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前回、テレワーク(在宅勤務)の導入がうまくいかない原因の多くは、「間違った思い込みにあります」と語ってくださった(株)テレワークマネジメントの田澤由利さん。続く第2回では、在宅勤務を成功させるための勘所を教えてくださいます。その時、ITシステムが重要な役割を担うようです。

衝撃だった「在宅勤務禁止」のニュース

前回は在宅勤務の導入を阻む間違った思い込みについてお話しました。思い込みをなくし、在宅勤務を導入していけば、育児中の女性だけでなく、親の介護を余儀なくされている管理職世代の優秀な人材を失わずに済むというお話をしました。しかし、単純に在宅勤務制度を導入したからといって、すべてがうまくいくわけではありません。ここからは、実際に起きている在宅勤務の失敗例を挙げながら、どうすれば在宅勤務を有効に活用していけるのかについてお話したいと思います。

2013年2月頃、米国ヤフーの女性CEOであるマリッサ・メイヤー氏が、在宅勤務制度を禁止したというニュースが、インターネット上でも話題になりました。多くのメディアが「先進IT企業として新しい働き方を推奨すべきヤフーが何たることか」「子どもがいる女性がそんなことしていいのか」と非難しました。しかし、そこにはある理由があったのです。

テレワークに欠かせないマネジメント

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メイヤー氏はグーグルから引き抜かれて、米ヤフーのCEOになりました。彼女のミッションは業績が落ちている米ヤフーを立て直すことです。そんな中、在宅勤務者の社内システムへのアクセス状況を調査したところ、ほとんどアクセスされていないことが判明したそうです。仕事をしていない在宅勤務者が多くいたことが「在宅勤務禁止」を実施した理由だと言われています。

この問題は、在宅勤務自体の問題というより、在宅勤務者をきちんとマネジメントできていなかった会社側の問題であると私は考えています。在宅勤務者がどのように仕事をしているかを会社側が把握していなかったことは大きな失態です。在宅勤務にはきちんとしたマネジメントが必要なのです。多くの人々はマネジメントされてこそ、能力を最大限に発揮することができます。特に日本人はそういった傾向が強いと思います。弊社がテレワークマネジメントと名乗っているのも、テレワークにはマネジメントが必要だという強い信念からです。

答えは、「時間あたりの生産性」にあり

安倍政権は、いま働き方改革を進めています。「時間ではなく成果」と提唱していますが、それには私は反対です。時間だけで労働を評価するのは確かに適切ではありませんが、かといって、成果としてしまうのは大変危険です。時間が開放された瞬間に過剰労働になってしまうからです。もし、時間制で働いていて16時に帰れていた女性が成果主義になってしまうと、通常の勤務時間で働いている人と同じ成果を、限られた時間で出さなければいけなくなる。そうなると、子供を寝かしつけた後にも仕事をするなど、無理をしてアウトプットを出そうとしてしまうのです。ワークライフバランスが崩れて、心を壊す人も出てくるでしょうし、何より生産性が下がります。ややもすると、会社に行った方が楽だと感じてしまうでしょう。それは、テレワークが目指しているのとは反対の方向性です。

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私は「時間あたりの生産性」にしか答えはないと思っています。時間あたりの生産性で、会社で働く人も在宅勤務者も同じように評価していくのです。テレワークをしたい人は、育児や介護など他にやりたい(あるいは、やるべき)ことがあり、そのことが大きなモチベーションになります。よく言うのは、保育園に迎えにいく前の30分間が、一番生産性の高まる時間帯だということ。彼女たちは、これまで残業してやっていた仕事を、保育園に行く前のたった30分間で片付けてしまいます。どうしてもその時間までに終わらせる必要性があれば、それがモチベーションとなり、生産性が高まるのです。また、時間を区切ることは、長時間労働を防ぎ、オンとオフを切り替えてワークライフバランスを整えることにつながります。ではどうやって、在宅勤務者の時間を管理していくのか、そのためにはITの力が必要です。

オフィスにいるような緊張感が生産性を高める

時間管理でおすすめなのが、「Fチェア(エフチェア)」という弊社が独自開発したツールです。PC上のタイムカードのようなもので、PCを立ち上げて仕事を始める時に着席ボタンを押し、席を離れる際に退席ボタンを押します。8時間まとめてではなく、細切れに在席時間を蓄積していけるメリットがあります。家事や育児などで一時的に席を離れることが多い在宅勤務者の時間をきちんと管理することができます。さらに、このツールの優れている点は、デスクトップ画面をランダムにキャプチャできるところです。キャプチャ画面は管理者が一覧で確認することができます。これは、監視という意味合いよりも、在宅勤務者の緊張感を保つためのものです。オフィスにいる時のような適度な緊張感があった方が生産性は高まります。
すなわち、在宅勤務を成功させるためには、オフィスと同じような環境を在宅勤務においても作ってあげることが大事だと思っています。
そのキーワードは3つあると考えています。ひとつは、Fチェアなどを用いた「マネジメント」。そして「コミュニケーション」と「セキュリティ」です。

