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2019年10月、東京国際フォーラムにおいて開催された「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」。ここでは、「データ流通・データ活用でビジネスをつくる勘どころ〜Society 5.0を実現するデータ流通ビジネスの最新動向〜」と題したセミナーをご紹介。株式会社日立コンサルティングの大島一好氏と山田隆之氏が語った、最新のデータ流通ビジネスについて、レポートします。

データ活用によって社会課題を解決する Society 5.0の実現へ 大島一好氏

セミナーの前半は、日立コンサルティングの大島一好氏による、日本政府が提唱するSociety 5.0についての解説に始まり、データを利用する側のポイントについて説明した。

(株式会社 日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部 マネージャー 大島一好氏)

「Society 5.0とは、狩猟社会をソサエティ1.0、農耕社会を2.0、工業社会を3.0、現在の情報化社会を4.0と定義した上で、さらにデータを活用した超スマート社会を定義したものです。
IoTですべての人と物がつながり、さまざまな知識や情報が共有されることで新たな価値が生み出され、課題を克服しイノベーションにつなげようというものです。情報の収集や分析は手間のかかるものですが、Society 5.0の世界ではAIなどを使うことで必要な情報が必要な時に提供され、個々のニーズを満たすことができるようになり、さらにロボットや自動運転技術を使うことで人の可能性が広がる社会が実現できるのではないかと期待されています。」

「こうした社会を実現する上での重要な考え方に、CPS(Cyber Physical System)があります。これは、実際の世界とサイバー空間を相互につなぐことによって、大きな社会的価値を生み出そうという考え方で、すでに特定の分野や業種で実現しています。具体的には現実の世界からデータを収集し、それを蓄積・解析した結果を現実世界に戻します。これをループさせることで、より良い社会を実現していこうというものです。」

CPSを社会全体で実現するために、分野をまたがったデータ流通を可能にする『データ連携プラットフォーム』の構築が進められており、それはSociety 5.0の実現につながると大島氏は話した。さらにデータ流通の実現により、「自社だけでは探し出すことが難しいデータの発見と入手が可能になる」「自社のみで活用しているデータを新たな商品として販売することが可能になる」「データ流通を促進することによって、自社で保有するデータと外部のさまざまなデータを掛け合わせることによって、より良いサービスや製品の創出が可能になる」と解説した。

「政府は、さまざまな法制整備を進めています。民間でも、『データ流通推進協議会』に2019年9月現在、135の産・学・官の団体が参画して、さまざまな技術的、制度的な環境を整備するために活動しています。
海外でも同様にさまざまな取り組みが進んでおり、例えばヨーロッパではIDSA(International Data Spaces Association)で、データ流通はどうあるべきかという議論が始まり、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)ではデータ流通に向けたさまざまな議論が活性化している状況です。」

取引所であらゆるデータが取り引きされるようになる

「これまでのデータ流通は、主にデータを欲しい側と売りたい側が1対1で取り引きするという相対取引という形がほぼすべてでした。今後は、証券取引所のようなデータの取引所ができて、世の中のありとあらゆるデータの売り買いができるようになっていくと考えられています。」

「では、データ利用者はさまざまなデータを購入できるようになったら、それをどうやってビジネスに活用したらいいのでしょうか。
先進的な事例としてプラントの予防保全をご紹介させていただきます。例えば自社のデータだけでは、予防保全のモデルを構築するためにはデータ量がまったく足りませんし、十分に予測精度が上がりません。そこで、会社の垣根を越えて、A社とB社のデータを活用して精度の高い予測モデルを作り、それを各社が持ち帰り、自社データをそのモデルに掛け合わせることで、自社プラントの予防保全システムを構築するという活用の仕方があります。その際に、自社の業務ノウハウを含むようなデータは匿名化し、お互いに見えないような形でモデルを組み立てるように考慮されています。」

「もうひとつは、観光分野の事例です。飲食店などの小売業の売上データを提供し、分析プラットフォームで宿泊データや気象データ、あるいはツイッターなどの口コミデータと掛け合わせて分析を行い、それを基にデータ活用事業者がそれぞれの店舗ごとの需要予測を提供するというサービスです。
これを小売の店舗が個々にやることは難しいですが、その観光地にあるさまざまな店舗からの売上データなどを掛け合わせることによって、新たなサービスを提供することができます。」

