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Hitachi IoT Platform Magazine

「ITの世界では今までの構造が崩壊していて、次のフェーズに入っています」。こう語るのは角川アスキー総合研究所の遠藤諭氏。3月26日に慶応義塾大学で開催された「第3回スマートプラットフォーム・フォーラム」にて、遠藤氏は産業がITを取り込む前に知っておくべき「現在進行形のIT」について、「知財」「ドローン」「Uber」をキーワードに語った。併せて農業ITをテーマに行われた本イベント内で紹介されたサービスアイデア「Nober」についてレポートする。

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この記事は、翔泳社が運営するBiz/Zine に、2015年4月22日 に掲載された記事より転載しています。

デジタル変革時代における「知財」の問題

産業がITを取り入れることは、時代の流れとして必然である。しかしITの進化のスピードは目覚ましい。産業がITを取り入れようとしたところで、その時すでにITが次のフェーズに進んでいたら意味がない。取り残されないためにも、ITの現状について知っておくべき必要がある。

「農業ITの将来とスマートアグリのグローバル展開」というテーマで行われた本フォーラムにて遠藤氏が語ったのは「現在進行形のIT」だ。ここに農業のような第一次産業がITを取り組むときに意識すべきヒントがある。

2007年にiPhoneが発売されて以来、人々のライフスタイルは劇的に変化した。遠藤氏によれば、20代前半の女性は起きている時間の5分の1をスマホに費やしている。さらに、米国ではタブレット端末はすでに現在の需要に対しては飽和されつつあり、全家庭の50%に近い家庭がタブレット端末を所有していることが、リサーチによって明らかであるという。

このようなデバイスの普及・浸透にともない、デジタルコンテンツにおける「知財」の問題は深刻化している。不正コピーやコンテンツ盗用といった問題だ。「知財」は、もはや法律でコントロールするのは難しくなって来ている。

そこで、企業によっては独自の「知財」への取り組みがなされている。昨年AppleがリリースしたiOS8では家族6人までならアカウントを共有することなく、コンテンツを共有できるようになった。

各国著作権法があるのに、iOSが一度ヴァージョンアップしてしまうと、それのほうが拘束力を持ってくることが考えられる。

「知財」についての問題はコンテンツ分野だけに収まらない。ビッグデータによるプライバシーの問題、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションによるコピーの問題。「知財の専門家には“直近の課題”が多すぎて、5年先10年先の課題に取り組んでいる余裕が無いのが問題」と遠藤氏は語る。

もうIP(Intellectual Property)というルールではカバーできないのではないでしょうか。裁判するよりは、違う力学でIPに代わるものをやったほうがいいのではないかといった議論も、角川アスキー総研が関わるIP2.0という研究会ではされています。



ドローンとUberにみるITのコモディティ化


株式会社角川アスキー総合研究所 取締役 主席研究員 遠藤諭 氏

「知財」に続いて語られたのは「ITのコモディティ化」についてだ。遠藤氏はドローンを手に、次のように述べた。

約100年前、ものづくりは変わりました。1903年にライト兄弟が飛行機を新大陸で飛ばしたのです。それまでのヨーロッパ中心だった技術の歴史が変わった象徴的なことでした。それと似たようなことが今ドローンで起きています。私が今持っているこのドローンはフランスのParrotという会社のものですが、シェア7割を握っているのは中国のDJIという会社です。

現在、ドローンは比較的安価に手に入れることができる。さらに、遠藤氏によると、米軍が軍事用に使っているドローンと民生用のドローンでは飛行安定性という点では大差はなくなってきているのではないか。ドローンユーザーの中には、約30ドルのドローン用制御チップとPCの冷却ファンでドローンを飛ばしている人もいるという。さらに最近ではオープンソースプロジェクト、「Dronecode」(*1)も始まった。つまり、コモディティ化し、誰もがドローンを飛ばせる時代が着実に近づいて来ているということだ。遠藤氏は、現在何がコモディティ化しているのかを知ることは、多くの産業にとって非常に重要なことだと語る。

ドローンはスマホから進化したと思います。恐竜から羽根が生えて、爬虫類はいきなり鳥になったという話があります。あのような話で、スマホがドローンになったと見ていいと思います。理由は、同じセンサーの塊だから。さらにドローンは自動制御の塊でもあります。ではセンサー技術とそうした自動制御技術が進んでいるのであれば、それを使って何ができるかということを真剣に議論するタイミングだと思います。コモディティ化し、安くなっているのですから、かつてできなかったことができるようになっているわけです。

ドローンのように、センサー技術や自動制御など、ハードウェアの進歩がソフトウェアのスピードに合ってきたのが、ここ数年のIT業界のトレンドだ。しかし同時にソフトウェアも変化しているという。特に注目したいのは「ユーザーをつなぐWebサービス」だ。Uberのような、ユーザーとそれまで繋がっていなかったものを結びつけるWebサービスが盛んになってきている。そこで注目したいのが、遠藤氏も参画しているプロジェクトで、農業に“Uber的要素”を取り入れた「Nober (農場)」(*2)だ。



農業版Uber、「Nober(農場)」とは何か?


