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2018年10月、東京国際フォーラムにおいて「Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO」が開催され、多様なテーマについて数多くのセミナーが開催されました。ここでは、「働き方改革の次へ〜生産性向上のスパイラルアップに挑む、日立の取り組み〜」と題して開催された株式会社日立製作所の本真樹、桃木典子のセミナーの模様をご紹介します。

経営の危機に瀕した日立。そこで求められた人財戦略とは

今、どの企業にとっても喫緊の課題である働き方改革。その一環として、日立は2年前からHRテック(Human ResourceとTechnologyを掛け合わせた造語)を活用した人財戦略に取り組んでいる。日立製作所のシステム&サービスビジネス部門で人事を担う本真樹は、日立が人財戦略に着手した背景を次のように振り返る。

「リーマンショック後の2009年に日立は大規模な経常損失を計上し、全社員が『会社がつぶれてしまう』という危機感を抱きました。そこで日立はグローバル事業の拡大と社会イノベーション事業に活路を求めて経営の舵を大きく切り、そのために必要な人財を『世界各地の社会や顧客を理解しグローバルにビジネスができる人』と設定しました。それを受け、我々人事部門には3つのミッションが課されました。1つめはダイバーシティの実現。2つめはタイム&ロケーションフリーな働き方の実現。そして3つめは、社員が能動的かつ自律的に働くように意識と行動を変革することでした」。

日立は国内外で働くグループ社員約30万人の人財を見える化するため、グループ共通の人事データベースや社員の処遇・評価のプラットフォーム、e-learning教育コンテンツの整備を進め、2015年にグループ共通の人財情報システムの稼働を開始した。さらに、先進のITを駆使して職場のIT環境を整備し、タイム&ロケーションフリーな働き方を推進。社員約10万人によるテレワークの実現を視野に入れている。プラットフォームとIT環境がようやく整い、本が次に着手したのが、人事に課されたミッションの3つめ、社員の意識と行動を変革するための施策だ。

「それまで日立に多かったのは、『モノづくり』に長けた人財でした。しかし、会社が変革していく上でカギを握るのは、お客さまと積極的にコミュニケーションをとって新たな顧客価値を創造できる『コトづくり』に長けた人財であり、そういったタイプの社員を増やしていく必要に迫られていました」。

HRテックが可能にした、狙いどおりの採用活動

本が最初に行ったのは、技術系の新卒採用選考の見直しだった。HRテックを用いて分析を進めると、ある実態が浮き彫りになった。

「人財のタイプを4種類に分け、面接官の社員と内定者を比較したところ、人財タイプの割合がほぼ同じであることがわかりました。要は、面接官は自分に近いタイプの人財ばかり採用してきたわけです。このままでは永遠に変革を起こすことはできません」。

そこで本は、2017年度新卒採用で新たな試みを行った。まず、それまで全体の5%しか採用してこなかった「積極性や創造性に秀でた人財」すなわち「コトづくり」に長けていると考えられる人財を15%に増やすという採用目標を設定。そして、面接官となる社員を対象にワークショップを行い、新たな採用の考え方を徹底させた。さらに、面接時の質問項目も従来とは大きく変え、採用活動に臨んだと言う。

「その結果、ターゲットに据えた人財を従来の3倍近い割合で採用できました。HRテックの活用が、まさに狙いどおりの採用活動を可能にしたのです」。

データが物語る、定時退社すべき曜日

次に、本はHRテックの活用の幅を「生産性の向上」という課題にも広げていった。

「我々が考える生産性とは、労働によって生み出される『付加価値』を、『労働時間』で除したものです。昨今、世の中では後者の労働時間をいかに短縮するかばかりがフォーカスされています。もちろんそれも労働法制の改正を見据えた大事な視点ですが、我々が重視するのはさらにその先の在りたき姿で、社員の付加価値をどうやって上げていくか?という観点です。そのためには、社員一人ひとりの現在の挑戦意欲や創意工夫といった意識を測り可視化していくことが非常に大切だと考えたのです」。

そうしたアプローチのもと、日立は筑波大学とともに2つのサーベイを開発した。

「1つは、生産性に対する意識の高さ・低さを測るサーベイ。そしてもう1つは、配置配属に対するフィット感を測るものです。社員一人ひとりが“ご機嫌な状態”で働けているかどうか、つまり高い意識で働けているかどうかを可視化するのが目的です」。

この2つのサーベイの結果は全社員にフィードバックされる。そこには、一人ひとりの優れた点と、今後注意していくべき点が明記され、行動変容を促すための気付きやアドバイスも記載されている。さらに、マネージャークラスの社員には社員一人ひとりのデータと組織単位のデータの2つが送られるため、組織変革の一助にもなることを本は期待していると言う。

このサーベイに、さらに勤怠などの人事が保有しているさまざまな行動データを掛け合わせることで、従来の日立の慣習とは異なる意外な実態もわかってきた。

「金曜日に残業をしているある部署は、生産性の意識が非常に低いことがわかったのです。明確な理由はわかりませんが、データは明らかにそう物語っています。日立では毎週水曜日が定時退社日になっていますが、生産性の観点から言えば、水曜ではなく金曜こそ定時退社日にしたほうが、社員の意識や行動が変わるのかもしれない。そういった、これまでのアナログな分析ではわからなかったことが、HRテックを活用することで次々と見えてきたのです」。

「社員を大事にする会社」になるために

HRテックの力を目の当たりにしてきた本は、「社員を大事にしない会社には、人財は集まらなくなる」と言葉に力を込める。そして、HRテックが今非常に注目されている背景として、次の3つを挙げた。

「1つめはITの進化です。ただ現状としては、社員データを人財戦略に活用している企業は非常に少ないのではないでしょうか。ある調査結果によると、HRテックを導入している日本企業は全体の10%にすら達していないそうです。一方、海外ではすでに5割を超える企業がHRテックを導入しています。

2つめは人財獲得競争の激化です。少子高齢化も進んでいる今、せっかく採用した人財を大事に育て、一人ひとりの能力を存分に発揮させることができる会社でなければ、これからの競争には勝ち残っていけないでしょう。

そして3つめは、人間の力だけではわからなかったことがAIの力で簡単にわかるようになってきたことです」。

HRテックを用いた日立の取り組みは社外でも高く評価され、今年、経済産業省などが後援する「HRテクノロジー大賞」の最高位にあたる「大賞」を受賞。さらにこの秋「日立人財データ分析ソリューション」もリリースした。

「実はこのソリューションをリリースする前に、すでに60社を超えるお客さまからお問い合わせをいただきました。それだけ多くの企業が、働き方改革の悩みを抱えられていることがよくわかりました。

残念ながらこれまでの人事はマス=組織単位で管理するのがせいぜいでした。これからは個=社員一人ひとりに寄り添い、その成長、そして人生の喜びに伴走できるような会社にならなければいけない。そうすることで人と組織は活性化し、それに惹かれたより多くの優れた人財が会社に集まり、定着するはずだとわたしは考えています」と本は締めくくった。

本が描く明るい人と組織のスパイラルアップを実現するために不可欠なのが、柔軟性を取りそろえたIT環境の整備だ。自らこのITをフル活用した働き方改革に、早くから取り組んできた日立ならではの豊富な事例について、桃木典子が語る。







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