ステップ2は「業務課題の抽出」。個人からチームへとスコープを広げていきます。そしてステップ3では「会議で働き方の見直し」を行います。毎週チームで集まって現状と理想のギャップを見つけ出し、そのギャップを埋めるために何をすべきか話し合っていきます。そこから導いた答えをもとにステップ4で「見直し施策の実施」を行っていくのです。

ラボ室長
なるほど、聞くと非常にシンプルですね。ある意味当たり前というやり方に聞こえます。しかし、日々の業務に追われ、こういった当たり前の振り返り活動ができていないということがチームの現状なのかもしれませんね。
行本さん
そうなんです。しかもチームのメンバーの中には元々「なんでこんな仕事のやり方してるんだろう」といった問題意識や「もっとこうしたらいいのに」という解決策を持っている人がいたりします。しかし多くの場合、そういう意見を吸い上げる場がなかった。話し合いの場をつくるというだけでも大きな前進なのです。この働き方の見直しを成功させるためには、「自主性」と「継続性」が鍵を握っています。
ラボ室長
いよいよ実践的なお話に入っていきますね。その辺りのお話は次回、詳しく伺っていきたいと思います。

オススメ記事