国際大学 GLOCOM主任研究員 庄司昌彦 氏

近年UberやAirbnbといった「シェア」を価値とするサービスが台頭し、さらにそこに「評価情報」を組み合わせ、これまでにないマッチングを可能としたサービスが人気だ。Linked Open Data Challenge 2014というオープンデータの活用を様々なジャンルで競う国内最大のコンテストでアイデア部門優秀賞を受賞した「Nober」。作物の「品種」を細かく識別し、農業従事者と消費者の新たな関係性を作るサービスアイデアだ。国際大学GLOCOM主任研究員で「Nober」のプロジェクトを牽引する庄司昌彦氏はこう語る。

私たちは「品種」というものに注目をしました。農産物「トマト」とひとくくりにするのではなく、トマトの中にもいろんな品種があることに着目します。その品種をより細かく識別していくことで、より良いマッチングができるのではないかと考えています。


図1:Noverが解決しようとする生産者・消費者間の情報アンマッチ
参照:SlideShare「農業生産物の選択の幅を広げるノーバ(農場)」

生産者側は、「どのような所に売れるのだろうか」とか、「消費者は作物をどう思っているのか」という情報を得たい。また、「この品種だったらこの方法で食べるのが美味しい」という情報を提案したい。消費者側は、安全な食材、料理にあった食材、成分、アレルギーなど多くのことを気にしている。つまり生産者側と消費者側の両方に、得たい情報と伝えたい情報があるが、現在それが上手くかみ合っていないという背景がある。

このような背景から、「トマト」、「人参」という単位では、十分に生産者側と消費者側がマッチングしていないのではないかと考えた。生産物を「品種」というレベルで情報を整理し、そしてその情報を流通させるオープンな仕組みを作っていくのがNoberの試みだ。

生産の段階では、もちろん品種Aとか、品種Bとか品種Cとかいろんな品種のものを作っています。例えばここに品種Eというパスタに適した品種があるとします。しかし、流通段階では「トマト」というざっくりとした名前で流通してしまっている。そこで消費者は、元々はなんという品種だったかわからかないトマトを買ってきているわけです。本当は、パスタに最適なトマトを選びたかったけれど、マッチングしていないのではないかと考えました。



生産者、消費者、外食産業をつなぐプラットフォーム


図2:Noberは、生産者、消費者、外食産業をつなぐプラットフォーム
参照:SlideShare「農業生産物の選択の幅を広げるノーバ(農場)」

生産者は、品種を管理するデータベースに「どのように育てているか」「どのような料理にあうか」「どのような効果があるか」などのメタ情報を入力することができる。これは、農林水産省の管理している品種登録データベース(*3)をオープンデータとして活用する。そこに生産者が情報を付加していくことで、より詳細で有効なデータベースを作りあげていくことができるという仕組みだ。

消費者はこのデータベースを活用することにより、より細かい種類で作物を選びながら消費を楽しむことが可能になる。さらに、消費者から生産者へと情報を返していくこともできる。これまではSNSで簡単にシェアしたり、「美味しかった」などと載せることはあっても、生産者に直接フィードバックすることはなかった。

消費者だけでなく外食産業が流通段階でこのデータベースを利用することもできる。レストランが自分の店の料理に合う素材が何であり、どれを仕入れるかという判断基準にもなる。

Noberは、生産者や消費者、そして外食産業にもメリットがあり、いろんな分野をつなぐプラットフォームの一つだと思っています。レストラン情報サイトが使えば、「このレストランが使っている野菜はこういうものです」とか。

レシピサイトでは「この料理を美味しく作るのであれば、この品種がいいですよ」と提案され、検索すれば「近くのスーパーのここで売っていますよ」ということも可能になります。農業や食などに関わる多くの人たちのバリューチェーンが、この共通のデータベースによって繋がっていく。そういったビジョンで進んでいきたいと思います。


図3:Noberを起点とした食農インフラによる食のバリューチェーン
参照:SlideShare「農業生産物の選択の幅を広げるノーバ(農場)」

「農業×テクノロジー」と聞くと、ロボットが人の代わりに作物を育てたり収穫したり、最先端の農業機器のようなものを思い浮かべるかもしれない。もちろん、そういった分野も現在進歩しつつある。しかし「Nober」のようなオープンデータを利用したユーザーをつなぐ新たなプラットフォームの誕生も、農業にとっては大きなイノベーションとなるかもしれない。

◇本コラムに登場する用語の参照先◇


◇セミナー開催概要◇

  • イベント名:第3回スマートプラットフォーム・フォーラム
  • 講演名1:「スマートアグリ」分科会検討報告
  • スピーカー:データ・コンテンツ分科会 庄司 昌彦 主査
  • 講演名2:「パネルディスカッション1:農業ITの将来〜農業ITが当たり前になる時代に〜」
  • スピーカー:遠藤諭 氏(株式会社角川アスキー総合研究所 取締役 主席研究員)
  • 主催: NPO法人ブロードバンド・アソシエーション(BA)
  • 開催日時・場所:2015.3.26(木)、慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール(東京都港区)

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