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Hitachi IoT Platform Magazine

第一話 救急(1/3)

チーム360のDNA SEASON 2

アラート

 空気がずっしりと重く、時間が経つのが遅い。
 今、A社の会議室にいる。深水さんといっしょだ。深水さんはPCを開きメールを打っている。会社と連絡を取り“特別サポートチーム”を招集しているのだ。

 私の名前は、阿部やす子。
 日立製作所で、お客さま情報システムのサポートサービス「サポート360」を提供する部署に勤務している。肩書は、重度障害に対応する“アカウントマネージャー”のアシスタントだ。
 そして深水さんは、ベテランのアカウントマネージャーで、入社2年目の私の教官役。アカウントマネージャーというポストが生まれた2003年からこの業務についている百戦錬磨のベテランだ。

アカウントマネージャーは重度障害に対応――といっても来る日も来る日も障害と向き合っているわけではない(我々が毎日忙しかったら世の中が困る、とは深水さんの弁)。お客さまとの打ち合わせなどが続く平穏な日々も少なくない。

今日は、「サポート360」を契約されているお客さまA社との定例会議だった。お客さまが新しくシステムに手を入れた部分を確認し、“USP”を刷新するのだ。
 “USP”とは“User System Profile”の略で、お客さまシステムに関する情報がまとめられたファイルだ。システム構成や運用仕様書、そこでどのような業務が動いているのか、などが記載されている。私たちアカウントマネージャーは障害が発生した時、この“USP”を手掛かりに対策を練る。

 「なるほど。じゃあ今回新規サーバに移したシステムは何になりますか?」と深水さん。
 「この通勤費申請システムと、あと…ん?」
 質問に答えていたA社の担当者がおもむろにポケットから携帯を取り出し、画面を見る。そしてこわばった顔で、そこにいる全員の顔を見渡して言った。
 「アラートです。販売管理システムに遅延が発生」 「詳細情報を確認しに行きましょう」
 真っ先に席を立ったのは深水さんだった。

クリティカルサポートチーム

A社システム部の管理モニターの前に関係者が集まった。深水さんと私も輪に入る。
 統計情報のグラフを見ると遅延は朝から徐々に始まり、11時の時点で急激にグラフが上昇し、ついにしきい値を超えた。しかしそこからグラフは徐々に下降を始めている。
 深水さんがA社担当者に訊く。「このシステムのピークは確か11時と…15時ですよね」
 「あ!15時の方がピークとしては大きいです。これはまずいな」
 深水さんは言った。
 「すぐにクリティカルサポートチームに連絡を入れてください」

 “クリティカルサポートチーム”とは、早期の障害復旧をめざして組織された部隊だ。
 24時間365日つながる緊急障害専用ホットラインが設けられ、しかも彼らは予めお客さまの“USP”を持っている。だから通報が入れば、時間がかかるシステム環境の確認プロセスをすっ飛ばして、すぐに復旧作業に入れるのだ。
 そしてクリティカルサポートチームのメンバーに選ばれるのは、スタンダードなサポート業務を5年以上経験した精鋭に限られている。

 研修でクリティカルサポートチームの話を聞いた時、まず浮かんだのは救急医療のイメージだ。緊急障害専用ホットラインは「119番」に該当するし、チームのメンバーは夜中でも対応してくれるお医者さんだ。
 そのことを深水さんに話すと「タスク的には似ているかもな」と言う。
 例えば同じ重度障害に対応する“特別サポートチーム”。彼らはOS、ミドルウェア、ハードウェアの専門家で構成されており、そのタスクは障害の原因を徹底究明し、根本からの対策を実行することだ。彼らが“専門医”だとすると、1秒でも早いシステムの復旧を最優先するクリティカルサポートチームは確かに“救急医”に当たるかも、と。
 「救急医に必要なスキルは、“幅広い知識”と“迅速な判断”と“的確な処置”の3つなんだそうだ。これはクリティカルサポートチームにもまったくあてはまる。でもな、救急医と明らかに違う点がある。それは、クリティカルサポートチームは『かかりつけ』でもあるということだ」
 確かに。“USP”を持ち、万一の時にはつねに復旧をお手伝いし、システムの病歴や体質を把握しているクリティカルサポートチームは、お客さまにとってかかりつけの救急医だ。