コミュニケーションツールで疎外感を解消

例えば、在宅勤務者と上司とのコミュニケーションがうまく行っていないと、仕事を頼みにくくなって目の前の人にばかり仕事を頼み、そのせいで、同僚が自分の仕事が増えて不公平に感じるなど、社内がぎくしゃくとしてしまいます。また、仕事の情報共有が不十分なために、在宅勤務者が蚊帳の外にいると感じてモチベーションが下がることもあるでしょう。逆にコミュニケーションがスムーズになれば、こうした問題を緩和することができます。

コミュニケーションのためのツールとしては、Web会議やグループウェアなど有料/無料のツールがたくさんあります。その中でもおすすめしたいのが、「Sococo Virtual Office(ソココ バーチャル オフィス)」です。これは、米国のベンチャー企業のツールですが、私どもの要望で、日本の企業が使いやすいように島型オフィスを特別に作ってもらいました。仮想オフィス空間で離れていても同じオフィスにいるような感覚で仕事ができます。ボタンひとつで声を掛けたり会議に呼び出したりと、文字や声や映像で、簡単にコミュニケーションを取ることができます。在宅勤務者はもちろん、タブレット端末やスマートフォンなどを持って外出している営業マンも利用できます。

Sococo Virtual Office オフィスレイアウト画面

このシステムの番外編的な使い方として、弊社では、毎年、多数のテレワーカーを抱える関連会社のワイズスタッフとともに、インターネット上で100名規模の忘年会を開いています。リアルなパーティ会場とネット会場をつないで、ジャンケン大会などを開催します。ITの力を借りれば、離れていてもちゃんとコミュニケーションを取ることができるのです。もちろん、たまには一緒に食事に行く機会を作ることも重要だと思います。会う機会が減ると、会える時間を大切にするもの。会うといっそう濃いコミュニケーションを図ることができます。

情報漏えい防止対策は不可欠

在宅で仕事をするわけですから、セキュリティは、情報漏えい防止の観点から欠かせない機能です。例えば、USBキーをPCに挿すだけでオフィスと同じデスクトップ環境を実現するリモートデスクトップや、クラウドサーバ上にデスクトップ環境を置く仮想デスクトップを活用して、データを物理的に会社から持ち出すことなく仕事ができます。リモートデスクトップは個人単位でも小さく始められますし、仮想デスクトップは大規模に導入する際に適しています。規模や求めるセキュリティレベルに合わせてツールを選択してください。

ここで大切なのは、ITツールの試用期間中に、オフィスで仕事をしている社員も含め、全員でトライアルを行うことです。全員で使わないと本当の使い勝手は分かりません。自社の仕事のやり方に合っているのかどうかをみんなが体感することが大事です。また、こういう機会を設けることで、在宅勤務に対する当事者意識も高まります。在宅勤務制度を作っても停滞する理由のひとつに不公平感があります。「アイツばかりずるい」と考えるのではなく、自分がいつ病気になるかも分からないし、親を介護する立場になるかも知れない。自分がそうなった時のために、テレワークを実践してくれているんだとみんなの意識を変える必要があります。トライアルを全員でやることは、こうした意識改革にもつながるのです。また、不公平感をなくす方法としては、給与体系を見直す方法もあります。このあたりについては、弊社で取り入れている人事・給与制度を含めて次回紹介していきたいと思います。

(2015年2月掲載)

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プロフィール

田澤 由利(たざわ ゆり)

株式会社テレワークマネジメント 代表取締役、株式会社ワイズスタッフ 代表取締役
奈良県生まれ、北海道在住。夫の転勤と出産でやむなく退職するが、PCを使って自宅で働き続ける。その後、在宅でもしっかり働ける会社、(株)ワイズスタッフを設立。さらにテレワーク専門のコンサルティング会社、(株)テレワークマネジメントを設立。総務省 地域情報化アドバイザー、日経WOMAN「ウーマンオブザイヤー2009」リーダー部門7位受賞。主な著書に「在宅勤務が会社を救う」(東洋経済新報社)がある。

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