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一部の大企業でしか利用されてこなかったテレワーク(在宅勤務)が、本格導入の兆しを見せています。安倍政権が「日本再興戦略」の重要な施策として、若者や女性の多様な働き方を実現する在宅勤務の推進を盛り込んだからです。その一方で特に中小企業でなかなか進まない導入…。そこで多くの企業にテレワーク導入のコンサルティングを行ってきた田澤由利さんに「在宅勤務の導入を阻む間違った思い込みとは?」「在宅勤務の推進に必要なITとは?」「その先の地域創生について」、さまざまな角度からお聞きしたお話を3回シリーズで紹介します。

テレワーク本格導入の兆し

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安倍政権は「世界最先端IT国家創造宣言」の中で、テレワーク導入企業数を2020年までに2012年度の3倍に増やす目標を掲げています。総務省「テレワークの普及促進に向けた調査研究」をはじめとするテレワーク導入支援事業や、厚生労働省「職場意識改善助成金」、東京都「ワークライフバランス推進助成金」などの助成金も出ており、テレワーク導入に向けて追い風が吹いています。私自身、数年前から霞ヶ関や永田町の政策諮問会議に呼ばれる機会が急激に増えました。

背景は色々ありますが、一番大きいのは「少子化に伴う人材不足」です。30年前から始まった少子化により生産年齢人口が急激に減り始めており、いま、5〜6年前の就職難が嘘のように、人材不足の波が押し寄せています。待遇があまり良くない深夜営業の飲食店や運輸業、介護現場などから、人材不足が顕著になっており、この現象は他の業種に拡大していくことは統計上、必至です。

その時、社会進出した女性が出産・育児を経ても働けるようにしないと、企業はもちろん国の力が弱まってしまう。この問題の解決策として、ITを活用したテレワーク(在宅勤務)が期待を集めているのです。

隠れ介護1,300万人

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政府が在宅勤務を推進するもうひとつの背景が「介護離職」です。40代・50代の管理職が親の介護で会社を突然辞めるという事態が起きています。うちではそんな問題は起きていないと思うかも知れませんが、日本に今、要介護の親がいることを会社が把握していない就業者=「隠れ介護」が約1,300万人いると言われています。介護離職は、どんな企業にとっても対岸の火事ではないのです。

しかも、介護は、出産とは違い予告なくやってきます。育児休暇は一年間と期間が決まっていますが、介護はいつまで続くか分かりません。企業の屋台骨を支えてきた管理職が突然いなくなる日のことを想像してみて下さい。現場はパニックになるのではないでしょうか。

このような状況の中、在宅勤務による柔軟な働き方を実現することは、企業にとって喫緊の課題のはずです。しかし世の中を見渡してみると、在宅勤務は一部の大企業の導入に留まっているように見えます。それは、なぜでしょうか?

思い込み① 在宅勤務でできる仕事はない

一部の企業にしか導入が進んでいない理由として、在宅勤務に対する間違った思い込みがあると私は見ています。
企業を訪問してお話を伺っていると、まず多くいらっしゃるのが、「うちには在宅勤務でできる仕事がない」と思い込んでいる方です。

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在宅でできる仕事は、データ入力や資料作成、翻訳など、切り分けやすく1人で集中できて、個人情報が含まれていない、単純な作業だけという先入観をお持ちで、そしてこうも考えています。テレワーク導入に際しては在宅勤務でもできる新たな仕事を作らなければいけないと。

しかし、考えてみて下さい。実際にはITの進歩により多くの仕事が、会社から離れていてもできるようになっています。たとえ「営業」であっても報告書の作成などを在宅勤務で行い、お客さま先との直行、直帰ができる環境が整えば、空いた時間で育児や介護との両立ができるはずです。せっかく育てた営業職の女性が出産で仕事を去るのは、もったいなさすぎます。

思い込み② 在宅勤務はさぼるだろう

「仕事はFace to Faceでしかできない」という日本人らしい思い込みもあります。けれど、私たちは四六時中顔を合わせて仕事をしているわけではありません。一日一回、場合によっては週に一回、顔を合わせれば、その仕事は上手くいったりしませんか?そして顔を合わせたい時には、今ならWeb会議という方法だってあるのです。

あるいは「在宅勤務はさぼるだろう」という思い込みをされている経営者や管理者の方も多く見受けられます。「顔が見えない」「声がけしにくい」「何をしているか分からない」状況では不安になるのも当然でしょう。でも改めて考えると「目の前にいる」=「仕事をしている」のでしょうか。パソコンの前に座っているからといって仕事をしているとは限りません。今はひとりひとりの仕事をITの力で「見える」ようにすることができます。そうすれば、在宅勤務時はもちろん、会社にいる間だって、社員の生産性は上がります。

思い込み③ 在宅勤務はコストがかかる

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もうひとつ在宅勤務の導入が進まない理由として、「コストがかかるのではないか」という思い込みがあります。たしかに企業規模やセキュリティ確保のレベルによっては、少なからずコストはかかるでしょう。しかし、クラウドサービスや無料の体験版を利用して徐々に進めていけば、最低限のコストで進めていくことができます。

また、在宅勤務を導入することによるコスト削減効果も加味して下さい。在宅勤務者の毎月の交通費や、人数分のデスクが不要となり、小さなオフィスに移れば賃料も削減できます。さらに、在宅勤務は事業継続性も高められます。大雪や台風で出社できないような状況でも、在宅勤務が定着していれば、通常通り業務が進められ、機会損失を防げるのです。

そして何よりも、育児や介護で優秀な人材を失わなくて済むことは、企業にとって大きなメリットであることを忘れないで下さい。

(2015年1月掲載)

プロフィール

田澤 由利(たざわ ゆり)

株式会社テレワークマネジメント 代表取締役、株式会社ワイズスタッフ 代表取締役
奈良県生まれ、北海道在住。夫の転勤と出産でやむなく退職するが、PCを使って自宅で働き続ける。その後、在宅でもしっかり働ける会社、(株)ワイズスタッフを設立。さらにテレワーク専門のコンサルティング会社、(株)テレワークマネジメントを設立。総務省 地域情報化アドバイザー、日経WOMAN「ウーマンオブザイヤー2009」リーダー部門7位受賞。主な著書に「在宅勤務が会社を救う」(東洋経済新報社)がある。

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