大島氏はまとめとして、データを活用したビジネス創出に向けては、データありきではなく、さまざまな観点から物事を考えて発想することが重要になっていくと話した。アイデアを生み出すためには、解決したい具体的な課題や社会課題・企業課題をしっかり考えること、さらに自分の業界と他の分野とのデータの掛け合わせが重要になること、そして、自社だけではなくて、さまざまな文化を持った人たちのオープンイノベーションが重要になってくるとして、前半を締めくくった。


データ流通にはデータカタログと語彙整備が不可欠 山田隆之氏

後半は主にデータを提供する側の重要なポイントについて、日立コンサルティングの山田隆之氏が解説した。

(株式会社 日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部 マネージャー 山田隆之氏)

「データ流通ビジネス創出のポイントは、大きく2点あります。データを知ってもらう環境(データカタログ)の整備と、データの意味理解を促進する環境(共通語彙)の整備です。
例えばデータ提供者は、データを売りたくても利用者を探せないということがあります。一方で、データ利用者は手に入れたデータの理解がなかなか及ばないといった状況があります。それらを解決するために、まずはデータ提供者とデータ利用者の間に、概要情報(データの所在、データの内容)がわかる『データカタログ』を整備することで、データ利用者が見つけやすい環境を整備することです。そして、利用者にデータを渡すとき、そのデータを説明する共通語彙を付加することで、データの意味を理解できるようにすることが重要です。」

「データカタログとは、データの本体を見なくてもそのデータがどのようなものなのかを知ることができるもの。つまりデータの概要、所在、提供方法、問い合わせ窓口、作成日などがわかるものです。データカタログを整備することで、データと利用者とのマッチングを促進できます。
行政分野では行政機関のデータを外部に出していくことで、いろいろな社会問題の解決や産業の育成ができるのではないかと考え、オープンデータ政策を進めています。その一環として『DATA.GO.JP』というサイトで、各省庁の保有データをカタログ化して一般公開しています。
学術分野では、地球環境情報プラットフォーム(DIAS)を通じて、学術機関や研究者が作成した関連データが検索できるようになっています。」

「データカタログの国際基準も作られつつあります。国際標準化団体のW3C(World Wide Web Consortium)はウェブの標準化を行っている団体ですが、ここでデータカタログのボキャブラリーが標準化されています。
日本のデータカタログ基準も発表されています。2019年2月にデータ流通推進協議会で『データカタログ作成ガイドラインV1.1(中間とりまとめ)』が公表されています。
データカタログ整備のポイントは、データカタログ基準を活用してつくるのが一番有効だと思っています。カタログを効率的につくることが可能ですし、同一の基準を採用していれば、データカタログ情報の流通も可能となり、広くデータの存在をアピールすることが可能になります。」

「共通語彙は組織や業界を問わずにデータの意味理解を促進するものです。例えばA業界からX業界にデータを提供するときに、共通語彙と関連付け、意味付けをすることで、業界を問わずにデータ活用ができるようになります。
近年各国で語彙基盤の整備が進みつつあり、日本においても政府の後押しを受けて、独立行政法人情報処理振興機構でIMI(Infrastructure for Multilayer Interoperability)共通語彙基盤が整備されつつあります。
共通語彙を整備するには、まず組織間、業界内で語彙を共通化することが重要です。その中で、データの利用シーンをしっかり想定することで、使われる語彙を生成することが可能となります。その語彙をIMIの共通語彙基盤に登録すれば、より広く使われる語彙として公表されますし、その語彙を使えば、活用しやすいデータの提供、付加価値の高いデータの提供が可能になります。」

山田氏は最後に、

  1. 海外・日本問わずにデータの流通がトレンドになっている。
  2. 日本でもデータ流通の環境が整いつつある。
  3. データ活用ビジネスの創出にあたっては、さまざまな観点からアイデアを出していく。
  4. データ流通ビジネスの創出にあたっては、データカタログ、共通語彙の整備がポイントになる。

以上、4点に全体をまとめて講演を終えた。





関連リンク

Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO

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